転魔教師~異世界転移した魔王、元の世界に戻るため召喚者の家庭教師になる~

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2限目「提案だ。俺と契約しないか」

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「シェステのパパとママはいつ帰ってくるんだ?」親が帰ってくるならば、色々と分かることがあるだろう、と思ったのだが……。そう上手くはいかないものだ。
「分からない……」寂しそうに視線を下に落とすと、少しだけ間をおいて話始める。

***********
「可愛いシェステ。パパとママは悪い奴らをやっつけに今すぐ出かけなきゃいけない。連れて行ってあげたいんだがシェステを守り切れないかもしれない。それは絶対に嫌なんだ。必ず戻ってくる。だからここでパパとママがいない間この家を守ってほしいんだ。これは重要な仕事だぞ?頼まれてくれるか?」父親が我が子を優しく抱きしめながら、不安な気持ちを押し殺して一言ずつ丁寧に願いを伝える。

「シェステ。一人で寂しい思いをさせるけど、悪い奴をパッパってぶっ倒して一日も早く帰ってくるわ。そしたらいっぱい遊んであげる。パパが」母親が精一杯の強がりでシェステを励ます。

「おいおい小声で最後に何か余計なこと言うんじゃないよ!帰ったら少しは休ませ……」
「パパはシェステのこと大大大好きだから、そんな器の小さいこと言わないわよね?あなたの大好きなワインと肉料理も帰ったら用意しますから、ちゃんと約束してあげて下さい」苦笑する父親の尻を叩きつつ、ウインクしながら笑っている母親の絵が浮かぶ。

***********
 正直シェステの話は要領を得ない部分が大半だったので、あくまでもこういう感じだっただろうということになる。ただし、『悪い奴をやっつけに行く』『守り切れないかもしれない』この2つの部分がこの会話の肝だろう。討伐が急務となる困難なミッション……。一体何を相手にしようとしたんだ。そしてシェステの親は何者なんだろうか。今は情報がない。これは今後の目標の一つにしておこう。

「すまないシェステ。寂しいことを思い出させてしまったな。でももう一つだけ教えてくれ。パパとママが旅に出てどれくらいたっているんだ?」時間の経過次第ではあるいは……。気が進まないが、今後の方針に重要なことだ。確認しておきたい。

「パパとママが出かけてからもうすぐ2回目の冬が来るよ」やがて1年か……。長いな。思っていた以上に深刻な状況かもしれない。というのも。
「連絡の仕方っていうのは教えてもらったかい?」あれば少しは安心なのだが。
「あそこに木の箱があるでしょ?あの箱に手紙が届くよ?」ほう、かなり上位のマジックボックスじゃないか。ペアリングした箱同士で手紙を転移させる仕組みだ。

「でもね、一度も手紙が来ないんだ」手紙も含め連絡がこの子に来ていないのだ。マジックボックスが一番安全な手段だが、他にも依頼を通じて伝達することもできたはず。あり得るのかそういうことが。だがその理由は後ほど判明することになる。

 決めた。同じ娘を持つ親としてこの子を、シェステをこのままにしておけない。実現できる可能性は正直分からんが、親と再会させよう。親にも事情を聴いて少し説教もしてやりたい気分だしな!
 ああ、まるで周知の事実のように❝娘❞と言ったが、シェステは女の子だった。『ぼく』と言っていたので男の子かと思っていたが、さっきの回想で父親が「可愛い娘を一人にするのは本当は辛いんだ」と言っていたのを入れ忘れていた、すまん!

 いつになるのかは不明ではあるものの、元の世界に戻った時の土産話(になるといいのだが)ができるようにこの手記を書き綴っているわけだが。まだメモ書きのようなものだ。国の皆に娯楽として提供できるように出版も考えてみるか?その時は再度推敲せねば。

