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第一話 グリムズロックの護符事件
第六章 怠惰な恋の花 2
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サラに仕事を頼んだあとで、エレンは大急ぎで身支度にかかった。
ご親切にも迷惑にも近隣の紳士方を二人も呼んでくださってのきちんとした晩餐である。
いくらなんでも仕事着のスーツでは味気ないだろう。
ふんわりと襞の多い絹のブラウスを脱ぐと、細い金の鎖でじかに胸に触れるようにかけた諮問魔術師の証の銀の印章指輪が露わになる。
これから着ようと思っている濃紺のドレスは、前身頃の上半分がぴったりとしたレースになっている仕立てだ。エレンは少し躊躇ってから、鎖を外し、ペチコートのポケットに仕舞うことにした。
着替えが済むと、いくらもしないうちに、階下から銅鑼の音が響いた。
食堂は玄関広間の西側の前庭側だった。
庭に面して長いガラス窓がいくつも並んで、床には深いワインレッドの絨毯が敷き詰められている。長テーブルには真っ白なリネンがかかって、大型の暖炉では林檎の丸太が音を立てて燃え、食卓の銀器はすべてピカピカに磨き上げられている。
その銀器の表面に映るのは、淡くおぼろな青白い月光みたいな無数の光だ。
これこそがこの邸で最も贅沢な調度――銀の透かし細工の環から四ダースもの凝石を、ダイヤモンドや真珠に取り混ぜて吊り下げた、名高い『クリーニーのシャンデリア』の光だ。
凝石(エレクタ)には様々な種類があるが、このグリムズロックのクルーニー家の地所で産するのは、真水の底で月光が凝ったといわれる「水月石」である。
水月石は名の通り水と相性がよく、実用性も極めて高い。たぶんあの水洗トイレのどこかにもこの石が使われているのでしょうね――と、エレンは光を見上げながらしみじみ感嘆した。
さすがにクルーニー家だ。
「どうですミス・ディグビー、我が家のシャンデリアがお気に召しましたか?」
暖炉を背にした席から愛想よく声をかけてきたのは、この邸の主人であるミスター・クルーニーだ。エレンは笑顔で答えた。
「ええミスター・クルーニー。本当に美しゅうございますね」
ジョンの父親であるミスター・クルーニーは、でっぷり肥った赤ら顔の小柄な田舎紳士だった。人生の六割がたを厩舎と犬小屋で過ごしていそうな善良そうなタイプだ。
「そうでしょう、そうでしょう」と、ミスター・クルーニーは満足そうに言い、右隣に座る客人の一人に顔を向けた。
「なあドクター、美しい光が美しい人を照らすのは実にいいものだな?」
「同感ですな」
口数少なく応えるのは、牧師館の隣の邸に住んでいるのだというドクター・マイクロフトだ。
この人物の外見はなかなか印象的だった。
年頃は四十前後だろうか、痩せてはいるが骨格のたくましい大柄な体つきで、浅黒い膚とインクのように黒い髪をしている。
何より印象的なのは顔の右半分を覆っている黒天鵞絨の布だ。
その下には三年前の火事で負った火傷の跡があるのだという。
「ああー―ミス・ディグビーのそのドレスは実にお似合いですな! まるで月光を浴びたひともとの夜の菖蒲のようだ」
唐突に口を挟んできたのは、招かれた紳士方の一人であるエヴァンス牧師。
口約束とはいえジョンとの婚約を一方的に破棄されたらしい気の毒なミス・シシーの父親である。
この人物はマイクロフト医師とは何から何まで正反対だった。
背丈はひょろっと高く、貧相なほど痩せている。首がやたらと長くて、ものすごく少ない金髪を小さい頭蓋骨に張り付けるみたいにぴったりとなでつけている。牧師は明らかにエレンを気に入ったらしく、誰かと会話をしていると必ず口を挟んでは、唐突に詩的な――おそらく本人は詩的だと思っているのだろう讃辞を口にしてくる。
