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第2章【入学試験・一次試験編】
§018 学内闘技場
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「おおっ!」
俺とレリアは同時に声を上げた。
『学内闘技場』という名称から俺はてっきり体育館のようなものを想像していた。
しかし、俺達が案内されたのは広大なフィールド。
観客席が設置されたスポーツスタジアムのようなところだった。
それも1個や2個じゃない。
その規模のスタジアムが相当の数並んでおり、それぞれに『A闘技場』、『B闘技場』などと番号が振ってある。
もしかしたら土地を拡張する魔法を使っているのではないかと思うぐらいに壮観な光景だった。
「すごい設備だな。ここで戦うのか」
「ですね。雰囲気だけで圧倒されちゃいそうです。対戦相手はランダムのようで、対戦相手が決定したら学園側から連絡が来るようです」
まず俺達の第一課題はこの一次試験で勝利することだろう。
もちろん負けても即退場ということはないが、勝てば魔石が5個ずつもらえるのは大きい。
俺とレリアの入学も、『常闇の手枷』の解除も、全てこの試験にかかっているのだ。
ただ、試験云々は抜きにしても、『模擬戦』という言葉には胸躍らされる。
もちろんほぼ初めての魔法戦闘に対する恐怖もあるが、それ以上に、やるからには勝ちたいと思ってしまうのが人間の性《さが》のようだ。
それに……。
俺はふと先ほどの弟との邂逅に想いを馳せる。
セドリックはきっとこの一次試験で勝利を収めるだろう。
それはある種、確信に近いものだった。
セドリックは普段は勉強もしないし、訓練もサボってばかりだった。
ただ、本当に必要な時だけはしっかりと成績を残す。
あいつは泥臭く努力を重ねる俺とは違い、圧倒的な潜在能力をもって物事を要領良くこなすタイプだ。
そんなセドリックが『王立レヴィストロース魔導学園』ではなく、『王立セレスティア魔導学園』を受験しているということは、おそらくは父の命《めい》だろう。
それに向上心の高い父上のことだ。「首席で合格しろ」などと言われていてもおかしくはない。
そうであれば、セドリックは必ず父の命《めい》に従って最大限のポテンシャルを発揮してくるはずだ。
いずれ俺とセドリックが相対する機会も訪れるだろう。
そのときのためにも、俺にはまず、早急にしなければならないことがある。
それは――自分の実力の把握。
つまり、自分に何ができて、何ができないのかを確認する必要があるということだ。
本当はこの入学試験に臨む前にそれができていれば理想だったのだが、日程だったり、『常闇の手枷』だったりと様々な事情が重なり合って、思うように準備ができていなかった。
ただ、おあつらえ向きに、この入学試験には『一次試験』というものが用意されていた。
俺はこの一次試験を好機と捉え、どうにか『二次試験』を迎える前に、自分に何ができるのかを見極めたいと思っていた。
「レリア。この試合なんだけど、俺は自分がどの程度の魔法を使えるのか試そうと思うのだが……」
俺は自分の考えを隠すことなくレリアに伝えた。
ただ、俺の考えは一次試験を魔法の練習台にしようとしているに等しい行為だ。
是が非でも学園に入学したいレリアにとっては受け入れがたい提案ともいえる。
そのため、否定的な意見が出ることも覚悟していたが、レリアから返ってきたのは予想に反して俺と同じ考えのものだった。
「はい。私もそれがいいと思っていました。元々、私は補助魔法を得意とするタイプです。正直申しまして、ジルベール様の攻撃魔法が無ければ模擬戦方式が採用されてしまった今回の試験は突破することも難しかったと思います」
そして、少し俯き加減になりながら、申し訳なそうに続ける。
「ジルベール様に頼りっきりになるのは大変心苦しいですが、ジルベール様はご自身の納得がいくまで魔法を試してみてください。その代わりと言ってはなんですが、私は陰ながらフォローさせていただきますので」
そう言ってレリアは胸の前で両の拳にギュッと力を込める。
「本当にいいのか?」
「はい。私にもっと魔法の実力があればよかったのですが……」
そう言ってほんの少しだけ寂しそうな表情を見せるレリア。
そういえば……今更になってレリアが魔法を使っているところを見たことがないことに気付く。
「ちなみにレリアは……」
俺がそう口にしようとしたところで……。
「1番のペアと480番のペア。一次試験を開始しますので、H闘技場にお集まりください」
急に脳内に直接語りかけるような声が、俺の耳に鳴り響いた。
「なっ……なんだこれ」
俺は思わず耳に手を当て、レリアに目を向ける。
すると、レリアにも同じ声が聞こえているらしく、鳴り響く声に居心地の悪さを覚えているようであるが、片目を瞑って耳を傾けていた。
声が鳴り止むと同時に、レリアが言う。
「これは『念話』ですね。空気を振動させて遠く離れた場所から声を届ける無属性の初級魔法です」
これが念話か。
以前に本で読んだことはあったが、実際に体感するのは初めてだった。
「そういう魔法があるというのは知っていたんだけど、いざ実際に体感してみるとなんか気持ち悪いな。脳みそが震える感じというか」
「ふふ。確かに慣れてないと不思議な感じがしますよね。私も最初に『念話』を受けた時は耳に息を吹きかけられているようで、身体がぞわぞわした記憶があります」
「今の俺がまさにその感覚だよ」
そう言って笑い合う俺とレリア。
よし。少しだけ緊張も解けた。
「じゃあ会場に向かおうか」
「はい。ジルベール様の魔法、楽しみにしてますね」
そうして俺とレリアはH闘技場へと足を向けた。
