『天燃ゆ。地燃ゆ。命燃ゆ。』中篇小説

第六話

　斯か様ようにして景時は半透明の摩ま訶か般はん若にや心しん経ぎようの文字列となって分裂し躬み自みずからの信仰する天部増長天の肉体に這は入いっていった。景時は四方八方が透明無色となっている増長天の『魂』のなかで精神統一をして増長天の手脚を縦横無む碍げにあやつりはじめる。櫓ろ櫂かい船せん上におりたち界かい隈わいの鹹かん水すいを怒ど濤とうにさせ背後に火か焰えんの円環と鬱うつ勃ぼつと核融合する太陽をかがやかせた増長天はやがて双そう眸ぼうを唐船にむけて咆ほう哮こうした。「平家のおごりもこれまで。帝みかどと神器は源氏の掌握すべきところにあり」と。
　爾じ時じ平家側から轟ごう然ぜんたるひとりの哄こう笑しようがおこった。
　唐船のまえを守護する大船にのった平知盛であった。