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続きの始まり 2

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 この国、ビイアには国の重鎮の一部しか知らないあるお役目を受けている家が四つある。
 いつからそのお役目を受けているのか、正確なところは分からない。だがそれぞれが違うお役目を受け継いでおり、知っている者達からは通称「四の家系」と呼ばれている。

「四の家系」は王家の為に存在しており、「剣、盾、影、知」の四つから構成されている。
 私達はその中でも唯一平民の家でありながらお役目を受けていて、私達が受け継いでいるのは「盾」。

 剣の家系の人間は王族に護衛として仕える。

 影の家系の人間は王の依頼によって動く諜報員。

 知の家系の人間は王族に知識を与える教育者。

 そして私達盾の家系の人間は有事の際に最前線で戦い、又剣の家系の人間にもしもの事があった場合の代わりでもある。

 騎士団という国を守るお仕事の人達がいるのに不思議な話ではあるよね。その家系の人間である私ですら必要なくね?とは思うがまあ上が決めた事に平民如きが逆らえる訳はない。いつからこんな役目を受けているのかは分からないがまあご先祖様は逆らえず受けるしかなかったんだろうな、と思うことにしてる。なんの必要があるかは分からないが。

 オーリーさんが言うには今まで戦争がなかったからといってこれからもないとは限らないから、これまでの盾の家系の人達は皆剣術体術魔法の腕を鍛えてきたんだそう。けれどまあ平和な国なものだから使いどころはない。せっかく頑張って鍛えたのに意味がないではあんまりだ、ということで誰から始めたかは分からないが他三家の人達からの依頼で騎士団の手が回らない部分の仕事を貰い受けているのだそう。後は三家の子供の剣術体術魔法の腕を鍛えるのも最近ではお役目の一つになっているらしい。


 公爵家に来て二週間が経った。

 私達は公爵様直々に勉強を教えてもらっている。というのもオルシェ家は「知」を受け継ぐ家系で、王族や各家系の人達に勉強や魔法を教えるのが役割の一つなんだそう。
 いやはや大変なお役目だよね。

 私達「盾」を抜いた家系を受け継ぐ残りの三家はこの国で三大公爵と言われる三つの公爵家で、何故「盾」だけが平民の家なのかは甚だ疑問である。

 一度「私達が急にいなくなって村の人達は心配してるんじゃないの?」と純粋な疑問から―――だから家に帰せという気持ちがなかったかと聞かれればちょっと、ほんのちょっとだけあったけど―――聞いてみたらオーリーさん曰く村の人達には「母が病気になったので」とかなんとか出鱈目な事を言って六年間私達双子は亡き父の実家で過ごす事になっているらしい。
 実際は公爵家で過ごすんだけどね。
 だから村の人達が心配してるとかそんな事はないから心配しなくてもいい、と言われた時には唖然とした。
 外堀は既に埋め込まれていたらしい。
 これで隙を見て村に帰ろうとしていた作戦が台無しになってしまった。
 ええ、その日は枕を濡らしましたよ。

 あの日、私達は玄関に敷かれた転移の魔法陣によってここに飛ばされて来た。
 あとで思い出した事だがオーリーさんは魔法を使うのは苦手だったが魔法陣を作成するのは得意だった。私達がお婆さんの家に遊びに行っている間にちゃっかり陣を作戦していたみたいだ。
 はなっから私達を説得する気は無かったらしい。

 ジルバールはお婆さんの家にいる時にこっそりオーリーさんから指示を受けていたらしく見事に私達を裏切ってくれたのだ。
 私達は全く気付かないまま嵌められたというわけ。悔しい。

 魔法陣とは普通の魔法とは違い陣を描く事で使えるようになる魔法の一種。そのほとんどが原初魔法という大昔に偉大な魔法使いが生み出したとされるもの。複雑な構成のものがほとんどで、陣の作成中に一箇所でも間違ってしまうと魔法陣としての効力は無くなってしまう。なので一つの陣を作るのに半日から1日をかける人がほとんど。
 しかしオーリーさんはそこまで時間をかけなくても完璧に完成させてしまう。

