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8月2日、午前
第3話 「私たちはみんな中学生だよ」
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「今更なんだけどさ」
「んー?」
「もう神奈川県じゃない。東京都ですらないよね?」
私の疑問にリサは首を傾げたかと思うと、
「そうだよ。千葉県だよ?」
と言った。電車はもう東京都を抜けて千葉県に入っている。
「リサ、さっき『少し遠く』って言わなかった? これ、『少し遠く』っていう距離じゃないよね」
「あー……だね。でもまぁ、関東圏内だよ」
「うん……そりゃあ北海道とか沖縄に行くわけじゃないけど。うん……」
「ん?」
「もう……信じる。リサを信じるよ」
私は椅子の背もたれに身を任せた。
窓の向こうには、緑が映える森が見える。
ああいうのが「鬱蒼とした」ってやつなんだと思う。何の電車に乗っているかわかるからここが何県なのかわかるけれど、風景だけ見せられたら全くわからない。
当たり前だけど、私はまだ知らないことがたくさんある。
塾の勉強もできていないんだから、そう、当たり前のことだ、そう考えたときにフッと自虐的な息が漏れた。
こんな景色を見てても「塾」のことを考えてしまった。
スマホの時計を見ると午後一時を過ぎていた。もうそろそろ塾が始まる時間の前だなって思った。
カバンの中は塾のテキストが入っている。
たったいまリサに「信じるよ」と言ったけれど、もう戻れないから諦めただけなのかもしれない。そう思ってしまったら、私は自分がとんでもなく情けない子に思えてきた。
「――塾に行かないと怒られちゃう?」
リサの声で現実に引き戻される。
授業中の居眠りから目が覚めたときみたいな感覚のまま、私は首を横に振る。横に振ったけれど
「どうだろ?」
と私は腕組みをしてみた。
塾をサボったことがないのでもしサボった場合はどうなるのか? 自分でも想像ができなかった。ママは怒るんだろうか?
「まずかった?」
遠慮がちに私の顔を覗き込むようにしてリサは言った。
「いま考えてもわかんないよ。第一、もうここまで来ちゃったし。間に合うはずもないしね。もし帰って怒られたって私の責任だよ」
「え」
「絶対に、リサたちのせいって言わないから」
「ユカは大人だね」
なぜ私が大人と言われたのかわからなかった。
「違うよ。ただの中学生だよ」
「ただの中学生。じゃあ、私と同じだね」
リサのほんわかとした微笑みに私も思わず笑ってしまった。隣のアカネも微笑んでいる。
「私たちはみんな中学生だよ」
アカネの言葉に私も頷く。
そう、私たち三人は全員中学生だ。じゃあ同じ中学生なのに私はなんでこんなに苦しいんだろう? 私だけなのかな? と自分に問いかけた。
問いかけたところで、答えを持っていない私が応えられるはずもなかった。
「んー?」
「もう神奈川県じゃない。東京都ですらないよね?」
私の疑問にリサは首を傾げたかと思うと、
「そうだよ。千葉県だよ?」
と言った。電車はもう東京都を抜けて千葉県に入っている。
「リサ、さっき『少し遠く』って言わなかった? これ、『少し遠く』っていう距離じゃないよね」
「あー……だね。でもまぁ、関東圏内だよ」
「うん……そりゃあ北海道とか沖縄に行くわけじゃないけど。うん……」
「ん?」
「もう……信じる。リサを信じるよ」
私は椅子の背もたれに身を任せた。
窓の向こうには、緑が映える森が見える。
ああいうのが「鬱蒼とした」ってやつなんだと思う。何の電車に乗っているかわかるからここが何県なのかわかるけれど、風景だけ見せられたら全くわからない。
当たり前だけど、私はまだ知らないことがたくさんある。
塾の勉強もできていないんだから、そう、当たり前のことだ、そう考えたときにフッと自虐的な息が漏れた。
こんな景色を見てても「塾」のことを考えてしまった。
スマホの時計を見ると午後一時を過ぎていた。もうそろそろ塾が始まる時間の前だなって思った。
カバンの中は塾のテキストが入っている。
たったいまリサに「信じるよ」と言ったけれど、もう戻れないから諦めただけなのかもしれない。そう思ってしまったら、私は自分がとんでもなく情けない子に思えてきた。
「――塾に行かないと怒られちゃう?」
リサの声で現実に引き戻される。
授業中の居眠りから目が覚めたときみたいな感覚のまま、私は首を横に振る。横に振ったけれど
「どうだろ?」
と私は腕組みをしてみた。
塾をサボったことがないのでもしサボった場合はどうなるのか? 自分でも想像ができなかった。ママは怒るんだろうか?
「まずかった?」
遠慮がちに私の顔を覗き込むようにしてリサは言った。
「いま考えてもわかんないよ。第一、もうここまで来ちゃったし。間に合うはずもないしね。もし帰って怒られたって私の責任だよ」
「え」
「絶対に、リサたちのせいって言わないから」
「ユカは大人だね」
なぜ私が大人と言われたのかわからなかった。
「違うよ。ただの中学生だよ」
「ただの中学生。じゃあ、私と同じだね」
リサのほんわかとした微笑みに私も思わず笑ってしまった。隣のアカネも微笑んでいる。
「私たちはみんな中学生だよ」
アカネの言葉に私も頷く。
そう、私たち三人は全員中学生だ。じゃあ同じ中学生なのに私はなんでこんなに苦しいんだろう? 私だけなのかな? と自分に問いかけた。
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