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8月2日、午前
第4話 好きだから、か
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「アカネはさ」
「うん」
「練習ばっかしてて辛くなったりしないの? もう嫌だなーとか、もう辞めたいなーとか」
「何回も思ってるよ」
アカネは即答した。
「マジで?」
「マジで。もう数えきれない。インターバルトレーニングで走れなくなって吐いたときとか『明日はもう来ない』とか思ったし」
インターバルトレーニングが何のことかわからないが、アカネがへこたれている姿は想像ができなかった。
塾の実夏とかタイプが違うけれど、どっちも孤高で強いっていうイメージがある。
「アカネは絶対に強いって思っちゃうよね」
リサも同意した。
「覚えてる? 小学校の体育大会のリレーのときさ、最下位だったのにアカネが一人で三人抜いちゃってゴールしたとき、『アカネー!!』って私、叫んじゃったからね。いまでも忘れられないよ」
リサが話すそのリレーの場面を私も覚えている。
学年ごとの選抜選手で走る女子選抜リレーのときだった。
一年生から学年順に選抜された女子が二人ずつ走っていく中、一位だった紅組の四年生の子がコーナーをうまく曲がることができず転んだ。最下位になった紅組だったが、アンカー・六年生のアカネはグラウンド一周の間に全員抜き去った。一位でゴールしたアカネに、転んでしまった四年生の子が泣きながら抱きついていたことを覚えている。
「そういうイイときもあるけどね、いつでも勝てるわけじゃないよ」
「私はアカネが負けたとこ見たことないよ?」
「リサが見たときはたまたまそうだっただけだよ。大会でなら何回も負けてる。去年の南関東大会でのリレーなんて私が抜かれて負けたんだよ。あと一つ順位が上だったら全国だったのにさ」
「うわー……」
「あれはさすがに何日か立ち直れなかった」
アカネが伏し目がちに言った。かすかに口元がフッと笑ったように見えたのは、いまは立ち直れているからなんだろうか。でも、
「でも……アカネは辞めてないよね。辞めないでいられるのはなんで?」
私の問いにアカネは「え」と言って口を開けた。ちょっと驚いているのかもしれない。
「負けちゃうって嫌なことじゃん? でもアカネは頑張れるんだよね? それはなんで?」
私の質問にアカネは腕組みをして少し「うーん」と唸った後に、
「そりゃあ走るの好きだからね」
と言った。
「好きだから」、か。そう言われてしまうと私は何も言えない。
そんなことを思っていたことをアカネは気づいたのか、
「でも、もう辞めたい。もう辞めてやる。もう練習なんてするもんか、って思うこともあるよ。何もすごくない」
と照れたような苦笑いをしながらアカネは言った。
「うん」
「練習ばっかしてて辛くなったりしないの? もう嫌だなーとか、もう辞めたいなーとか」
「何回も思ってるよ」
アカネは即答した。
「マジで?」
「マジで。もう数えきれない。インターバルトレーニングで走れなくなって吐いたときとか『明日はもう来ない』とか思ったし」
インターバルトレーニングが何のことかわからないが、アカネがへこたれている姿は想像ができなかった。
塾の実夏とかタイプが違うけれど、どっちも孤高で強いっていうイメージがある。
「アカネは絶対に強いって思っちゃうよね」
リサも同意した。
「覚えてる? 小学校の体育大会のリレーのときさ、最下位だったのにアカネが一人で三人抜いちゃってゴールしたとき、『アカネー!!』って私、叫んじゃったからね。いまでも忘れられないよ」
リサが話すそのリレーの場面を私も覚えている。
学年ごとの選抜選手で走る女子選抜リレーのときだった。
一年生から学年順に選抜された女子が二人ずつ走っていく中、一位だった紅組の四年生の子がコーナーをうまく曲がることができず転んだ。最下位になった紅組だったが、アンカー・六年生のアカネはグラウンド一周の間に全員抜き去った。一位でゴールしたアカネに、転んでしまった四年生の子が泣きながら抱きついていたことを覚えている。
「そういうイイときもあるけどね、いつでも勝てるわけじゃないよ」
「私はアカネが負けたとこ見たことないよ?」
「リサが見たときはたまたまそうだっただけだよ。大会でなら何回も負けてる。去年の南関東大会でのリレーなんて私が抜かれて負けたんだよ。あと一つ順位が上だったら全国だったのにさ」
「うわー……」
「あれはさすがに何日か立ち直れなかった」
アカネが伏し目がちに言った。かすかに口元がフッと笑ったように見えたのは、いまは立ち直れているからなんだろうか。でも、
「でも……アカネは辞めてないよね。辞めないでいられるのはなんで?」
私の問いにアカネは「え」と言って口を開けた。ちょっと驚いているのかもしれない。
「負けちゃうって嫌なことじゃん? でもアカネは頑張れるんだよね? それはなんで?」
私の質問にアカネは腕組みをして少し「うーん」と唸った後に、
「そりゃあ走るの好きだからね」
と言った。
「好きだから」、か。そう言われてしまうと私は何も言えない。
そんなことを思っていたことをアカネは気づいたのか、
「でも、もう辞めたい。もう辞めてやる。もう練習なんてするもんか、って思うこともあるよ。何もすごくない」
と照れたような苦笑いをしながらアカネは言った。
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