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7限目「よく考えると難しいな」
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シェステがそう言い目を瞑って念じると、フクロウの置物がぼんやりと光り始め徐々にその光が強くなる。やがてひと際強い光を放つとフクロウはより鳥の形に近付いた姿となり、一声鳴くと空へと飛び立つ。そしてシェステの周囲を旋回するとゆっくりとシェステの肩に留まった。先程まで置物だったそれはシェステの忠実な僕と生まれ変わったのである。
「うむ、成功だな。大事にしてやれよ」俺が笑顔でそう言うと、シェステはもじもじしている。どうやら大喜びしたいのだが肩にドールがいるので躊躇しているようだ。微笑ましいな。
「うん、ありがとう」シェステはまだもじもじしている。想像はついてるんだがな。
「どうかしたのか?」声をかけると、少し悩んでいた様子だが決心がついたのだろう。
「ぼく、この子に名前を付けてあげたいんだ」そういうと申し訳なさそうな表情を見せる。俺に気を遣っているようだ。
「❝名付け❞の意味を知っている上でそうしたいんだろう?俺に気を遣う必要はない。そもそも反対なんかする気なんて全くないしな。寧ろだ。どんなセンス溢れるかっこいい名前を付けるのか楽しみで仕方ないぞ?」とウインクすると俺は笑いが我慢できなくなって大笑いしてしまった。
「なんだよそれ。プレッシャーかけるのやめてよ!」そう言ってシェステも笑っている。フクロウは瞼を上げてじっとしている。どうやら軽く眠っているようだ。昼過ぎだからな。いや使い魔なんだから関係なくないか?ちなみに瞼を下げる時は瞬きだ。笑顔に見える時は瞼が上がっている、つまり睡眠中というわけだ。また話がそれた。元に戻そう。
❝名付け❞というのは、主が使い魔に対して名を与えることで正式なものであるのは言うに及ばず、高度な主従契約を結び簡単には解除できない代わりに強力な力を授ける儀式である。名持ちの使い魔は多くの場合❝自我❞を持ち、絶対の忠誠を以て主人を支える。今後どういう関係性になるかは分からないが、少なくとも心強い仲間になってくれることだろう。
私はいずれ元の世界に戻るつもりだ。その時そばにこいつがいてくれたら……。いや、今はやめておこう。
一般的に❝名付け❞というのはそうそう簡単にできる儀式ではない。世の中に名持ちの使い魔が大量に存在していたら場合によっては凶悪な災厄が起きかねない。
名付けを行う際、術師から大量の魔力が使い魔に注がれる。そのため、注意しないと魔力切れを起こし深刻な状態に陥る可能性がある。場合によっては生命維持に係わるので、安全確保と魔力制御には細心の準備が必要となる。
そしてここからが重要なのだが、例外がないわけではないものの何回もできる儀式ではない。名前選びにも相当な注意が実は必要なのだ。
まずは❝名前そのものが持つ力❞。以前も少し触れたが言葉には力が宿る。強い力を持つ言葉を選ぶとそれだけで魔力制御が効かない、呪われる、暴走するなどの危険性がある。祝福を得ることもあるにはあるが、かっこいいという理由だけで悪魔や神の名を付けるのは止めた方がいいということだ。どうしてもという場合は一部分を変えて付けるといいだろう。
そして❝名前の相性❞。はっきり言って重要度は今までの中では低い。ただ、使い魔の中にはたまに名付けに不満を持つ者もいる。これはどうかよく相談してください、としか言えない。ただ物事というのは適当に扱うと大概痛い目に合うということは言えるかもしれない。
「そういえば、グレンはそのままの姿で旅をするの?」シェステが唐突に質問してきた。が、確かに本来の私の姿ではないがそれでも私は《魔王》だ。このまま魔族の姿というのはまずいのかもしれない。