ただ、『念話』とやらに話の腰を折られてしまった結果、レリアの魔法を確認できないまま一次試験に臨むこととなった。
俺とレリアは同時に声を上げた。
『学内闘技場』という名称から俺はてっきり体育館のようなものを想像していた。
しかし、俺達が案内されたのは広大なフィールド。
観客席が設置されたスポーツスタジアムのようなところだった。
それも1個や2個じゃない。
その規模のスタジアムが相当の数並んでおり、それぞれに『A闘技場』、『B闘技場』などと番号が振ってある。
もしかしたら土地を拡張する魔法を使っているのではないかと思うぐらいに壮観な光景だった。
「すごい設備だな。ここで戦うのか」
「ですね。雰囲気だけで圧倒されちゃいそうです。対戦相手はランダムのようで、対戦相手が決定したら学園側から連絡が来るようです」
まず俺達の第一課題はこの一次試験で勝利することだろう。
もちろん負けても即退場ということはないが、勝てば魔石が5個ずつもらえるのは大きい。
俺とレリアの入学も、『常闇の手枷』の解除も、全てこの試験にかかっているのだ。
ただ、試験云々は抜きにしても、『模擬戦』という言葉には胸躍らされる。
もちろんほぼ初めての魔法戦闘に対する恐怖もあるが、それ以上に、やるからには勝ちたいと思ってしまうのが人間の性《さが》のようだ。
それに……。
俺はふと先ほどの弟との邂逅に想いを馳せる。
セドリックはきっとこの一次試験で勝利を収めるだろう。
それはある種、確信に近いものだった。
セドリックは普段は勉強もしないし、訓練もサボってばかりだった。
ただ、本当に必要な時だけはしっかりと成績を残す。
あいつは泥臭く努力を重ねる俺とは違い、圧倒的な潜在能力をもって物事を要領良くこなすタイプだ。
そんなセドリックが『王立レヴィストロース魔導学園』ではなく、『王立セレスティア魔導学園』を受験しているということは、おそらくは父の命《めい》だろう。
それに向上心の高い父上のことだ。「首席で合格しろ」などと言われていてもおかしくはない。
そうであれば、セドリックは必ず父の命《めい》に従って最大限のポテンシャルを発揮してくるはずだ。
いずれ俺とセドリックが相対する機会も訪れるだろう。
そのときのためにも、俺にはまず、早急にしなければならないことがある。
それは――自分の実力の把握。
つまり、自分に何ができて、何ができないのかを確認する必要があるということだ。
本当はこの入学試験に臨む前にそれができていれば理想だったのだが、日程だったり、『常闇の手枷』だったりと様々な事情が重なり合って、思うように準備ができていなかった。
ただ、おあつらえ向きに、この入学試験には『一次試験』というものが用意されていた。
俺はこの一次試験を好機と捉え、どうにか『二次試験』を迎える前に、自分に何ができるのかを見極めたいと思っていた。
「レリア。この試合なんだけど、俺は自分がどの程度の魔法を使えるのか試そうと思うのだが……」
俺は自分の考えを隠すことなくレリアに伝えた。
ただ、俺の考えは一次試験を魔法の練習台にしようとしているに等しい行為だ。
是が非でも学園に入学したいレリアにとっては受け入れがたい提案ともいえる。
そのため、否定的な意見が出ることも覚悟していたが、レリアから返ってきたのは予想に反して俺と同じ考えのものだった。
「はい。私もそれがいいと思っていました。元々、私は補助魔法を得意とするタイプです。正直申しまして、ジルベール様の攻撃魔法が無ければ模擬戦方式が採用されてしまった今回の試験は突破することも難しかったと思います」
そして、少し俯き加減になりながら、申し訳なそうに続ける。
「ジルベール様に頼りっきりになるのは大変心苦しいですが、ジルベール様はご自身の納得がいくまで魔法を試してみてください。その代わりと言ってはなんですが、私は陰ながらフォローさせていただきますので」
そう言ってレリアは胸の前で両の拳にギュッと力を込める。
「本当にいいのか?」
「はい。私にもっと魔法の実力があればよかったのですが……」
そう言ってほんの少しだけ寂しそうな表情を見せるレリア。
そういえば……今更になってレリアが魔法を使っているところを見たことがないことに気付く。
「ちなみにレリアは……」
俺がそう口にしようとしたところで……。
「1番のペアと480番のペア。一次試験を開始しますので、H闘技場にお集まりください」
急に脳内に直接語りかけるような声が、俺の耳に鳴り響いた。
「なっ……なんだこれ」
俺は思わず耳に手を当て、レリアに目を向ける。
すると、レリアにも同じ声が聞こえているらしく、鳴り響く声に居心地の悪さを覚えているようであるが、片目を瞑って耳を傾けていた。
声が鳴り止むと同時に、レリアが言う。
「これは『念話』ですね。空気を振動させて遠く離れた場所から声を届ける無属性の初級魔法です」
これが念話か。
以前に本で読んだことはあったが、実際に体感するのは初めてだった。
「そういう魔法があるというのは知っていたんだけど、いざ実際に体感してみるとなんか気持ち悪いな。脳みそが震える感じというか」
「ふふ。確かに慣れてないと不思議な感じがしますよね。私も最初に『念話』を受けた時は耳に息を吹きかけられているようで、身体がぞわぞわした記憶があります」
「今の俺がまさにその感覚だよ」
そう言って笑い合う俺とレリア。
よし。少しだけ緊張も解けた。
「じゃあ会場に向かおうか」
「はい。ジルベール様の魔法、楽しみにしてますね」
そうして俺とレリアはH闘技場へと足を向けた。
ただ、『念話』とやらに話の腰を折られてしまった結果、レリアの魔法を確認できないまま一次試験に臨むこととなった。
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