そのたびに、怖ろしいことにエレンの右隣で食事をしているエリザベスお嬢様が、造りだけは可愛い顔を新種のゴブリンみたいに歪めてエレンを睨みつけてくる。ちなみに脚はほぼつねにエレンの向う脛を蹴っ飛ばしている。
「美しい方と言えば――」と、エレンは慎重に切り出した。「ミスター・ジョンはこの頃ご婚約をなさったのですよね?」
万座の沈黙を買ってしまうのを覚悟のうえで訊ねてみる。
意外なことに食卓に気まずい沈黙は訪れなかった。
エリザベスと向き合う席で黙々と食事をしていたジョン・クルーニー当人が、赤い血の滴りそうなローストビーフを切る手を止めて、落ち着いた声で答えてくれたのだ。
「ええミス・ディグビー。今年に入ってすぐに。もしよろしければキャサリンと友達になってやってください。彼女はきっとあなたを気に入ると思います」
ジョン・クルーニーは中肉中背の、どちらかというと不器量な若者だった。
しかし、母親のマライア・クルーニーによく似たとび色の目からは穏やかな優しさと知性が感じられた。
見れば、小さなエリザベスお嬢様は、折角の可愛い顔をくしゃくしゃに歪めて、哀しみの怒りのないまぜにになった表情で、大好きなシシーと分かれてしまった兄を睨みつけているのだった。ジョンは何ともすまなそうな顔でそんな妹を見ていた。
エレンは唐突に不安になった。
--もしかして、わたくし全く見当違いの家に潜入しちゃっている……?
ここで起こっているのはごく普通の恋愛沙汰で、例の護符の事件とは何の関係もないのかもしれない。
それなのにサー・フレデリックまで巻き込んでしまった。
ここまでして何の成果も得られなかったら?
組合からの魔術師としての信用度はどうなってしまうのだろう?
そう思うと、今口にしたばかりのローストビーフが胃の中から逆流してくるような不安を感じた。
怒れるエリザベスお嬢様が相変わらず向こう脛を蹴っ飛ばし続けてくる。
不安を抱えた晩餐がようやく終わってくれると、エレンはそそくさと自室へ戻った。
部屋にはもう蝋燭に燈が入っていた。暖炉の薪はくべ直され、濃いブラウンの厚地のカーテンも引かれている。
エレンは書き物机の前に坐ると、日記帳を広げて「分離」羊皮紙を引っ張り出した。
すると伝言が増えていた。
――無事のお着きでなによりです。僕も個人的に調査を進めています。
今知れたかぎりの結果をお知らせしますね。
同業者たちに聞き込んだところ、被害者は「メイジー」と名乗っていたそうです。
もとは地方の旧家のメイドだと言い、読み書きができることを自慢にしていたそうです。この話に裏付けはありません。取り急ぎご報告を。C・ニーダム
几帳面な筆跡で書かれた調査報告は簡潔ながらも充実していた。
エレンは自分が情けなくなった。
しかし、もちろん返事は書くべくだろう。
エレンは少し躊躇ってから備えつけの羽ペンをとった。
――御知らせありがとうございます。
クルーニー家のメイドの話では、ジョンとミス・シシーは正式の婚約をしていたわけではなかったのだそうです。また、駅の運搬人(ポーター)の話では、シシーの父親のエヴァンス牧師は多少の魔術の心得があるのだそうです。牧師は今日のクルーニー家の晩餐に招かれていましたから、ジョンと娘との婚約の破棄をもうそれほど悪くは思っていないようです。晩餐にはマイクロフト医師も招かれていました。彼は牧師館の隣人だそうです。
そこまで書いたところでエレンはペンを止めた。
羊皮紙がそろそろ一杯だ。
――一度白紙に戻します。必要な情報のメモを取ってください。
書くなり、すぐ下にするすると文字が浮かび上がった。
――分かりました。
エレンは嬉しくなった。
今まさにこのとき、タメシスのどこかでニーダムも「分離」羊皮紙の片割れと向き合っているのだ。
大丈夫よエレン・ディグビー。わたくしは一人じゃない。
自分自身をそう鼓舞し、日記帳の普通の紙面にニーダムからの報告をメモしていく。書き終えてから、
――こちらは終わりました。
と、羊皮紙に書くと、すぐに、
――同じくです。
と返ってきた。
エレンは心の底から嬉しくなった。
「タブラ・ラサ。白紙に戻れ」
羊皮紙の上に掌を翳して命じると、淡い金色の光がぼうっと広がり、書かれていた文字が溶けるように消えていった。
洗面所を覗くと化粧台のうえに錫製の大きな洗面器が据えてあった。まだ熱さを残した湯がいっぱいに入っている。
椅子の上には清潔なリネンのシュミーズと白い柔らかいフランネルの寝間着もおいてあった。エレンは早速着替えると、髪をほどいて顔を洗った。
そしてまたベッドルームへ戻ると、暖炉の焔のなかで一対のエメラルド色の何かがキラキラと輝いているのが見えた。
「サラ!」
エレンは思わず駆け寄った。
「どうしたの?」
「早速報告じゃ」と、火蜥蜴が焔のなかから飛び出し、ブルブルッと体を震わせてから、羽ばたいてエレンの肩にとまった。
柔らかい布ごしに、小さな焼き鏝を押し付けられたような灼熱の痛みが走る。エレンは慌てて全身を魔力の被膜で覆った。
「ジョン・クルーニーは、暖炉の上に置いてあった深緑のガラス瓶から黒っぽい液体を匙に注いで顔をしかめて飲んでおった。手つきからして馴れた様子じゃ」
「……今日初めて飲んでいる様子じゃないってわけね?」
「然様」火蜥蜴が重々しく頷く。「その瓶は銅鑼が鳴る前に執事らしき男が運んできていた。同じ瓶がもともと部屋にあったようでの、空瓶と新しいものを取り換えていたのじゃ」
「なるほどね――」
エレンは頷きながら考え込んだ。
魅了魔術にも様々な種類があるが、最も確実なのは『怠惰な恋の花』と俗称される深紅の三色スミレを絞った液をベースにして、魅了したい側の体の一部――通常は髪の毛か血か爪だ――を加えた魔術薬を定期的に口にさせるやり方だ。
ジョンが毎日飲んでいる何かがあるとなれば、その飲み物に魔術薬が仕込まれている可能性が高い。
――そういえいばこの土地は凝石を産するのだから、そもそも非常に息吹が潤沢なはず。『怠惰な恋の花』を密かに栽培するには、結構良い条件かもしれない……
ご親切にも迷惑にも近隣の紳士方を二人も呼んでくださってのきちんとした晩餐である。
いくらなんでも仕事着のスーツでは味気ないだろう。
ふんわりと襞の多い絹のブラウスを脱ぐと、細い金の鎖でじかに胸に触れるようにかけた諮問魔術師の証の銀の印章指輪が露わになる。
これから着ようと思っている濃紺のドレスは、前身頃の上半分がぴったりとしたレースになっている仕立てだ。エレンは少し躊躇ってから、鎖を外し、ペチコートのポケットに仕舞うことにした。
着替えが済むと、いくらもしないうちに、階下から銅鑼の音が響いた。
食堂は玄関広間の西側の前庭側だった。
庭に面して長いガラス窓がいくつも並んで、床には深いワインレッドの絨毯が敷き詰められている。長テーブルには真っ白なリネンがかかって、大型の暖炉では林檎の丸太が音を立てて燃え、食卓の銀器はすべてピカピカに磨き上げられている。
その銀器の表面に映るのは、淡くおぼろな青白い月光みたいな無数の光だ。
これこそがこの邸で最も贅沢な調度――銀の透かし細工の環から四ダースもの凝石を、ダイヤモンドや真珠に取り混ぜて吊り下げた、名高い『クリーニーのシャンデリア』の光だ。
凝石(エレクタ)には様々な種類があるが、このグリムズロックのクルーニー家の地所で産するのは、真水の底で月光が凝ったといわれる「水月石」である。
