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8月2日、午後 その2
第6話 私たちが三人そろえば
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「『私たちってすごい』んだよ? 『私たちってひまわり』なんだよ。三人そろえばね」
リサの言葉の意味がわからなかった。いや、なんとなく引っかかるものはあった。
目の前のひまわりを見ていると、風で揺れるひまわりの葉が擦れる音を聞いていると、なんだろう、何か胸の奥から湧き上がってくるような感覚があった。
「なんだっけ?」
「覚えてない? ユカが最初に気づいたのに」
リサもアカネも微笑んでいる。
私は二人に何かを言ったらしい。小学二年生のとき、何を言ったんだろう。思い出せない。何か引っかかるものはあるのに。
「何か……ヒントってない?」
「ヒント? そうだなぁ……私たちの苗字だよ。ね、リサ?」
アカネがリサに話を振った。私がリサを見ると、微笑みながらが頷いていた。
「苗字?」
「そう。じゃあ、三人で言ってみようか」
何を? リサが、また都合のいい『じゃあ』を使っているような気もするが突っ込む余裕がなかった。
「OK、私からだね」
「だね」
「私から苗字を言うから、次にユカ、ラストにリサの順で言ってね」
アカネが言うと、リサは「らじゃ」と答えた。ん? なんで苗字を今更言うの?
待って。
これって……あれ? これなんだっけ? なんか知ってるような……
「向井!」
戸惑う私の右でアカネが苗字を叫んだ。
そして、沈黙が流れる。
私が戸惑っていると、アカネが「ユカ、いいから苗字を言うの!」と言った。「もう一回!」と左からリサが言った。
「わ、わかった」
しどろもどろに私は応えた。もう従ってみるしかない。
「じゃあもう一回いくよ? 今度はユカも苗字言うんだよ?」
「OK、了解」
とりあえず苗字言えばいいんだよね。「いくよ?」とアカネが言った。
「向井!」
「日下部!」
「葵!」
あ。
これ。
わかった。
わかっちゃった!
「先頭の漢字繋げたら『向日葵』!!」
アカネとリサが私の手を引っ張り、持ち上げた。
私は万歳をする格好になった。思わず私は笑った。
そうだ。
小学校二年のとき、ちょっと漢字に詳しかった私がアカネとリサにここで言ったんだ。
私たちは『三人そろえば向日葵』だと言ったんだ。あのときリサも、普段から冷静なアカネも驚いた顔をしてくれたんだ。
「どう? 思い出した?」
右からアカネの声が言った。左からリサの笑い声がした。
私はただただ頷いた。
「言った。言ったね。私がそれを言ったんだ」
「そうだよ、ユカしか『向日葵』なんて漢字知らなかったんだから」
「私たちがそろえば、暗い気持ちも明るくなっちゃうって、あれ以来、私ずーっと思ってるんだよ?」
リサが私の手を握ったままブンブンと揺らす。私もなんだか嬉しくなってその手を強く握り返した。
「また、来年も来ようよ、三人で」
私が言うとアカネは「もちろん」と言い、リサは「絶対だよ」と言った。
「来年の夏は、私たち、高校生だね」
そっか、来年の夏は、私たちは高校生になってるのか。
次にここに来るときは、私、どこの高校にいるのかな。どんな場所だったとしても笑える自分でいたいな。
「リサ、アカネ」
私はひまわり畑を見ながら二人の名前を呼んだ。二人が真ん中に立つ私を見たのがわかった。
「ありがとね。私、もう大丈夫だから」
二人は何も言わず、私の手を握り返してくれた。
たくさんのひまわりが優しい風に少し揺れていた。
陽が少し傾いていた。それでも真夏の陽射しは変わらず暑かったし、全身から汗は変わらず止まらなかった。
もし負けそうなとき、挫けそうになったとき、私はこの景色を思い出そう、そう決めた。
