7 / 59
第七話
しおりを挟む
そこでわたくしは『神』について勉強いたしました。
神は全知全能であり人類を愛していらっしゃる。がときに大洪水をおこしときに酒池肉林の国家を殲滅し最終的には人間を審判して世界を破滅なさるというのです。一家団欒の家庭を喪失し陰陰滅滅たる感慨であったわたくしはおもいました。『神のせいだ。神のせいでわたしの家族は死んだんだ』と。可笑しなことに当時のわたくしはそれでも『神』をしんじていたのです。やがて『神を憎悪』しながらわたくしは糊口をしのぐためにくだんの教会のオルガン弾きにならんと蹶起いたしました。満足なる教育も享受できなかったわたくしは藝をみがいて生活するしかありませんでした。某日の弥撒に教会で『主よ人の望みの喜びよ』を弾いていたときでした。酩酊した浮浪者が一冊のペーパーバックをかかげて教会に闖入してきた。とおもったらこんなふうにさけんだのです。『ツァラトゥストラはおっしゃった。神は死んだのだと』と。わたくしは衝撃をうけながらオルガンを弾きつづけました。『神は死んだのだ』。なんてうつくしい言葉でしょう。弥撒がおわるとわたくしは教会の界隈で泥酔していたくだんの浮浪者をみつけて恁麼の言葉がニーチェの著作に揮毫してあるとしりました。わたくしは爾来図書館にかよって『無神論』者の著作を漁撈することになりました。ニーチェを劈頭としてサルトルやカミュやのちにはドーキンスといった輓近の著作まで渉猟いたしました。天動説が地動説に敗衄した瞬間でした。『神は存在しない』『天国も地獄も存在しない』『『聖書』は出鱈目だ』。なぜこれほど単純明快なる真実に気付かなかったのでしょうか。真実の雷霆をうけたわたくしは教会から遯竄してマンハッタンのレストランの皿洗いをはじめました。わたくしは四十年間真面目に皿をあらいつづけたのです。わたくしはしあわせでした。
神は全知全能であり人類を愛していらっしゃる。がときに大洪水をおこしときに酒池肉林の国家を殲滅し最終的には人間を審判して世界を破滅なさるというのです。一家団欒の家庭を喪失し陰陰滅滅たる感慨であったわたくしはおもいました。『神のせいだ。神のせいでわたしの家族は死んだんだ』と。可笑しなことに当時のわたくしはそれでも『神』をしんじていたのです。やがて『神を憎悪』しながらわたくしは糊口をしのぐためにくだんの教会のオルガン弾きにならんと蹶起いたしました。満足なる教育も享受できなかったわたくしは藝をみがいて生活するしかありませんでした。某日の弥撒に教会で『主よ人の望みの喜びよ』を弾いていたときでした。酩酊した浮浪者が一冊のペーパーバックをかかげて教会に闖入してきた。とおもったらこんなふうにさけんだのです。『ツァラトゥストラはおっしゃった。神は死んだのだと』と。わたくしは衝撃をうけながらオルガンを弾きつづけました。『神は死んだのだ』。なんてうつくしい言葉でしょう。弥撒がおわるとわたくしは教会の界隈で泥酔していたくだんの浮浪者をみつけて恁麼の言葉がニーチェの著作に揮毫してあるとしりました。わたくしは爾来図書館にかよって『無神論』者の著作を漁撈することになりました。ニーチェを劈頭としてサルトルやカミュやのちにはドーキンスといった輓近の著作まで渉猟いたしました。天動説が地動説に敗衄した瞬間でした。『神は存在しない』『天国も地獄も存在しない』『『聖書』は出鱈目だ』。なぜこれほど単純明快なる真実に気付かなかったのでしょうか。真実の雷霆をうけたわたくしは教会から遯竄してマンハッタンのレストランの皿洗いをはじめました。わたくしは四十年間真面目に皿をあらいつづけたのです。わたくしはしあわせでした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

『神々の黄昏』中篇小説
九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
SF
軍人たちが『魂魄接続』によって戦闘機ではなく『神神』を操縦して戦っているもうひとつの第二次世界大戦末期。
亜米利加教国は爆撃天使ラファエルとウリエルをもちいて広島と長崎に『天罰』をくだした。
つぎの目標は新潟とされる。
『撃墜王』金城浩樹太尉はスサノオノミコトを操縦して爆撃天使ミカエルを討たんとするが敗北し新潟市に『天罰』がくだされる。――。
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

『百頭綺譚(ひゃくとうきだん)』中篇小説
九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
ファンタジー
西暦一八五九年に誕生した〈あなた〉は百個の頭と百本の腕と百本の脚をもっていた。
リンカーンに百個の名前をもらったあなたは、亜米利加から英吉利へと羈旅し、畸形者サーカス団に入団する。
此処から世界規模の羈旅をしていったあなたは、第一次世界大戦にて〈あの男〉と邂逅する。
〈あの男〉との関係からナチス政権下の独逸へむかったあなたは――。
百個の頭をもった偉人の百年の生涯にわたる大冒険がはじまる。

『天燃ゆ。地燃ゆ。命燃ゆ。』中篇小説
九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
SF
武士たちが『魂結び』によって『神神』を操縦し戦っている平安時代。
源氏側は平家側の隠匿している安徳天皇および『第四の神器』を奪おうとしている。
斯様なる状況で壇ノ浦の戦いにおよび平知盛の操縦する毘沙門天が源義経の操縦する持国天に敗北し平家側は劣勢となる。
平家の敗衄をさとった二位の尼は安徳天皇に『第四の神器』を発動させるように指嗾し『第四の神器』=『魂魄=こんそうる』によって宇宙空間に浮游する草薙の剱から御自らをレーザー攻撃させる。
安徳天皇の肉体は量子論的にデコヒーレンスされ『第四の神器』は行方不明となる。
戦国時代。わかき織田信長は琵琶法師による『平曲』にうたわれた『第四の神器』を掌握して天下統一せんと蹶起する。――。

ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる