【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

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第9章

リハビリテーション

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 11月も後半に入ると、朝の空気が冷たい。
 ブレザーを着ていても寒い感覚に耐えながら教室に入ると、伊藤が近寄ってきた。

「相沢、記録会の結果どうだった?」

 まだ席にもついていないのに何なんだと思いながら、僕は肩から斜めにかけているカバンを外しながら席へと向かう。


 昨日の日曜日、僕は県内で行われる記録会に出場してきた。100m走を走った。
 富山から帰ってきてから、僕は東谷高校の陸上部に入っている。二年も後半に入ってから入部なんていうのも微妙だなと思うし、個人で競技を続けるでもいいかなーと思っていたのだが、だいたいの大会参加要項には、

「県高等学校体育連盟に加盟している学校の生徒で、当該競技専門部に登録していること。」

 という明記がされていた。
 「当該競技専門部」、つまりは「陸上部」に登録していなければ、ほとんどの大会に出場することもできない。

 僕は高校二年の10月の終わりに陸上部に入部した。
 東谷高校は、男子部員は、二年が五人、一年が四人いて、短距離専攻は二年が三人、一年が一人だった。
 女子部員は二年が四人、一年が三人らしい。とりあえずは男子部員とうまくやっていかなければならない。

「えーっと、こんな時期になんだよって思う人もいると思うんですが、特別扱いとか不要だし、この秋に短距離で大会に出場する人の枠をいただこうなんて思ってないので、まずは記録会とかに出れればなーって思ってます。春になったらまた部内の選考会とかあれば出させてください」

 なんとも曖昧な意思表明だが、部の空気を乱すことはしたくない。
 既にリレーの練習もしているらしいし、和を乱すこともしたくない。この秋までに出来てきた流れは維持してほしいので、僕は各校何人でも出場できる記録会の出場を今年の目標とした。

 11月の中旬の日曜日にその機会は訪れた。
 100mの記録会だった。

 登録手続きはどうにかなったが、ユニフォームの発注が間に合わなかったので、今日は走らない長距離部員に借りた。
 

 記録会は雑多なもので、大勢の高校生が参加していた。
 名前のコールもなく、ランダムに作られた8人ずつの組で走るものだった。

 ゼッケン番号で呼ばれて並んだ組の参加者を僕は誰一人知らなかったし、逆に僕もまた誰も知っている様子もなかった。

「位置についてー」

 アナウンスでのコールではなく、ピストルを持ったスターターの声によるものだった。
 トラックも随分古くて、ところどころタータンが痛んでいる。フィールドの芝もいまいち手入れされていなそうだった。
 復活のレース会場としてはちょっと寂しいものがあるが、いまの僕は形式にこだわっていられるレベルではない。


 ここからまた這い上がっていくんだ、僕はそう心の中で呟きながらスタートブロックに足を乗せた。
 半分だけ懐かしさを感じた、じゃあ残り半分は何なんだろう?

 その答えは出ないまま「用意」という声が聞こえた。

 ピストルの音が鳴った。
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