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8月1日、午後
第1話 塾内模試の結果
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塾の入っているビルに入ると、一階のロビー前にある掲示板の前に数人の人が集まっていた。
ああ、発表されているんだ。
胸の奥にぐるぐると吐き気を催すような何かが渦巻く。ここからじゃ遠くてはっきりとは見えないけれど、掲示板に貼られているのは、先週あった塾内模試の結果だった。
模試の結果によって、新しいクラスが編成される。そのクラス分けも貼られているはずだ。
掲示板へと足を踏み出せずにいると、
「友香は見に行かないの?」
後ろから声をかけられた。話しかけてきたのは同じ中学の新村真希だった。
「うーん……今回は自信なくってさ、数学も英語もダメダメだった。絶対、順位下がってるよ」
私はわざとらしく大きなため息をついてみせた。最初から「結果はよくないと知ってた」ということを真希にアピールしたいだけだ。本当はガタガタと震えそうなぐらい不安なのにそれを隠すために大袈裟なことをしているだけだ。
「へぇ、友香でもそんなことあるんだねー」
真希の中ではたぶん、私はSクラスにいることが「当たり前」になっているんだと思う。
実際、私は中学1年のときからこの塾でSクラスだった。Aクラスに落ちたことは一度もない。真希にも合計点での順位は負けたことがない(英語と理科で負けたことはある)。
それがいつまでも続くわけがないことを私は気づいているが、真希は気づいていないのかもしれない。
「数学なんて問3の1問めでいきなり引っかかったからさー、きつかった」
「あー、あれ解けないと次のも解けなくなっちゃうやつだったね」
「そうなんだよねー。本番なら飛ばすんだけど、きっちり解きたくって時間かけすぎちゃった」
「わかるかも。『これを飛ばすのヤダ』ってとき」
「わかるー?」
嘘だ。
きっちり解きたくって、なんて嘘だ。
問3は問題が理解できなくて、混乱しちゃって、飛ばしてみてはみたけれど、集中できなくて残りの問題もグダグダだっただけだ。
本当はできたんですよ、もっとうまくやれたんですよ、と真希の前で虚勢を張っているだけだ。
不安しかないが、クラス分けを見ないことには今日はどの教室に行けばいいのかがわからない。
真希と私は掲示板へと足を進めた。
掲示板には、A4の紙が何枚か貼られていて、Excelで作った表が並んでいた。クラス別に指名と今回の模試の点数が書かれていた。
実はそこまで悪くないんじゃという期待を声にしないで私は無機質な表から名前を探した。
Sクラスは、この塾で成績上位十五人だけが在籍できる最難関クラスだ。
定期的な模試で入替があり、何度連続でSクラスにいたとしても容赦なく落ちるし、結果さえ残していれば入塾したばかりでもSクラスに入るチャンスはある。私は上位一桁の順位から落ちたことはない。ただ、最近、ちょっとうまくいっていないところはある。
一位は相変わらず松代実夏だった。472点、どんな点数だよ。平均90点じゃあ届かない
二位は長谷部で、三位は……と順位を下っていく。
「あ、やった、八位だ」
隣で真希の声がした。たしかに真希は八位で合計448点だった。ほぼ平均90点か、すごいな。私はさすがに無理だな。九位、十位……あれ?
Sクラスは、上位十五人のみが在籍できる。
十五位までに私の名前はなかった。もう一度、一位の実夏から名前を見直してみたが、十五位までに私の名前はなかった。
心臓の鼓動が早くなる感覚があった。額に汗が浮かんできたような気がした。頭がかゆくなってきてかきむしりたいような衝動に駆られた。大声で叫びたかった。
まさか……Sクラスに私の名前がない?