水月石は名の通り水と相性がよく、実用性も極めて高い。たぶんあの水洗トイレのどこかにもこの石が使われているのでしょうね――と、エレンは光を見上げながらしみじみ感嘆した。
さすがにクルーニー家だ。
「どうですミス・ディグビー、我が家のシャンデリアがお気に召しましたか?」
暖炉を背にした席から愛想よく声をかけてきたのは、この邸の主人であるミスター・クルーニーだ。エレンは笑顔で答えた。
「ええミスター・クルーニー。本当に美しゅうございますね」
ジョンの父親であるミスター・クルーニーは、でっぷり肥った赤ら顔の小柄な田舎紳士だった。人生の六割がたを厩舎と犬小屋で過ごしていそうな善良そうなタイプだ。
「そうでしょう、そうでしょう」と、ミスター・クルーニーは満足そうに言い、右隣に座る客人の一人に顔を向けた。
「なあドクター、美しい光が美しい人を照らすのは実にいいものだな?」
「同感ですな」
口数少なく応えるのは、牧師館の隣の邸に住んでいるのだというドクター・マイクロフトだ。
この人物の外見はなかなか印象的だった。
年頃は四十前後だろうか、痩せてはいるが骨格のたくましい大柄な体つきで、浅黒い膚とインクのように黒い髪をしている。
何より印象的なのは顔の右半分を覆っている黒天鵞絨の布だ。
その下には三年前の火事で負った火傷の跡があるのだという。
「ああー―ミス・ディグビーのそのドレスは実にお似合いですな! まるで月光を浴びたひともとの夜の菖蒲のようだ」
唐突に口を挟んできたのは、招かれた紳士方の一人であるエヴァンス牧師。
口約束とはいえジョンとの婚約を一方的に破棄されたらしい気の毒なミス・シシーの父親である。
この人物はマイクロフト医師とは何から何まで正反対だった。
背丈はひょろっと高く、貧相なほど痩せている。首がやたらと長くて、ものすごく少ない金髪を小さい頭蓋骨に張り付けるみたいにぴったりとなでつけている。牧師は明らかにエレンを気に入ったらしく、誰かと会話をしていると必ず口を挟んでは、唐突に詩的な――おそらく本人は詩的だと思っているのだろう讃辞を口にしてくる。
そのたびに、怖ろしいことにエレンの右隣で食事をしているエリザベスお嬢様が、造りだけは可愛い顔を新種のゴブリンみたいに歪めてエレンを睨みつけてくる。ちなみに脚はほぼつねにエレンの向う脛を蹴っ飛ばしている。
「美しい方と言えば――」と、エレンは慎重に切り出した。「ミスター・ジョンはこの頃ご婚約をなさったのですよね?」
万座の沈黙を買ってしまうのを覚悟のうえで訊ねてみる。
意外なことに食卓に気まずい沈黙は訪れなかった。
エリザベスと向き合う席で黙々と食事をしていたジョン・クルーニー当人が、赤い血の滴りそうなローストビーフを切る手を止めて、落ち着いた声で答えてくれたのだ。
「ええミス・ディグビー。今年に入ってすぐに。もしよろしければキャサリンと友達になってやってください。彼女はきっとあなたを気に入ると思います」
ジョン・クルーニーは中肉中背の、どちらかというと不器量な若者だった。
しかし、母親のマライア・クルーニーによく似たとび色の目からは穏やかな優しさと知性が感じられた。
見れば、小さなエリザベスお嬢様は、折角の可愛い顔をくしゃくしゃに歪めて、哀しみの怒りのないまぜにになった表情で、大好きなシシーと分かれてしまった兄を睨みつけているのだった。ジョンは何ともすまなそうな顔でそんな妹を見ていた。
エレンは唐突に不安になった。
--もしかして、わたくし全く見当違いの家に潜入しちゃっている……?
ここで起こっているのはごく普通の恋愛沙汰で、例の護符の事件とは何の関係もないのかもしれない。
それなのにサー・フレデリックまで巻き込んでしまった。
ここまでして何の成果も得られなかったら?
組合からの魔術師としての信用度はどうなってしまうのだろう?
