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第一世界 2章 魔国編
27,実技試験③
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「『魔神化』」
そう呟くように一言唱えると身体が内から造り変わっていく。そしてその感覚が収まると戦闘で負った傷や疲労が全て癒えていく。さらに底が見えていた魔力が全快した上総量が跳ね上がったのがわかる。
「『降神装・陽炎』」
そして魔神化による変化の終了と共にさらに別のスキルを呟く。その瞬間身体を炎が覆い、それが消えると和装へと着ていた服が変化する。
「『神剣召喚:神焔剣』」
「『神剣召喚:叢雲剣』」
最後に元はこの世界で獲得した最初のスキルである神焔剣と悠灯と再会して獲得した叢雲剣の二振りをを両手に持ち金と銀の炎を纏う。
「『炎天下』」
身体から噴出する金と銀の炎を制限が1段外れたことで増加した魔力を持って力ずくで無理やり押さえつけて纏う。さらに風神雷神や自己改造も重ねることで今の限界まで自身を強化する。
ここに全ては整った。周囲の被害?事後処理?後々の面倒事?もちろん全部学園長に丸投げするつもりだよ。
そして魔神化から今までずっとなにもしてこなかった学園長が再び口を開いた。
「ほぉ、ようやく本気になったってことか。こうなったらうちも少し本気出すしかないわ」
・・・・・・あぁ、まだ本気ではなかったと。まだ先があるのか……でもだからといって負ける訳には行かないな。ここで勝つか引き分ければ他国から来た学生がネロと悠灯に近寄るのを抑止できるだろうし。そうすれば学園でもある程度は普段通りに関われるはず。
ん?なんか詠唱始めてない?個人的に長文詠唱って大抵ヤバいやつだって認識があるんだけど?
「『天にまします我が神よ』」
「『どうかこの身をご覧あれ』」
「『未だこの身は極みに在らず』」
「『しからば我は高みを目指し牙を研ぐ者』」
「『今ここにこの身は修羅と成ろう』」
「『そして我は極みへ至り』」
「『我が拳は障害の一切を打ち砕かん』」
「この身はここに1度神へと至る━━━『闘神化』」
はぁ……まじかよ。まさか神化まで使えるとは。本格的にこの世界で戦闘を生業にしてる人は戦闘能力がおかしいって説が有力になってきたな。
一応これでも僕はソロで迷宮踏破できる実力はあったんだけどなぁ……それでも学園長相手の状態では制限かかって弱体化してるとはいえこれまで一方的にフルボッコにされてた……そして各種スキルで限界まで強化して倒そうとしたら相手も同じように強化する。
神化した彼女は僕が魔神化した時や奈落に落ちる直前に振るった神気を纏っておりさらにその山吹色をした神気は手足にほとんどが集中している。
「さて、それじゃあ死合おうやっ!」
その言葉が言い終わらないうちに先程までとは比べ物にならない速度で跳躍し突っ込んでくる。だけど魔神化でステータスが全て引き上がっている上風神雷神の副作用で肉体全てが活性化しているため少し反射神経や動体視力が上がっている。元の上昇率は少なくも元の身体能力が大幅に強化されている今なら普通の強化スキルと同倍率くらいには強化される。
そのおかげで余裕は無いけどなんとか攻撃を回避し打ち合うことが出来ている。だけどこれはあくまで全盛期の頃のバフだから今の身体じゃ持たない。四肢が時間が経つ事に焼け焦げ炭化し崩れ落ちていくが吸血鬼の化け物じみた再生力によってそうなった端から即座に再生していく。
