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第二部 ━━第四章━━

━━三節 ━━

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死ぬと魂は何処に行くと思う?

━━━━━天国?

━━━━━地獄?

━━━━━黄泉?

━━━━━楽園?

“あの世”の呼び名は様々だけど、過去、現在、未来で寿命が尽きた全ての魂は死後の世界ジャンクションへと集まる。

私達の生きている世界の他にも、星の数ほどの世界が存在し、その中でも特に死後の世界ジャンクションは時間の流れが遅い。

そして、何処かの世界で命が芽生えるとき、魂は、そこへと飛ばされる。

これは、俗にいう“転生”というもの。

この世界は、言わば転生の順番が来るまでの“霊魂暫定世界”なのだ。

転生を何度も繰り返し、21回目・・・を迎えた者は、この世界を往来できる資格を与えられ、前世の力を一つだけ扱うことが許されるようになる。

これを“開拓者”という。

つまり、私達のことね。

しかし、開拓者として覚醒する時期は人それぞれ違い、覚醒する前に寿命を迎える者も少なくはない。

超レアなケースだけど、心配停止して死後の世界を見たという人も一度は此処に来ている。

「━━って、わけなのよォ~」

顔を真っ赤にしたミノルは、ゲヘヘと下品に笑いながら酒瓶を口にする。

ミノル達は、一旦チョコの生活している丘まで移動し、家の前で輪になって座り、宴を行っていた。

ブルースは、酒をラッパ飲みして口元を手で拭き、チョコも初めてのスナック菓子を夢中になって食べていた。

「あの、何でお酒飲んでるんですか?
っというか、何であるんですか?」

マリは、口臭に耐えられず、ハンカチを鼻に押さえて嫌悪感を覚える。

「何言ってんの! 
新人ちゃんが来てやることと言ったら歓迎会でしょうよッ!!」

当然とでも言うかのように、ミノルは嫌がるマリの顔に頬擦りをする。

「私達の荷物は全部ブルースに預けてもらってるんです。
特に、ミノルさんのが多いんですけど…」

ベンが説明している中、ミノルがブルースにボトル追加を頼んでいた。

すると、ブルースは、後ろに手をやり、シャンパンをミノルに手渡した。

背中にカバンなど無いのに何処から!?

それを目の当たりにしたマリは、手品を見せられたかのように目を丸くする。

「私はね、お酒を飲まないと頭が真っ白になって、喉が渇き、手足の震えが止まらなくなってしまう病気を抱えているの」

「それって、アルコール依存症っていうんじゃ…」

涙を目に溜め、悲しげな空気を醸し出すが、マリには通用しなかった。

そんなマリの言葉を気にすること無く、バーボンの瓶を持つブルースと楽しそうに乾杯する。

「あの、ベンさんの前世は、チーターだったんですか?」

「そのようですね。
前世の記憶は無いのに、妙にしっくりくると言いますか…。
一生を過ごしたという証拠なんでしょうね」

ベンは、手の感触を確かめながら告げる。

「テレビで前世の記憶があるっていう人見たことあるけど、本当なのか疑っちゃうよね。
だって、その人達が言うことって必ず人間だったっていう前提で語るんだもん」

そう言うと、ミノルは、柿の種を口に しながら、おつまみの袋をチョコに渡す。

「ミノルさんは、よくテレビという人が見える板・・・・・・の話をするのですが、私には理解し難く、話についていけません」

んッ!?

