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第二十三話
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界隈の国民たちも躬自らの腹部を確認する。
壮年のいわく「『國民総動員』がかかったときに手術したこれかい」と。金城しのぶは壮年の腹部を凝視してこたえる。「はい。神軍は盧溝橋の事件ののち『万一』国民総決戦の時宜がおとずれることを予測して嬰児から老人までわたくしたちすべてに手術をほどこしました。息子が然様に申しておりました」と。壮年は顔面蒼白となってつぶやく。「ってことはおれたちは死ぬってがあか」と。金城しのぶは憂鬱鬱勃たる顔貌で沈黙している。須臾の静寂が響動めく。やがて金城しのぶと壮年との会話を傾聴していた界隈の国民たちからつぎつぎにこえがあがっていった。「そうだ。おれたちは死ぬんだ。神國の名誉を永遠たらしめるために」「神國は負けねえ。おれたちの『命』をかけて亜米利加をびっくりさせてやろうじゃねえか」「神風だ。神様が蒙古から日本を御守りくださった御礼に今度はわれわれが神風となるんだ」「神と神との一騎打ちだ。『どちらが本統の神を信じているのか』わからせてやれ」――。
金城しのぶは義母と荷物を載せた荷車をひいていった。
金城しのぶの両の頬を透明無色の涙がつたわっていた。
壮年のいわく「『國民総動員』がかかったときに手術したこれかい」と。金城しのぶは壮年の腹部を凝視してこたえる。「はい。神軍は盧溝橋の事件ののち『万一』国民総決戦の時宜がおとずれることを予測して嬰児から老人までわたくしたちすべてに手術をほどこしました。息子が然様に申しておりました」と。壮年は顔面蒼白となってつぶやく。「ってことはおれたちは死ぬってがあか」と。金城しのぶは憂鬱鬱勃たる顔貌で沈黙している。須臾の静寂が響動めく。やがて金城しのぶと壮年との会話を傾聴していた界隈の国民たちからつぎつぎにこえがあがっていった。「そうだ。おれたちは死ぬんだ。神國の名誉を永遠たらしめるために」「神國は負けねえ。おれたちの『命』をかけて亜米利加をびっくりさせてやろうじゃねえか」「神風だ。神様が蒙古から日本を御守りくださった御礼に今度はわれわれが神風となるんだ」「神と神との一騎打ちだ。『どちらが本統の神を信じているのか』わからせてやれ」――。
金城しのぶは義母と荷物を載せた荷車をひいていった。
金城しのぶの両の頬を透明無色の涙がつたわっていた。
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