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第3話

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 春の暖かい風に乗って、空中に舞ったのは桜吹雪。地を彩るように飾られた桜色の花弁も目に映れば、人々の肩や頭にしがみつき、まるで自らアクセサリーのような仕事をしようとする桜の花弁も、皐月の瞳を彩った。

「桜、綺麗に咲いたねえ」

 通学路を歩きながら、皐月は感慨深く呟いた。数日前までは咲芽を待ち、様子を伺っていた桜の木も今ではその姿態を存分に魅せ付け、人々を惹き付けている。

 皐月の言葉に反応し、心陽も頷く。

「じゃあ、私こっちだから」

「ん……。頑張って友だち作ってね」

「ありがと! 心陽も頑張ってね!」

 心陽に応援され、にやけるような笑みがこぼれるが、すぐさまいつもの笑顔に戻す。

 そうだ。ここは学校の通学路。もしかしたら同級生に見られてしまうではないか。登校初日にそんな姿を見られては恥晒し――いや黒歴史物だ。

 そんな失態は犯すまいと、皐月は気を引き締め、止まっていた足を動かす。

 そんな皐月の様子を伺っている影が一つ。皐月は気付かない。

 数分歩いていると、人通りの少ない道路に出た。見たことのない景色だったばかりに、道に迷ったのかと焦るが、安心した。スマホの地図アプリを使えば迷ったとしても確実に目的地に辿り着ける。そう思って皐月は鞄の中から自分のスマホを取り出そうとする――が。しかし、いつまで経ってもスマホが皐月の手に触れることは無く、中身を覗いてもその目にスマホが映ることは無かった。

「ここで止まってても仕方ない⋯⋯今来た道を戻ればきっと大丈夫なはず」

 誰がいるわけでもないのに、一人ではないと安心するために皐月は一人でそう呟き、道を戻ろうとしたが――とても残念な事に、皐月は今来た道を覚えてはいなかった。

「あぁどうしよう! 始業式遅れちゃったら黒歴史だよ! なんなら登校初日から道に迷っちゃったのも黒歴史だよ! どうしよう――」

 一人で焦る皐月の背後に、ゆらゆらと近付くもう一人の影が映る。その手にはギラりと鋭く光る出刃包丁。圧倒的なまでの殺意を纏うその狂気な凶器に反応して、皐月は後ろを振り向いた。

 音も無く背後に立たれていた事に対しての驚きと、その目に映った鋭い刃物に対する驚きで、皐月は尻餅を付いてしまった。

「ふ、へへ。かわいぃなぁ……かわぃぃぉんなこだなァ」

 と、ニタニタと笑い歩み寄る男。
「ひぃっ」

 恐怖に支配され、身動きが取れない皐月。
 まるで今から刺すぞと言わんばかりに、男は包丁を皐月に向けた。

 そして、男は肩を大きく振り上げ、徐に皐月の心臓を貫いた。

 生々しくグロテスクな音と共に、皐月は息を引き取った。
 
 『GAME OVER』
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