マリは、耳を疑った。

「言ったでしょ? 他の世界もあるって。
 ベンは、原始的な世界から来たんだよ」

酒を一口飲み、ベンの代弁をする。

「魔獣や侵略者を剣や弓を使って、村を守ってたんだって」

「そうです。
そして、倒した敵の血を飲むことによって、力が宿るのです」

胸を張って語るベンの前で、気味悪がっているマリに、そういう風習だったらしいから気にすることはないと、ミノルが小声で伝える。

すると、ブルースが大きなゲップをしては、ベンに何か話しかける。

それをミノルは、声をあげて笑った。

「あれは驚きましたよ」

「いやァ~、何度聞いても面白いよね」

一体何のことだろうと、マリとチョコが首を傾げる。

「ブルースはね、未来から来たチンパンジーなんだよ」

「そうなんですかッ!?」

驚きの連続だった。

「チンパンジーが人権を持つようになって、社会進出してる世界なんだってさ」

212×年、電気エネルギーが主流となり、大麻が合法化、一般人の銃所持義務化する国が増え、月にも移住出来るようになっている。

なんと、ドラッグも合法化しているんだとか。

「そして、何よりもウケるのが、小学校の先生だっていうのが笑いのツボだよね」

ミノルが、ブルースの見た目のギャップに笑いを堪えている中、将来の地球は、色々とんでもないことになっていることに心配するマリだった。

「ところで、マリさんの世界は、どんなところなのですか?」

「エッ!? えェっと~…」 

ベンが興味津々で訊ねてきたので、具体的な返答に少々戸惑ってしまう。

「服装を見た感じ、私がいた世界と一緒なのかな?
スマホとかYouTuberとかいるの?」

「すまほ?  ユー、えッ!?」

マリの反応にミノルが固まってしまう。

「…まさか、スマートフォンって存在しない!?
ケータイなんだけど」

「あッ! ケータイでしたら━━」

そう言ってポケットから取り出したのは、ピンクのスライド式ガラパゴスケータイ。

…懐かしいの出てきた。

「あの、私、最近高校生になったばかりで、初めて買ってもらったんですけど、まだ操作とか慣れてなくて…」

恥ずかしそうに言い訳をするマリ。

「因みに、マリの世界って今何年?」

「2007年です」

「あ~、なるほどね」

だからかと一人で納得したミノルだった。

その時代は、まだスマホは普及されていないし、YouTuberという職業も有名になっていない。

少し先の未来がテレビよりも、SNSや動画を見る世の中になっているとは、この頃の者達は、誰も予想出来ていないだろう。

「でも、びっくりしました。
私、この世界に来て死んじゃったのかと思っちゃいました」

マリは、改めて死後の世界ジャンクションの感想を言う。

「そういえば、きっかけは何だったんです?」

ベンが気になって訊いてみた。

「えっと、仲良くなった友達と女子トイレに行ったんです。
そこで、お手洗いをしているときに、友達に悪ふざけで後ろから押されて…。
そしたら鏡の中に入ってしまったんです」

それを聞いた3人は、チョコを除いて険しい表情に変わった。

何故ならそれは、皆が身に覚えのある・・・・・・・体験だったからだ。

「えっと、皆さん、どうされ━━」

「マリ、その子、金髪・・じゃなかった?」

「はいッ! 綺麗な長い髪をしてて、うちの学校一の美少女って噂になってて━━」

目を輝かせながら語るマリに、ミノルが静かに告げる。

「…マリ、落ち着いて聞いてほしいんだけど、おそらく、その子は人間じゃない」

驚きの発言に、一瞬空気が止まってしまったが、少し動揺しながら苦笑する。

「なッ何を言ってるんですか!?」

「ロン毛の金髪で前髪がパッツン、肌が白くて人形みたいな少女」

ドキッ。

「私も、ベンも、ブルースも、マリみたいにハメられたんだよ。
その子にね」

自分の知っている友達の特徴が全て一致していることに言葉を失う。

先程までのおふざけムードが一変し、皆、深刻な空気を漂わせる。

「別世界のそっくりさんが同じ行動を起こしているのは明らかにおかしい。
何が目的かは分からないけど、他の連中もそうやって死後の世界ジャンクションに来たんだよ」

「わッ、私達以外にもいるんですか!?」

声を震わせながら、驚愕の事実を次々と聞かされて、頭が混乱しつつあった。

「いるよ、そいつ等と一度揉めたこともあったし。
そのときに2人と出会ったんだ」

「あの時の出来事は、忘れられません。
大気は荒れ、大地も割れ━━」

「こ~ら! 大袈裟に言うんじゃないの!」

「大袈裟などではありませんよ!
私達も巻き込まれたのですから」

当時のことを思い出したブルースも、両目を片手で覆い、下を向いた。

「まァ、でもそんなに不安がることはないよ。
怖いんなら元の世界に戻れば良いだけだし」

「戻れるんですかッ!?」

マリに気を使ったのか、軽い気持ちで彼女に告げると、あっという間に明るくなった。

「戻れるよ。
死後の世界ジャンクションに入って来たときのゲートを思い浮かべれば目の前に現れるから。
マリの場合、女子トイレの鏡から此処に来たんでしょ?
だったら、それをイメージすると良いよ」

そうアドバイスをもらい、早速マリは、目を閉じて言われた通りに思い出してみる。

すると、スゥッと目の前に洗面台と鏡が出現した。

水道管が地面に突き刺さり、洗面台と小さな鏡の周りには、白いタイルが雑についている。

「やった!」

ホッと胸を撫で下ろしたマリだったが、ふと、疑問が頭を過る。

「ミノルさんは、どうして自分の世界に戻ろうとしないんですか?」

そう、先程ミノルは、自分と同じようにあの少女にハメられて此処に来たと言った。

しかし、自分のいた世界への帰り方を知っているのであれば、こんな不可解なところに居続ける理由などないハズ。

その問いに、軽く口角を上げて答えた。

「探し物があるから」

…探し物? 

マリは、それが何なのかを訊く前に、ミノルに早く帰った方が良いと急かされてしまう。

仕方なく、マリは洗面台の上に上がり、小さなゲートを潜って行った。

その後、ゲートは透けていき、完全に消えてしまった。

「ミノルさん、彼女にも手伝ってもらったほうが良いのでは?
人数が多い方が━━」

「いいんだよ、ってか、別にアンタ等にも手伝ってほしいなんて一言も頼んでないんだから、ついてくる必要はないんだよ」

2人に断るのだが、ブルースが反論し、それにベンも賛同する。

「その通りです。
あの戦いで救っていただいたこの命、恩を返させていただきたい」

「そんなこと言われてもなァ…」

困った表情を浮かべるミノルを、チョコは、手についた食べカスを舐めながら眺めていた。

前に彼女に尋ねられたことを思い出す。

そのときの彼女は、笑顔で接していたものの、何処か心に余裕がないようにも見えた。

━━あのさ、生命の樹・・・・って何処にあるか知らない?




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