「そうだな、このままの姿では都合が悪いこともあるかもな。しばらく姿を変えるよ。危なかったな。教えてくれて助かったぞ」
「うん、僕もこの子の名前考えなきゃ」2人でしばし考え込む。
((よく考えると難しいな))
シェステは机に座り、候補となる名前を書き出しているようだ。俺は姿見の前で色々と姿を変え、絞り込んでいく。
シェステと旅をする以上安全策をとるならば、やはり人間ベースの姿が良いだろう。後は服装か……。動きやすい服装がいいんだが、❝従者の魔法使い❞か❝保護者を装う執事❞か❝親から依頼を受けた家庭教師兼冒険者❞ってところか。❝単なる親戚のおじさん❞設定もアリか?だがしかし、設定はきちんと決めておかないといざという時に信憑性のある話ができなくなる。
よし!《遠い親戚だが親から依頼を受けた、道中の護衛兼家庭教師兼フリー冒険者の魔法使い》に決めよう!結局全部盛りになってしまった。
だがこれなら、遠い親戚なので親の情報はそこまで知らないし、深い訳がありそうな雰囲気を出してごまかせる。家庭教師なので先生と呼ぶ時もあれば、親戚だから砕けた言葉遣いもできる。魔法スキルの高さはフリーということで仮にギルドが関わる案件も強引に言い訳できる。これは完璧だな!
服装は…。冒険者風であればいいか。執事服もそそられるのだが仕方ないな。これでシェステへの負担はほぼほぼないと言える。少しでも楽しい旅になればという、俺なりの配慮だった。
そしてシェステの方も名前の絞り込みを終えたようだ。
「グレン、一応決めたんだけど『アルス』ってどう?」相当悩んだようだ。それだけ真剣に考えたってことだ。胸を張っていいぞ。
「これは驚いた。とてもいい名前じゃないか。確か『芸術』の語源で❝人間が生み出した技術❞って意味がある。魔法使いにはもってこいの素晴らしい名前だと俺は思うぞ。それにここが大事なんだが、響きもかっこいいじゃないか」
「そっか!よかった!じゃ決まりだね!」俺のお墨付きを得て大喜びだ。
「なら早速❝名付け❞を済ませるといい。早く出口を見つけて旅へ出かけるぞ!」
「うむ、成功だな。大事にしてやれよ」俺が笑顔でそう言うと、シェステはもじもじしている。どうやら大喜びしたいのだが肩にドールがいるので躊躇しているようだ。微笑ましいな。
「うん、ありがとう」シェステはまだもじもじしている。想像はついてるんだがな。
「どうかしたのか?」声をかけると、少し悩んでいた様子だが決心がついたのだろう。
「ぼく、この子に名前を付けてあげたいんだ」そういうと申し訳なさそうな表情を見せる。俺に気を遣っているようだ。
「❝名付け❞の意味を知っている上でそうしたいんだろう?俺に気を遣う必要はない。そもそも反対なんかする気なんて全くないしな。寧ろだ。どんなセンス溢れるかっこいい名前を付けるのか楽しみで仕方ないぞ?」とウインクすると俺は笑いが我慢できなくなって大笑いしてしまった。
「なんだよそれ。プレッシャーかけるのやめてよ!」そう言ってシェステも笑っている。フクロウは瞼を上げてじっとしている。どうやら軽く眠っているようだ。昼過ぎだからな。いや使い魔なんだから関係なくないか?ちなみに瞼を下げる時は瞬きだ。笑顔に見える時は瞼が上がっている、つまり睡眠中というわけだ。また話がそれた。元に戻そう。
❝名付け❞というのは、主が使い魔に対して名を与えることで正式なものであるのは言うに及ばず、高度な主従契約を結び簡単には解除できない代わりに強力な力を授ける儀式である。名持ちの使い魔は多くの場合❝自我❞を持ち、絶対の忠誠を以て主人を支える。今後どういう関係性になるかは分からないが、少なくとも心強い仲間になってくれることだろう。
