【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

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第7章

高校生活で一番楽しい時期 2

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 一人でやっているとついついダラけてしまうが、隣の濱田さんが黙々とワークを進めているので、僕だけダラけているわけにいかず、思っていた以上に僕も宿題に取り組んだ。

 午前の勉強が終わり、「せっかくだからメシでも食う?」と声をかけてみると濱田さんは同意してくれた。
 図書館の道を挟んだナナメ向かいにあるファストフードのお店に濱田さんと僕は入った。

 いつもなら道路をナナメ横断して渡ってしまえるところを少し大回りになる横断歩道を使って、歩きながら向かった。

「丁寧に歩いてんだね」

 席についてから濱田さんが言った。

「小走りとかもするなとか言われたから。なるべく歩くようにしている」

 濱田さんも一緒にいたから、ということは言わない。


「足を怪我してから、電車が間に合わないかもって走ることはなくなって、『見送っちゃえ』って思う余裕はできたかな」
「それはあるかもね。私は『もう勝手に行け。次の乗るから』って駅の階段を歩きながら思うときもある」

 濱田さんが笑ったので僕も笑った。


「あと、こうやってゆっくり歩くようになって気づいたことがあってさ」
「うん」
「いままで見えてなかったものが見えてきたんだよね。オレは全然、見てないものあったんだなって」
「随分抽象的だね」

 濱田さんが首を左に傾げた。

「うん。なんていうか、こんな道があるんだーとか、こんな建物があるんだーとか見えるようになったり、バリアフリーを意識した場所って結構いっぱいあるんだな、とか。自分ん家の近所でも全然知らなかった場所がたくさんあった。もう一年以上も生活しているのにさ」

 なんでもナナメ横断とかショートカットのようなことばかりしてきたが、しっかり歩くと気づいていなかったことにたくさん気づけるようになった。


「相沢くんは急いで生きすぎてきたんじゃないかな」
「生き急いだつもりは……。オレ、死んでないし」
「そーいう意味ではなくてさ、もっといろいろ周りを見てもよかったんじゃないかな。最短距離だけが最速じゃないっていうか。私もこの足になってから、いろいろ悩んで、泣いて、絶望した。でも、いままで見えてなかった景色を知って、なんか自分の立場を受け入れられるようになったんだ」

 その濱田さんの言葉に、僕は軽々しく「そうなんだ」と言っていいかわからなかった。


「あ、重い話したつもりはないんだ、ごめん」
「あ、いや」
「あと、カワイソーな話でもないから」

 濱田さんは微笑んだ。
 そういえば、一年の一学期に「同情なんていらないんですけど?」って言われたなぁ。なんだかだいぶ前の出来事のような気がする。あれから一年以上経ったのか。

 なんとなく窓の向こうに目を向けると、道路をナナメ横断していく女子高生の姿が見えた。なにかの部活帰りなのかTシャツにハーフパンツでいかにも体育会系っぽい女子だった。

「あれ、細谷かな」

 僕が言うと、濱田さんも窓の向こうを見た。細谷は道路を横断し終わると、図書館の自動ドアの向こうに消えていった。

「あいつも勉強するのかな。部活帰りっぽいけど」
「そうだね。立夏は部活後に一人で勉強しにきたりしてる」
「へぇ」
「ウチの高校って、夏休みは教室にエアコン入ってないから教室じゃ暑くて勉強できないしね」

 夏休みは教室にエアコンが入っていないことを僕は知らなかった。

「細谷って部活もちゃんとやってて、勉強もしっかりやってるからエライよな」
「うん」
「すっごい真面目だなーって思う」
「それはちょっと違う」

 濱田さんが僕の言葉を否定した。少し驚いて、隣を見ると濱田さんは窓の向こうを見たまま表情を消していた。


「立夏は、真面目とかじゃなくて、立ち止まれないんだよ」


 その視線の向こうにあるのは図書館だが、濱田さんの目に映るものはそれではないような気がした。
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