妹は欲しがりさん!

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妹は欲しがりさん!

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そう、わたくしの婚約者を妹に譲れ、と。
ええ、よろしくってよ。
昔っからそうですものね。
わたくしのお下がり。中古品。使い古し。そういうものをやたらめったら欲しがってぐずる子供でしたものね、いえ、それは今もそうですけれど。
恐らく婚約者も欲しがって暴れるのだろうと分かっておりましたので、特に交遊もしていませんからご自由に。

え?悪し様に言いすぎだ?
何をおっしゃいますの、事実ではありませんか。
あの子がわたくしのものをずるいずるいと言って強奪していくのは随分昔からのことでございましょう?
おかげであの子、サイズ違いな上に似合ってもいないドレスを嬉しそうに着込む異常者だと評判でしてよ。

わたくしは金髪青目、あの子は茶髪に緑の目なのですから、似合うドレスは全く違うのはお判りいただけますかしら。
それに、護身術として体術を嗜むわたくしと、庭にさえ滅多に出ないあの子とでは、身長も体格も何もかも違うでしょう?
しかも年齢だって二つ違うのですよ。
それを姉から強奪して着込むものですから、ちぐはぐで裾もだらしなく床や地面に接していて汚らしいのです。
だからあの子の友人は少ないし、その数少ない友人も侯爵家の威光を考えての腰巾着でしかありませんの。
どうしてその程度をご存じないの?


はあ。わたくしが悪い、ですか?
何が悪いのです?
妹には何もかも恵んであげておりましたし、妬ましく思う機会が少ないように、屋敷の中でも顔を合わせぬようにしておりました。
お父様やお母様の方針も邪魔をしていないでしょう?
妹が可愛いからと甘やかしてつけあがるのに干渉したこともございませんし、手癖悪くあちこちに忍び込んでは高価な品を盗んでいるのも、密告するのではなく正々堂々と盗んだ品を取り返して元々の持ち主に事情をお話して返品しておりますわ。

え?ええ。
よそのおうちでも、ずるいと思えば勝手に持ち出してしまって。
持ちだしたら満足して忘れてしまうものだから、侍女たちには行動記録と共に増えた物品のリストアップもさせていましたが。
お父様やお母様も新しく買った物品がある日消えていること、多いのではなくて?

去年の建国祭にお父様が陛下より賜った万年筆。あれ、あの子が盗んで、一度二度使ったところで飽きたようですわ。
お母様がおばあ様から形見分けをされた真珠のブローチ。あれもあの子が盗んで部屋の中で自慢げにつけていたようですわ。

こちらは家族のものなら放置するのが正解だと判断したので特に返品しておりません。
わたくしは恵む以上にモノを渡すつもりがありませんので、飽きて忘れたところで返却させておりますわ。


なぜ教えなかったって……え、何度か申し上げましたけれど。
その度に、


「エリーゼはお前が大好きだからやってしまうんだ、悪いことじゃないから許しておあげ」


そうおっしゃられたので。
あの子にとって盗むことや恵んでもらうことは愛情表現ということなのでしょう?
その発想はまったく理解できませんけれど、お父様がたは理解できるようなので、そのように従っただけです。

ただ、手癖の悪い娘であることは違いないので、他家に関してはわたくしが誠心誠意謝罪し、あの子には関わらぬようにしたほうがよいとご忠告申し上げましたわ。
この三年ばかりあの子が屋内での催しに呼ばれないのはそういうことだったのですけれど。
庭での催しでしたら、他の部屋に盗みに入れないでしょう?
手洗いとて道案内として侍女や女騎士がつけられていましたから、余計に。
おかげでわたくしも頭を下げなくて良くなってほっとしておりますの。


それで、わたくしの婚約者を譲る話でしたわね。
平民になってでも貫きたい愛なのでしたら、どうぞご存分に。

え?

わたくしが婚約者だから次男でも跡取りになれるのであって、あの子が婚約者になるのでしたら双子の兄である長男の方が跡継ぎになりますわ。
どちらも能力に優劣なく育ってしまったので、次に考慮されたのは婚約者の出来だったのですよ。

けれどあの子は優秀ではございませんでしょう?