実際今もこの再生力のおかげでなんとか殴り合いが出来ている。だけど神化だけの身体能力は圧倒的に負けてるからこのままだといずれ魔力が切れて押し負ける。ていうかこっちは素手じゃなくて神剣を持って拳に当ててるのに打ち合えてるって言うのがそもそもおかしいんだけどさ。
ここらで互いの切り札を撃ち合って勝負を決めるしかなさそうだな。だけどそのためにはまず一度距離を離す必要がある━━━━
「『爆ぜろ』!!」
そう唱えると僕と学園長の間で爆発が起こる。互いにただの小規模爆発程度ではダメージにならないが僕はこの爆風を利用して距離を離すことに成功した。
さて、残り魔力の九割以上、通常時の魔力換算で最大値の六割を消費して魔法を放つ。右腕を剣を握ったまま頭上へ掲げ詠唱を始めよう。
「『汝我らが祖なる大神より生まれ落ちし焔の子』」
「『其は邪悪に抗う者なり』」
「『其は永劫を拒絶し完全を否定する者なり』」
「『これよりここに顕すは神代の災禍の再演』」
「『我が魂を焔へ焼べあらゆる不滅を焼却せよ』」
「天上天下、等しく一切灰燼と帰せ━━━━『火之迦具土』」
魔法の試験で使ったのと同じ魔法だが込められた魔力は段違い。そして形成されたものは太刀では無く渦を巻く炎で形作られた馬上槍。それが頭上で渦巻く炎によって作り出されさらに新たに湧き出る炎もそれに取り込まれていく。
その時学園長の方からもまた詠唱が響く、
「『永きに研ぎしこの爪牙』」
「『万を切り裂き噛み砕かん』」
「『この身は既に極みに在りて』」
詠唱完了を待たず最後の一片まで取り込まれ限界まで熱量を高めた槍は先端を眼前へと向ける。
もう後はこの腕を前へ下ろせばその瞬間この槍は放たれる。
「『なればこの拳にかけて』」
「『我が敵の尽く討ち滅ぼさん』」
学園長の口から術名が告げられるより前に槍を放つ、
「灼き穿て━━━ッ『破却之紅槍』」
腕を下ろしそう呟くと同時に槍は放たれた。そして放たれるのとほぼ同時に最後の一言が告げられる。
「撃ち抜け━━━━『乾坤一擲』」
山吹色のオーラが片腕へ集中しそのまま繰り出されるは絶対的な破壊の暴威。拳から撃ち出された神気の渦と神殺しの逸話を持つ神の名を冠した魔法によって作られた炎槍が激突する。
そしてそれは互いに拮抗した後弾け周りに炎と衝撃、熱風を撒き散らした。
倒しきれはしなかったが問題ない。衝撃や熱から身を庇う学園長の意識から一瞬でも僕が外れればいい。両手に持っていた神剣のうち叢雲剣の召喚を解除、それによって召喚維持に必要な魔力が減ったことで消費した魔力の回復速度が上昇、魔法によるバフや発動に魔力が必要な強化はほとんど解除された。だがもうそれは必要ない1割弱回復した魔力を脚力の強化に注ぎ込み一気に駆け抜ける。
「ッ!?」
剣の間合いに入った瞬間気づかれたけど今なら殴られるより剣で斬る方が早い。
「『顕幻』『幻影置換』」
切りつける直前に学園長が小声でなにか呟くと僕の後ろにまるで分身したかのようにいきなりもう1人の学園長が現れた。だが僕はそのまま元いた学園長を思い切り斬りつけた。
「なっ?!」
しかし、確かに今斬ったはずなのに何かを斬ったという感覚も斬るときの抵抗も感じ無い。なんの抵抗もなく剣は体を抜けていった。
「ふぅ、危ない危ない。幻術は狐族の十八番やからなぁ。それじゃあこれで終いや」
「『狐火よ集いて照らせ』━━━『百火鬼灯』」
短文詠唱にも関わらずその火力は絶大でこれが本当の切り札だと言わんばかりに先程1度使い切ったためほとんど魔力が残っていない僕の周りに無数の火種が浮かぶ。そしてそれらが瞬時に全て発火し火球になって僕に向かって飛んできた。
森羅万象で思考を加速させて打開策を何か考えないと。
