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希望の朝
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ガクンッと身体が下に落ちるような衝撃を感じて目を開けた。
ハッと目を開けると、無理な体勢で長時間いたせいか身体が固まったようで直ぐに動けなかった。
部屋にはカーテンの隙間から柔らかな日が差し込み、朝の空気が漂っていた。
「アーリス様、目覚められましたか。」
イルギアス様の声がした方に身体をギシギシいわせながら向くと、イルギアス様はまだ目覚めないクリス様の容態を確認している所だった。
「イルギアス様、クリス様は大丈夫でしょうか?」
「はい。心配していた生命力も安定していますし、長時間魔法を掛けていた影響も見られません。精霊達と女神様のおかげでしょう。あと・・・ヘルゼン王の」
ヘルゼン王に思うところが有るのか、付け加えるように呟いた。イルギアス様の思わぬ一面を見て、思わずクスッと笑った。
「すみません、私はああいう強引な方が苦手でして、悪い方で無いのはわかるのですが・・・」
「そうなの。私は嫌いではないわ。誰かに似ている気がするし・・・誰だったかしら・・・」
(強引で勝手だけど憎めない。人の話をあまり聞かない上、自分のペースに巻き込んでいく押しの強さ・・・オルティスにそっくりだわ!そういえばオルティスは、ヘルゼン王の傍系にあたるのだったわ・・・血筋って怖い)
そんなことを考えながら、部屋を見廻すとアレン様の姿が無かった。
「アレン様はどうなされたのですか?」
「アレン殿下は、アーリス様が目覚める少し前に東宮に戻られました。アーリス様に『兄上を頼む。立太子式で2人に会えることを楽しみにしている。』と伝えて欲しいと伝言を承りました。」
「そうでしたか。ありがとうございます。」
「・・・アーリス様、クリストファー殿下のことですが、アノーのテーブルでの殿下と、目覚められた殿下と態度が違う可能性があります。これは事前に覚悟してください。それと、問題は絵です。」
「ええ。ヘルゼン王は、絵を描くのを止める、止められなければ描く時間を短くする。と言っていらっしゃいましたね。」
「はい。あと、今まで描いていた絵も処分した方が良いでしょう。王宮に残された絵はアレン様に処分をお願いいたしました。離宮で描かれた絵などは何処に飾られているかわかりますか?」
「確か、玄関ホールと、幾つか廊下に飾ってあるのを見ました。その他は、クリス様の自室に飾っているとイーリスから聞いたことがあります。でも、クリス様に処分する許可を頂けるかしら。」
そもそも、自室に立ち入れるかも分からない。幻のアーリスとクリス様の2人だけの部屋だと聞いていた。容易ではないかもしない。
「うん・・・」
イルギアス様と今後のことを話し合っていると、クリス様が身動ぎして頭を振った。
そして、ゆっくり眼を開けると私を見て微笑んだ。
──キラキラエフェクト掛かってる!‼‼
(麗しすぎてキュン死しそうだわ‼)
いつも、私を居ない人間のように扱っていた時にしていた仄暗い瞳は、紫色に澄んでいた。
「アーリー?」
クリス様は、思わず尊すぎて拝んでしまった私を、不思議そうに呼んだ。
「クリス様、私がお分かりになりますか?」
「勿論だよアーリー。どうしたの?こちらにおいで。」
ベッドから起き上がったクリス様が当然のように私を引き寄せて抱き締めてくれた。
あまりに自然に抱き寄せられた為、抵抗する間もなかった。ギュッと抱き締められ、かぁーと頭に血が上るのがわかった。
「クリストファー殿下、イルギアスでございます。幾つかご質問してもよろしいでしょうか?」
「イルギアス殿、何故ここにいる?・・・そういえばここは何処だ?私の部屋では無いようだが」
「・・・昨日のことは覚えていらっしゃいますか?」
「昨日のこと?なんのことだ?」
イルギアス様と私の顔を見ると、キョトンとしながら首を傾げた。
イルギアス様は、クリス様のご様子を見定めるように瞳を凝らしながら昨夜の出来事を語り出した。
―――――――――――
「・・・話はわかった。言われてみれば夢を見ていた気がする。長い長い夢だった。あれはイルギアス殿の魔法だったのか。」
「左様でございます。クリストファー殿下、改めてご質問させていただきます。アーリス様のことはお分かりになられているらようですが、殿下とのご関係をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「アーリーは私の妻だ。何故そのようなことを聞く?」
「えっ‼」
「なるほど、少し混在しているようですね。クリストファー殿下、アーリス様は殿下の婚約者ですが婚礼式はまだ挙げておりません。国王陛下やアレン殿下はもとより、トバルズ国民がお二人の婚礼を待ち望んでいることでしょう。」
「・・・そうか?そうだったか?だが、アーリーは私が婚礼用に作った紫色のドレスを着ていた。そう・・・それで・・・それで・・・」
突然、頭痛に見舞われたようにこめかみに手をあてて考え込んでしまった。
そっと、その背を労わるように撫でると助けを求めるように私を見た。
クリス様の揺れ動くような瞳を見て、また失ってしまうのではと急に恐ろしさが込み上げてきて思わず唾を飲み込んだ。その時──
──ご令嬢、第1王子が惑ったら泣きわめいても、脅してもいい、口付けてもいい。こちら側に引き戻せ。今日全てを打ち壊せないと思うが、諦めるな。必ず上手く行くと信じるのだぞ
ヘルゼン王の言葉を蘇ってきた。どんなことをしても現実に留めなければ!
「クリス様、実は・・・あのドレスは15歳の時に採寸して作りましたので、サイズが変わってしまい残念ですが婚礼式に着ることができなくなってしまいました(本当はピッタリだけど)。それに、遠い東洋の国では婚礼式に着るドレスを"白"にするようです。それは、伴侶の色に染まると言う意味があるようなんです。実はそれを知ってから、クリス様の色に染まりたいと白のドレスに憧れを持っていました。」
「私の色に染まる・・・」
クリス様は何を想像されたのか、私を見てポッと頬を染めた。その顔が可愛すぎてクラクラする。
クラクラしながらも、幻のアーリーからクリス様を引き離す方法を必死に考えた。
(この離宮から離れた方が・・・少なくても描いた絵や、絵を描ける環境から引き離した方が良いのかもしれない。)
「それで・・・クリス様に婚礼式用のドレスについて、ご相談したいと思っておりました。ご相談に乗っていたけますか?」
「もちろんだよアーリー。私たちの婚礼の為だもの。」
「本当ですか!嬉しいですっ!!でも、私デザイン画を公爵家に忘れてきてしまって・・・公爵家へご一緒に来ていただけますか?・・・こちらから離れる時は何か許可が必要なのでしょうか?」
「許可は必要ないが、護衛の関係で事前に申告が必要になる。今からなら先触れを出せば、昼前には外出可能となるよ。」
「では、善は急げと申しますし本日向いましょう!!クリス様は、幾日間か公爵家に滞在していただくことになっても問題ございませんか?」
「公爵家で問題なければ大丈夫だ。先触れにも幾日間か滞在するかもしれないと伝えよう。」
クリス様がイーリスを呼び、指示を出している間に、イルギアス様と小声で話し合った。
「アーリス様、公爵家に移られるのですね。」
「はい。あの絵から引き離すのは、その方が良いかと・・・イルギアス様も我が公爵家に滞在いただけますか?」
「はい。滞在先については、後ほど陛下にご報告致しますので問題ございません。」
「良かった!では、お義母様にご依頼して先に公爵家で準備を整えていただかなければ!席を外しますがクリス様をお願い出来ますか?」
「承知致しました。」
支度のためと部屋を出ると、お義母様の居室へダッシュした。淑女としては失格だったが構っていられなかった。
──
「アーリス!何かあったの?」
ぜぇぜぇ息をして駆け込んできた私に、何か問題が起きたのか酷く心配を掛けてしまった。
昨夜のこと、クリス様とイルギアス様を公爵家に滞在していただくこと、婚礼式の白いドレスのことを簡潔に説明した。特に急遽ではあるが、白いドレスの件は話を合わせて欲しいことを重ねて依頼した。
話が進むうち、お義母様の顔に謎のやる気がみなぎってきた。
「任せてアーリス!娘の婚礼式のドレスだもの。公爵家の総力を挙げて用意するわ。」
「あっあの!お義母様!ドレスについては準備しているフリでよいのですが・・・」
「ええ、ええっ、分かってるわ!」
本当に分かってる?と一抹の不安を感じたが、お義母様に諸々をお願いしてその場を立ち去ると、今度はイーリスを探して走り出した。
――――
イーリスを見つけて走りよると、イーリスの顔は『!?』となんとも言えない表情浮かべていた。
「ハァハァ・・・イーリス、お願いがあるの。」
イーリスには、飾られていた幻のアーリスの絵を全て回収して保管するよう依頼した。(本当は全て処分したいけど・・・私が勝手に処分することは出来ないし・・・)処分については後日考えようと心に決めた。
「承知致しました。クリス様が戻られるまでに纏めて倉庫に保管致します。」
「ありがとうイーリス。あと、アレン様の立太子式は10日後だったわよね。」
「はい。左様でございます。」
「恐らく、公爵家から登城していただく事になると思うの。滞在用の荷物にクリス様の公式行事の正装も一緒に用意してもらえるかしら。」
「承知致しました・・・アーリス様、クリストファー殿下はもうこちらに戻られないのでしょうか?」
「今は分からないわ。ただ、クリス様の為には、この離宮はあまり良くないと思うの。だからクリス様にはできるだけ公爵家に滞在いただきたいと思っているわ。」
「・・・承知いたしました。アーリス様、どうか、どうかクリストファー殿下をよろしくお願いいたします。」
イーリスの顔は真剣だった。喉まで"公爵家に一緒に来て"と出かかったが、イーリスは普通の使用人とは違い、王宮の使用人なのだ。
「わかったわイーリス。クリス様のことは私が守ります。安心して。今までクリス様を支えてくれてありがとう。」
そう言って微笑むと、イーリスは安心したよう頷いた。
お義母様とイーリスとの話が終わり、クリス様のいらっしゃる居室に踵をかえした。
廊下の窓から見えた景色に一瞬立ち止まる。
窓越しにガゼボが小さく見えた。
あの場所で幾度心が折れそうになっただろう。
その度、景色が色褪せて見えた。
──けれど、今日は違う。
朝の陽射しに照らされた花々は美しく咲き乱れ、まさに輝いているように見えた、
まだまだ困難は待ち受けているだろう、それでもきっと乗り越えられる!
胸に満ちてくるのは幸福の予感と未来への希望だった。
ハッと目を開けると、無理な体勢で長時間いたせいか身体が固まったようで直ぐに動けなかった。
部屋にはカーテンの隙間から柔らかな日が差し込み、朝の空気が漂っていた。
「アーリス様、目覚められましたか。」
イルギアス様の声がした方に身体をギシギシいわせながら向くと、イルギアス様はまだ目覚めないクリス様の容態を確認している所だった。
「イルギアス様、クリス様は大丈夫でしょうか?」
「はい。心配していた生命力も安定していますし、長時間魔法を掛けていた影響も見られません。精霊達と女神様のおかげでしょう。あと・・・ヘルゼン王の」
ヘルゼン王に思うところが有るのか、付け加えるように呟いた。イルギアス様の思わぬ一面を見て、思わずクスッと笑った。
「すみません、私はああいう強引な方が苦手でして、悪い方で無いのはわかるのですが・・・」
「そうなの。私は嫌いではないわ。誰かに似ている気がするし・・・誰だったかしら・・・」
(強引で勝手だけど憎めない。人の話をあまり聞かない上、自分のペースに巻き込んでいく押しの強さ・・・オルティスにそっくりだわ!そういえばオルティスは、ヘルゼン王の傍系にあたるのだったわ・・・血筋って怖い)
そんなことを考えながら、部屋を見廻すとアレン様の姿が無かった。
「アレン様はどうなされたのですか?」
「アレン殿下は、アーリス様が目覚める少し前に東宮に戻られました。アーリス様に『兄上を頼む。立太子式で2人に会えることを楽しみにしている。』と伝えて欲しいと伝言を承りました。」
「そうでしたか。ありがとうございます。」
「・・・アーリス様、クリストファー殿下のことですが、アノーのテーブルでの殿下と、目覚められた殿下と態度が違う可能性があります。これは事前に覚悟してください。それと、問題は絵です。」
