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8月1日、午後
第2話 『貴方はSクラスではありません』
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掲示板から目を逸らすことができなかった。頭の中で誰かの声が響く。
『貴方はSクラスではありません』。
二十三位? 私が二十三位?
頭を殴られたことはないが、頭を殴られたときって、こんな感覚なんじゃないかと思う。私は足元がふらつかないようにするので精一杯だった。
隣の真希が遠慮がちに私を見ているのがわかった。わかったけど、真希のほうを見ることができなかった。なんて言えばいいんだ。「あーやっちゃった」「調子悪かったからなぁ」「次に切り替えなきゃ」頭で浮かぶ言葉が声になって出てこない。
「Sから落ちたんだね」
背後から声がした。振り向くとそこにいたのは、松代実夏だった。
違う中学に通う実夏とは、この塾で出会った。いつだってSクラスで、実夏に勝ちたくて頑張ってきたところもあった。実夏はまた一位だ。これで何回連続一位なんだろう。
ライバル視していたところはあるけれど、ここ最近の私は上位十人に入ることができるかどうかだった。最後に実夏に総合成績で勝ったのはいつだろう。二年の夏あたりかもしれない。もう思い出すのも面倒なぐらい過去の話だ。
「……何か?」
震えそうな唇を堪えて私は実夏を睨んだ。実夏は首を横に振る。何も私になんて言うことはないんだろう。
連続一位を取ったからといって実夏は喜んでいる様子もない。
Sクラスの誰かが実夏のことを「鉄仮面」と言っていたのを聞いたことがある。どんな成績であろうと一喜一憂せず、ただ冷静でいる。キレイな顔立ちですらっと背の高い彼女は現実感がどこかない。「鉄仮面」という表現が合っていると私も思ってしまった。
「次は……一回で、Sクラスに戻ってみせるから」
何の根拠もないのに私はそんなことを実夏に言った。
虚勢を張っているに過ぎない。ダメだ、私、ダメだ。
「上ばっかり見ないで、まず自分の状況を見てみたら?」」
目線だけを私に向けて実夏は言った。淡々と言った。イラっとした。胸の奥に沸騰しそうな感情が沸き立った。
でも、言い返せることは何もなかった。
Sクラスの実夏とAクラスに落ちた私、私が何を吠えたところで実夏には何の脅威でもないんだろう。
「あ、真希、先月入った男子もSクラスに入ったみたいだよ」
実夏が真希のほうを見て言った。言われてSクラスの表を見てみると今まで見たことがない名前が書かれていた。一学期の終わりに何人か塾に入ってきた。あっと言う間にSクラスに入ってきた人も居るということか。知らないうちに私は抜かれていたのか。
「怖いね」
実夏が言った。
それはどこまでが本心なのかわからない。でも、私はゾクッとした。「怖い」。私の気づいていなかったうちにどんどん抜かれていったことが。これからもまだ抜かれていくんじゃないかと思ったことが。どんどん下がっていく。どんどん一位が遠ざかっていく。いまの私は何の上に立っているのか。
実夏と真希が何かを話していた。それは耳に入っても、私の頭の中に届くことはなかった。今日からはこの二人と教室が違う。私は一人でAクラスへと歩き始めた。真希は何も言ってくれなかったけれど、それでよかった。同情されたくないし、いまの私を見られたくもなかった。
悔しい、悔しい、悔しい。
いまの私には下唇を噛んで歩くことしかできなかった。
『貴方はSクラスではありません』。
二十三位? 私が二十三位?
頭を殴られたことはないが、頭を殴られたときって、こんな感覚なんじゃないかと思う。私は足元がふらつかないようにするので精一杯だった。
隣の真希が遠慮がちに私を見ているのがわかった。わかったけど、真希のほうを見ることができなかった。なんて言えばいいんだ。「あーやっちゃった」「調子悪かったからなぁ」「次に切り替えなきゃ」頭で浮かぶ言葉が声になって出てこない。
「Sから落ちたんだね」
背後から声がした。振り向くとそこにいたのは、松代実夏だった。
違う中学に通う実夏とは、この塾で出会った。いつだってSクラスで、実夏に勝ちたくて頑張ってきたところもあった。実夏はまた一位だ。これで何回連続一位なんだろう。
ライバル視していたところはあるけれど、ここ最近の私は上位十人に入ることができるかどうかだった。最後に実夏に総合成績で勝ったのはいつだろう。二年の夏あたりかもしれない。もう思い出すのも面倒なぐらい過去の話だ。
「……何か?」
震えそうな唇を堪えて私は実夏を睨んだ。実夏は首を横に振る。何も私になんて言うことはないんだろう。
連続一位を取ったからといって実夏は喜んでいる様子もない。
Sクラスの誰かが実夏のことを「鉄仮面」と言っていたのを聞いたことがある。どんな成績であろうと一喜一憂せず、ただ冷静でいる。キレイな顔立ちですらっと背の高い彼女は現実感がどこかない。「鉄仮面」という表現が合っていると私も思ってしまった。
「次は……一回で、Sクラスに戻ってみせるから」
何の根拠もないのに私はそんなことを実夏に言った。
虚勢を張っているに過ぎない。ダメだ、私、ダメだ。
「上ばっかり見ないで、まず自分の状況を見てみたら?」」
目線だけを私に向けて実夏は言った。淡々と言った。イラっとした。胸の奥に沸騰しそうな感情が沸き立った。
でも、言い返せることは何もなかった。
Sクラスの実夏とAクラスに落ちた私、私が何を吠えたところで実夏には何の脅威でもないんだろう。
「あ、真希、先月入った男子もSクラスに入ったみたいだよ」
実夏が真希のほうを見て言った。言われてSクラスの表を見てみると今まで見たことがない名前が書かれていた。一学期の終わりに何人か塾に入ってきた。あっと言う間にSクラスに入ってきた人も居るということか。知らないうちに私は抜かれていたのか。
「怖いね」
実夏が言った。
それはどこまでが本心なのかわからない。でも、私はゾクッとした。「怖い」。私の気づいていなかったうちにどんどん抜かれていったことが。これからもまだ抜かれていくんじゃないかと思ったことが。どんどん下がっていく。どんどん一位が遠ざかっていく。いまの私は何の上に立っているのか。
実夏と真希が何かを話していた。それは耳に入っても、私の頭の中に届くことはなかった。今日からはこの二人と教室が違う。私は一人でAクラスへと歩き始めた。真希は何も言ってくれなかったけれど、それでよかった。同情されたくないし、いまの私を見られたくもなかった。
悔しい、悔しい、悔しい。
いまの私には下唇を噛んで歩くことしかできなかった。
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