まず今の魔力は総量の1割も無く、この魔力量では魔術どころか魔法すらまともには使えない。魔神化はまだ継続してるけど風神雷神も万蝕之龍皇に統合された空間侵蝕も発動に使う魔力が足りない。ルキウスと晴空から継承した大罪と元徳はそもそも適性が無いらしいから無理。そうなるとやっぱり序盤からお世話になってるスキル達を使うしかないかな。
そうと決まればすぐにでも始めないと。森羅万象で加速した思考で考えてるとはいえ火が当たるまでの時間は一瞬だからその分加速率を上げてるせいで解除した時の脳への負担が酷くなる。
まずは肉体超強化、身体超強化で自分の体そのもののスペックを一時的に引き上げ、重金剛で純粋な強度、硬度を高める、ここまでは魔力の消費は微々たるもの次に残りの使える魔力を全て使う。そして魔力武器化、これは今までは攻撃のための武器を作るためにしか使っていなかったけど今回作るのは攻撃ではなく防御のための武器だ。純粋に属性相性有利な水属性の魔力を使い何枚もの盾を生み出す。そしてそれらを繋ぎシェルターのように僕自身を覆い隠す。
覆い終えた瞬間1つ目の火球が盾に当たりそれから残りの火球も矢継ぎ早に撃ち込まれる。火球が盾に当たる度に中にまで衝撃が響くが今のところ防げている。
しかしそれも即座に間違いだったと知ることになる。火球の衝撃に耐えきれず徐々に盾へヒビが入っていく。
ヒビが全体に達するとそのまま砕け散った。さらに砕けた盾の破片の奥から無数の火球が降り注ぎ皮膚を焦がし、その熱気は口や鼻から侵入し喉を焼く。
そして全身を炎に抱かれじわじわと焼かれるがそれでも始祖の再生力があるため身体を焼きながらも完全に焼かれず再生速度と焼かれず速度が拮抗するせいで無限に痛みと再生が繰り返す。
そして最後に誰かが僕の名前を呼ぶ声がしたような気がしたがその人を視界に入れることなくそのまま意識を手放した。
・・・・・・ん……ここは……炎に焼かれてからここに来るまでの記憶が無い……そしてなんだか後頭部が柔らかいものの上にあるような感覚が……そのまま目を開けるとこちらを覗き込むように見る悠灯が視界に映った。そして起き上がって互いに目が合うと悠灯は両目に涙を浮かべ思い切り両手を僕の背中に回して抱きしめてきた。
一応怪我人扱いか重傷者扱いのはずなんだけど……相当心配かけたんだろうし少し好きにさせとこう。
泣き止んだみたいだからいくつか質問しよう。
「悠灯、いきなりで悪いんだけど……ここどこ?」
うん、本当にここどこだろうね?僕こんな所に来たことないしそもそも学園長との模擬戦後から誰がどうやって僕をここまで運んできたのかって疑問もあるし。あと恐らく膝枕であろうことをしていた理由も。
「ん、ここは学園の保健室みたいなところ……って言うかもう保健室でいいかもね。正式名称知らないし。それと真緒くんを運んできたのは私だよ。私が見た時は顔部分と腕以外が火傷に覆われてたから回復魔法と少し私の神としての権能を使って最低限体の外側だけ完全に戻してここに連れてきたんだ。あと膝枕は……役得かな?」
・・・・・・あぁ、役得……役得かぁ……うーん、普通は注意でもすべきなんだろうがそんな首を傾けてハテナマークが頭上に浮かんでそうな顔でこっち見られるとその気も失せるな。
え?甘い?仕方ないだろこちとら数ヶ月前まで恋人いない歴=年齢の非モテ非リアだぞ?そんな耐性ないわ。まぁでもそれより他にまず言うべきことあるよな。
「そっか、とりあえずありがとう。それと権能使ったって言ったけど何か問題は無い?」
「どういたしまして。うん、権能って言っても使ったのは私の司る神格の中で豊穣の側面だけだし真緒くん1人だけを対象に使ったから問題は無いよ」
「でも内側の方は真緒くん自身の再生力頼りだからまだ安静にしててね。実技試験の結果発表まで今日を抜いてもまだ5日あるんだから」
