見えない明日に揺れる僕たちは

多田莉都

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第2章

体育大会 4

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 体育大会の最後の種目・選抜リレーは、午後の日差しが照りつけるグラウンドで始まった。一年、二年、三年とバトンが繋がれ、応援の声が響き合う。僕たち三年生は最後に走る。

 順番は変更せずに、さくらの走るはずだった順番に柴崎彩夏が入ることにした。青龍は、美咲、蒼真、柴崎彩夏、アンカーの僕の順で走る。
 
 午後の日差しが痛くなってきた頃にリレーは始まった。
 リレーは、開始早々、一年の女子が転倒したことで青龍は大きく出遅れてしまった。一周が300mのグラウンドで半周の差がついてしまった。
 
 じわじわと巻き返すもほかの団も選抜選手だ。「これは逆転は難しいか」と正直なところ僕はそう思っていた。
 しかし、三年にバトンが渡り、この流れが変わりはじめる。美咲、蒼真が追い上げ、差が縮まってきた。さすが二人とも女子バスケ部、男子サッカー部のキャプテンだ。速い。
 順位は最下位だったが三位まで十メートルというところで、蒼真が柴崎彩夏にバトンを渡した。

 
 柴崎彩夏が走りだすと、大きな歓声が上がった。
 
 
 柴崎彩夏は速かった。

 彼女は僕の予想より遥かに速かった。細い身体に似つかわしくない大きなストライドで軽快にコーナーを抜けるときには早くも三位の白虎を捉えて外側から抜いてしまった。
 そのまま加速し続けるかのごとくバックストレートで二位の朱雀とも距離を一気に縮めていく。
 それはまるでひとすじの光のようにも見えた。

「マジか」
「すご……」

 走り終えて息を切らしたままの蒼真と美咲の声が聞こえた。誰もが彩夏から目を離すことができない。

 僕はゆっくりとテイクオーバーゾーンに入り、柴崎彩夏がやってくるのを待つ。

 彼女が最後のコーナーを抜けた頃、僕の横から一位の玄武のアンカー・藤村奎吾ふじむらけいごがバトンをもらって走り出す。
 この距離感ならばー―

「彩夏! ラスト!」

 気づいたら僕は彼女の名前を叫んでいた。およそ300メートルを走り、息も切れている彼女が微かに笑った気がした。

 僕は、この間の夜の地区センター前で彼女が踊っていた時に感じた光を思い出した。

「彩夏、頑張れ!」
「すげーぞ、彩夏!」

 蒼真も、美咲も、団のみんなも彼女の名前を叫んだ。
 
「はい!」

 彼女が叫ぶ。その声とともに、彩夏のその細い腕からバトンが伸ばされた。受け取る瞬間、彼女と目が合った。
 見えない導火線でもあったかのように、その目から僕の目に灼きつけられてしまうようなものが伝わってきた。彼女の光が僕にも宿るようだった。

 バトンを受け取った僕は前を向き、一位の玄武を追った。玄武のアンカー・奎吾はバスケの特待生で高校進学するという奴だ。小学校からしている。決して簡単な相手ではない。

 でも、同時スタートならば負けたことはない。

 最初は、コーナーは奎吾の後ろにつくようなイメージで走る。無理にここで抜きにかかって膨らんでタイムロスになる走りは必要はない。勝負は直線だ。
 コーナーを抜けてバックストレートに入った。
 奎吾もさすがに速い。しかし、バスケ部の彼が一周300mの距離を普段から走っているはずはない。でも、僕は違う。陸上部で200m走や400m走の練習もしている。僕は300mをどれぐらいのペースで走ればタイムを出せるかは知っている。
 バックストレートの中盤から僕は加速し、奎吾を捉える。もう奎吾のスピードは若干落ちてきていた。300mを全力で走り切ることのできる奴などいない。追われるから逃げる、その中で飛ばし過ぎたのだ。コーナーに入る前に僕は奎吾に並び、コーナーを抜けるときに、一気に奎吾を置き去りにした。

「佑、いけー!」

 誰かの声が聞こえる。かすかに微笑むことができるぐらい僕は余裕を持てていた。
 最後のストレートを、もう追うべき敵のいないストレートを僕は走り抜けた。1位でゴールテープを切ったとき、クラスのみんなの大きな声が聞こえた。
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