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第十五話
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金城浩樹は走馬燈をみた。
金城大尉は自分の『誕生』からの記憶を回顧していた。これは本統におれなのか。金城浩樹はたしかに『金城浩樹』であったが金城浩樹の人生は『この膜宇宙』の人生ではなかった。『もうひとりの金城浩樹』は二十世紀後半に神聖冒瀆すべからざる日本列島の僻陬新潟にて誕生した。恁麼の日本は『大日本帝國敗戦後三十四年』であった。『敗戦後三十四年』だと。そんな破家な。日本神國は敗衄などしていないし未来永劫五百万億塵点劫をけみしようとも宿敵たる連合国軍に敗北などするはずがない。これは『嘘』だ。これは『贋』の日本だ。これは『幻』の神國だ。否。まてよ。神國大學爾時に仄聞したことがある。滑瓢とした変梃な博士がいっていたはずだ。独逸の物理学者マックス・プランク博士を肇始とする量子力学を敷衍すると『宇宙は多数存在して』いて『われわれひとりびとりの人間も多数存在して』いてもおかしくないらしい。つまり『この金城浩樹』は『ほかの宇宙におけるおれ』なのだろうか。もうひとりの『金城浩樹』は一九八四年に浄土真宗の檀家である家庭に誕生し堯風舜雨の戦後日本にて義務教育を享受したのちに故郷の零細鉄工所に勤務しながら小説家を目指していたが賀川豊彦の『死線を越えて』三部作を瀏覧したことから基督教原理主義に目覚め基督の『教え』に悖理した天皇制を厭悪し過激派共産主義者の傍輩となって『おれの力で日本人に戦争責任をとらせてやる』という狂気に憑依されていた。『金城大尉』は焦燥感鬱勃となる。やめろ。やめるんだもうひとりの『おれ』よ。
天皇陛下に戦争責任などない。
すべてはおまえの妄想だ――。
金城大尉は自分の『誕生』からの記憶を回顧していた。これは本統におれなのか。金城浩樹はたしかに『金城浩樹』であったが金城浩樹の人生は『この膜宇宙』の人生ではなかった。『もうひとりの金城浩樹』は二十世紀後半に神聖冒瀆すべからざる日本列島の僻陬新潟にて誕生した。恁麼の日本は『大日本帝國敗戦後三十四年』であった。『敗戦後三十四年』だと。そんな破家な。日本神國は敗衄などしていないし未来永劫五百万億塵点劫をけみしようとも宿敵たる連合国軍に敗北などするはずがない。これは『嘘』だ。これは『贋』の日本だ。これは『幻』の神國だ。否。まてよ。神國大學爾時に仄聞したことがある。滑瓢とした変梃な博士がいっていたはずだ。独逸の物理学者マックス・プランク博士を肇始とする量子力学を敷衍すると『宇宙は多数存在して』いて『われわれひとりびとりの人間も多数存在して』いてもおかしくないらしい。つまり『この金城浩樹』は『ほかの宇宙におけるおれ』なのだろうか。もうひとりの『金城浩樹』は一九八四年に浄土真宗の檀家である家庭に誕生し堯風舜雨の戦後日本にて義務教育を享受したのちに故郷の零細鉄工所に勤務しながら小説家を目指していたが賀川豊彦の『死線を越えて』三部作を瀏覧したことから基督教原理主義に目覚め基督の『教え』に悖理した天皇制を厭悪し過激派共産主義者の傍輩となって『おれの力で日本人に戦争責任をとらせてやる』という狂気に憑依されていた。『金城大尉』は焦燥感鬱勃となる。やめろ。やめるんだもうひとりの『おれ』よ。
天皇陛下に戦争責任などない。
すべてはおまえの妄想だ――。
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