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8月1日、午後
第5話 幼馴染のリサ
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「どうしたの? 元気ないね。お疲れなの?」
「疲れてるっていうか、うーん、いや疲れてんのかな。よくわかんないんだよ、最近」
「何それ、なんかあった……って、あれ? あそこにいるのは……」
「んー?」
アカネが前方を指差した。
その指の先を追っていくと、道路を挟んだ反対側にゲームセンターのビルが見えた。そのゲーセンのビル間をを歩く小柄な女の子が見えた。髪が茶色のその子は、大きな白いビニール袋を両手で抱えていた。あれは――、
「リサー」
アカネが声をかけると大きな袋をかかえたその子はピョンと跳ねたような仕草をするとこっちを見た。
「アカネ―! ユカ―!」
葵理佐が私たちの名前を呼んだ。
アカネと同じく幼稚園の頃からずっと知っている子だ。
リサはキョロキョロと左右を見渡し、車が走ってこないことを確認してからアスファルトをナナメに横断して私たちのほうにやってきた。
「どうしたのー? 二が人揃って歩いてるなんて珍しいかもー?」
リサの言葉に「たしかにそうかも」とアカネが言った。
私たちは三人とも同じマンションに住んでいる。幼稚園も小学校も一緒に通い、毎朝一緒に並んで通っていた。あの頃は嫌でも毎日のように会うことができたし、一緒にいることが当たり前すぎて、こんな風になかなか会えない日が来るなんて、幼かったあの頃は考えることもなかった。
リサは今も同じ中学ではあるのだけど。
「私はともかくさぁ、リサとユカもあんまり会ってないの?」
「そうなんだよね。なんか朝も会わないねー」
「リサがいつも遅刻してるからでしょー?」
私の突っ込みにリサが笑う。リサとはクラスが違うが彼女は遅刻常習犯であることは知っている。学年のほとんどの子が知っているんじゃないだろうか。
登校中にリサを見かけたら誰もが「あれ? 遅刻ギリギリなのかな」と駆けだすという話を聞いたことがあるぐらいだ。
「だって朝つらいじゃん」
「私は朝練もしてるんですけど」
アカネは越境で通っている上に朝練があるので、アカネもまた私と会うことがない。
「朝はともかくさ、ユカとはクラスも違うから最近あんまり会ってなかったんだよ」
「授業も同じのないしね。教室も私が二階で、リサの三組は三階だしね」
「そうなの! 三組と四組は三階なんだよ? そりゃあ遅刻するよね?」
「一階分ぐらい三分も変わらなくない? フツ―」
「アカネは知らないかもだけど、ウチの中学は二階から三階までの階段がなんと百段もあってさ」
「そんなわけないでしょ!」
また私が突っ込むとまたリサが笑った。
ちょっと唇の端が緩くなっているような感覚があった。
小学校の頃の記憶が甦ってくる。あの頃は放課後によく三人で遊ぶ約束をしていたので、母には「まーたアカネちゃんとリサちゃんと遊ぶの? 毎日会ってるでしょう?」と何度も言われたりしたものだった。
「で、そのデカイ袋は何?」
アカネがリサの抱える袋を指差す。リサは満面の笑みを浮かべた。
「気になるぅ? 今日、クレーンゲーム絶好調だった! すっげー獲れたの! ほら、いっぱい!! すごくない?」
と言った。袋を覗き込むとぬいぐるみやお菓子いっぱい入っていた。いくら費やしたのかはわからないけれど、これだけ乱獲できたのなら確かに絶好調だったんだろう。
「ここにもいるね」
アカネの言葉の意味がわからず私が「何が?」と聞くと、
「ここにも受験勉強していない子いた」
とアカネは笑った。
なんのことだとばかりにリサは少し目を細めた。よくよく見ると、いつのまに染めたのか、リサの髪は薄い茶色の髪が風に揺れた。
「アカネもリサもいいよね。やりたいことやれて」
その言葉を言った瞬間。私は思わず口を押さえてしまった。何を言ってるんだ、私は。この言い方は嫌味っぽい。嫌味っぽすぎる。アカネもリサも何も悪くないのに。
と、後悔してみたところで、覆水盆に返らず。言ってしまった言葉は返らない。
私は、二人の様子を伺いつつ、
「……なんか、嫌な言い方しちゃった。アカネ、リサ、ごめん。悪気は……ないんだよ……?」
私は自分の言葉を謝罪した。
二人がどう思ったのか、不安でドキドキしていたが、
「え、なんか嫌な言い方だったの、いま?」
とリサは言った。首を左にナナメ45度傾けていた。
リサはアカネを見た。「そうなん?」とまた言ったリサにアカネは両手を広げて「知らね」と言って私を見た。
「リサは、あんたの言葉が嫌味とか思ってないみたいよ? 私もだけどね」