見たくはないし、認めたくなんかないが、十六位以下であるAクラスのリストに私は目を移した。真希が隣で「あれ?」という声が聞こえたが、私はそれを拾わなかった。どこだ、どこにあるんだ、私の名前。
十六位でもない、十七位でもない……見つかった。
『23位 日下部友香 417点』
嘘だ。
これは何か間違い。
夢かもしれない――違う――、すぐに頭の中の私が否定する。
現実だ、これは現実だ。いま感じている冷や汗がその証拠だ。こんなリアルな夢があるものか。
ああ、発表されているんだ。
胸の奥にぐるぐると吐き気を催すような何かが渦巻く。ここからじゃ遠くてはっきりとは見えないけれど、掲示板に貼られているのは、先週あった塾内模試の結果だった。
模試の結果によって、新しいクラスが編成される。そのクラス分けも貼られているはずだ。
掲示板へと足を踏み出せずにいると、
「友香は見に行かないの?」
後ろから声をかけられた。話しかけてきたのは同じ中学の新村真希だった。
「うーん……今回は自信なくってさ、数学も英語もダメダメだった。絶対、順位下がってるよ」
私はわざとらしく大きなため息をついてみせた。最初から「結果はよくないと知ってた」ということを真希にアピールしたいだけだ。本当はガタガタと震えそうなぐらい不安なのにそれを隠すために大袈裟なことをしているだけだ。
「へぇ、友香でもそんなことあるんだねー」
真希の中ではたぶん、私はSクラスにいることが「当たり前」になっているんだと思う。
実際、私は中学1年のときからこの塾でSクラスだった。Aクラスに落ちたことは一度もない。真希にも合計点での順位は負けたことがない(英語と理科で負けたことはある)。
それがいつまでも続くわけがないことを私は気づいているが、真希は気づいていないのかもしれない。
「数学なんて問3の1問めでいきなり引っかかったからさー、きつかった」
「あー、あれ解けないと次のも解けなくなっちゃうやつだったね」
「そうなんだよねー。本番なら飛ばすんだけど、きっちり解きたくって時間かけすぎちゃった」
「わかるかも。『これを飛ばすのヤダ』ってとき」
「わかるー?」
嘘だ。
きっちり解きたくって、なんて嘘だ。
問3は問題が理解できなくて、混乱しちゃって、飛ばしてみてはみたけれど、集中できなくて残りの問題もグダグダだっただけだ。
本当はできたんですよ、もっとうまくやれたんですよ、と真希の前で虚勢を張っているだけだ。
不安しかないが、クラス分けを見ないことには今日はどの教室に行けばいいのかがわからない。
真希と私は掲示板へと足を進めた。
掲示板には、A4の紙が何枚か貼られていて、Excelで作った表が並んでいた。クラス別に指名と今回の模試の点数が書かれていた。
実はそこまで悪くないんじゃという期待を声にしないで私は無機質な表から名前を探した。
Sクラスは、この塾で成績上位十五人だけが在籍できる最難関クラスだ。
定期的な模試で入替があり、何度連続でSクラスにいたとしても容赦なく落ちるし、結果さえ残していれば入塾したばかりでもSクラスに入るチャンスはある。私は上位一桁の順位から落ちたことはない。ただ、最近、ちょっとうまくいっていないところはある。
一位は相変わらず松代実夏だった。472点、どんな点数だよ。平均90点じゃあ届かない
二位は長谷部で、三位は……と順位を下っていく。
「あ、やった、八位だ」
隣で真希の声がした。たしかに真希は八位で合計448点だった。ほぼ平均90点か、すごいな。私はさすがに無理だな。九位、十位……あれ?
Sクラスは、上位十五人のみが在籍できる。
十五位までに私の名前はなかった。もう一度、一位の実夏から名前を見直してみたが、十五位までに私の名前はなかった。
心臓の鼓動が早くなる感覚があった。額に汗が浮かんできたような気がした。頭がかゆくなってきてかきむしりたいような衝動に駆られた。大声で叫びたかった。
まさか……Sクラスに私の名前がない?
見たくはないし、認めたくなんかないが、十六位以下であるAクラスのリストに私は目を移した。真希が隣で「あれ?」という声が聞こえたが、私はそれを拾わなかった。どこだ、どこにあるんだ、私の名前。
十六位でもない、十七位でもない……見つかった。
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嘘だ。
これは何か間違い。
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