 多大な労力を割く代わりに転移などの大変便利な魔法が使えるんだけどね。

 私達は現在オルシェ公爵家の本邸裏にある離れで一日を過ごしている。離れとはいっても私達の家が十は余裕で入るんじゃないかと思う程の面積があるわけだが。

 一階は勉強や魔法座学を習う為の教室がいくつかあり、二階には生活する為の部屋がこれまたいくつかある。
 一階の中央にある階段を上って右側が男子部屋、左側が女子部屋になっている。
 部屋は三人一部屋の造りで、お風呂もトイレも備わっていた。
 余談だが、この屋敷に来た日、いつのまに纏められていたのかこれから暮らす事になる部屋には自分の荷物が置かれていた。

 今公爵様から勉学を教えてもらっているのは私とユーリだけだが、もう一週間もすると他の家系の人とこの国の王子様もここに来るのだと言われた。
 王子様は私達と同い年なんだそう。
「家系」の人達や王族達が、年が同じだったり近かったりする場合は一緒に「知の家系」当主の元で学習する決まりらしい。六年間一緒に勉強をし信頼関係を築くという目的があるそうだ。

 しかしそんな事私達は知ったこっちゃないし、今すぐにでもいつもの日常に戻りたかったので一時は女公爵様の説得も図った。

『エリス、いつまでも昔の旧習に囚われてるのってよくないと思うの』

 両手指を絡ませながらパチパチと上目遣いに見、猫撫で声を出してみたら女公爵様より先にユーリが『うわきもっ』と反応を返してくれやがった。

 五月蝿い!自分でもきもいのは分かってるんだよ!てかそんな事言うならお前も早く説得しろよ!!

 心の中ではそう言いながらも決して顔には出さず根気強く返事を待っていれば女公爵様はニッコリと笑い……

『気持ち悪いわよ?』

 固まる私の横でユーリが大爆笑し、女公爵様は頭をポンポンと撫でると去って行ってしまった。

 その屈辱以降は帰ることを諦め帰れないなら、とこの現状を思いっきり楽しむ事にしたのだ。



「はあ」
「つまんないね」

 どちらからともなく溜息が洩れる。

 教室、とはいっても村にあった学舎なんかとは比べ物にならない。
 天井はすんごく高いし柱なんかキラッキラな装飾が施されている。窓縁も地味すぎず華やかすぎずな感じに彫られていた。

 流石お貴族様の屋敷。金色の装飾って本当に目に悪いよね、チカチカして痛いくらいだったもん。潰れたらどうしてくれようかなんて本気で思ってたよ。
 でも慣れとは恐ろしいもので、二週間も経てばなんとも思わなくなってしまった。廊下に飾ってある花瓶を壊したらどうしようと常に考えていた頃が既に懐かしい。
 いやーほんっと恐ろしいわー。(棒読み)

 席は机が一人一つではなくて、二、三人が座れるような長机が階段の様に段々と続いていた。それが横に二席、縦に五席ずつ並んでいる。
 私が今座っているのは前から三番目の席で、窓側の席の端っこ。ユーリは私の一つ前の席に座っていて、今は後ろ、つまり私の方へ体ごと向き直っていた。視線はこっち向いてないけど。

 私と同じ薄い青の目を外に向け、開けられた窓から入ってくるそよ風に襟足が少し長めの黒髪を靡かせていた。私は机にだらしなく頬をくっつけ時々上からたれてくる長めの黒い髪を払いながら欠伸を噛み殺す。

 この二週間勉強がない時間に屋敷内を探索するなどして暇を潰していたがそれも数日前に終わってしまい、私達は暇を持て余していた。
 正直暇すぎて死にそう。

 村にいた時は暇な時同級生で遊んだりジルバールで遊んだりと楽しかったがここには子供が私達しかいなく、更に暇な時上り込む家もなく、正直言って勉強しかやることがない。

 いくら現状を楽しもうとしてもやることが無くなってしまったら終わりなのだと初めて知った。

「双子ちゃんちょっといいかしらあ?」

 そんな感じで暇を呪っていれば声がかかったので私はのっそりと顔を上げる。
 声の聞こえた方を見れば女公爵様がゆったりとした動作で中に入ってくる所だった。

「ごめんなさいねえ、ちょっと急な用事が入っちゃって今日の勉強はお休みにさせて欲しいのだけど……」

 頰に手を添え申し訳なさそうに謝ってくる。まじか。

 ただでさえ暇なのに倍々の暇になってしまうではないか。はっ!!もしや貴女は私を暇病で殺そうとでもいうのか!なんという事だ。そう簡単に死んではやらないからな!!フハハハ!

