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第十九話
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神國科學軍将校は沈黙する。
大日本神國神軍大本営では今上裕仁陛下御前の会議がひらかれていた。瑰麗なる金箔で装飾された瀟洒なる模様つきの壁面に四方八方を囲繞された大本営会議場には清穆なる錦繡でおおわれた『コ』の字型の机が設置されており神軍各方面の将校以下の錚錚たる軍人が出席していた。貔貅たる将校等のとなりには絢爛豪華なる竜虎図の描破された琥珀色の屏風を御前にして神聖冒瀆すべからざる今上裕仁陛下がなかば虎視眈眈たるふうになかば明鏡止水たるふうに現人神としての霊威を誇示して御椅子に鎮座なされていた。神國科學軍将校の沈黙を蹂躙するかたちで神國陸軍将校が巍然と発言する。「『のでありますから』からなんだというのだ。『国民全員が受信機関を埋込んでいる』とどうなるというのだ」と。神國陸軍将校の言葉をついで神國海軍将校が滑瓢として発言する。「まさか『総動員法二十二条』を発令するというのではないでしょうね」と。陛下の御前にて神聖なる雰囲気に囲繞されていた会議室に殷賑たる觳觫のこえがひろがる。しばらくして静謐となると真摯きわまりない顔貌で神國科學軍将校が発言をつづけた。「さようで厶います。『総動員法二十二条』『神州日本神國ニ存亡ノ危機アラバスベテ國民ノ生命ハコノ壅塞阻止ニ動員サルルコト』であります」神國海軍将校が激昂する。いわく「神國の鎮護のために神國国民全員を犠牲にするなど愚の骨頂でありましょう」と。つづけて神國陸軍将校が毅然と発言する。「そもそもだよ。この大東亜聖戦の総力戦におよんでわれらが日本列島の神神はほとんど鏖殺されてしまったのだ。キュウビのキツネ数千柱をのぞいて戦闘機となられる神神のうち現存なさっているのは天津神国津神の数十柱のみではないか」と。神國科學軍将校はこたえる。「これは『古事記』にも『日本書紀』にも揮毫されていないのですが日本列島各地には『日本列島そのものが一柱の龍神様である』という神話がのこっております。『龍神様が大地となられたがゆえに日本列島は龍神のかたちをしている』という『九頭龍大明神』の伝説であります」さすがに超然としていた神國陸軍将校も机を打擲して激怒する。「貴様。『日本国民全員で日本列島と魂魄接続する』とでもいうのか」と。神國科學軍将校は双眸をつぶってこたえる。「さようであります。『全日本国民で日本列島を操縦し亜米利加教国へ特攻する』わけです」と。神國科學軍将校は双眸をひらいて今上裕仁陛下に最敬礼をしてたずねた。「陛下。日本が消滅しようとも日本人のちからで邪宗門の亜米利加教国を斃せたとなれば日本の名前は永遠に歴史に刻まれます。このままでは『最後の審判』によって日本はむなしく滅亡するのみであります。どうか。どうか。どうか。陛下。御英断くださいませ」と。
今上裕仁陛下は沈黙している。
やがて陛下は『お答え』になられた――。
大日本神國神軍大本営では今上裕仁陛下御前の会議がひらかれていた。瑰麗なる金箔で装飾された瀟洒なる模様つきの壁面に四方八方を囲繞された大本営会議場には清穆なる錦繡でおおわれた『コ』の字型の机が設置されており神軍各方面の将校以下の錚錚たる軍人が出席していた。貔貅たる将校等のとなりには絢爛豪華なる竜虎図の描破された琥珀色の屏風を御前にして神聖冒瀆すべからざる今上裕仁陛下がなかば虎視眈眈たるふうになかば明鏡止水たるふうに現人神としての霊威を誇示して御椅子に鎮座なされていた。神國科學軍将校の沈黙を蹂躙するかたちで神國陸軍将校が巍然と発言する。「『のでありますから』からなんだというのだ。『国民全員が受信機関を埋込んでいる』とどうなるというのだ」と。神國陸軍将校の言葉をついで神國海軍将校が滑瓢として発言する。「まさか『総動員法二十二条』を発令するというのではないでしょうね」と。陛下の御前にて神聖なる雰囲気に囲繞されていた会議室に殷賑たる觳觫のこえがひろがる。しばらくして静謐となると真摯きわまりない顔貌で神國科學軍将校が発言をつづけた。「さようで厶います。『総動員法二十二条』『神州日本神國ニ存亡ノ危機アラバスベテ國民ノ生命ハコノ壅塞阻止ニ動員サルルコト』であります」神國海軍将校が激昂する。いわく「神國の鎮護のために神國国民全員を犠牲にするなど愚の骨頂でありましょう」と。つづけて神國陸軍将校が毅然と発言する。「そもそもだよ。この大東亜聖戦の総力戦におよんでわれらが日本列島の神神はほとんど鏖殺されてしまったのだ。キュウビのキツネ数千柱をのぞいて戦闘機となられる神神のうち現存なさっているのは天津神国津神の数十柱のみではないか」と。神國科學軍将校はこたえる。「これは『古事記』にも『日本書紀』にも揮毫されていないのですが日本列島各地には『日本列島そのものが一柱の龍神様である』という神話がのこっております。『龍神様が大地となられたがゆえに日本列島は龍神のかたちをしている』という『九頭龍大明神』の伝説であります」さすがに超然としていた神國陸軍将校も机を打擲して激怒する。「貴様。『日本国民全員で日本列島と魂魄接続する』とでもいうのか」と。神國科學軍将校は双眸をつぶってこたえる。「さようであります。『全日本国民で日本列島を操縦し亜米利加教国へ特攻する』わけです」と。神國科學軍将校は双眸をひらいて今上裕仁陛下に最敬礼をしてたずねた。「陛下。日本が消滅しようとも日本人のちからで邪宗門の亜米利加教国を斃せたとなれば日本の名前は永遠に歴史に刻まれます。このままでは『最後の審判』によって日本はむなしく滅亡するのみであります。どうか。どうか。どうか。陛下。御英断くださいませ」と。
今上裕仁陛下は沈黙している。
やがて陛下は『お答え』になられた――。
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