23 / 25
第二十二話
しおりを挟む
わたしは跼天蹐地としていた。
羸弱なる心臓は猛烈に脈打っていた。
紅蓮の火焔が魁偉なる颱風状となって界隈を囲繞し大罪人たるユダやブルータスやカッシウスが幽閉されいている地獄の最下層第九圏は第四円において魁偉なる銀蠅の風丰となったベルゼブブの背中から着地したわたしは巍峨たる肉軆を誇示する魔王ルシファーと邂逅したのであった。嘗て茫邈たる天国において最高峰の美貌と権力を掌握していたルシファーの顔貌は地獄の魔王とは揣摩憶測できないほど瑰麗であり双眸は女性のように優艶であったがその肉軆は巨大なる十二枚の翼をふくめ永劫の業火に燃焼されたために紅蓮の筋肉が露呈され驍毅なる鉄鎖によって雁字搦めにされていた。
わたしは澎湃たる霊威に畏怖した。
磅礴たる地獄の魔王たるルシファーは意想外に慇懃なる態度でわたしを歓迎した。幽艶に微笑したルシファーは永劫の業火に猛襲されて疲労困憊しているのか断末魔のような口吻でわたしに物語った。曰くきみに逢えてうれしい。よくぞ此処までわたしたちとの契約を完遂してくれた。これであの現世にはわたしたちの理想とする人間本来の自由と闘争の世界が実現したのだ。天使からの伝達によれば須臾もなくあの神霊はこの地獄や天国ごと全世界を開闢時から復活させようとしているらしい。きみの冀求するところはわかっている。きみときみの恋人とはまた『つぎの世界』で邂逅できるだろう。これだけはわかってほしいのだ。わたしたちは人類を破滅させようとしたのではなく基督の齎した偽善の自由を殲滅し真実の自由を人類にさずけたかったのだ。即ち本当に人類のために闘争したのはあの神霊ではなくこのわたしたちにほかならないということだと。
魔王ルシファーはつづけた。
曰くこれこそが真実なのだと。だからきみとはもう一度契約する。きみはかならずまた恋人と邂逅できる。そのときこそこの記憶を人類のために継承してほしいのだ。そのためにきみには『つぎの世界』でも『この世界』での記憶を髣髴とできるように細工をしようと。跼天蹐地のわたしが鬱勃たる畏怖とともに感謝しようとした刹那磅礴たる地獄が第一圏の『辺獄』から最下層の第九圏まで轟音を響動めかしながら崩壊してゆき巍峨たる魔王ルシファーごと右顧左眄しているわたしも永劫不滅と揣摩憶測されるような暗黒のなかに捲込まれていった。
わたしの羈旅はおわった。
最後に記憶に残っているのはルシファーの微笑であった。
羸弱なる心臓は猛烈に脈打っていた。
紅蓮の火焔が魁偉なる颱風状となって界隈を囲繞し大罪人たるユダやブルータスやカッシウスが幽閉されいている地獄の最下層第九圏は第四円において魁偉なる銀蠅の風丰となったベルゼブブの背中から着地したわたしは巍峨たる肉軆を誇示する魔王ルシファーと邂逅したのであった。嘗て茫邈たる天国において最高峰の美貌と権力を掌握していたルシファーの顔貌は地獄の魔王とは揣摩憶測できないほど瑰麗であり双眸は女性のように優艶であったがその肉軆は巨大なる十二枚の翼をふくめ永劫の業火に燃焼されたために紅蓮の筋肉が露呈され驍毅なる鉄鎖によって雁字搦めにされていた。
わたしは澎湃たる霊威に畏怖した。
磅礴たる地獄の魔王たるルシファーは意想外に慇懃なる態度でわたしを歓迎した。幽艶に微笑したルシファーは永劫の業火に猛襲されて疲労困憊しているのか断末魔のような口吻でわたしに物語った。曰くきみに逢えてうれしい。よくぞ此処までわたしたちとの契約を完遂してくれた。これであの現世にはわたしたちの理想とする人間本来の自由と闘争の世界が実現したのだ。天使からの伝達によれば須臾もなくあの神霊はこの地獄や天国ごと全世界を開闢時から復活させようとしているらしい。きみの冀求するところはわかっている。きみときみの恋人とはまた『つぎの世界』で邂逅できるだろう。これだけはわかってほしいのだ。わたしたちは人類を破滅させようとしたのではなく基督の齎した偽善の自由を殲滅し真実の自由を人類にさずけたかったのだ。即ち本当に人類のために闘争したのはあの神霊ではなくこのわたしたちにほかならないということだと。
魔王ルシファーはつづけた。
曰くこれこそが真実なのだと。だからきみとはもう一度契約する。きみはかならずまた恋人と邂逅できる。そのときこそこの記憶を人類のために継承してほしいのだ。そのためにきみには『つぎの世界』でも『この世界』での記憶を髣髴とできるように細工をしようと。跼天蹐地のわたしが鬱勃たる畏怖とともに感謝しようとした刹那磅礴たる地獄が第一圏の『辺獄』から最下層の第九圏まで轟音を響動めかしながら崩壊してゆき巍峨たる魔王ルシファーごと右顧左眄しているわたしも永劫不滅と揣摩憶測されるような暗黒のなかに捲込まれていった。
わたしの羈旅はおわった。
最後に記憶に残っているのはルシファーの微笑であった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

『百頭綺譚(ひゃくとうきだん)』中篇小説
九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
ファンタジー
西暦一八五九年に誕生した〈あなた〉は百個の頭と百本の腕と百本の脚をもっていた。
リンカーンに百個の名前をもらったあなたは、亜米利加から英吉利へと羈旅し、畸形者サーカス団に入団する。
此処から世界規模の羈旅をしていったあなたは、第一次世界大戦にて〈あの男〉と邂逅する。
〈あの男〉との関係からナチス政権下の独逸へむかったあなたは――。
百個の頭をもった偉人の百年の生涯にわたる大冒険がはじまる。
眠れない夜の雲をくぐって
ほしのことば
恋愛
♡完結まで毎日投稿♡
女子高生のアカネと29歳社会人のウミは、とある喫茶店のバイトと常連客。
一目惚れをしてウミに思いを寄せるアカネはある日、ウミと高校生活を共にするという不思議な夢をみる。
最初はただの幸せな夢だと思っていたアカネだが、段々とそれが現実とリンクしているのではないだろうかと疑うようになる。
アカネが高校を卒業するタイミングで2人は、やっと夢で繋がっていたことを確かめ合う。夢で繋がっていた時間は、現実では初めて話す2人の距離をすぐに縮めてくれた。
現実で繋がってから2人が紡いで行く時間と思い。お互いの幸せを願い合う2人が選ぶ、切ない『ハッピーエンド』とは。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
黎
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる