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第3章【入学試験・二次試験編】
§033 死神
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「――闇魔法・死神の約束――」
レリアが短い詠唱を口ずさんだ次の瞬間、黒い小さな光がレリアの胸辺りから顕現し、その光はゆらゆらと空中を漂いながら、最終的には男の胸へと吸い込まれていった。
その光を確認したレリアは全てを包み込むような穏やかな笑みを浮かべながら、男に問いかけるように話す。
「名も知らぬ受験生さん。大変心苦しいのですが、持っている魔石を全て私に渡してくださいませんか?」
「は、お前いきなり何言ってるんだ」
当然のことながらレリアの問いかけに男は首を縦には振らない。
「なるほど。交渉決裂ですか。それでは……」
その反応は想定の範囲内とばかりにレリアはすくりと立ち上がると、今度は男に更に近付いて何やら耳打ちするように小声で問いかける。
「…………」
すると、レリアの言葉を聞いた男は一度目を見開いたかと思ったら、まるで全てを諦めたかのようにコクリと頷いて見せた。
その途端、先ほど男の胸に吸い込まれた黒い光が閃光のように瞬きだし、二人に染み入るように包み込んだ。
その次に俺の視界に映ったのは、先ほどと同様に穏やかな笑みを浮かべたレリアと、ローブから取り出した魔石を手渡す男の姿だった。
男は今までの反抗的な態度はどこへやら、あまりにも素直にレリアに魔石を渡していた。
その光景を見て、俺は唖然としてしまった。
「ありがとうございます。魔石は私達が大切に預からせていただきますね。あ、それと二次試験が終わるまでの間、私達に攻撃を仕掛けないと約束してくれますか?」
このレリアの問いかけに対しても男は無抵抗にコクリと頷く。
「ふふ。交渉成立ですね」
そう言って得物である魔石を手に握りしめ、宝物を掘り当てた犬の如く、俺の下に駆け寄ってくるレリア。
尻尾をふりふりしている光景が目に浮かぶが俺は非常に複雑な心境だった。
昨日の作戦会議の時にレリアが使える闇魔法のことは聞いていた。
捕縛した相手からスムーズに魔石を奪うことができる魔法があると。
それではイメージが湧かないので実際にその魔法を見てみたいと提案はしたのだが、「ジルベール様にこの魔法を使うわけにはいきません」と断られていたところだ。
そんなわけで実際にレリアの闇魔法を見るのはこれが初めてだったのだが……これは確かに想像以上に刺激が強い。
「レリアのさっきの魔法は洗脳魔法か?」
俺は恐る恐るレリアに尋ねる。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、レリアは無邪気な笑みを見せつつ答える。
「洗脳魔法とは人聞きが悪いですね。私の魔法には人の精神を変容させるような効果はありません。あくまでお互いの了承下でのみ作用する魔法です」
「お互いの了承ということは、相手の同意がない場合は魔法の効力が発動しないということか?」
「そのとおりです。なのでジルベール様が想像しているような危険な闇魔法ではありません。あくまで『話し合い』を行った上でその結果にお互いが制約される魔法だと思ってください。先ほど私はあの方に『魔石を全て渡してください』と問いかけ、あの方がそれに了承したので、その結果に従って、あの方は私に魔石を渡し、私はあの方から魔石を受け取ったということになるのです」
ここまでくればレリアも俺の心配を察してくれたのだろう。
彼女は「この闇魔法は危険なものではないですよ」という点を強調して、俺の不安が晴れるように話をしてくれている。
しかし……しかしだ。
お互いの了承が必要という点を差し置いても、この魔法……やばすぎるのではないだろうか。
特に俺が――超重力の罠――を発動している状況下でのこの闇魔法は一種の拷問に近い。身動きを完全に封じられた状態で、何らかの脅し文句を言えば、了承もへったくれもないのだから。
闇魔法は本来希少種。
そのため本の虫だった俺ですら闇魔法にどんな種類のものがあるのかはほとんど把握できていない。
でもこの感じだと……闇魔法ってもしかしてイメージどおり相当やばい魔法なのではないかと思ってしまう。
それに…………レリアの一度目の問いかけでは明確に反抗の意思を示していた男が、レリアが何やら耳打ちをした途端に手のひらを返したように頷いていたような……あれは一体なんだったのだろうか……。
そう思ってレリアに視線を向けるが、当の本人は「なにか?」というきょとんとした顔をしている。
うん。ここはこれ以上考えるのはやめよう。
レリアは見た目どおり、器量が良くてお淑やかな優しい女の子だ。
レリアが味方である以上この魔法は強力な武器。それでいいじゃないか。
傍から見たらレリアの言葉のとおり、誰が悪者なのかわからなくなってくるが、これはあくまで入学試験。
ある程度非情にならなければならないのは致し方ないことだ。
「よし! じゃあこの調子で他の受験生からも魔石を回収するぞ」
「はい! ここが終わったら洞穴に仕掛けた魔法陣も見に行ってみましょう!」
