It's Summer Vacation.

多田莉都

文字の大きさ
上 下
2 / 24
8月1日、午後

第1話 塾内模試の結果

しおりを挟む
 塾の入っているビルに入ると、一階のロビー前にある掲示板の前に数人の人が集まっていた。
 ああ、発表されているんだ。
 胸の奥にぐるぐると吐き気を催すような何かが渦巻く。ここからじゃ遠くてはっきりとは見えないけれど、掲示板に貼られているのは、先週あった塾内模試の結果だった。
 模試の結果によって、新しいクラスが編成される。そのクラス分けも貼られているはずだ。
 掲示板へと足を踏み出せずにいると、

友香ゆかは見に行かないの?」

 後ろから声をかけられた。話しかけてきたのは同じ中学の新村真希にいむらまきだった。

「うーん……今回は自信なくってさ、数学も英語もダメダメだった。絶対、順位下がってるよ」

 私はわざとらしく大きなため息をついてみせた。最初から「結果はよくないと知ってた」ということを真希にアピールしたいだけだ。本当はガタガタと震えそうなぐらい不安なのにそれを隠すために大袈裟なことをしているだけだ。

「へぇ、友香でもそんなことあるんだねー」

 真希の中ではたぶん、私はSクラスにいることが「当たり前」になっているんだと思う。
 実際、私は中学1年のときからこの塾でSクラスだった。Aクラスに落ちたことは一度もない。真希にも合計点での順位は負けたことがない(英語と理科で負けたことはある)。
 それがいつまでも続くわけがないことを私は気づいているが、真希は気づいていないのかもしれない。

「数学なんて問3の1問めでいきなり引っかかったからさー、きつかった」
「あー、あれ解けないと次のも解けなくなっちゃうやつだったね」
「そうなんだよねー。本番なら飛ばすんだけど、きっちり解きたくって時間かけすぎちゃった」
「わかるかも。『これを飛ばすのヤダ』ってとき」
「わかるー?」

 嘘だ。
 きっちり解きたくって、なんて嘘だ。
 問3は問題が理解できなくて、混乱しちゃって、飛ばしてみてはみたけれど、集中できなくて残りの問題もグダグダだっただけだ。
 本当はできたんですよ、もっとうまくやれたんですよ、と真希の前で虚勢を張っているだけだ。

 不安しかないが、クラス分けを見ないことには今日はどの教室に行けばいいのかがわからない。
 真希と私は掲示板へと足を進めた。
 掲示板には、A4の紙が何枚か貼られていて、Excelで作った表が並んでいた。クラス別に指名と今回の模試の点数が書かれていた。
 実はそこまで悪くないんじゃという期待を声にしないで私は無機質な表から名前を探した。
 
 Sクラスは、この塾で成績上位十五人だけが在籍できる最難関クラスだ。
 定期的な模試で入替があり、何度連続でSクラスにいたとしても容赦なく落ちるし、結果さえ残していれば入塾したばかりでもSクラスに入るチャンスはある。私は上位一桁の順位から落ちたことはない。ただ、最近、ちょっとうまくいっていないところはある。

 一位は相変わらず松代実夏まつしろみかだった。472点、どんな点数だよ。平均90点じゃあ届かない
 二位は長谷部はせべで、三位は……と順位を下っていく。

「あ、やった、八位だ」

 隣で真希の声がした。たしかに真希は八位で合計448点だった。ほぼ平均90点か、すごいな。私はさすがに無理だな。九位、十位……あれ?
 Sクラスは、上位十五人のみが在籍できる。
 十五位までに私の名前はなかった。もう一度、一位の実夏から名前を見直してみたが、十五位までに私の名前はなかった。
 心臓の鼓動が早くなる感覚があった。額に汗が浮かんできたような気がした。頭がかゆくなってきてかきむしりたいような衝動に駆られた。大声で叫びたかった。
 まさか……Sクラスに私の名前がない?
 見たくはないし、認めたくなんかないが、十六位以下であるAクラスのリストに私は目を移した。真希が隣で「あれ?」という声が聞こえたが、私はそれを拾わなかった。どこだ、どこにあるんだ、私の名前。
 十六位でもない、十七位でもない……見つかった。

『23位 日下部友香 417点』

 嘘だ。
 これは何か間違い。
 夢かもしれない――違う――、すぐに頭の中の私が否定する。
 現実だ、これは現実だ。いま感じている冷や汗がその証拠だ。こんなリアルな夢があるものか。
 



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...