It's Summer Vacation.

多田莉都

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8月2日、午後 その2

第2話 この先に何があるのか

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 駅の外に出ても、その景色に見覚えはなかった。

 それよりも太陽が照り付けてただただ暑かった。ひび割れたアスファルトの上に踊るのは陽炎だろうか。

 駅前は正直、あまり栄えてはいなくて、人通りも少なかった。
 バスのいないバスロータリーがあって、見渡してみてもラーメン屋さんとコンビニがひとつずつあるぐらいだった。

 少し歩いてもそれは変わらなくて地元の町並みがあるだけだった。時折、田んぼや畑があって、緑色が多い景色だった。
 特別懐かしさみたいなものをかんじることはなくて、どこかにありそうな景色にしか見えなかった。


「えーっと、こっちか」

 リサがスマホの地図アプリを使いながら前を歩いていた。アカネもその横を並んで歩く。
 当然、私もついていくのだが、だんだんと二人の背中との距離が開いていく。二人のようなペースで歩いていくことができない。身体が重い。

 日頃から陸上部で走っているアカネについていくことができないならともかく、まさか帰宅部のリサについていくことができないなんて。

 小学校の頃は、リサより私のほうが足は速かったのに。
 
 小学校なんて、もう三年も前のことだけど、と自分に否定して私は大きくため息をついた。額から汗が流れてきて目に入りそうになった。
 思わず左目をこすった。汗が染みて、左目が痛かった。


 いつからこうなったんだろう?

 いつから私はこんなにも体力がない子になっちゃったんだろう。
 
 そんなに勉強しかしてこなかったのかな。

 その勉強すら危うくなってきた。私、何してるんだろうな。


「ユカ、大丈夫ー?」

 顔を上げると、アカネがこちらを見ていた。アカネは私がついていけなくなってきたことに気付いてくれたようだ。声を出すのも億劫な私は右手を挙げて無事の意志を示す。

「もうすぐ着くからねー」

 お団子頭の女の子・リサが両手の掌を顔の前で合わせながら言った。「もうすぐ」ってそれ何回目だよ。

 二人ともなんでこの炎天下で平気な顔をしていられるんだろう。

 真夏の陽射しは私だけに降り注いでいるのか? あの二人だけ体温が冷える服でも着ているのか? ありえない妄想を頭の中で描いては消した。

 単純に、私は日頃、空調のききすぎた塾や家にばかりいるから暑さに身体が慣れていないんだろう。
 
「ユカー?」

 リサの声に私はもう一度、右手を挙げる。
 もうすぐ、って言うならもう少しだけ歩こうかな。もうちょっとだけこの身体、動かそうかな。

 この先に何があるのかわからないけど、アカネ、リサ、私の三人で進めば、何か手に入るような気がした。
 少しだけ涼しい風が前髪を揺らす。なぜか顔がゆるみ、笑顔が出た。
 
「もうすぐ追いつくからー!」

 ふり絞った私の声にアカネとリサは手を挙げて応えてくれた。
 
 二人が待っているのは、少し先だけど、私は追いつくべく足を進めた。ついていったら何があるのか、それはわからない。わからないけど、アカネとリサも一緒だし、悪いことにはならないんじゃないかと思う。
 
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