今日抜いても残り5日?つまり丸1日寝てた?そして内側はまだ完治してないか。まぁ内から焼かれるなんて普通ないからなぁ。でもこうしてる分には痛みは感じないから完治までもう少し?とりあえず完治するまで言われた通り安静にしておこう。そして完治したらすぐにでも魔国に帰ってネロに心配かけたこととか謝らないとな。
あの後結局次の日には完治したけど念の為追加で1日休むことになった。
試験結果の発表まで残り3日か、1日くらい余裕を持って準備するから実質魔国で過ごすのは2日。丸1日寝てたとはいえ2日は悠灯と2人きりで過ごしたわけだし魔国自由に過ごす2日はネロと過ごすようにしよう。あと残り1日とネロと過ごす2日間の夜は克墨とも過ごさないと。さすがに地球で読んだラノベの主人公一行じゃあるまいし長い間放置し続けても問題無いとは思えないし。
悠灯と並んで魔国に戻ってきたけどまずは城に戻らないと。
城に着いて久しぶりに会った門番さんに挨拶して城門を通ってネロを探しに城内を歩いて探しているけど……探してる時に限ってなかなか見つからないよなぁ……
なんて思ってたら廊下奥からこっちに来る足音が聞こえてきた。
・・・・・・まさか……いや、まさかね?前から少しポンコツ属性の兆しがあったけどさすがに廊下を走ってくるなんてことは無い……いや、会ってない間にポンコツが悪化してたらありえる。とりあえず突っ込んできたのがネロだったら受け止めるつもりで足音が聞こえる方に進もう。
「まーおーさーんー!!」
・・・・・・ネロですねわかります。今の声で確信した。傷つけないように優しく受け止めてるようにしないと。それにしても、数日会わないだけでここまでポンコツ化してるとは……
「真緒さんっ!」
抱きつくネロを身体超強化に森羅万象、万能従者によって主に対する行動全てにで補正も込みで完璧に受け止めて床に下ろすことに成功した。
とりあえず注意しないと━━━━━━と思ったところでメリアさんが転移してきた。やっぱりメリアさん僕より上の従者系スキルか空間系スキルもってるな。転移とか僕まだ出来ないし。
うん、お説教はメリアさんに任せようか。
そう呟くように一言唱えると身体が内から造り変わっていく。そしてその感覚が収まると戦闘で負った傷や疲労が全て癒えていく。さらに底が見えていた魔力が全快した上総量が跳ね上がったのがわかる。
「『降神装・陽炎』」
そして魔神化による変化の終了と共にさらに別のスキルを呟く。その瞬間身体を炎が覆い、それが消えると和装へと着ていた服が変化する。
「『神剣召喚:神焔剣』」
「『神剣召喚:叢雲剣』」
最後に元はこの世界で獲得した最初のスキルである神焔剣と悠灯と再会して獲得した叢雲剣の二振りをを両手に持ち金と銀の炎を纏う。
「『炎天下』」
身体から噴出する金と銀の炎を制限が1段外れたことで増加した魔力を持って力ずくで無理やり押さえつけて纏う。さらに風神雷神や自己改造も重ねることで今の限界まで自身を強化する。
ここに全ては整った。周囲の被害?事後処理?後々の面倒事?もちろん全部学園長に丸投げするつもりだよ。
そして魔神化から今までずっとなにもしてこなかった学園長が再び口を開いた。
「ほぉ、ようやく本気になったってことか。こうなったらうちも少し本気出すしかないわ」
・・・・・・あぁ、まだ本気ではなかったと。まだ先があるのか……でもだからといって負ける訳には行かないな。ここで勝つか引き分ければ他国から来た学生がネロと悠灯に近寄るのを抑止できるだろうし。そうすれば学園でもある程度は普段通りに関われるはず。
ん?なんか詠唱始めてない?個人的に長文詠唱って大抵ヤバいやつだって認識があるんだけど?