帳簿の見方も知らなければ嫁ぐ領地の知識もなく、ならばもちろん周囲の領地についても知識はありませんね。
流行についてもわたくしの後追いをしておりましたから自分で流行を掴むこともなく、出来るのは……そうねえ、あの子は確かバイオリンが得意だったかしら?ならば音楽だけですわね。
それに関しても別にあの子でなくてもよろしくてよ。
わたくし、ハープとピアノが得意ですの。


まあ、もうあちらの家との話し合いも済んでおいでだったの?
ではあちらも見放したということで、あの子に分けてあげる財産目録を作ったほうがよろしいのでは?
ただし、お兄様が良いと言えばですけれど。

え?お兄様も被害者ですけれど。

お兄様だけずるいずるいと取り寄せた馬やら最新の万年筆やら、挙句の果てには奥様から送られた栞まで盗もうとしたとか。
お兄様は暴力で躾ておいでだったけれど、お母様もお父様もそこはご存じないのね……まあ、言えばもっと痛くするとおっしゃっていたそうですが。
あざや傷跡を残さずに痛めつける方法などたくさんありますものね。
お兄様は拷問本を読んで学んだそうですわ。頼もしいこと。

残虐趣味!?まあ、なんてことをおっしゃいますの?
お兄様は、本能的な部分で分からせないといつまでも分からないと考えに考え抜いて、学ばれたにすぎませんわ。
決して自分の趣味や嗜好で拷問本を手に取ったのではありません。
エリーゼが嫁いでも困らぬよう、ニンゲンとして当たり前の言動を取れるようにと、心を鬼にした結果ですのよ。
その甲斐もなく、お兄様は拷問魔法だけじゃなく癒しの魔法も覚えてあれこれ試しておられましたけれど。


どこでやっていたのかって……地下室ですけれど。
え、お父様がたはご存じないの?
防音性能がとってもよいので、躾部屋か何かとして設計されたのだと思います。
おかげでエリーゼがどれだけ泣き叫んでも分からなかったでしょう?
体を拘束する道具も古いものでしたが残っておりましたので、助かりましたわ。
お茶の入ったカップより重たいものを持ったことがない子でしたから、本気で暴れたところで……ね。
成人男性を想定して作られたらしい道具は古びていても令嬢くらいなら拘束できるのねえと感心したものです。


その場にいたのか、って。いましたわ?
もう、どうしてそんなにお聞きになるの?
お父様がたもエリーゼの教育をする気になりましたの?
でしたらお兄様の方が詳しくってよ。わたくしは失禁したあの子の後始末など、女手として参加していただけですもの。
筋肉や骨には影響のない程度の力加減はわたくしも知りません。

違う?
じゃあ、なぜ?



よく分かりませんわ。
どこからでもずるいずるいとものを盗む卑しい性根のあの子を、どうして躾てはいけませんの?


そういうわけですので、あの子の未来は定まりましたし、お父様とお母様もそろそろお覚悟なさったほうがよろしいのでは?
もちろんお兄様が当主となるからですけれど、なぜご自分たちが安穏とした隠居生活をできると思ってらっしゃるの?
それに……今日、お兄様が二十歳の誕生日だってこと、やっぱりお忘れでしたのねえ。
何年前でしたかしら、魔法契約で、お兄様が二十歳になった際には当主の座を明け渡すことになさったそうで。
その時の書類をお兄様はそれはもう厳重に守っていらっしゃったのです。

はい。お兄様が外出なさったのは手続きのためですわ。
お父様もお父様ですよ、執務室にぞんざいに当主印をほったらかしておられるから……。
ええ、当主印の廃棄手続きと新たな当主印の準備で手間取っておられるだけですわ。
それ以外はサインもされている書類ですもの、受付で確認されておしまいです。
当主印も別段注文を多くしなければそろそろ……ああ、今、門が開きましたわね。


お父様、お母様。
わたくしを人質にしても無駄ですわ。
お兄様には個人的に雇った元傭兵の騎士がおりますのよ。
ですから……ああ、もう遅いかも。




あなた!ガラス窓は高級だから割ってはならないじゃないですか、大事な資産ですのよ!
いえ、助かりましたけれども!

全くもう、あの二人は運動もしておられないのですし、ちょっと掴まれた程度なら逃げ出せましたのよ。
見た目が儚げだからといって、まったく何も出来ないわけじゃ……いえ、震えてなどおりませんわ。

あ、お兄様。無事手続きはお済みに?
よかったこと。

ねえお兄様、わたくしの次の縁談はお兄様も一緒にお考えになってね。
もちろん、お義姉様も。
お二人が一緒ならわたくしも変な過ちは犯さないと思っておりますの。
ですから、ええ。
ささやかに欲しがりさんでいらえる方の妹に、どうぞ程好く幸せになれそうな縁を恵んでくださいましね。


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兄「大きい方の妹は腹黒くて、小さいほうの妹は強欲すぎて、普通の感性の嫁さんがありがたすぎてしんどい」
兄嫁「施設に入れりゃいいのに入れなかった旦那も正直ちょっと怖い」
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