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第四話

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 げんりやく二年{一一八五年}三月二十四日。
 れいめい時に源氏勢は壇ノ浦にあらわれた。
 背後からかくやくたる太陽がせんしやくしている源氏側からは平家の軍勢が陽光にてらされてそこはかとなく明滅してみえた。義経はおもった。なみだだ。平家のものらの最期のなみだがきらめいておると。義経の旗艦が先陣をきって源氏勢の配置をととのえんとしたであった。景時のかいせんらしき方角からごうぜんたるこえがあがった。「あの唐船に相違なし。あの唐船にみかどはましますぞ」と。義経はおもった。しまった。みかどまもりなさる船がいずれかなど一目瞭然。それをまっさきにみいしたりとして景時は『先陣をきる』つもりかと。たしかに義経も目撃していた。平家側の大将が搭乗しているはずの大船に加護される陣形で巨大なる唐船がゆらめているのを目撃していた。琥珀色の船体にれいろうたる漆黒の模様がえがかれ黄金色のさんがんたる帆をあげている巨船だ。幾千ものなぎなたや幾万もの弓矢ではごうも傷付かぬほどの偉容である。あの巨船にまもられればみかども安泰とおもっているのであろう。ならばこちらは『たまむすび』でいどむしかない。それも承知のうえで景時は暴走したのである。義経が先手をとられたのも無理はない。『たまむすび』で搭乗したかみがみといえども受肉すれば一柱の生命体である。圧倒的なる多勢に猛襲されればかみがみといえども『死ぬ』ことがある。かみがみへいなされればどうなるか。『たまむすび』で魂をつなげている操縦者も『死ぬ』のである。無論義経もかみがみと『たまむすび』して平家ととうじようせんとおもっていたのだが不慣れな海上戦であるうえに巨万の武士があいたいするいくさである。無駄死にせぬためにも双方の戦術と陣形をみきわめたうえで『たまむすび』するこころづもりであったのだ。
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