「『天にまします我が神よ』」
「『どうかこの身をご覧あれ』」
「『未だこの身は極みに在らず』」
「『しからば我は高みを目指し牙を研ぐ者』」
「『今ここにこの身は修羅と成ろう』」
「『そして我は極みへ至り』」
「『我が拳は障害の一切を打ち砕かん』」
「この身はここに1度神へと至る━━━『闘神化』」
はぁ……まじかよ。まさか神化まで使えるとは。本格的にこの世界で戦闘を生業にしてる人は戦闘能力がおかしいって説が有力になってきたな。
一応これでも僕はソロで迷宮踏破できる実力はあったんだけどなぁ……それでも学園長相手の状態では制限かかって弱体化してるとはいえこれまで一方的にフルボッコにされてた……そして各種スキルで限界まで強化して倒そうとしたら相手も同じように強化する。
神化した彼女は僕が魔神化した時や奈落に落ちる直前に振るった神気を纏っておりさらにその山吹色をした神気は手足にほとんどが集中している。
「さて、それじゃあ死合おうやっ!」
その言葉が言い終わらないうちに先程までとは比べ物にならない速度で跳躍し突っ込んでくる。だけど魔神化でステータスが全て引き上がっている上風神雷神の副作用で肉体全てが活性化しているため少し反射神経や動体視力が上がっている。元の上昇率は少なくも元の身体能力が大幅に強化されている今なら普通の強化スキルと同倍率くらいには強化される。
そのおかげで余裕は無いけどなんとか攻撃を回避し打ち合うことが出来ている。だけどこれはあくまで全盛期の頃のバフだから今の身体じゃ持たない。四肢が時間が経つ事に焼け焦げ炭化し崩れ落ちていくが吸血鬼の化け物じみた再生力によってそうなった端から即座に再生していく。
実際今もこの再生力のおかげでなんとか殴り合いが出来ている。だけど神化だけの身体能力は圧倒的に負けてるからこのままだといずれ魔力が切れて押し負ける。ていうかこっちは素手じゃなくて神剣を持って拳に当ててるのに打ち合えてるって言うのがそもそもおかしいんだけどさ。
ここらで互いの切り札を撃ち合って勝負を決めるしかなさそうだな。だけどそのためにはまず一度距離を離す必要がある━━━━
「『爆ぜろ』!!」
そう唱えると僕と学園長の間で爆発が起こる。互いにただの小規模爆発程度ではダメージにならないが僕はこの爆風を利用して距離を離すことに成功した。
さて、残り魔力の九割以上、通常時の魔力換算で最大値の六割を消費して魔法を放つ。右腕を剣を握ったまま頭上へ掲げ詠唱を始めよう。
「『汝我らが祖なる大神より生まれ落ちし焔の子』」
「『其は邪悪に抗う者なり』」
「『其は永劫を拒絶し完全を否定する者なり』」
「『これよりここに顕すは神代の災禍の再演』」
「『我が魂を焔へ焼べあらゆる不滅を焼却せよ』」
「天上天下、等しく一切灰燼と帰せ━━━━『火之迦具土』」
魔法の試験で使ったのと同じ魔法だが込められた魔力は段違い。そして形成されたものは太刀では無く渦を巻く炎で形作られた馬上槍。それが頭上で渦巻く炎によって作り出されさらに新たに湧き出る炎もそれに取り込まれていく。
その時学園長の方からもまた詠唱が響く、
「『永きに研ぎしこの爪牙』」
「『万を切り裂き噛み砕かん』」
「『この身は既に極みに在りて』」
詠唱完了を待たず最後の一片まで取り込まれ限界まで熱量を高めた槍は先端を眼前へと向ける。
もう後はこの腕を前へ下ろせばその瞬間この槍は放たれる。
「『なればこの拳にかけて』」
「『我が敵の尽く討ち滅ぼさん』」
学園長の口から術名が告げられるより前に槍を放つ、
「灼き穿て━━━ッ『破却之紅槍』」
腕を下ろしそう呟くと同時に槍は放たれた。そして放たれるのとほぼ同時に最後の一言が告げられる。
「撃ち抜け━━━━『乾坤一擲』」
山吹色のオーラが片腕へ集中しそのまま繰り出されるは絶対的な破壊の暴威。拳から撃ち出された神気の渦と神殺しの逸話を持つ神の名を冠した魔法によって作られた炎槍が激突する。
そしてそれは互いに拮抗した後弾け周りに炎と衝撃、熱風を撒き散らした。
