75 / 80
第10章
それぞれの夏 5
しおりを挟む
*
サブトラックでアップを済ませた僕は一人招集所に向かった。
持ちタイムを考えると、僕は決して優勝候補にはならない。仕方ない、2年以上も何もしてこなかったのだから。
木根先生が組んでくれたプログラムでここまで登ってきたけど、まだゴールなわけではなく、更にプログラムは続いていくのだから。
「相沢くん」
声をかけてくれたのは県大会決勝で一緒に走った深町くんだった。彼もまたインターハイに出場している。
「一勝一敗だからもう一回、戦えたらいいんだけどなぁ」
僕は、東海大会では彼に負けてしまった(彼は5位通過でインターハイ出場を決めている)。
「中学入れれば僕の一勝二敗なんだけどね」
「あー、それならオレは負け越す心配なしか」
「あれ? 国体予選とか夏の後の大会は出ないの?」
そう言われて「え」と声が漏れてしまった。
なんとなくインターハイが終われば、高校生としての大会は終わりだと思っていた。
言われてみれば、高校生活はまだ半年あるし、出ようと思えば三年生でも出場できる大会は残っていた。
「あー……」
「まぁ今はインハイに集中だよな」
深町くんは自分で何かを納得したのか何度も頷いていた。
「相沢くんは予選から大変な奴と同じ組だな」
「そうだね」
愛知県大会で、深町くんが僕とのレースを中学時代のリベンジと思ってくれたように、僕はこの予選が中学時代のリベンジとなる。
僕は予選第2組の第4レーンを走る。
その隣、第5レーンを走るのが藤枝だった。
「オレにとっても感慨深い組み合わせだよ」
「え?」
「中二、中三の全中優勝者の名前が並んでる」
たしかに隣のレーンなので名前は並んでいるが、高校での実績はとんでもない大きさに開いている。僕は苦笑する。
「相沢―」
小野寺も僕に話しかけにきた。なんだかんだで話す相手はいるもんだなと勝手に和んでいた。
そんな和みを打ち消すような空気が僕の背後から伝わってきた。
ジャリ、とスパイクのピンがコンクリートに当たる音が聞こえた。
その音の方向から冷たい雰囲気を感じた。ゆっくりと目だけを移すとそこには色素の薄い髪で背が高く、色白の男がいた。
忘れっぽい僕だが、この男の顔だけは忘れたことがない。
おそらくこの先もずっと忘れない。
僕が一度は陸上競技を諦めることになった『天才』というべき存在、藤枝真司だった。
サブトラックでアップを済ませた僕は一人招集所に向かった。
持ちタイムを考えると、僕は決して優勝候補にはならない。仕方ない、2年以上も何もしてこなかったのだから。
木根先生が組んでくれたプログラムでここまで登ってきたけど、まだゴールなわけではなく、更にプログラムは続いていくのだから。
「相沢くん」
声をかけてくれたのは県大会決勝で一緒に走った深町くんだった。彼もまたインターハイに出場している。
「一勝一敗だからもう一回、戦えたらいいんだけどなぁ」
僕は、東海大会では彼に負けてしまった(彼は5位通過でインターハイ出場を決めている)。
「中学入れれば僕の一勝二敗なんだけどね」
「あー、それならオレは負け越す心配なしか」
「あれ? 国体予選とか夏の後の大会は出ないの?」
そう言われて「え」と声が漏れてしまった。
なんとなくインターハイが終われば、高校生としての大会は終わりだと思っていた。
言われてみれば、高校生活はまだ半年あるし、出ようと思えば三年生でも出場できる大会は残っていた。
「あー……」
「まぁ今はインハイに集中だよな」
深町くんは自分で何かを納得したのか何度も頷いていた。
「相沢くんは予選から大変な奴と同じ組だな」
「そうだね」
愛知県大会で、深町くんが僕とのレースを中学時代のリベンジと思ってくれたように、僕はこの予選が中学時代のリベンジとなる。
僕は予選第2組の第4レーンを走る。
その隣、第5レーンを走るのが藤枝だった。
「オレにとっても感慨深い組み合わせだよ」
「え?」
「中二、中三の全中優勝者の名前が並んでる」
たしかに隣のレーンなので名前は並んでいるが、高校での実績はとんでもない大きさに開いている。僕は苦笑する。
「相沢―」
小野寺も僕に話しかけにきた。なんだかんだで話す相手はいるもんだなと勝手に和んでいた。
そんな和みを打ち消すような空気が僕の背後から伝わってきた。
ジャリ、とスパイクのピンがコンクリートに当たる音が聞こえた。
その音の方向から冷たい雰囲気を感じた。ゆっくりと目だけを移すとそこには色素の薄い髪で背が高く、色白の男がいた。
忘れっぽい僕だが、この男の顔だけは忘れたことがない。
おそらくこの先もずっと忘れない。
僕が一度は陸上競技を諦めることになった『天才』というべき存在、藤枝真司だった。
20
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
タカラジェンヌへの軌跡
赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら
夢はでっかく宝塚!
中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。
でも彼女には決定的な欠陥が
受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。
限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。
脇を囲む教師たちと高校生の物語。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる