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第8章
再び、かつて住んでいた町へ 5
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*
スタートブロックを蹴った後にすぐに上体が起きてしまう癖は大きくは解消されていなかった。
それでもやや前傾を維持できれば400m走は問題ないだろう。
コーナーをキレイに抜けてバックストレートに入った。去年観たときは上半身と下半身が連動していないバラバラのフォームだったが、いまは違った。
腕振りと足の上がり方がしっかりと連動している。腕を振ることで逆の足が引っ張られるように上がり、大き目のストライドで更に前に進むスピードを加速させている。
順位としては上位3人ぐらいにいるだろうか。直線だけの100mと違って少しわかりにくい。
バックストレートを抜けてコーナーに入る。少しフォームが乱れてきたような気もするが、バックストレートのときのスピードを結構維持できているように見える。コーナーを抜けて最後のホームストレートに入る。ここで順位がわかる。
スパイクがトラックを跳ねる音が近づいてくる。
あいつはいま2位、3位の選手のすぐ後ろの4位ぐらいだろうか。腰が上下に動きはじめている、疲れているんだろう、フォームも崩れ始めている。
「碧斗、ラストー!」
隣で紗季が叫んだ。
自分の名前を呼ばれたが、その名前で応援されているのは僕ではない。僕はあいつのレース中に何を考えているんだ。
「碧斗! もっと腕を振れ! 膝を前に出せ!」
僕の声に、隣の紗季がびっくりしたような表情で僕を見たが、すぐに微笑んだ。
僕もすぐにトラックに目を戻す。あいつは追い上げ始めていた。目は死んでない。まだ行ける。
「碧斗! 行ける! 2位まで行ける!」
ラスト10mであいつは最後の力でスピードをあげた。3位を交わし、準決勝進出へのラインとなる2位も迫ってきた。
「行け―!!」
紗季の応援は最後まで続いたが、あいつは2位を抜けず、3位でのゴールとなった。2位までに与えられる準決勝自動進出の権利は手にすることができなかった。
電光掲示板に記録が表示されていく。
「相沢碧斗」の記録は53秒31だった。
「プラスで拾われるかな」
紗季が言った。
各組2着までを除いた選手の結果のうち上位8名ならば準決勝に選ばれる。「プラスで拾われる」という表現がちょっと懐かしかった。
「さぁ……」
冷たくしたわけではなく、本当に僕にはわからない。
ただ3位に入ったので、拾われる可能性はあるんじゃないかと思う。1組目、2組目の3位のタイムは見ていないが。
「どう……だった? 碧斗の走り」
紗季が僕を見た。
「いい走りだったんじゃないかな。スタートの上体をすぐに起こすとことか、終盤に腰が上下しちゃう癖を改善したら、あとはそもそも走るための『体力』をつければ、次は着順で準決勝いけるよ」
「やること多いなぁ」
「まだあいつは陸上を初めて1年半ぐらいだろ。そんな簡単に完璧な走りが出来るほど簡単じゃないよ」
「それは、つまり」
「つまり?」
「碧斗が陸上を辞めて2年ぐらいってことだね」
紗季が言った。その言葉をどういう意味で言ったのか、僕にはわからなかった。
スタートブロックを蹴った後にすぐに上体が起きてしまう癖は大きくは解消されていなかった。
それでもやや前傾を維持できれば400m走は問題ないだろう。
コーナーをキレイに抜けてバックストレートに入った。去年観たときは上半身と下半身が連動していないバラバラのフォームだったが、いまは違った。
腕振りと足の上がり方がしっかりと連動している。腕を振ることで逆の足が引っ張られるように上がり、大き目のストライドで更に前に進むスピードを加速させている。
順位としては上位3人ぐらいにいるだろうか。直線だけの100mと違って少しわかりにくい。
バックストレートを抜けてコーナーに入る。少しフォームが乱れてきたような気もするが、バックストレートのときのスピードを結構維持できているように見える。コーナーを抜けて最後のホームストレートに入る。ここで順位がわかる。
スパイクがトラックを跳ねる音が近づいてくる。
あいつはいま2位、3位の選手のすぐ後ろの4位ぐらいだろうか。腰が上下に動きはじめている、疲れているんだろう、フォームも崩れ始めている。
「碧斗、ラストー!」
隣で紗季が叫んだ。
自分の名前を呼ばれたが、その名前で応援されているのは僕ではない。僕はあいつのレース中に何を考えているんだ。
「碧斗! もっと腕を振れ! 膝を前に出せ!」
僕の声に、隣の紗季がびっくりしたような表情で僕を見たが、すぐに微笑んだ。
僕もすぐにトラックに目を戻す。あいつは追い上げ始めていた。目は死んでない。まだ行ける。
「碧斗! 行ける! 2位まで行ける!」
ラスト10mであいつは最後の力でスピードをあげた。3位を交わし、準決勝進出へのラインとなる2位も迫ってきた。
「行け―!!」
紗季の応援は最後まで続いたが、あいつは2位を抜けず、3位でのゴールとなった。2位までに与えられる準決勝自動進出の権利は手にすることができなかった。
電光掲示板に記録が表示されていく。
「相沢碧斗」の記録は53秒31だった。
「プラスで拾われるかな」
紗季が言った。
各組2着までを除いた選手の結果のうち上位8名ならば準決勝に選ばれる。「プラスで拾われる」という表現がちょっと懐かしかった。
「さぁ……」
冷たくしたわけではなく、本当に僕にはわからない。
ただ3位に入ったので、拾われる可能性はあるんじゃないかと思う。1組目、2組目の3位のタイムは見ていないが。
「どう……だった? 碧斗の走り」
紗季が僕を見た。
「いい走りだったんじゃないかな。スタートの上体をすぐに起こすとことか、終盤に腰が上下しちゃう癖を改善したら、あとはそもそも走るための『体力』をつければ、次は着順で準決勝いけるよ」
「やること多いなぁ」
「まだあいつは陸上を初めて1年半ぐらいだろ。そんな簡単に完璧な走りが出来るほど簡単じゃないよ」
「それは、つまり」
「つまり?」
「碧斗が陸上を辞めて2年ぐらいってことだね」
紗季が言った。その言葉をどういう意味で言ったのか、僕にはわからなかった。
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