私はいずれ元の世界に戻るつもりだ。その時そばにこいつがいてくれたら……。いや、今はやめておこう。
一般的に❝名付け❞というのはそうそう簡単にできる儀式ではない。世の中に名持ちの使い魔が大量に存在していたら場合によっては凶悪な災厄が起きかねない。
名付けを行う際、術師から大量の魔力が使い魔に注がれる。そのため、注意しないと魔力切れを起こし深刻な状態に陥る可能性がある。場合によっては生命維持に係わるので、安全確保と魔力制御には細心の準備が必要となる。
そしてここからが重要なのだが、例外がないわけではないものの何回もできる儀式ではない。名前選びにも相当な注意が実は必要なのだ。
まずは❝名前そのものが持つ力❞。以前も少し触れたが言葉には力が宿る。強い力を持つ言葉を選ぶとそれだけで魔力制御が効かない、呪われる、暴走するなどの危険性がある。祝福を得ることもあるにはあるが、かっこいいという理由だけで悪魔や神の名を付けるのは止めた方がいいということだ。どうしてもという場合は一部分を変えて付けるといいだろう。
そして❝名前の相性❞。はっきり言って重要度は今までの中では低い。ただ、使い魔の中にはたまに名付けに不満を持つ者もいる。これはどうかよく相談してください、としか言えない。ただ物事というのは適当に扱うと大概痛い目に合うということは言えるかもしれない。
「そういえば、グレンはそのままの姿で旅をするの?」シェステが唐突に質問してきた。が、確かに本来の私の姿ではないがそれでも私は《魔王》だ。このまま魔族の姿というのはまずいのかもしれない。
「そうだな、このままの姿では都合が悪いこともあるかもな。しばらく姿を変えるよ。危なかったな。教えてくれて助かったぞ」
「うん、僕もこの子の名前考えなきゃ」2人でしばし考え込む。
((よく考えると難しいな))
シェステは机に座り、候補となる名前を書き出しているようだ。俺は姿見の前で色々と姿を変え、絞り込んでいく。
シェステと旅をする以上安全策をとるならば、やはり人間ベースの姿が良いだろう。後は服装か……。動きやすい服装がいいんだが、❝従者の魔法使い❞か❝保護者を装う執事❞か❝親から依頼を受けた家庭教師兼冒険者❞ってところか。❝単なる親戚のおじさん❞設定もアリか?だがしかし、設定はきちんと決めておかないといざという時に信憑性のある話ができなくなる。
よし!《遠い親戚だが親から依頼を受けた、道中の護衛兼家庭教師兼フリー冒険者の魔法使い》に決めよう!結局全部盛りになってしまった。
だがこれなら、遠い親戚なので親の情報はそこまで知らないし、深い訳がありそうな雰囲気を出してごまかせる。家庭教師なので先生と呼ぶ時もあれば、親戚だから砕けた言葉遣いもできる。魔法スキルの高さはフリーということで仮にギルドが関わる案件も強引に言い訳できる。これは完璧だな!
服装は…。冒険者風であればいいか。執事服もそそられるのだが仕方ないな。これでシェステへの負担はほぼほぼないと言える。少しでも楽しい旅になればという、俺なりの配慮だった。
そしてシェステの方も名前の絞り込みを終えたようだ。
「グレン、一応決めたんだけど『アルス』ってどう?」相当悩んだようだ。それだけ真剣に考えたってことだ。胸を張っていいぞ。
「これは驚いた。とてもいい名前じゃないか。確か『芸術』の語源で❝人間が生み出した技術❞って意味がある。魔法使いにはもってこいの素晴らしい名前だと俺は思うぞ。それにここが大事なんだが、響きもかっこいいじゃないか」
「そっか!よかった!じゃ決まりだね!」俺のお墨付きを得て大喜びだ。
「なら早速❝名付け❞を済ませるといい。早く出口を見つけて旅へ出かけるぞ!」
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