上 下
14 / 18

14限目「実地訓練(フィールドワーク)」

しおりを挟む
 爵位持ちがいることは特に驚きはない。世界中で悪魔達が何らかの目的を持って活動している以上、あらゆる所で出くわす可能性はあるだろう。それが、爵位持ちが指揮する部隊であったとしても。
 一番重要なのはその❝目的❞である。何故辺境の村へ貴族が自ら赴くのか、おそらくは最近発見された❝坑道❞にあるのだろう。何が❝ある❞のか、もしくは❝いる❞のか、どちらにしても直接確かめる必要があるだろう。

「よし、今日は『実地訓練(フィールドワーク)』といこう。俺の動きを見て、今まで習ったことの復習をするんだ。いいな、シェステ」
「はい、先生」シェステの顔つきが真剣なものに変わる。

「よし、まずはアルスを借りるぞ。魔法使いの心得、その一だ」
「『まずは冷静に。状況確認を忘れるな』」シェステが答える。
「『視覚共有(リンク)』」アルスとシェステ両方に触れながらそう言うと、空へと放った。アルスの視覚情報が俺達に伝わる。村の全景と外にいる悪魔達の様子が見て取れる。

「今回の第一目標は村民の救出だ。だから村民と悪魔の位置を可能な限り把握しておくことが重要だ。空を飛べるアルスは適任だから、これから大いに手伝ってもらうといい。
 さて、騎士級とは言え日光は苦手と見える。あまり活動的ではないな。外に出てないやつもいるだろうからそこは注意しつつだな。ふむ、あれは宿屋か。悪魔の警護が厚い。あそこにおそらく村民達が集められているかもしれない。
 アルス、姿を消して中を見れるかい?」シェステにも行動と理由が分かるようにつぶやく。

 アルスの方は透明化スキルを使って姿を消し、窓の近くまで滑空すると中が伺えそうな所に留まり、部屋の中を視界に収める。

「当たりだ。村民が集められている。ただ大人の男達がいないな。坑道で働かせているのかもしれない。これは後回しだ」次への行動に移る。
「アルス、もういいぞ。偵察ありがとう」

 アルスに帰還を命じた後、静かに立ち上がり右手に意識を向けると極々シンプルな杖が現れる。初心者用ではあるが、仰々しい魔法杖はいかにもな感じで苦手だし今はこれで十分だ。
「次に相手の力を削ぐ。魔法使いの心得、その二だ」
「『呪文詠唱を疎かにするな』」シェステが答える。

「浄化の光をこの地に満たせ。『聖浄空間(ホーリーフィールド)』」杖の先端を地面に付けると村全体の地面が輝き、浄化の光がドーム状に構築されていく。
「おお~!」大規模魔法を見るのは初めてだろう。そりゃ興奮するよな。
「いずれシェステも無詠唱で魔法行使が可能になるだろうが、言葉の持つ力は偉大だ。言葉にすることで魔法本来の力が発揮される。それに集中力が増せばさらに魔法効果が強くなる。見て見ろ」差し出す杖の方向に目を向けると、悪魔が力を失い苦しそうに倒れこんでいる。中には消滅したやつもいるようだ。

「個体差があるから魔法効果にも差が生まれる。だからこその、魔法使いの心得、その三だ。『氷結盾(フロストシールド)』」シェステが問いに答える間もなく氷の盾を出現させ、後ろから現れた悪魔の剣戟を弾く。間髪入れずに動きを封じる。
「『雷針(ライトニードル)』」悪魔は後方に退いたが、麻痺効果のある雷属性の針が鎧を貫通してその身体を樹に縫い付ける。

「『常に全体を見ろ』」全てが終わった後、驚きと興奮に包まれながらも心得を答えるシェステ君であった。

「よろしい。概ねその三つを忘れなければ、必ず良い魔法使いになれる。決して忘れないように」先生らしくできただろうか。シェステは瞳を輝かせながらこちらを見ている。

「おい、そこの下っ端。ここのボスはどこにいる?坑道の中に引き籠ってるのか?」一瞬で制圧されてしまった悪魔に問いかける。

「人間風情が偉そうなことを言うな!私はこれでも騎士……」パキッ。話が通じなさそうなので反射的に凍らせてしまった。無詠唱でやってしまったではないか。
「すまん、話すだけ時間の無駄だったようだ。また気が向いたら後で話そう。そろそろ本命さんのご到着だ」再び村の方へ身体を向ける。濃い瘴気が揺らいだかと思うと異形の姿へと変化を始める。