 いや、話がそれた。今はシェステのことだな。俺は決意を以て彼女に伝えた。

「なぁシェステ。俺はお前にここへ呼ばれた。その気がなかったとしてもだ。これも何かの巡りあわせだと思う。そこでシェステに提案だ。俺と契約しないか」

「契約?おじさんと?」彼女は目をぱちくりさせながら俺の右目と左目を交互に見ていた。
「契約って言葉分かるかい?俺とシェステでそれぞれに願いを言って、叶えるために二人で頑張る約束をするんだ」
「でも願いって。急に言われても…」急な提案で戸惑っているようだ。それは仕方ない。
「そうだよな。だから❝提案❞なんだ。嫌なら約束はしないってことでもいい。だから今から言うことをよく聴いて考えて欲しいんだ。いいかい?」
「うん、ぼくちゃんと聴いてちゃんと考えるよ!」真っ直ぐな物言い、シェステはいい子だな。

「まずは俺の願いだ。俺の願いはただ一つ。❝元の世界に戻る❞こと。俺にも家族、妻と娘がいてな。いきなりこっちに来て心配してると思うんだ。だからできるだけ早く帰って安心させてやりたい。だからその方法を見つけるためにシェステに協力してほしいんだ」
「ぼくの?」
「ああ、そうだ。呼び出したのはシェステだ。だからきっとシェステが帰り道を用意してくれないと帰れない。そう考えている。嫌なら仕方ないが、もしも手伝ってくれるのなら俺はとても嬉しい」これは事実だ。最初に考えた仮説、『力技召喚』という考え方は今になって確信に変わりつつある。

 魔力というのはただの汎用エネルギーではない。根幹はマナという力の根源たる概念があり、そのマナが森羅万象あらゆるものと結びつき特徴のある力を発現する。その一つの力が魔力なのだが、この魔力も扱う者次第で特性が変化する。濃度・属性・効果など、まるで生命の進化で種が枝分かれするかのごとく千変万化の様相を見せるのだ。一説には扱う者の情報体が魔力に取り込まれ、唯一無二の性質を獲得するという話だ。
 そう、ここで先程の話に戻ると、力技で召喚するということは召喚者の魔力そのものが命令系統を構築し、効果を発揮したということ。命令系統というと難しく聞こえるが、要は召喚者の❝願い❞に他ならない。
 何らかの自然現象や時の巡り、または魔術装置の類による陣の発動の可能性も考慮して探っていたが、全くその気配が感じられない以上、シェステは無意識的に潜在的に❝何か❞を願った。その結果俺という存在を召喚してしまったのだろう。

 これはなかなか絶望的な状況であることは分かっているつもりだ。ん?分からない者もいるのか?ならば解説しよう!
 まずはその願い。本人は『絵を描いたら出てきた』と言っている。自分の魔力が原因だと、❝願い❞がきっかけだと気付いていない者にどうやってその願いを聞き出すのだ?
 2つ目は、陣の再発動。当たり前の話なのだが、この場合完成された汎用性のある召喚魔法ではなく、言わばシェステの固有魔法に近いというか実際そうであろう。つまりシェステに再現してもらうことになる。それには限りなく当時の状況に近づけなくてはならない。残念ながら発動の完全再現は無理である。この際元の世界に戻れるなら場所や状況は問題にしないことにする。
 ではその再現したい状況はというと、幸いなことに魔法陣?のようなものは時間凍結して保存はできている。さすが俺!だが、これはきっかけに過ぎぬからな……。
 問題は魔力の質と量だ。魔力そのものが魔法陣と言っていいので、再現には質と量を限りなく当時と同じものに制御しなければならない。その場にいなかった私がどうやってサポートできるのだ……。今は子供の前なので舌打ちはしないことにする。
 ただし、可能性がないわけではない。この場合、質は本人の存在そのものが魔法の質と言えるのでそれほど心配はしなくてよい気がする。量は……。量だ!こいつが難所だった!私の召喚でどれほどの魔力を持っていかれたんだ?消費魔力を補填するのは通常ならば楽なのだが、今回は明らかに桁が違う。まずい、時間がかかりすぎる可能性が……。もう!これは仕方ない。可能性があるだけ良しとしよう。

 ということをシェステへ契約を提案する短い時間で考えていたわけだが、そういうこちらの事情は言っても今は分かってもらえないことは明白なので、後日説明の時間を用意しないとな。
 こういう事情だ、時間は大切にしないと。俺はシェステにさらにこう話を続ける。

「じゃシェステ、次はお前の番だ。シェステの❝願い❞を教えて欲しい」
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