ふと、目の前にひまわり畑の中に、いるはずのない幼い頃の私たちが見えたような気がした。無邪気に笑う幼い私たちが見えたような気がした。
リサの言葉の意味がわからなかった。いや、なんとなく引っかかるものはあった。
目の前のひまわりを見ていると、風で揺れるひまわりの葉が擦れる音を聞いていると、なんだろう、何か胸の奥から湧き上がってくるような感覚があった。
「なんだっけ?」
「覚えてない? ユカが最初に気づいたのに」
リサもアカネも微笑んでいる。
私は二人に何かを言ったらしい。小学二年生のとき、何を言ったんだろう。思い出せない。何か引っかかるものはあるのに。
「何か……ヒントってない?」
「ヒント? そうだなぁ……私たちの苗字だよ。ね、リサ?」
アカネがリサに話を振った。私がリサを見ると、微笑みながらが頷いていた。
「苗字?」
「そう。じゃあ、三人で言ってみようか」
何を? リサが、また都合のいい『じゃあ』を使っているような気もするが突っ込む余裕がなかった。
「OK、私からだね」
「だね」
「私から苗字を言うから、次にユカ、ラストにリサの順で言ってね」
アカネが言うと、リサは「らじゃ」と答えた。ん? なんで苗字を今更言うの?
待って。
これって……あれ? これなんだっけ? なんか知ってるような……
「向井!」
戸惑う私の右でアカネが苗字を叫んだ。
そして、沈黙が流れる。
私が戸惑っていると、アカネが「ユカ、いいから苗字を言うの!」と言った。「もう一回!」と左からリサが言った。
「わ、わかった」
しどろもどろに私は応えた。もう従ってみるしかない。
「じゃあもう一回いくよ? 今度はユカも苗字言うんだよ?」
「OK、了解」
とりあえず苗字言えばいいんだよね。「いくよ?」とアカネが言った。
「向井!」
「日下部!」
「葵!」
あ。
これ。
わかった。
わかっちゃった!
「先頭の漢字繋げたら『向日葵』!!」
アカネとリサが私の手を引っ張り、持ち上げた。
私は万歳をする格好になった。思わず私は笑った。
そうだ。
小学校二年のとき、ちょっと漢字に詳しかった私がアカネとリサにここで言ったんだ。
私たちは『三人そろえば向日葵』だと言ったんだ。あのときリサも、普段から冷静なアカネも驚いた顔をしてくれたんだ。
「どう? 思い出した?」
右からアカネの声が言った。左からリサの笑い声がした。
私はただただ頷いた。
「言った。言ったね。私がそれを言ったんだ」
「そうだよ、ユカしか『向日葵』なんて漢字知らなかったんだから」
「私たちがそろえば、暗い気持ちも明るくなっちゃうって、あれ以来、私ずーっと思ってるんだよ?」
リサが私の手を握ったままブンブンと揺らす。私もなんだか嬉しくなってその手を強く握り返した。
「また、来年も来ようよ、三人で」
私が言うとアカネは「もちろん」と言い、リサは「絶対だよ」と言った。
「来年の夏は、私たち、高校生だね」
そっか、来年の夏は、私たちは高校生になってるのか。
次にここに来るときは、私、どこの高校にいるのかな。どんな場所だったとしても笑える自分でいたいな。
「リサ、アカネ」
私はひまわり畑を見ながら二人の名前を呼んだ。二人が真ん中に立つ私を見たのがわかった。
「ありがとね。私、もう大丈夫だから」
二人は何も言わず、私の手を握り返してくれた。
たくさんのひまわりが優しい風に少し揺れていた。
陽が少し傾いていた。それでも真夏の陽射しは変わらず暑かったし、全身から汗は変わらず止まらなかった。
もし負けそうなとき、挫けそうになったとき、私はこの景色を思い出そう、そう決めた。
ふと、目の前にひまわり畑の中に、いるはずのない幼い頃の私たちが見えたような気がした。無邪気に笑う幼い私たちが見えたような気がした。
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