「この結界魔法を使ったのは君だね?こんな気色悪いもの、早く消してもらいたいものだ」蛇の胴体に左右2対の腕、2本の角に羽まで生えている。いかにもって感じだ。

「まともに動けてるということは、お前さんがここのボスかい?こんな辺鄙な村まで出張ご苦労さん。❝男爵❞ってのも大変だね」

「面白い物言いだが、それはいい。君のおかげで私の部下達は行動不能だ。この礼を、私への非礼に対する個人的な感情と合わせて君には堪能してもらおう。私はゴルゾーム。階級は《子爵》だよ」言い終わると同時に俺と悪魔は機先を制すべく行動した。
「アルス、(シェステを)頼む!」

 アルスがシェステの前で一鳴きすると緑色の結界がシェステ達を覆う。
 俺は杖に魔力を込めながら、ゴルゾームに突進して距離を詰める。
 ゴルゾームは俺の突進に動揺することなく身体を仰け反らせて力を貯める。

 この一連の動作がほぼ同時に行われ、次の初撃に備える。

「風よ荒れ狂え!『狂乱風禍(ライオットストーム)!』」
「『強毒息塊(ヴェノムブロウ)!』」

 2人の戦いがついに幕を開ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

異世界召喚で適正村人の俺はゴミとしてドラゴンの餌に~だが職業はゴミだが固有スキルは最強だった。スキル永久コンボでずっと俺のターンだ~

榊与一
ファンタジー
滝谷竜也(たきたにりゅうや)16歳。 ボッチ高校生である彼はいつも通り一人で昼休みを過ごしていた。 その時突然地震に襲われ意識をい失うってしまう。 そして気付けばそこは異世界で、しかも彼以外のクラスの人間も転移していた。 「あなた方にはこの世界を救うために来て頂きました。」 女王アイリーンは言う。 だが―― 「滝谷様は村人ですのでお帰り下さい」 それを聞いて失笑するクラスメート達。 滝谷竜也は渋々承諾して転移ゲートに向かう。 だがそれは元の世界へのゲートではなく、恐るべき竜の巣へと続くものだった。 「あんたは竜の餌にでもなりなさい!」 女王は竜也を役立たずと罵り、国が契約を交わすドラゴンの巣へと続くゲートへと放り込んだ。 だが女王は知らない。 職業が弱かった反動で、彼がとてつもなく強力なスキルを手に入れている事を。 そのスキル【永久コンボ】は、ドラゴンすらも容易く屠る最強のスキルであり、その力でドラゴンを倒した竜谷竜也は生き延び復讐を誓う。 序でに、精神支配されているであろうクラスメート達の救出も。 この物語はゴミの様な村人と言う職業の男が、最強スキル永久コンボを持って異世界で無双する物語となります。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

覇者となった少年 ~ありがちな異世界のありがちなお話~

中村月彦
ファンタジー
よくある剣と魔法の異世界でのお話…… 雷鳴轟く嵐の日、一人の赤子が老人によって救われた。 その老人と古代龍を親代わりに成長した子供は、 やがて人外の能力を持つに至った。 父と慕う老人の死後、世界を初めて感じたその子供は、 運命の人と出会い、生涯の友と出会う。 予言にいう「覇者」となり、 世界に安寧をもたらしたその子の人生は……。 転生要素は後半からです。 あまり詳細にこだわらず軽く書いてみました。 ------------------  最初に……。  とりあえず考えてみたのは、ありがちな異世界での王道的なお話でした。  まぁ出尽くしているだろうけど一度書いてみたいなと思い気楽に書き始めました。  作者はタイトルも決めないまま一気に書き続け、気がつけば完結させておりました。  汗顔の至りであります。  ですが、折角書いたので公開してみることに致しました。  全108話、約31万字くらいです。    ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。  よろしくお願いいたします。

呪われ姫の絶唱

朝露ココア
ファンタジー
――呪われ姫には近づくな。 伯爵令嬢のエレオノーラは、他人を恐怖させてしまう呪いを持っている。 『呪われ姫』と呼ばれて恐れられる彼女は、屋敷の離れでひっそりと人目につかないように暮らしていた。 ある日、エレオノーラのもとに一人の客人が訪れる。 なぜか呪いが効かない公爵令息と出会い、エレオノーラは呪いを抑える方法を発見。 そして彼に導かれ、屋敷の外へ飛び出す。 自らの呪いを解明するため、エレオノーラは貴族が通う学園へと入学するのだった。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...