 ………何言ってんだろ私。
 いよいよ頭もやられたかな。

「分かりました。じゃあゆっくりしてますね」

 それなら何をして過ごそうか、と考えていればユーリが私よりも先にそう告げた。それを聞いた女公爵様は小さい子に言い聞かせるかの様に「いい子にしてるのよ~」と言うと足早に去って行ってしまう。
 いい子にしてるのよ、なんてもう言われる様な年齢じゃないんだけどな……

 そう思いながらも窓からその姿が見えなくなるまでひらひらと手をふった。

 窓から両腕をだらりと出し、上半身を窓縁に預けている私の横にいつのまにかユーリが立っていた。
 その顔を仰ぎ見ればニヤリとした悪い笑みを浮かべているではないか。
 なんだどうした弟よ。

「なあエリス、いいこと思いついたんだけど聞くか?」
「聞かないわけがない」
「だよな。エリス、外に遊びに行こう」

 ユーリはそう言うとそれはそれはいい笑顔を浮かべて非常に面白そうなことを提案してきた。

 私がこれにのらないわけがない。





  *************



 こっそりと公爵邸を抜け出した私達は北に向かってしばらく歩き市場が並ぶ場所に来ていた。

 お昼時でもあるからか通りは多くの人で賑わい、屋台からはお肉の焼ける香ばしい匂いや香草の香りが溢れ空腹のお腹を刺激してくる。

 もうちょっとお金を持ってくれば良かったかな、と屋台に並ぶお肉を見ながら思った。
 お金を持ってきたとは言ってもほんの少しだけなのでお肉の値段を見てしぶしぶ断念せざるをえなかった。
 ああ、食べたい。

 纏められていた荷物の中にはお金が一つも入ってなかったし、こういう状況を見越してオーリーさんや女公爵様にそれとなくお金を取りに戻りたい旨を伝えても「それを口実に逃げる気ですか」とか「お金は必要ないでしょう?」とかやんわりどころかバッサリ切り捨てられてしまった。

 必要ないはまだしもそれを口実に逃げる気かって私達はどんだけ信用がないんだ。

 じゃあなんでお金を持っているのか、それは常日頃から少量ずつでも持ち歩くように心がけておいたおかげでここにやって来た日もポケットにお金を入れていたからだ。

 勿論この事は私とユーリだけの秘密。
 バレたら取り上げられそうだしね。

 そんなわけで私達の持っているお金は全部で六ラゾン。
 一ラゾンが平均的なパン一つ分の値段で、多いとは言い難い。
 その中から今日持ってきたのは二ラゾンで、あのお肉は一つ二ラゾンもした。
 一つだけなら買えるけど、量があまりないのでお腹を満たせるかといわれれば答えは否だ。

 私達はその美味しそうなお肉に後ろ髪ひかれながらも二つ隣の屋台で二ラゾンで二つバードというパンを買い、食べながら屋台を見て回る事にした。

 バードは長くて大きくて硬いパン。
 村のパン屋でも小腹が空いたら安いからよく買って食べていたけど硬いしぱさぱさだしであんまり好きではなかった。けど私達の持っているお金で買えるのはこれくらいなので仕方がない。
 お腹を満たすためだ。我慢だ私。

 手渡されたバードが予想よりも、というかあまりにも大きかったので一人一つ買ったはいいけど食べきれるかな、なんて思っていたがなんと中はふわふわのモチモチで、あっという間に完食してしまった。

 え、これは本当にあのバードなのか!?と驚愕した。

 むしろまだ物足りない感じが……はっ!駄目だこれ以上はお金が足りない!!

 そう思ったのは私だけではないようで、ユーリもバードが入っていた紙袋を名残惜しそうに見ていた。

 さっきまで食べたいと思っていたお肉の半分以上の大きさでありながら半分以下の懐に優しい値段なのにここまで私達を虜にするとは!

 とりあえずきた道を戻って定休日を聞いておいた。

 

後書き
「四の家系」がどんなお役目を受け継いでいるか、などは覚えなくても大丈夫です。その時その時で軽い説明を入れるので。さらっと読み流してください。
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