そう思うと、今口にしたばかりのローストビーフが胃の中から逆流してくるような不安を感じた。
怒れるエリザベスお嬢様が相変わらず向こう脛を蹴っ飛ばし続けてくる。
不安を抱えた晩餐がようやく終わってくれると、エレンはそそくさと自室へ戻った。
部屋にはもう蝋燭に燈が入っていた。暖炉の薪はくべ直され、濃いブラウンの厚地のカーテンも引かれている。
エレンは書き物机の前に坐ると、日記帳を広げて「分離」羊皮紙を引っ張り出した。
すると伝言が増えていた。
――無事のお着きでなによりです。僕も個人的に調査を進めています。
今知れたかぎりの結果をお知らせしますね。
同業者たちに聞き込んだところ、被害者は「メイジー」と名乗っていたそうです。
もとは地方の旧家のメイドだと言い、読み書きができることを自慢にしていたそうです。この話に裏付けはありません。取り急ぎご報告を。C・ニーダム
几帳面な筆跡で書かれた調査報告は簡潔ながらも充実していた。
エレンは自分が情けなくなった。
しかし、もちろん返事は書くべくだろう。
エレンは少し躊躇ってから備えつけの羽ペンをとった。
――御知らせありがとうございます。
クルーニー家のメイドの話では、ジョンとミス・シシーは正式の婚約をしていたわけではなかったのだそうです。また、駅の運搬人(ポーター)の話では、シシーの父親のエヴァンス牧師は多少の魔術の心得があるのだそうです。牧師は今日のクルーニー家の晩餐に招かれていましたから、ジョンと娘との婚約の破棄をもうそれほど悪くは思っていないようです。晩餐にはマイクロフト医師も招かれていました。彼は牧師館の隣人だそうです。
そこまで書いたところでエレンはペンを止めた。
羊皮紙がそろそろ一杯だ。
――一度白紙に戻します。必要な情報のメモを取ってください。
書くなり、すぐ下にするすると文字が浮かび上がった。
――分かりました。
エレンは嬉しくなった。
今まさにこのとき、タメシスのどこかでニーダムも「分離」羊皮紙の片割れと向き合っているのだ。
大丈夫よエレン・ディグビー。わたくしは一人じゃない。
自分自身をそう鼓舞し、日記帳の普通の紙面にニーダムからの報告をメモしていく。書き終えてから、
――こちらは終わりました。
と、羊皮紙に書くと、すぐに、
――同じくです。
と返ってきた。
エレンは心の底から嬉しくなった。
「タブラ・ラサ。白紙に戻れ」
羊皮紙の上に掌を翳して命じると、淡い金色の光がぼうっと広がり、書かれていた文字が溶けるように消えていった。
洗面所を覗くと化粧台のうえに錫製の大きな洗面器が据えてあった。まだ熱さを残した湯がいっぱいに入っている。
椅子の上には清潔なリネンのシュミーズと白い柔らかいフランネルの寝間着もおいてあった。エレンは早速着替えると、髪をほどいて顔を洗った。
そしてまたベッドルームへ戻ると、暖炉の焔のなかで一対のエメラルド色の何かがキラキラと輝いているのが見えた。
「サラ!」
エレンは思わず駆け寄った。
「どうしたの?」
「早速報告じゃ」と、火蜥蜴が焔のなかから飛び出し、ブルブルッと体を震わせてから、羽ばたいてエレンの肩にとまった。
柔らかい布ごしに、小さな焼き鏝を押し付けられたような灼熱の痛みが走る。エレンは慌てて全身を魔力の被膜で覆った。
「ジョン・クルーニーは、暖炉の上に置いてあった深緑のガラス瓶から黒っぽい液体を匙に注いで顔をしかめて飲んでおった。手つきからして馴れた様子じゃ」
「……今日初めて飲んでいる様子じゃないってわけね?」
「然様」火蜥蜴が重々しく頷く。「その瓶は銅鑼が鳴る前に執事らしき男が運んできていた。同じ瓶がもともと部屋にあったようでの、空瓶と新しいものを取り換えていたのじゃ」
「なるほどね――」
エレンは頷きながら考え込んだ。
魅了魔術にも様々な種類があるが、最も確実なのは『怠惰な恋の花』と俗称される深紅の三色スミレを絞った液をベースにして、魅了したい側の体の一部――通常は髪の毛か血か爪だ――を加えた魔術薬を定期的に口にさせるやり方だ。
ジョンが毎日飲んでいる何かがあるとなれば、その飲み物に魔術薬が仕込まれている可能性が高い。
――そういえいばこの土地は凝石を産するのだから、そもそも非常に息吹が潤沢なはず。『怠惰な恋の花』を密かに栽培するには、結構良い条件かもしれない……
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