アカネがそう言うと、リサはニーッと笑った。昔からの「気にしてない」を表現するときの笑い方だった。
「疲れてるっていうか、うーん、いや疲れてんのかな。よくわかんないんだよ、最近」
「何それ、なんかあった……って、あれ? あそこにいるのは……」
「んー?」
アカネが前方を指差した。
その指の先を追っていくと、道路を挟んだ反対側にゲームセンターのビルが見えた。そのゲーセンのビル間をを歩く小柄な女の子が見えた。髪が茶色のその子は、大きな白いビニール袋を両手で抱えていた。あれは――、
「リサー」
アカネが声をかけると大きな袋をかかえたその子はピョンと跳ねたような仕草をするとこっちを見た。
「アカネ―! ユカ―!」
葵理佐が私たちの名前を呼んだ。
アカネと同じく幼稚園の頃からずっと知っている子だ。
リサはキョロキョロと左右を見渡し、車が走ってこないことを確認してからアスファルトをナナメに横断して私たちのほうにやってきた。
「どうしたのー? 二が人揃って歩いてるなんて珍しいかもー?」
リサの言葉に「たしかにそうかも」とアカネが言った。
私たちは三人とも同じマンションに住んでいる。幼稚園も小学校も一緒に通い、毎朝一緒に並んで通っていた。あの頃は嫌でも毎日のように会うことができたし、一緒にいることが当たり前すぎて、こんな風になかなか会えない日が来るなんて、幼かったあの頃は考えることもなかった。
リサは今も同じ中学ではあるのだけど。
「私はともかくさぁ、リサとユカもあんまり会ってないの?」
「そうなんだよね。なんか朝も会わないねー」
「リサがいつも遅刻してるからでしょー?」
私の突っ込みにリサが笑う。リサとはクラスが違うが彼女は遅刻常習犯であることは知っている。学年のほとんどの子が知っているんじゃないだろうか。
登校中にリサを見かけたら誰もが「あれ? 遅刻ギリギリなのかな」と駆けだすという話を聞いたことがあるぐらいだ。
「だって朝つらいじゃん」
「私は朝練もしてるんですけど」
アカネは越境で通っている上に朝練があるので、アカネもまた私と会うことがない。
「朝はともかくさ、ユカとはクラスも違うから最近あんまり会ってなかったんだよ」
「授業も同じのないしね。教室も私が二階で、リサの三組は三階だしね」
「そうなの! 三組と四組は三階なんだよ? そりゃあ遅刻するよね?」
「一階分ぐらい三分も変わらなくない? フツ―」
「アカネは知らないかもだけど、ウチの中学は二階から三階までの階段がなんと百段もあってさ」
「そんなわけないでしょ!」
また私が突っ込むとまたリサが笑った。
ちょっと唇の端が緩くなっているような感覚があった。
小学校の頃の記憶が甦ってくる。あの頃は放課後によく三人で遊ぶ約束をしていたので、母には「まーたアカネちゃんとリサちゃんと遊ぶの? 毎日会ってるでしょう?」と何度も言われたりしたものだった。
「で、そのデカイ袋は何?」
アカネがリサの抱える袋を指差す。リサは満面の笑みを浮かべた。
「気になるぅ? 今日、クレーンゲーム絶好調だった! すっげー獲れたの! ほら、いっぱい!! すごくない?」
と言った。袋を覗き込むとぬいぐるみやお菓子いっぱい入っていた。いくら費やしたのかはわからないけれど、これだけ乱獲できたのなら確かに絶好調だったんだろう。
「ここにもいるね」
アカネの言葉の意味がわからず私が「何が?」と聞くと、
「ここにも受験勉強していない子いた」
とアカネは笑った。
なんのことだとばかりにリサは少し目を細めた。よくよく見ると、いつのまに染めたのか、リサの髪は薄い茶色の髪が風に揺れた。
「アカネもリサもいいよね。やりたいことやれて」
その言葉を言った瞬間。私は思わず口を押さえてしまった。何を言ってるんだ、私は。この言い方は嫌味っぽい。嫌味っぽすぎる。アカネもリサも何も悪くないのに。
と、後悔してみたところで、覆水盆に返らず。言ってしまった言葉は返らない。
私は、二人の様子を伺いつつ、
「……なんか、嫌な言い方しちゃった。アカネ、リサ、ごめん。悪気は……ないんだよ……?」
私は自分の言葉を謝罪した。
二人がどう思ったのか、不安でドキドキしていたが、
「え、なんか嫌な言い方だったの、いま?」
とリサは言った。首を左にナナメ45度傾けていた。
リサはアカネを見た。「そうなん?」とまた言ったリサにアカネは両手を広げて「知らね」と言って私を見た。
「リサは、あんたの言葉が嫌味とか思ってないみたいよ? 私もだけどね」
アカネがそう言うと、リサはニーッと笑った。昔からの「気にしてない」を表現するときの笑い方だった。
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