It's Summer Vacation.

多田莉都

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8月2日、午前

第2話 「It's Summer Vacationだよ?」

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 電車に乗ってからかれこれ一時間以上は経っている。

 さっき神葉線に乗り換えたときにもリサは「もう少し」とか言って目的地を教えてくれなかった。

 追及しても教えてくれなそうだったのでそのまま神葉線に乗った。ボックス席が並んでいて電車は空いていた。私たちは昨日のドーナツショップで話したときと同じように坐った。つまり、正面にリサがいて、私の隣にアカネがいる状態だ。
 
「ユカは最近塾とか忙しいの?」

 アカネが言った。

「うん。まぁ……暇ではないよね。夏期講習が忙しい」
「あー、塾ね。週に何回?」
「週に五回かな」
「週五!?」

 リサが声をあげた。

「来週は週六だけど」
「六? 六? 待って待って。何言ってんのかわかんないよ。それじゃ学校行ってんのと変わらないじゃん! 違うか、週に六回だったら学校以上だよ?」
「だね」
「いま夏休みだよ? It's Summer Vacationだよ?」
「なんで英語なのよ」

 私が突っ込む。

「いや、英語だと頭良さげに聞こえるかなって」
「逆効果だよ」

 今度はアカネが突っ込みを入れた。
 リサが「マジかー」と笑った。私たちも笑った。


「Summer Vacationかぁ……」

 私がそう言うと、
「知ってる? Vacationって休みって意味だよ?」

 リサが言った。その言葉にアカネが「知ってる」と突っ込む。
 そう、Vacationは休みだ。そんなことは知っている。
 私、休みがないんだな。学校は休んでるけど、塾はほとんど休みがない。

 この夏は去年より塾の回数も多く、時間も長い、宿題も多い。
 中学三年に、受験生になったんだからそれは仕方ないことなんだろうと思っている。付属の高校がある中学ではないし、部活か何かの結果を残していない私には推薦の未来もない。だから毎日のスケジュールがぎっちり詰まっていることに疑問はなかった。

 リサから見れば私の生活はおかしいものなのかもしれない。でも、私はこれは「やらなきゃいけないことなんだ」と疑問も思わず受け入れてしまっていた。

 何も疑問に思っていなかったことが、人によっては疑問に思うことなのだと、改めて気づいた。

「Vacationって、そう、休みって意味だよね」

 私がそう言うと、「あれ? ユカは知らなかった?」とリサが言った。
 思わず私は笑みを浮かべて「知ってるよ」と言い返した。
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