こうして俺とレリアはほんの数時間足らずで、魔石をそれぞれ30個ずつ手に入れることに成功したのであった。
レリアが短い詠唱を口ずさんだ次の瞬間、黒い小さな光がレリアの胸辺りから顕現し、その光はゆらゆらと空中を漂いながら、最終的には男の胸へと吸い込まれていった。
その光を確認したレリアは全てを包み込むような穏やかな笑みを浮かべながら、男に問いかけるように話す。
「名も知らぬ受験生さん。大変心苦しいのですが、持っている魔石を全て私に渡してくださいませんか?」
「は、お前いきなり何言ってるんだ」
当然のことながらレリアの問いかけに男は首を縦には振らない。
「なるほど。交渉決裂ですか。それでは……」
その反応は想定の範囲内とばかりにレリアはすくりと立ち上がると、今度は男に更に近付いて何やら耳打ちするように小声で問いかける。
「…………」
すると、レリアの言葉を聞いた男は一度目を見開いたかと思ったら、まるで全てを諦めたかのようにコクリと頷いて見せた。
その途端、先ほど男の胸に吸い込まれた黒い光が閃光のように瞬きだし、二人に染み入るように包み込んだ。
その次に俺の視界に映ったのは、先ほどと同様に穏やかな笑みを浮かべたレリアと、ローブから取り出した魔石を手渡す男の姿だった。
男は今までの反抗的な態度はどこへやら、あまりにも素直にレリアに魔石を渡していた。
その光景を見て、俺は唖然としてしまった。
「ありがとうございます。魔石は私達が大切に預からせていただきますね。あ、それと二次試験が終わるまでの間、私達に攻撃を仕掛けないと約束してくれますか?」
このレリアの問いかけに対しても男は無抵抗にコクリと頷く。
「ふふ。交渉成立ですね」
そう言って得物である魔石を手に握りしめ、宝物を掘り当てた犬の如く、俺の下に駆け寄ってくるレリア。
尻尾をふりふりしている光景が目に浮かぶが俺は非常に複雑な心境だった。
昨日の作戦会議の時にレリアが使える闇魔法のことは聞いていた。
捕縛した相手からスムーズに魔石を奪うことができる魔法があると。
それではイメージが湧かないので実際にその魔法を見てみたいと提案はしたのだが、「ジルベール様にこの魔法を使うわけにはいきません」と断られていたところだ。
そんなわけで実際にレリアの闇魔法を見るのはこれが初めてだったのだが……これは確かに想像以上に刺激が強い。
「レリアのさっきの魔法は洗脳魔法か?」
俺は恐る恐るレリアに尋ねる。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、レリアは無邪気な笑みを見せつつ答える。
「洗脳魔法とは人聞きが悪いですね。私の魔法には人の精神を変容させるような効果はありません。あくまでお互いの了承下でのみ作用する魔法です」
「お互いの了承ということは、相手の同意がない場合は魔法の効力が発動しないということか?」
「そのとおりです。なのでジルベール様が想像しているような危険な闇魔法ではありません。あくまで『話し合い』を行った上でその結果にお互いが制約される魔法だと思ってください。先ほど私はあの方に『魔石を全て渡してください』と問いかけ、あの方がそれに了承したので、その結果に従って、あの方は私に魔石を渡し、私はあの方から魔石を受け取ったということになるのです」
ここまでくればレリアも俺の心配を察してくれたのだろう。
彼女は「この闇魔法は危険なものではないですよ」という点を強調して、俺の不安が晴れるように話をしてくれている。
しかし……しかしだ。
お互いの了承が必要という点を差し置いても、この魔法……やばすぎるのではないだろうか。
特に俺が――超重力の罠――を発動している状況下でのこの闇魔法は一種の拷問に近い。身動きを完全に封じられた状態で、何らかの脅し文句を言えば、了承もへったくれもないのだから。
闇魔法は本来希少種。
そのため本の虫だった俺ですら闇魔法にどんな種類のものがあるのかはほとんど把握できていない。
でもこの感じだと……闇魔法ってもしかしてイメージどおり相当やばい魔法なのではないかと思ってしまう。
それに…………レリアの一度目の問いかけでは明確に反抗の意思を示していた男が、レリアが何やら耳打ちをした途端に手のひらを返したように頷いていたような……あれは一体なんだったのだろうか……。
そう思ってレリアに視線を向けるが、当の本人は「なにか?」というきょとんとした顔をしている。
うん。ここはこれ以上考えるのはやめよう。
レリアは見た目どおり、器量が良くてお淑やかな優しい女の子だ。
レリアが味方である以上この魔法は強力な武器。それでいいじゃないか。
傍から見たらレリアの言葉のとおり、誰が悪者なのかわからなくなってくるが、これはあくまで入学試験。
ある程度非情にならなければならないのは致し方ないことだ。
「よし! じゃあこの調子で他の受験生からも魔石を回収するぞ」
「はい! ここが終わったら洞穴に仕掛けた魔法陣も見に行ってみましょう!」
こうして俺とレリアはほんの数時間足らずで、魔石をそれぞれ30個ずつ手に入れることに成功したのであった。
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