倒しきれはしなかったが問題ない。衝撃や熱から身を庇う学園長の意識から一瞬でも僕が外れればいい。両手に持っていた神剣のうち叢雲剣の召喚を解除、それによって召喚維持に必要な魔力が減ったことで消費した魔力の回復速度が上昇、魔法によるバフや発動に魔力が必要な強化はほとんど解除された。だがもうそれは必要ない1割弱回復した魔力を脚力の強化に注ぎ込み一気に駆け抜ける。
「ッ!?」
剣の間合いに入った瞬間気づかれたけど今なら殴られるより剣で斬る方が早い。
「『顕幻』『幻影置換』」
切りつける直前に学園長が小声でなにか呟くと僕の後ろにまるで分身したかのようにいきなりもう1人の学園長が現れた。だが僕はそのまま元いた学園長を思い切り斬りつけた。
「なっ?!」
しかし、確かに今斬ったはずなのに何かを斬ったという感覚も斬るときの抵抗も感じ無い。なんの抵抗もなく剣は体を抜けていった。
「ふぅ、危ない危ない。幻術は狐族の十八番やからなぁ。それじゃあこれで終いや」
「『狐火よ集いて照らせ』━━━『百火鬼灯』」
短文詠唱にも関わらずその火力は絶大でこれが本当の切り札だと言わんばかりに先程1度使い切ったためほとんど魔力が残っていない僕の周りに無数の火種が浮かぶ。そしてそれらが瞬時に全て発火し火球になって僕に向かって飛んできた。
森羅万象で思考を加速させて打開策を何か考えないと。
まず今の魔力は総量の1割も無く、この魔力量では魔術どころか魔法すらまともには使えない。魔神化はまだ継続してるけど風神雷神も万蝕之龍皇に統合された空間侵蝕も発動に使う魔力が足りない。ルキウスと晴空から継承した大罪と元徳はそもそも適性が無いらしいから無理。そうなるとやっぱり序盤からお世話になってるスキル達を使うしかないかな。
そうと決まればすぐにでも始めないと。森羅万象で加速した思考で考えてるとはいえ火が当たるまでの時間は一瞬だからその分加速率を上げてるせいで解除した時の脳への負担が酷くなる。
まずは肉体超強化、身体超強化で自分の体そのもののスペックを一時的に引き上げ、重金剛で純粋な強度、硬度を高める、ここまでは魔力の消費は微々たるもの次に残りの使える魔力を全て使う。そして魔力武器化、これは今までは攻撃のための武器を作るためにしか使っていなかったけど今回作るのは攻撃ではなく防御のための武器だ。純粋に属性相性有利な水属性の魔力を使い何枚もの盾を生み出す。そしてそれらを繋ぎシェルターのように僕自身を覆い隠す。
覆い終えた瞬間1つ目の火球が盾に当たりそれから残りの火球も矢継ぎ早に撃ち込まれる。火球が盾に当たる度に中にまで衝撃が響くが今のところ防げている。
しかしそれも即座に間違いだったと知ることになる。火球の衝撃に耐えきれず徐々に盾へヒビが入っていく。
ヒビが全体に達するとそのまま砕け散った。さらに砕けた盾の破片の奥から無数の火球が降り注ぎ皮膚を焦がし、その熱気は口や鼻から侵入し喉を焼く。
そして全身を炎に抱かれじわじわと焼かれるがそれでも始祖の再生力があるため身体を焼きながらも完全に焼かれず再生速度と焼かれず速度が拮抗するせいで無限に痛みと再生が繰り返す。
そして最後に誰かが僕の名前を呼ぶ声がしたような気がしたがその人を視界に入れることなくそのまま意識を手放した。
・・・・・・ん……ここは……炎に焼かれてからここに来るまでの記憶が無い……そしてなんだか後頭部が柔らかいものの上にあるような感覚が……そのまま目を開けるとこちらを覗き込むように見る悠灯が視界に映った。そして起き上がって互いに目が合うと悠灯は両目に涙を浮かべ思い切り両手を僕の背中に回して抱きしめてきた。
一応怪我人扱いか重傷者扱いのはずなんだけど……相当心配かけたんだろうし少し好きにさせとこう。
泣き止んだみたいだからいくつか質問しよう。
「悠灯、いきなりで悪いんだけど……ここどこ?」
うん、本当にここどこだろうね?僕こんな所に来たことないしそもそも学園長との模擬戦後から誰がどうやって僕をここまで運んできたのかって疑問もあるし。あと恐らく膝枕であろうことをしていた理由も。
