【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

文字の大きさ
上 下
48 / 80
第7章

高校生活で一番楽しい時期 4

しおりを挟む
*
 ファストフードの店内はひんやりとしていた。

「立夏はああやって頑張ってるけど、別に全部背負う必要はないんだけどね。私は立夏のこと、本当に恨んでないし。立夏が苦行みたいな高校生活をしているのが、たまに見ていてつらい」

 濱田さんがフッと吐いた息が白く見えたような気もしたが、もちろんそんなはずはなかった。それぐらい落ち着いた綺麗さがあると僕は思った。演劇で、「雪の精」の役でもあれば濱田さんは適役かもしれない、と僕はどうでもいいことを考えた。


「細谷は、別に苦行だなんて思っていないと思うよ」

 僕がそう言うと、濱田さんの大きな目が僕の方へと動き、顔も少しだけこちらを向いた。

「オレも細谷から中学の話を聞いたときに質問してみたんだよね。細谷が責任を背負って、それで部活を続けるなんてきつくないかって。そしたら」
「そしたら?」
「苦しいだけならとっくに折れてる。これは楽しいことでもあるからやってるんだよ、って」
「楽しいこと?」

 僕は頷く。

「練習して、今までできなかったことができるようになったり、みんなでやってきたことが試合で思い描いたようにできたら、嬉しいし、楽しい、こんな楽しいことは他にないんだよ……みたいなことを言ってた」

 そのときの細谷の目は嬉々としていた。そこに偽りの感情はないように思えた。
 苦行、なんてものをしているならばあんな目はできないんだと思う。

「そっか……。立夏は立夏として、楽しみも見つけてるのか」

「うん。だから、細谷は苦しんでやってるわけじゃないんだと思う。それに、細谷は言ってたよ」

「言ってたって何を?」

「濱田さんがいつも大会を観に来てくれて嬉しいって」

「……いつもではないけどね。行ける範囲だけだよ。っていうかバレないようにしてるのになぁ」

 ちょっと恥ずかしそうにナナメに俯く濱田さんの表情はなんだか新鮮なもに思えた。

「なに笑ってんの? ニヤニヤしてキモい」

 笑っているつもりはなかったが、僕は笑っていたらしい。ニヤニヤしたつもりはなかったのだが。

「細谷はさ、高校三年間の部活が終わったら『こんなに楽しかった! 汐里が見守ってくれたからだよ』って言いたいんだって。先に言っちゃったら、そこで細谷自身が安心しちゃうから最後の最後まで言わない…………って、あー……」

「……どうしたの?」

「最後のとこは絶対濱田さんに言うなって言われてたんだった……」

「思い切り聞いたけど」

「濱田さん、ごめん、いまの話は聞かなかったことに…………って、えぇ?」

 濱田さんの目から涙が流れていることに気づき、僕は思わず驚きの声をあげた。濱田さんはその涙を隠すように両手の掌で顔を覆った。


「濱田さん……?」

「ごめんね、相沢くん、聞かなかったこととか………………無理だ」


 ちょっと涙声で、詰まり気味に濱田さんが言った。
 今日一日で、いろんな表情の濱田さんを見たような気がした。細谷、オマエはオレと濱田さんが似てるって言ったけど、やっぱり全く似てないって思うよ。


「言ったことバレたら、オレは細谷に怒られるなぁ……」


 大げさに大きくうなだれて言うと、濱田さんが噴き出すようにして笑い、「じゃあ、せめて知らないフリぐらいしてみるよ。来年の夏ぐらいまで」と言った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜

恋音
ファンタジー
『目的はただ1つ、1年間でその喋り方をどうにかすること』  辺境伯令嬢である主人公はそんな手紙を持たされ実家を追放された為、冒険者にならざるを得なかった。 「人生ってクソぞーーーーーー!!!」 「嬢ちゃんうるせぇよッ!」  隣の部屋の男が相棒になるとも知らず、現状を嘆いた。  リィンという偽名を名乗った少女はへっぽこ言語を駆使し、相棒のおっさんもといライアーと共に次々襲いかかる災厄に立ち向かう。  盗賊、スタンピード、敵国のスパイ。挙句の果てに心当たりが全くないのに王族誘拐疑惑!? 世界よ、私が一体何をした!?  最低ランクと舐めてかかる敵が居れば痛い目を見る。立ちはだかる敵を薙ぎ倒し、味方から「敵に同情する」と言われながらも、でこぼこ最凶コンビは我が道を進む。 「誰かあのFランク共の脅威度を上げろッッ!」  あいつら最低ランク詐欺だ。  とは、ライバルパーティーのリーダーのお言葉だ。  ────これは嘘つき達の物語 *毎日更新中*小説家になろうと重複投稿

私を欲しがる男!

鬼龍院美沙子
恋愛
何十年も私を狙い私に相応しい男になりプロポーズしてきた男。お互い還暦を過ぎてるのに若い頃のように燃え上がった。

らくがき~

雨だれ
エッセイ・ノンフィクション
アレなやつです。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

責任取って!

鬼龍院美沙子
恋愛
未亡人になり身寄りがなくなり1人暮らしを続けてる女。 男との秘め事は何十年もない!アダルト動画に妄想が走る。

アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について

黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m

I want a reason to live 〜生きる理由が欲しい〜 人生最悪の日に、人生最大の愛をもらった 被害者から加害者への転落人生

某有名強盗殺人事件遺児【JIN】
エッセイ・ノンフィクション
1998年6月28日に実際に起きた強盗殺人事件。 僕は、その殺された両親の次男で、母が殺害される所を目の前で見ていた… そんな、僕が歩んできた人生は とある某テレビ局のプロデューサーさんに言わせると『映画の中を生きている様な人生であり、こんな平和と言われる日本では数少ない本物の生還者である』。 僕のずっと抱いている言葉がある。 ※I want a reason to live 〜生きる理由が欲しい〜 ※人生最悪の日に、人生最大の愛をもらった

process(0)

おくむらなをし
青春
下村ミイナは、高校1年生。 進路希望調査票を紙飛行機にして飛ばしたら、担任の高島先生の後頭部に刺さった。 生徒指導室でお叱りを受け、帰ろうとして開けるドアを間違えたことで、 彼女の人生は大きく捻じ曲がるのであった。 ◇この物語はフィクションです。全30話、完結済み。 ◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。

処理中です...