気配消し令嬢の失敗

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恋って素晴らしいものなのかしら?

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公爵令嬢教育は苛烈を極めた。ユリアは「もう・・・限界・・・。」と何度か言いかけた。だがこれに耐えないともっと大変な王妃教育を受けさせられてしまう!それでも思わずお父様に縋ろうと思うと、お母様がスっと寄ってくるのだ。(お母様は心が読めるのかしら。怖くて言い出せない。)実はユリアの顔に考えたことが全部出ているだけなのだが、ユリア自身はそのことに気づいていなかった。

お姉様だったらどうだったのだろう、とふと思う。隣国の結婚式は物語に出てきそうな程豪華だった。美しくお似合いな2人を大勢の民衆が祝福していた。獣人国に初めて来たが、尻尾や耳がモフモフ以外はあまり人と変わらない。(お姉様を受け入れてくれてありがとう。)祈るような気持ちで喜びに湧く人々を見ていた。祝賀パーティーでは、当分は白い結婚だ、何やかんやと普段は穏やかなお父様が泣きながら怒っていて、それをお母様がヨシヨシと慰めていた。いつもとは逆だ。不思議になって見ているとお母様が、「男親はこうなるのよ。きっとユリアの時も同じことを言うわね。」と愛おしそうにお父様を見つめていた。

お姉様も、お母様も旦那様が大好きなのだ。だから何があっても耐えるし、耐えられるのだろう。
(でも、私は別に王子が好きな訳じゃない。お姉様の代わりに過ぎないしなぁ~好きでも無い男のために、王妃なんて面倒くさいこときっと耐えられない。)
誰にも恋したことがないユリアにとって、恋はどれほど素晴らしいものなのか想像出来なかった。
(とりあえず、公爵令嬢教育を頑張らなきゃ。王妃教育になってしまったら逃げられなくなりそうだもの。)

そうして5年が経過したのだった。

 15歳になり、サルヴィオーネ学園に入学することが決まった。貴族の子供はもちろんのこと、優秀な平民の子供も特待生として通う国1番の学校だ。例によって面倒くさがったユリアにシルヴィアは爆弾を投下して来た。

「学園に行かないなら、王妃教育に毎日王宮に通う?前王妃様イリアスの叔母が貴女にお会いしたいと仰っていたのよ。」
「げっ!・・・いやゲフンゲフンッ!ごめんなさい。急に咳が。コフ。あの学業優先なので学園に通います。ハイッ。」げっ!と言った瞬間のお母様の鋭い目が怖くて、慌てて取り繕う。

「1学年上にエディオン王子も通われているから、心にとめておきなさい。」
心にとめるとは何ですかねお母様?と聞きたくなったが、敢えてスルーした。掘り起こすのは返って良くない。はい。と小さく言うとお母様が笑った。

「学園では、魔法の実技もあるからその腕輪は外すわね。」
「えっ?」
「あら、このままだと実技は赤点になるわよ。レジション」パチン。お母様の声とともに魔封じの腕輪がアッサリ外れた。
「いいこと、魔法を使ってイタズラしたり人を傷つけたりしたら容赦しなくてよ。特にイリアスお父様に何かしたら丸ハゲにするから。気をつけるんですよ!」
丸ハゲ・・・。お父様の為なら娘の髪を毟りとる位はやりかねない。
はい。と大人しく頷くとお母様は満足そうに笑った。こんなアッサリ外すなんて・・・私の5年間ていったい・・・。でも丸ハゲにされるよりはマシか。と思い直した。
まぁ、王子とは学年が違うし会うことは滅多にないだろうし、大丈夫だろう。
その後、その見通しが甘かったことに気づくのだが、気づいた時にはもう遅かった。