「ん、ここは学園の保健室みたいなところ……って言うかもう保健室でいいかもね。正式名称知らないし。それと真緒くんを運んできたのは私だよ。私が見た時は顔部分と腕以外が火傷に覆われてたから回復魔法と少し私の神としての権能を使って最低限体の外側だけ完全に戻してここに連れてきたんだ。あと膝枕は……役得かな?」
・・・・・・あぁ、役得……役得かぁ……うーん、普通は注意でもすべきなんだろうがそんな首を傾けてハテナマークが頭上に浮かんでそうな顔でこっち見られるとその気も失せるな。
え?甘い?仕方ないだろこちとら数ヶ月前まで恋人いない歴=年齢の非モテ非リアだぞ?そんな耐性ないわ。まぁでもそれより他にまず言うべきことあるよな。
「そっか、とりあえずありがとう。それと権能使ったって言ったけど何か問題は無い?」
「どういたしまして。うん、権能って言っても使ったのは私の司る神格の中で豊穣の側面だけだし真緒くん1人だけを対象に使ったから問題は無いよ」
「でも内側の方は真緒くん自身の再生力頼りだからまだ安静にしててね。実技試験の結果発表まで今日を抜いてもまだ5日あるんだから」
今日抜いても残り5日?つまり丸1日寝てた?そして内側はまだ完治してないか。まぁ内から焼かれるなんて普通ないからなぁ。でもこうしてる分には痛みは感じないから完治までもう少し?とりあえず完治するまで言われた通り安静にしておこう。そして完治したらすぐにでも魔国に帰ってネロに心配かけたこととか謝らないとな。
あの後結局次の日には完治したけど念の為追加で1日休むことになった。
試験結果の発表まで残り3日か、1日くらい余裕を持って準備するから実質魔国で過ごすのは2日。丸1日寝てたとはいえ2日は悠灯と2人きりで過ごしたわけだし魔国自由に過ごす2日はネロと過ごすようにしよう。あと残り1日とネロと過ごす2日間の夜は克墨とも過ごさないと。さすがに地球で読んだラノベの主人公一行じゃあるまいし長い間放置し続けても問題無いとは思えないし。
悠灯と並んで魔国に戻ってきたけどまずは城に戻らないと。
城に着いて久しぶりに会った門番さんに挨拶して城門を通ってネロを探しに城内を歩いて探しているけど……探してる時に限ってなかなか見つからないよなぁ……
なんて思ってたら廊下奥からこっちに来る足音が聞こえてきた。
・・・・・・まさか……いや、まさかね?前から少しポンコツ属性の兆しがあったけどさすがに廊下を走ってくるなんてことは無い……いや、会ってない間にポンコツが悪化してたらありえる。とりあえず突っ込んできたのがネロだったら受け止めるつもりで足音が聞こえる方に進もう。
「まーおーさーんー!!」
・・・・・・ネロですねわかります。今の声で確信した。傷つけないように優しく受け止めてるようにしないと。それにしても、数日会わないだけでここまでポンコツ化してるとは……
「真緒さんっ!」
抱きつくネロを身体超強化に森羅万象、万能従者によって主に対する行動全てにで補正も込みで完璧に受け止めて床に下ろすことに成功した。
とりあえず注意しないと━━━━━━と思ったところでメリアさんが転移してきた。やっぱりメリアさん僕より上の従者系スキルか空間系スキルもってるな。転移とか僕まだ出来ないし。
うん、お説教はメリアさんに任せようか。
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小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
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ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
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