「ええ。ヘルゼン王は、絵を描くのを止める、止められなければ描く時間を短くする。と言っていらっしゃいましたね。」
「はい。あと、今まで描いていた絵も処分した方が良いでしょう。王宮に残された絵はアレン様に処分をお願いいたしました。離宮で描かれた絵などは何処に飾られているかわかりますか?」
「確か、玄関ホールと、幾つか廊下に飾ってあるのを見ました。その他は、クリス様の自室に飾っているとイーリスから聞いたことがあります。でも、クリス様に処分する許可を頂けるかしら。」
そもそも、自室に立ち入れるかも分からない。幻のアーリスとクリス様の2人だけの部屋だと聞いていた。容易ではないかもしない。
「うん・・・」
イルギアス様と今後のことを話し合っていると、クリス様が身動ぎして頭を振った。
そして、ゆっくり眼を開けると私を見て微笑んだ。
──キラキラエフェクト掛かってる!‼‼
(麗しすぎてキュン死しそうだわ‼)
いつも、私を居ない人間のように扱っていた時にしていた仄暗い瞳は、紫色に澄んでいた。
「アーリー?」
クリス様は、思わず尊すぎて拝んでしまった私を、不思議そうに呼んだ。
「クリス様、私がお分かりになりますか?」
「勿論だよアーリー。どうしたの?こちらにおいで。」
ベッドから起き上がったクリス様が当然のように私を引き寄せて抱き締めてくれた。
あまりに自然に抱き寄せられた為、抵抗する間もなかった。ギュッと抱き締められ、かぁーと頭に血が上るのがわかった。
「クリストファー殿下、イルギアスでございます。幾つかご質問してもよろしいでしょうか?」
「イルギアス殿、何故ここにいる?・・・そういえばここは何処だ?私の部屋では無いようだが」
「・・・昨日のことは覚えていらっしゃいますか?」
「昨日のこと?なんのことだ?」
イルギアス様と私の顔を見ると、キョトンとしながら首を傾げた。
イルギアス様は、クリス様のご様子を見定めるように瞳を凝らしながら昨夜の出来事を語り出した。
―――――――――――
「・・・話はわかった。言われてみれば夢を見ていた気がする。長い長い夢だった。あれはイルギアス殿の魔法だったのか。」
「左様でございます。クリストファー殿下、改めてご質問させていただきます。アーリス様のことはお分かりになられているらようですが、殿下とのご関係をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「アーリーは私の妻だ。何故そのようなことを聞く?」
「えっ‼」
「なるほど、少し混在しているようですね。クリストファー殿下、アーリス様は殿下の婚約者ですが婚礼式はまだ挙げておりません。国王陛下やアレン殿下はもとより、トバルズ国民がお二人の婚礼を待ち望んでいることでしょう。」
「・・・そうか?そうだったか?だが、アーリーは私が婚礼用に作った紫色のドレスを着ていた。そう・・・それで・・・それで・・・」
突然、頭痛に見舞われたようにこめかみに手をあてて考え込んでしまった。
そっと、その背を労わるように撫でると助けを求めるように私を見た。
クリス様の揺れ動くような瞳を見て、また失ってしまうのではと急に恐ろしさが込み上げてきて思わず唾を飲み込んだ。その時──
──ご令嬢、第1王子が惑ったら泣きわめいても、脅してもいい、口付けてもいい。こちら側に引き戻せ。今日全てを打ち壊せないと思うが、諦めるな。必ず上手く行くと信じるのだぞ
ヘルゼン王の言葉を蘇ってきた。どんなことをしても現実に留めなければ!
