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第4話

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 応援やら掛け声やらで騒がしいグラウンド。それとは相対的に、まるでそこに人が居るのが嘘のように静かな一つの部室。そんな部室の中で二人の男女が机に置かれた一台のノートパソコンと、睨めっこをしていた。

 その液晶には『GAME OVER』と表示されており、その画面に満足している男と、全くと言っていいほど満足の欠けらも無い顔をする女がいた。

 男は自信たっぷりの顔で、
「こんなゲーム作ってみたんだけどどう!? 良くないかな!?」

 と女に語るが、女は、
「良くないわよ」

 間髪入れずに一蹴した。続け様に、女は愚痴る。

「まず学校を選ぶのが制服だけと言うのが意味不明、高校生にもなって『♡さつきのへや♡』って看板痛すぎ、妹の性格暗すぎだし、私妹いないし、そもそもなんで私が主人公なのよ。通学路で道に迷って通り魔に刺されるのなんてもっとありえない。それになによ『狂気な凶器』って、寒すぎるにも程があるわよ」

 マシンガントークの如く愚痴を連ねる女は――そう、先程までゲームの主人公として登場していた〝桐生 皐月〟だ。

 そして、その暴力的なまでの言葉の数々に当てられて部室の隅で丸くなっている彼は、このゲームの製作者である、〝新堂 優〟だ。

 ゲームの皐月と現実の皐月は全くと言っていいほど別物で、まず皐月自信が言っていた通り、皐月には妹がいない。そしてこれは言わなくてもいいかもしれないが、お父さんもおらず、母子家庭の二人暮らしだ。さらには、皐月は方向音痴でもなんでもないため、登校初日だろうがなんだろうが道に迷わず、普通に登校し、普通に授業を受け、普通に学校に通い、普通に三ヶ月が経った。

 最初の一ヶ月が終わる頃に、普通すぎてつまらないと思い行動に出たが、部活に入るくらいしか思い浮かばず、今所属している部活――青春部などと馬鹿げた部活に参加している。参加してはいるが、これと言って青春らしい事は一つもしておらず、ただ部のメンバーの溜まり場となっているだけだった。まぁそれも青春らしいといえば青春らしいのだが――。

 問題はそれだけではない。まずこの部活――青春部には、メンバーが二人しかいない。そして、部長であるこの男、新堂 優は青春を知らない・・・・・・・。青春を知ってみたいから青春をするという考えは大いに結構、大変喜ばしいことではある。が、しかし青春を知らずしてどう青春するのかという問題である。

 この部活に入ったメリットとしては、放課後、家に行くのも教室にいるのも嫌な時、部室ならゆっくりとした時間を過ごせるのでとても便利な点と、顧問が優しいという点だ。しかし先生はいつも忙しいのであまり部活の面倒は見にこない。そもそも見る必要が無かったりもする。

 ただそれだけではなかった……一番の問題は、この女、桐生 皐月の本当の入部理由だ。皐月の入部理由、それはつまらなかったからなどではなく――優に惚れているからである。

 そしてまた、優も同じく――皐月に惚れてしまっている。

 二人はまだ知らない。片想いだと思っている恋が、実は両想いだったなんて。

 さあさあこの青春部、どう転がるか――!?
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