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━━第十一章━━

━━ 四節 ━━

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━━それから毎日、身体を痛めつけられた。

毎晩訓練場で蹴り倒され、昼間は兵として業務に勤める。

日に日に増すアザの数に同僚から不審がられるので、その度階段から落ちた、悪漢に絡まれたなどと嘘を吐く。

大将にボコられているなんて、言えるわけがない。 

白状したら最後、自分が犯した罪まで公になってしまう。

やられてばかりではダメだと考え、剣を使った時もあったが、オルロフ大将が身につけている影踏男は、磁場を作り出してしまうため、あっという間に取り上げられてしまう。 

どんな手を使ってもいいと言われたが、 通用しないとわかってて、わざとあんなことを…。

しかし時間がかかったが、突破口が見えてきたのも事実だ。 

約束の時間、僕は木製の籠手を装備し、手には木刀握りしめていた。

斬新に感じたのか、僕の姿を見て好奇心がわいた様子。 

一発勝負、この策が見破られたらおしまいだ。

木刀を構えた途端、相手もジャック・ロング・レグスを起動させた。

瞬時に間合いに詰めてきては、横から蹴りを繰り出してきた。

僕は体勢を低くして避け、木刀を下から振り上げるが、相手も回りながらかわし、そのまま軽く飛んで、後ろを向きながら蹴り込む。

やむを得ず、僕は右腕で防ぎ、木刀を振ったが、とっさに後退されてしまう。

僕は、すぐに 右籠手を外し、 ライターで火をつけた。

オルロフ大将が、その光景を見て感心しているうちに、木刀を構えなおして突進する。

なぜ、こうする必要があるのか? 

ジャック・ロング・レグスは、触れたもの全て磁場を発生させる。

裏を返せば、一度も・・・触れていなければ・・・・・・・・効果がないということ・・・・・・・・・・。 

もし触れてしまったのなら、跡形もなく消失させればいいだけのことなんだ。 

そうやって戦っていくうちに、木刀も籠手もなくなっていった。

生身であの速度について行くのも限界のため、かなり息が上がっていた。

成す術がなくなったと悟ったのか、オルロフ大将は、突っ込んで腹部に蹴りを一発お見舞いする。

すると、衝撃に耐え、その足を掴んで見せた。

そんな僕をとどめと言わんばかりに、磁力で体を吹き飛ばすと、次の瞬間、目前に“串”が飛んできた。

しかも木製であることに気づいた大将は、咄嗟に頭を逸らし、頬をかすめていった。 

気が緩んだ際の最後の一撃。

さすがのオルロフ大将も、目を見開いて驚いてる様子だった。

隠し持っていた奥の手も破られてしまった僕は、地面に仰向けで倒れたまま、瞼が徐々に重くなっていった。 

意識が遠のいていく中、彼は静かに含み笑いをし始め、やがて吹き出し、高らかにこういった。

こいつァ、まいったわ・・・・・!!

その時の笑い声は、とても清々しかった印象が残っている。

これが、僕が初めてオルロフさんに勝った記憶だ。




━━怪鳥の巣と化した城に到着したガンマ隊。 

着陸態勢に入る直前、 樹から銀のつるが伸び、 次々と飛空艇に襲いかかってきた。 

「なんだッ!?」

飛空艇を覆う結界ごと包み込み、自由を奪っていく中、巣から巨大な銀鳥が顔を出した。

「あッ、あれはッ!!」 

艦内で魔導師たちが動揺していると、モニターに映る銀鳥の頭に、ボロボロになったアレーニの姿があった。 

何度か咳き込む仕草を見せた彼は、 片足を立ててしゃがみこんでいる。

「━━貴様らなんぞにッ」

口から漏れ出るちお右袖で拭い取り、歯ぎしりを立てる。 

「貴様らなんぞにッ! この国をやるものかァッ!!」

怒声を吠えた途端、銀鳥は翼を広げ、ツルによって飛空艇を 全て城下に叩きつけた。 

飛空艇から火が上がり、魔導兵士たちは爆発に巻き込まれていった。 

周りに脅威が消えて気が緩み、呼吸を整える。

その時、地響きが起き、警戒態勢をとると、銀鳥の内部から爆発が発生。

「なッ━━!?」

火力によって銀糸が弾け飛び、高熱源が急速に下腹部から首へと上がって行く。

そして、その場から離れるには、判断が遅すぎた。

足元の銀の糸が突き破り、拳がアレーニの顎に炸裂。 

「ぐふッ!!」

目の前に現れたのは、やはり彼女だった。 

こいつッ、不死身なのかッ!? 

すました表情のアミュレットを目にしては、爆風によって吹き飛ばされ、地面に落下した。 




━━数日後、僕はジャック・アンド・ザ・ビーンストークを授かり、少佐へと昇進した。 

動揺はあったが、むしろチャンスだとも思った。

ジャック・アンド・ザ・ビーンストークを手にしたということは、出世街道に乗ったということ。

つまり僕の努力次第で、この国の状況を変えられる可能性があるということだ。

給料もだいぶ上がったわけだし、その分を定期的に貧困地区で炊き出しをしよう。

微力だが、社会貢献にはなってるはずだ。

前向きに物事を考えていた矢先、通路を歩いていると、オルロフ大将が目に入った。

呑気に窓で一服している姿に嫌気がさした僕は、禁煙であると注意しに行った。 

大将という地位に居ながら、なぜ改善しようとしない?

いや、このだらしなさからそんなことを期待する方が間違っているか。

彼に敵意を向け、取り上げたタバコを握り、そのまま立ち去った。

あの人がいる限り、軍は変わらない。

早くあの人を超えなくては…。 

その後、トラックで貧困地区へと移動し、荷台からテーブルや鍋を準備。 

通りかかった人たちから、物珍しそうに見られたが、声かけをしていくうちに、徐々に集まってきた。

そんなとき、列に並んでいる人たちに、パンとスープを配っていると、意外な発言を耳にした。 

おめえさんが、オルロフさんの・・・・・・・代わりかい・・・・・

子供から大人まで似た質問をされたのだ。 

…それは、どういうことだ!?

詳しく話を聞くと、毎週必ずオルロフ大将が赴き、炊き出しを行っていたとのこと。

つい最近まで顔を出していたのだが、忙しくなってきたので、今後は自分の代わりが飯を作ってくれるから待っててくれと話していたと言う。 

自分が不甲斐ないばっかりに申し訳ないと、よく私たちに謝っていたよ。

何故、あの人が何故そんなことを言う!?

軍の頂点に立ったとしても、思い通りにならないとでも言うのか!?

自分が抱いていた印象とはかけ離れていて、正直、複雑な気持ちになった。




━━次第に銀鳥も倒れ、辺りは火の海と化した。 

脳震盪で目を回し、空を見上げていると、アミュレットが、彼の体を挟むように降り立った。

「くッ…」

 意識が朦朧とする中、抵抗するために、かろうじて左腕で彼女の足を掴もうとする。 

ゴキンッ。

次の瞬間、 鈍い音が全身に伝わった。 

「がァァァァァッ!!」

アレーニは目を見開き、絶叫を上げる。 

アミュレットが左肩を踏みつけ、関節を外したのだ。 

「かはッ、かはッ、ぶッ━━!!」

あまりの激痛に過呼吸になっているアレーニにのしかかり、顔面を殴り始めるアミュレット。 

以前リサー王に聞いたことがある。

遺産ジャックシリーズを受け継ぐ者の条件とは何か。



━━それは、“青い野心”を抱いているからだ。 



「ぶふォッ!」 

今なら分かる。

あの人は、孤立無縁だったんだ。

「こッ、殺して━━ッ!!」

自分が頂点に立っても、ついて行こうとする者がいなかった。

「貴様をッ! ごほッ!!」

 だから、諦めかけていた。

一人では何もできないと痛感したんだ

「ぜッ、絶対ッ━━!!」

何度も殴られていくうちに、残った仮面も破損してしまう。 

歯は欠け、鼻は折られ、彼女の拳は徐々に赤く染まっていく。

意識を保つため、強く握りしめていた右手は、少しずつ力が抜けて行った。 

やがて声も発さなくなり、しばらく殴打音が続いた。 

その時、ふとアミュレットは腕を止めた。 

強大な魔力が、こちらに向かってきているのを感知したからだ。

それも尋常ではない速度で━━。 

とっさに脇に目をやると、高熱で銀の樹が膨張しているのがわかった。

しまッ━━!!

 すると、巨大な熱線が樹を突き破ってきたので、 とっさに五重障壁を展開。

「くゥッ!!」

障壁が一気に3枚破られてしまったため、さらに5枚展開し、そのまま熱線を押し返す。 

程なくして、熱戦は四散し、辺りの地面が削り取られ、わずかに煙を帯びていた。

そして、風穴から第二波が襲ってきた。

それは、あまりにも貫通力に優れ、目にも留まらぬ速さですべての障壁を突破し、遂にはアミュレットの両手にまで届いた。 

アミュレットは、勢いを殺すことができず、アレーニから離れ、そのまま壁に激突してしまった。

「…まさか、貴女が来るとは想定外でした」

彼女の胸の前で刀身は止まり、素手で押さえている。

 その先には長い柄が伸び、それを握っているのは、真紅の瞳を宿した少女。

「ごきげんよう、“烙印者ミス・クリミナル”」




 
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