「クリス様、実は・・・あのドレスは15歳の時に採寸して作りましたので、サイズが変わってしまい残念ですが婚礼式に着ることができなくなってしまいました(本当はピッタリだけど)。それに、遠い東洋の国では婚礼式に着るドレスを"白"にするようです。それは、伴侶の色に染まると言う意味があるようなんです。実はそれを知ってから、クリス様の色に染まりたいと白のドレスに憧れを持っていました。」
「私の色に染まる・・・」
クリス様は何を想像されたのか、私を見てポッと頬を染めた。その顔が可愛すぎてクラクラする。
クラクラしながらも、幻のアーリーからクリス様を引き離す方法を必死に考えた。
(この離宮から離れた方が・・・少なくても描いた絵や、絵を描ける環境から引き離した方が良いのかもしれない。)
「それで・・・クリス様に婚礼式用のドレスについて、ご相談したいと思っておりました。ご相談に乗っていたけますか?」
「もちろんだよアーリー。私たちの婚礼の為だもの。」
「本当ですか!嬉しいですっ!!でも、私デザイン画を公爵家に忘れてきてしまって・・・公爵家へご一緒に来ていただけますか?・・・こちらから離れる時は何か許可が必要なのでしょうか?」
「許可は必要ないが、護衛の関係で事前に申告が必要になる。今からなら先触れを出せば、昼前には外出可能となるよ。」
「では、善は急げと申しますし本日向いましょう!!クリス様は、幾日間か公爵家に滞在していただくことになっても問題ございませんか?」
「公爵家で問題なければ大丈夫だ。先触れにも幾日間か滞在するかもしれないと伝えよう。」
クリス様がイーリスを呼び、指示を出している間に、イルギアス様と小声で話し合った。
「アーリス様、公爵家に移られるのですね。」
「はい。あの絵から引き離すのは、その方が良いかと・・・イルギアス様も我が公爵家に滞在いただけますか?」
「はい。滞在先については、後ほど陛下にご報告致しますので問題ございません。」
「良かった!では、お義母様にご依頼して先に公爵家で準備を整えていただかなければ!席を外しますがクリス様をお願い出来ますか?」
「承知致しました。」
支度のためと部屋を出ると、お義母様の居室へダッシュした。淑女としては失格だったが構っていられなかった。
──
「アーリス!何かあったの?」
ぜぇぜぇ息をして駆け込んできた私に、何か問題が起きたのか酷く心配を掛けてしまった。
昨夜のこと、クリス様とイルギアス様を公爵家に滞在していただくこと、婚礼式の白いドレスのことを簡潔に説明した。特に急遽ではあるが、白いドレスの件は話を合わせて欲しいことを重ねて依頼した。
話が進むうち、お義母様の顔に謎のやる気がみなぎってきた。
「任せてアーリス!娘の婚礼式のドレスだもの。公爵家の総力を挙げて用意するわ。」
「あっあの!お義母様!ドレスについては準備しているフリでよいのですが・・・」
「ええ、ええっ、分かってるわ!」
本当に分かってる?と一抹の不安を感じたが、お義母様に諸々をお願いしてその場を立ち去ると、今度はイーリスを探して走り出した。
――――
イーリスを見つけて走りよると、イーリスの顔は『!?』となんとも言えない表情浮かべていた。
「ハァハァ・・・イーリス、お願いがあるの。」
イーリスには、飾られていた幻のアーリスの絵を全て回収して保管するよう依頼した。(本当は全て処分したいけど・・・私が勝手に処分することは出来ないし・・・)処分については後日考えようと心に決めた。
「承知致しました。クリス様が戻られるまでに纏めて倉庫に保管致します。」
「ありがとうイーリス。あと、アレン様の立太子式は10日後だったわよね。」
「はい。左様でございます。」
「恐らく、公爵家から登城していただく事になると思うの。滞在用の荷物にクリス様の公式行事の正装も一緒に用意してもらえるかしら。」
「承知致しました・・・アーリス様、クリストファー殿下はもうこちらに戻られないのでしょうか?」
「今は分からないわ。ただ、クリス様の為には、この離宮はあまり良くないと思うの。だからクリス様にはできるだけ公爵家に滞在いただきたいと思っているわ。」
「・・・承知いたしました。アーリス様、どうか、どうかクリストファー殿下をよろしくお願いいたします。」
イーリスの顔は真剣だった。喉まで"公爵家に一緒に来て"と出かかったが、イーリスは普通の使用人とは違い、王宮の使用人なのだ。
「わかったわイーリス。クリス様のことは私が守ります。安心して。今までクリス様を支えてくれてありがとう。」
そう言って微笑むと、イーリスは安心したよう頷いた。
お義母様とイーリスとの話が終わり、クリス様のいらっしゃる居室に踵をかえした。
廊下の窓から見えた景色に一瞬立ち止まる。
窓越しにガゼボが小さく見えた。
あの場所で幾度心が折れそうになっただろう。
その度、景色が色褪せて見えた。
──けれど、今日は違う。
朝の陽射しに照らされた花々は美しく咲き乱れ、まさに輝いているように見えた、
まだまだ困難は待ち受けているだろう、それでもきっと乗り越えられる!
胸に満ちてくるのは幸福の予感と未来への希望だった。
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