KEEP OUT

嘉久見 嶺志

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: 入部

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GWが明け、福島駅の景色が普段通りに戻った。

会社勤めの中年やOL、校風にあった制服を着る高校生、様々な人種が朝のホームで電車を待っている。

そんな中、相変わらず直樹は、イヤホンで曲を聴き、あくびをする。

気だるく涙目で立っていると、隣の列に並んでいるある生徒が視界に入った。

思わず目を見開き、しばらくして鼻で笑った。

ホームにアナウンスが流れ、お馴染みの未来が現れる。

「なっくん、おはよう」

「おはよー」

声をかけた未来は、さりげなく隣に来る。

「GW何してた?」

「配信聴きながら、イラスト描いてたよ」

「さすがなっくん、ブレないねッ」

未来は笑みを浮かべ、ガッツポーズを決める。

電車が停車し、扉が開くと、一斉に列が動き出す。

「そういえば、嬉しいニュースが入ったんですよッ!」

「どうしたの?」

「あの人が、今日━━」
 
電車に乗り込み、扉が閉まる。

阿武急は、今日も彼らを恵梁町へと送り届けるのだった。



「━━はァ~、またやっちまった」

━━恵梁町。

広瀬橋の上で、ケータが頭を抱えながらしゃがんでいた。

目の前には、自転車。

視線の先には、切れたチェーン。

どうやら、完全にトドメを刺してしまったようだ。

「連休明けからこれかよ…」

しかも、地味に背中に感じる視線が痛い。

チラッと後ろを見ると、何人かの生徒が、こちらを見てクスクス笑いながら通り過ぎていく。

中には、あからさまに他人行儀でスタスタ去っていく、丸メガネをかけた女子・・・・・・・・・・もいた。

あれ、今のって━━。

どこか見覚えのある女子に、つい目がいってしまう。

「朝っぱらから視姦してんなで」

「うぇいッ!! ナベショー!?」

いつのまにか、ケータの横にナベショーがおり、呆れた表情を浮かべていた。

「べッ別に、視姦なんか━━って、アレ!? お前…」

ケータは、ナベショーが新品の自転車に乗ってることに気づく。

「あッ! 紹介が遅れたネ。
紹介するよッ、俺の新しい彼女、エリザベスさッ!」

えり━━ッ!?

歯の浮くようなセリフを、恥じる事無く吐き捨てる。

「おっと! もうこんな時間か。
それじゃ、アディオスッ!」

スマホで確認し、爽やかな笑みを浮かべながら去っていった。

「ちょッ!? ナベショォォォォォ!!」

今回もまた遅刻となりそうだ。 



━━昇降口に入り、自身の下駄箱に靴を入れる。

志保は、鈴音の下駄箱に目をやり、今日も彼女が来ていないことに、心が沈む。

登校する度に、下駄箱を確認することが、志保の日課となっていた。

上履きを履くため、少し屈んだ途端、ポケットからスマホを落としてしまう。

そのまま跳ねていき、たどり着いた先は、“最悪”だった。

「何これ?」

気まぐれで志保をいじめる女子グループの中心人物がスマホを拾い、スマホに貼られたプリクラに興味を持つ。

「何!? アンタ等、デキてんのォ!?」

わざと大声で言い放ち、周りの生徒の気を引かせる。

「何々ッ!?って、う~わッ!!」

「えッ!? ちょッ、ガチィ!?」

いつもの面子が続々と集結していき、志保のスマホを面白おかしく回していく。

「根暗同士お似合いじゃんッ!!」

志保は必死に手を伸ばし、取り戻そうとするが、手前にいた女子生徒によって遠ざけられる。

他の生徒たちもギャラリーとして集まってくるが、巻き込まれたくないので、誰一人止める気がない。

そこへ直樹達が昇降口に到着するが、人だかりが出来ており、中に入ることが出来ず。

何が起きているのか、状況は分からないが、二人は、不穏な空気を察した。

「そういえば、最近見かけないけど、喧嘩でもしたの?」

「男子達に慰めてもらえよッ!
得意だろッ!? そういうのッ!!」

後にナベショーも合流し、志保がいじめられていることを知ると、すぐに人混みに突入しようとするが、 瞬時に直樹に止められてしまう。

志保は、諦めずに奥にあるスマホへと手を伸ばす。

その様を女子達は、陽気にはしゃいでいた。

バァンッ。

急に大きな音が響き渡り、何事かと一同は動揺する。

一斉に視線が集中した先には、下駄箱を殴り、静かに立ち尽くしている女子生徒がいた。 

アタシの親友・・・・・・をいじめないでくれる?」

鋭い視線を女子グループに向け、落ち着いた口調で話しかける。 

背筋が真っ直ぐで姿勢が良く、目付きがキリッとしている。

前髪パッツンで、後ろ髪はうなじを刈り上げる程短い。

一瞬、誰なのか判断できなかったが、トレードマークである丸メガネと、左耳の三つの黒ピアスでハッキリした。

鈴ちゃんッ!?