ーーーーーーーーーーーーー
「ユリア様!ユリア様は悔しくないのですか?」
涙目になっているナントカ侯爵令嬢に突然話を振られてビクッとなった。退屈過ぎて寝こけそうになっていたのだ(涎出てないかしら?)と気にしながらどうやって答えようか高速で頭を働かせる。いつもは気配を消しているので、厄介事は避けて来られた。
しかしさすがに授業は欠席にされると困るので、自席では初級の認識阻害のみをかけているのだ。
認識阻害初級は:。出席していることはわかるが注意が向かなくなるので教師からは指名されないとユリアは喜んでいたのだが・・・。逆にいうと自席に座るとそこにいることは周囲にバレることとなる。

今回は逃げられない自席で王子の婚約者候補に囲まれ、このサロンに連れてこられた。ユリアにとってはどうでもいい彼女達の話に付き合わされる羽目に陥ったのである。裏庭のベンチで昼食が食べられ、ルンルン気分で帰って来たのになんでこうなったのか!

数ヶ月前、美少女と評判の男爵令嬢が編入してきた。その後、王子を含めた有力貴族の令息達が夢中になっていると噂になっていた。
王子達と男爵令嬢の親密度が増す毎に、婚約者候補と男爵令嬢の諍いが増えていき、最近はユリアもその姿を見掛けることがあった。
(なんだか、あの日記の最後の最後に書かれてた内容と状況が似てる気がする)
賢妃キャサリンの日記は、学園の最終学年で終わっていたが〘嘘つき女は詐欺師。必ず記録せよ!〙と書いて有った。具体的な撮影方法、その場所などが克明に気されていた。当時と学園の建物はほぼ変わって居ない。ユリアは半分面白がって同じように記録する魔法石を見つからないように設置した。後でこの行為がユリアの運命を変えることとなる。

「ユリア様、聞いていますか?」
ナントカ侯爵令嬢の推しが強いこと。立場はユリアの方が上だ。この子名前なんだっけ?
「ええっとマリーナ様、ちょっと落ち着いて下さるかしら。皆様も少し深呼吸していただけるかしら。」率先して深呼吸をしてみる。深呼吸???という顔をしながらユリアの仕草を皆で真似てくれる。
「今仰られた男爵令嬢のことですが、私はなんとも思っておりません。」
「まぁ、でも身分差がございますでしょう!」もっていたハンカチをぎゅうううとと握り締めている。その姿に若干引いた。
「身分差など、何処ぞの高位貴族に養女にしてもらえれば解消するのでは?」
「え・・・」
えっ?今更気づいたの?顔色悪いけど。
「私は婚約者候補ですが、王子様が選んだ方が何方にせよ、尊重いたします。それは皆様でも同じことです。」
「でも、でもわたくしはあの女がエディオン様に近づくのが許せないんです!」
涙目になりながら、必死に訴えてくる。そういえば、お茶会やパーティーで王子の傍にいつもこの子がいたなと唐突に思い出す。王子の寵愛を奪われたと思っているのかしら?王子の目線に熱が籠ってるのを見たことがないが。それはあの男爵令嬢への目線も同じだ。男爵令嬢への目線は好奇心と、、時には蔑みをも感じたけど。
(うーん。面倒臭いなぁ。私は婚約者候補なんて一刻も早く外して欲しいんだけど。この子達は王妃になりたいのかしら?)
黙り込んだユリアに対し、マリーナはくどくどと言い募る。返事をするのも面倒くさくなって来た。
「申し訳ないですが、私は王子の意志に従います。男爵令嬢を選ばれたなら、それはそれでよし。マリーナ様を選ばれたならそれはそれで反対する気はございません。午後の授業に遅れますので失礼いたします。」素早く立ち上がりサロンから立ち去る。今度彼女達に囲まれても、サロン行きは絶対に断る!握り拳を固く結んだ。追いかけられたら堪らないので、直ぐに気配消しと認識阻害の上級を掛けた。

サロンから立ち去るその姿を、見つめていた影があったことにユリアは最後まで気づくことはなかった。

ーーーーーーーーーーーー
次からしばらく王子視点の話となります。
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