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14限目「実地訓練(フィールドワーク)」
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爵位持ちがいることは特に驚きはない。世界中で悪魔達が何らかの目的を持って活動している以上、あらゆる所で出くわす可能性はあるだろう。それが、爵位持ちが指揮する部隊であったとしても。
一番重要なのはその❝目的❞である。何故辺境の村へ貴族が自ら赴くのか、おそらくは最近発見された❝坑道❞にあるのだろう。何が❝ある❞のか、もしくは❝いる❞のか、どちらにしても直接確かめる必要があるだろう。
「よし、今日は『実地訓練(フィールドワーク)』といこう。俺の動きを見て、今まで習ったことの復習をするんだ。いいな、シェステ」
「はい、先生」シェステの顔つきが真剣なものに変わる。
「よし、まずはアルスを借りるぞ。魔法使いの心得、その一だ」
「『まずは冷静に。状況確認を忘れるな』」シェステが答える。
「『視覚共有(リンク)』」アルスとシェステ両方に触れながらそう言うと、空へと放った。アルスの視覚情報が俺達に伝わる。村の全景と外にいる悪魔達の様子が見て取れる。
「今回の第一目標は村民の救出だ。だから村民と悪魔の位置を可能な限り把握しておくことが重要だ。空を飛べるアルスは適任だから、これから大いに手伝ってもらうといい。
さて、騎士級とは言え日光は苦手と見える。あまり活動的ではないな。外に出てないやつもいるだろうからそこは注意しつつだな。ふむ、あれは宿屋か。悪魔の警護が厚い。あそこにおそらく村民達が集められているかもしれない。
アルス、姿を消して中を見れるかい?」シェステにも行動と理由が分かるようにつぶやく。
アルスの方は透明化スキルを使って姿を消し、窓の近くまで滑空すると中が伺えそうな所に留まり、部屋の中を視界に収める。
「当たりだ。村民が集められている。ただ大人の男達がいないな。坑道で働かせているのかもしれない。これは後回しだ」次への行動に移る。
「アルス、もういいぞ。偵察ありがとう」
アルスに帰還を命じた後、静かに立ち上がり右手に意識を向けると極々シンプルな杖が現れる。初心者用ではあるが、仰々しい魔法杖はいかにもな感じで苦手だし今はこれで十分だ。
「次に相手の力を削ぐ。魔法使いの心得、その二だ」
「『呪文詠唱を疎かにするな』」シェステが答える。
「浄化の光をこの地に満たせ。『聖浄空間(ホーリーフィールド)』」杖の先端を地面に付けると村全体の地面が輝き、浄化の光がドーム状に構築されていく。
「おお~!」大規模魔法を見るのは初めてだろう。そりゃ興奮するよな。
「いずれシェステも無詠唱で魔法行使が可能になるだろうが、言葉の持つ力は偉大だ。言葉にすることで魔法本来の力が発揮される。それに集中力が増せばさらに魔法効果が強くなる。見て見ろ」差し出す杖の方向に目を向けると、悪魔が力を失い苦しそうに倒れこんでいる。中には消滅したやつもいるようだ。
「個体差があるから魔法効果にも差が生まれる。だからこその、魔法使いの心得、その三だ。『氷結盾(フロストシールド)』」シェステが問いに答える間もなく氷の盾を出現させ、後ろから現れた悪魔の剣戟を弾く。間髪入れずに動きを封じる。
「『雷針(ライトニードル)』」悪魔は後方に退いたが、麻痺効果のある雷属性の針が鎧を貫通してその身体を樹に縫い付ける。
「『常に全体を見ろ』」全てが終わった後、驚きと興奮に包まれながらも心得を答えるシェステ君であった。
「よろしい。概ねその三つを忘れなければ、必ず良い魔法使いになれる。決して忘れないように」先生らしくできただろうか。シェステは瞳を輝かせながらこちらを見ている。
「おい、そこの下っ端。ここのボスはどこにいる?坑道の中に引き籠ってるのか?」一瞬で制圧されてしまった悪魔に問いかける。
「人間風情が偉そうなことを言うな!私はこれでも騎士……」パキッ。話が通じなさそうなので反射的に凍らせてしまった。無詠唱でやってしまったではないか。
「すまん、話すだけ時間の無駄だったようだ。また気が向いたら後で話そう。そろそろ本命さんのご到着だ」再び村の方へ身体を向ける。濃い瘴気が揺らいだかと思うと異形の姿へと変化を始める。
「この結界魔法を使ったのは君だね?こんな気色悪いもの、早く消してもらいたいものだ」蛇の胴体に左右2対の腕、2本の角に羽まで生えている。いかにもって感じだ。
「まともに動けてるということは、お前さんがここのボスかい?こんな辺鄙な村まで出張ご苦労さん。❝男爵❞ってのも大変だね」
「面白い物言いだが、それはいい。君のおかげで私の部下達は行動不能だ。この礼を、私への非礼に対する個人的な感情と合わせて君には堪能してもらおう。私はゴルゾーム。階級は《子爵》だよ」言い終わると同時に俺と悪魔は機先を制すべく行動した。
「アルス、(シェステを)頼む!」
アルスがシェステの前で一鳴きすると緑色の結界がシェステ達を覆う。
俺は杖に魔力を込めながら、ゴルゾームに突進して距離を詰める。
ゴルゾームは俺の突進に動揺することなく身体を仰け反らせて力を貯める。
