【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

文字の大きさ
上 下
34 / 80
第5章

冬の放課後

しおりを挟む
 秋も終わり、冬が近づく。

 僕らは教室で合唱コンクールの準備を手伝っていた。三吉と僕は、またもや「選挙管理委員だから」という謎の理由で駆り出されていた。この学校の選挙管理委員は便利屋のように使われる運命なんだろうか。まぁたしかに前期も後期も選挙なんてなかったのだけど。

 今日の手伝いが終わり、解散となった。

 窓の向こうはもう真っ暗だった。まだ17時なのに。
 愛知もすっかり冬だ。
 雪の降る富山とは違い、ただただ愛知は寒かった。僕の勝手な勘違いだったが愛知はもう少し暖かい場所だと思っていた。しかし、実際住んでみると十二月の愛知は寒かった。
 コートも手袋も必要だった。
 雪こそ降らないからって寒くないわけではなかった。


「あー、でも年に一回か二回か雪は降ったりするんよね」

 雪が降らないことを話していると三吉が言った。

「へぇ、降るんだ?」
「うん、富山ほどじゃないと思うんだけどねぇ」

 普段、ふわふわしているような三吉も富山は雪が多く降ると知っているらしい。
 

「なんか降るイメージってなかった」
「たまにしか降らんけどね、でも何年かに一回は休校になるぐらい降るときもあるかなぁ」
「休校かぁ……雪で休校ってオレは経験ないかも」
「え? 富山って何センチ積もっても学校あるの?」
「何センチ積もっても、ってことはないけど……5センチとか10センチ降ったぐらいなら学校はあるかな」
「ええ、10センチ降っても? 歩けんやん」
「だって毎日10センチのときとかあるし、そしたら毎日休校になるだろ」
「それはぁ……そうだねぇ……」

 そんなことを話しながら僕たちは片付けをしていた。一通り終わり、僕たちは教室を出た。

「さっすがに今から部活はいけないなぁ」

 三吉が言った。冬季期間は17時までしか部活できないらしい。

「じゃあ今日は行かない?」
「んー、一応、体育館に顔出す。相沢くんも来て」
「え、なんで?」
「準備が長引いたって言い訳がわり」
「そんなのオレがいなくても説明すればいいだろ」
「説得力増し増しのため」

 僕は三吉に引っ張られ、体育館に連れていかれた。

 近づくにつれて体育館からバスケットボールが床で弾む音が聞こえてきた。もう17時は過ぎているのに部活は続いているのかもしれない。

 体育館に到着し、重たい扉を開く。廊下とは違う体育館にしかない冬の空気がこちらに流れ込んでくる。
 体育館はガランとしていた。部活をしている様子はなくて、一人だけが練習していた。


「あー、伊藤くんしかおらんねぇ」


 三吉が僕の横で言った。そのとおりで、伊藤が一人で練習をしていた。


 伊藤が三吉と僕の姿に気がつき、左手を挙げた。


「細谷さんたちならもうあがったよ」

 伊藤が言った。「あー、そうかぁ」と三吉が肩を落とす。

「結衣ー?」

 後ろから声が聞こえた。僕たちが振り返ると細谷たち女子バスケ部のメンバーがいた。声をかけてくれたのは細谷だった。もう制服に着替えて、コートも着た帰宅準備ができた状態だった。

「あー、立夏、ごめんなぁ、今日は合唱コンの準備が長引いちゃって」
「全然いいよー。そんなの仕方ないし」

 三吉が細谷たちのほうへと駆け寄ってく。
 合流してから三吉が僕へと振り返る。細谷たち女バスのメンバーも僕を見ている。

「オレ、ついでだし、伊藤と話してくよ」
「え……そうなん?」
「うん。たまにはありかなって」
「……そっかぁ。ごめんね、体育館まで来てもらって」
「全然OK。じゃ」
「またあしたー」

 三吉が手をぶんぶんと横に振った。細谷も「じゃあねー」と声をかけてくれた。女バスのメンバーたちも「またねー」とか「じゃあねー」と言ってくれた。正直、誰が誰なのか名前も知らないけれど。

 単に三吉や細谷たちの女子集団と正面玄関まで歩くほうがしんどいのもあって、僕は体育館に残っただけだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

タカラジェンヌへの軌跡

赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら 夢はでっかく宝塚! 中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。 でも彼女には決定的な欠陥が 受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。 限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。 脇を囲む教師たちと高校生の物語。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...