以前の雰囲気は感じられず、ひどかった目のクマも消えている。

別人と化した彼女との再会に、驚きの後から嬉しさが湧いてきた。

鈴音は、女子生徒の持つスマホを素早く奪い取り、強引に輪を押し通っていく。

「ッ痛ェんだけどッ!」

舌打ちをし、鈴音にいちゃもんをつける。

「おいッ!!」

しかし、苛立つ女子を相手にせず、志保の元へたどり着く。

「おはよッ、志保。
はい、これ」

志保に優しく微笑み、スマホを手渡す。

「シカトこいてんじゃねェよッ!!」

あまりにもしつこいので、仕方なく振り返る。

「何?」

「痛ェつッてんだろ!!」

「なんだ、強気な割には貧弱なんだね」

「あんだとォ!?」 

頭に血が上っている相手に対し、鈴音は常に冷静を保っている。

「さッ、志保行こっか。
久しぶりすぎて教室忘れちゃったよ」

そう言って志保の手を握り、その場から離れ、階段へと向かう。

「あッ、アンタ等、ガチでデキてんの!?
ウケんだけどォ!!」

階段を登り始める二人に向かって、負けじと最後まで挑発してくる。

「そう。
だから━━」

鈴音は振り返り、志保を引き寄せて、腕を組んで見せた。

手を出していいのは・・・・・・・・・アタシだけだから・・・・・・・・ッ。
手出さないでよね」

衝撃発言により、志保の胸は高鳴り、大勢の生徒の心に刺さった。

周りから歓声が沸き。 完全に場の空気を支配した。

「ウザッ、意味わかんねーし…」

「きッ、キメェ~」

女子グループは戸惑い、負け惜しみをボソッと漏らしながら、その場から退散した。

鈴音の物怖じしない堂々とした態度、冷静かつ大胆な行動に魅了され、これを機に、校内で一躍有名となったのであった。



━━バンッ。

「これ、よろしく」

放課後、部室に訪れた鈴音は、入部届けを直樹の机に出した。

「はい、受け取りました」

直樹は、隣にいた未来に入部届を渡す。

「まさか、本当に入部するとは…」

「当然でしょ。
自分の身に何が起きているか、まだわからないことだらけなんだから、事情を知ってる人と一緒にいた方がいいに決まってる」

「確かに、そうだけども…」

鈴音の圧しの強さに怯むナベショーだった。 

すると、ナベショーの隣に座っているケータに目がいく。

「な、何?」

「別に」

気になったケータに、素っ気ない態度をとって済ませた。

「いやァ、それにしてもバッサリ切ったね。
見違えちゃったよ」

「ん、ああ、久しぶりにしてみただけだよ。
やっぱり短い方が頭が軽くていいね」

髪型を指摘され、ジョリジョリになった自分のうなじを触る。

「それに、朝から良いものも見れたしッ」

未来は、机に顔を埋めて、耳まで真っ赤な志保に話を振る。

あれから鈴音の顔をまともに見られず、視線を合わせられずにいた。

「あれだけのことをしとかないと、バカには理解できないでしょ」

そう言って志保の隣に座り、肩を軽く叩く。

「志保」

声をかけるが、目線を反らし、顔を赤らめて恥ずかしがっている。

そんな彼女に、そっと手を握る。

「これからは、アタシが付いてるからね」

ドキッ!!

いッ、イケメンッ!!

その場にいた者たちが、皆、鈴音にときめいたのだった。

そう、ここから先は━━━━━━。

「では、改めて━━」

直樹が口を開き、鈴音に笑みを浮かべる。

非合理的で━━━━━━━━━━。

「星 鈴音さん」

非現実的な━━━━━━━━━━。

「ようこそ、特設帰宅部へ」

非日常的青春の始まりである━━。 



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