この一連の動作がほぼ同時に行われ、次の初撃に備える。
「風よ荒れ狂え!『狂乱風禍(ライオットストーム)!』」
「『強毒息塊(ヴェノムブロウ)!』」
2人の戦いがついに幕を開ける。
一番重要なのはその❝目的❞である。何故辺境の村へ貴族が自ら赴くのか、おそらくは最近発見された❝坑道❞にあるのだろう。何が❝ある❞のか、もしくは❝いる❞のか、どちらにしても直接確かめる必要があるだろう。
「よし、今日は『実地訓練(フィールドワーク)』といこう。俺の動きを見て、今まで習ったことの復習をするんだ。いいな、シェステ」
「はい、先生」シェステの顔つきが真剣なものに変わる。
「よし、まずはアルスを借りるぞ。魔法使いの心得、その一だ」
「『まずは冷静に。状況確認を忘れるな』」シェステが答える。
「『視覚共有(リンク)』」アルスとシェステ両方に触れながらそう言うと、空へと放った。アルスの視覚情報が俺達に伝わる。村の全景と外にいる悪魔達の様子が見て取れる。
「今回の第一目標は村民の救出だ。だから村民と悪魔の位置を可能な限り把握しておくことが重要だ。空を飛べるアルスは適任だから、これから大いに手伝ってもらうといい。
さて、騎士級とは言え日光は苦手と見える。あまり活動的ではないな。外に出てないやつもいるだろうからそこは注意しつつだな。ふむ、あれは宿屋か。悪魔の警護が厚い。あそこにおそらく村民達が集められているかもしれない。
アルス、姿を消して中を見れるかい?」シェステにも行動と理由が分かるようにつぶやく。
アルスの方は透明化スキルを使って姿を消し、窓の近くまで滑空すると中が伺えそうな所に留まり、部屋の中を視界に収める。
「当たりだ。村民が集められている。ただ大人の男達がいないな。坑道で働かせているのかもしれない。これは後回しだ」次への行動に移る。
「アルス、もういいぞ。偵察ありがとう」
アルスに帰還を命じた後、静かに立ち上がり右手に意識を向けると極々シンプルな杖が現れる。初心者用ではあるが、仰々しい魔法杖はいかにもな感じで苦手だし今はこれで十分だ。
「次に相手の力を削ぐ。魔法使いの心得、その二だ」
「『呪文詠唱を疎かにするな』」シェステが答える。
「浄化の光をこの地に満たせ。『聖浄空間(ホーリーフィールド)』」杖の先端を地面に付けると村全体の地面が輝き、浄化の光がドーム状に構築されていく。
「おお~!」大規模魔法を見るのは初めてだろう。そりゃ興奮するよな。
「いずれシェステも無詠唱で魔法行使が可能になるだろうが、言葉の持つ力は偉大だ。言葉にすることで魔法本来の力が発揮される。それに集中力が増せばさらに魔法効果が強くなる。見て見ろ」差し出す杖の方向に目を向けると、悪魔が力を失い苦しそうに倒れこんでいる。中には消滅したやつもいるようだ。
「個体差があるから魔法効果にも差が生まれる。だからこその、魔法使いの心得、その三だ。『氷結盾(フロストシールド)』」シェステが問いに答える間もなく氷の盾を出現させ、後ろから現れた悪魔の剣戟を弾く。間髪入れずに動きを封じる。
「『雷針(ライトニードル)』」悪魔は後方に退いたが、麻痺効果のある雷属性の針が鎧を貫通してその身体を樹に縫い付ける。
「『常に全体を見ろ』」全てが終わった後、驚きと興奮に包まれながらも心得を答えるシェステ君であった。
「よろしい。概ねその三つを忘れなければ、必ず良い魔法使いになれる。決して忘れないように」先生らしくできただろうか。シェステは瞳を輝かせながらこちらを見ている。
「おい、そこの下っ端。ここのボスはどこにいる?坑道の中に引き籠ってるのか?」一瞬で制圧されてしまった悪魔に問いかける。
「人間風情が偉そうなことを言うな!私はこれでも騎士……」パキッ。話が通じなさそうなので反射的に凍らせてしまった。無詠唱でやってしまったではないか。
「すまん、話すだけ時間の無駄だったようだ。また気が向いたら後で話そう。そろそろ本命さんのご到着だ」再び村の方へ身体を向ける。濃い瘴気が揺らいだかと思うと異形の姿へと変化を始める。
「この結界魔法を使ったのは君だね?こんな気色悪いもの、早く消してもらいたいものだ」蛇の胴体に左右2対の腕、2本の角に羽まで生えている。いかにもって感じだ。
「まともに動けてるということは、お前さんがここのボスかい?こんな辺鄙な村まで出張ご苦労さん。❝男爵❞ってのも大変だね」
「面白い物言いだが、それはいい。君のおかげで私の部下達は行動不能だ。この礼を、私への非礼に対する個人的な感情と合わせて君には堪能してもらおう。私はゴルゾーム。階級は《子爵》だよ」言い終わると同時に俺と悪魔は機先を制すべく行動した。
「アルス、(シェステを)頼む!」
アルスがシェステの前で一鳴きすると緑色の結界がシェステ達を覆う。
俺は杖に魔力を込めながら、ゴルゾームに突進して距離を詰める。
ゴルゾームは俺の突進に動揺することなく身体を仰け反らせて力を貯める。
この一連の動作がほぼ同時に行われ、次の初撃に備える。
「風よ荒れ狂え!『狂乱風禍(ライオットストーム)!』」
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