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本編 2
第五十八話 駆け引きをする男
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「臭うな」
朝陽が差し込む窓からふわりと主の腕に降り立ったカラスから受け取った報告書を読みながら、マヒロが言った。
別の報告書を仕上げていたリックは、どうしました、と声をかける。
仲間たちは交代で仮眠を取りながら、捜査に当たっている。今日には、海斗がブランレトゥに寄るついでに応援を連れてきてくれる予定なので、彼らが到着し次第、第二小隊は全員が今回の事件の捜査に当たる。
マヒロが何と言ってウィルフレッドから小隊を一つ応援として呼び寄せる許可を取ったのかは知らないが、気苦労の多いウィルフレッドの胃が無事であるようにと願うことしかリックにはできない。
「園田にカレンの身辺を探らせているのだが……このオーブとかいう宝石商、怪しい」
「オーブというとグラウでもブランレトゥでも有名な商会ですね。本店はこちらにあるのですが、ブランレトゥにも支店があります」
「そんな悪い噂は聞いたことないですけどね」
隣で同じく書類を作成していたエドワードが顔を上げる。
マヒロが「読んでおけ」と差し出した報告書を受け取り、目を通す。エドワードも横からのぞき込んできた。
筆跡は、ルシアンのものだ。昨夜から、マヒロの執事であるミツルとともにカレンの身辺調査に駆り出されている。
「……これは……確かに、なんだか別件で色々と厄介そうですね」
アパートメントのカレンの部屋に現れたというオーブの坊ちゃまと思われる男の言動にリックは眉を寄せる。
「ちょっと、刺激してみるか。サヴィラなら行けるだろ」
「は、はい?」
「度胸試しだ」
主は訳の分からないことを言いながら、手紙をしたため始めた。彼の肩でカラスが「カァ」と鳴いて、その手紙を見ている。
リックとエドワードは顔を見合わせるが、マヒロはリックたちの混乱などお構いなしに手紙を二通、仕上げるとそれをカラスに持たせた。カラスは真っ黒な翼を広げて窓の外へと出て行った。
「マヒロさん? あの、どういう……」
「サヴィラを行かせて、揺さぶりをかけようと思ってな。……例えば、ラモンがエリーヌを組織に誘拐させたように、オーブがこの息子の目を覚まさせるために邪魔なメイドを誘拐させたという線もあるかもしれんだろ」
「それは……確かにそうですが、どうしてサヴィラを?」
「雪乃は昨日、騎士団に行ってもらったし、子どもたちとカレンの世話で忙しい。それにサヴィラなら、うまくやるだろうし、ルシアン、ピアース……それに何より園田がいれば、何があっても問題ないだろうしな」
リックは、この天才と呼ばれる主の頭の中がさっぱり分からない。
それが伝わったのか、少しの間を置いてマヒロが口を開く。
「俺が……神父が探っているということを知らせたいんだ。焦れば必ず尻尾を出すし、そうでなくとも今後、カレンの身を保証するにもしないにもオーブに行かねばならんからな」
「ですが、サヴィラは賢い子ですが、まだ子供ですよ?」
「息子の代わりにお前たちをやってもいいんだが……」
煙草を取り出しながらマヒロが胡乱な目をする。
「向こうはおそらくこちらを試してくる。きっと偽の宝石を出してきて区別がつくかどうかを伺ってくるだろう。……お前、宝石の偽物と本物の区別つくのか? 本物であっても良し悪しがあるんだぞ」
宝石なんてものが身近にあったことがない。事件で逮捕した犯罪者の中には、それを身に着けていたものはいたが、押収品としてしか見ていなかったし、宝石の良し悪しなどそれこそ分からない。透明度とか色とか、にわか知識ならあるが、役に立つかと問われると立たない程度の知識だ。
「…………」
「あ、俺は無理です」
押し黙るリックの横でエドワードは潔く負けを認めた。
「お前は貴族だろ。分かれよ!」
「分かるわけないだろ! うちには宝石なんて代々伝わる男爵夫人の指輪とネックレスしかないんだ! どっちもマヒロさんがこの間、ユキノさんに買ってたやつよりしょぼい!!」
「威張るな!」
きりっとした顔で情けない宣言をする相棒にリックはうなだれる。
「お前たちにも今後のために追々教えてやるつもりではあるが、今は時間がない。その点、サヴィラは生家での教育のおかげでその辺も明るいからな」
思っていた十倍、主の息子が優秀だ。
でも、そうだよな、と同時に納得する。隣の貧乏貴族の相棒よりも、マヒロ同様、サヴィラは貴族といわれても納得できる。マナーは完ぺきだし、教養があり、場を読む空気に長け、その場に見合った立ち居振る舞いもマヒロに引けを取らない。
「応援部隊が到着し次第、人員にも余裕がでる。そうなれば他のアジトを探る。それの準備を頼むぞ。俺はあいつらに聞きたいことができたので、ちょっと行ってくる」
そういって真尋は、縛り上げられたままの誘拐犯どもの部屋へと行ってしまった。
リックは、溜息をつきたいのをぐっとこらえて、ペンを握りなおすのだった。
ルシアンの目の前には、どこからどうみても貴族の坊ちゃんと呼べる少年がいた。
「変じゃないかな? 母様が見立ててくれたんだけど」
「よくお似合いです、坊ちゃま」
ミツルが拍手を送るとその隣に座る少年――サヴィラは気恥ずかしそうに微笑んだ。
ルシアンは相棒のピアースとともに怪しい宝石商オーブへと向かっていた。ちなみにピアースが御者席に座っている。
オーブに向かうに当たって、一度、マヒロの家に行ったのだ。何かミツルが必要なものを取りに戻ったのかと思えば、正装したサヴィラが乗り込んできた。
紺色を基調としたジャケットにベスト、スラックス。ジャケットの襟には銀の糸で丁寧な刺繍が施されている。ブルーのリボンタイが少年らしく、グレーのシャツが全体を引き締めている。明るい金の長い髪は首の後ろで瞳の色と同じ紫紺色のリボンで結ばれている。
もともと、貧民街にいるのが不思議なほど顔の整った品のある少年だったので、ふさわしい格好をすれば、ただただ本当に貴族のご令息だ。
「ルシアン、今日は俺の護衛ってことでよろしくね」
「こ、こちらこそ、あの、でも、なぜ、サヴィラ坊ちゃんが」
「父様に頼まれたんだよ。オーブにカマかけて来いって。一応、宝石の良し悪しは分かるからさ。ごめんね、人使いの荒い父で」
「いえ、仕事ですから。それに神父殿は、尊敬できる方ですから、彼のお役に立てることを光栄に思います」
するとサヴィラは「ありがとう」と優しく微笑んだ。将来、とてもモテそうだな、とルシアンは場違いな感想を抱いた。
馬車がゆっくりと止まる。オーブに着いたようだ。
ピアースがドアを開けてくれ、先にルシアンが降りて、次にミツルが降りた。
オーブには、事前に連絡がいっていたようで三つ揃えのスーツに身を包んだ初老の狐系と思われる獣人族の男性が――おそらくオーブの支配人か執事だ――いて、その後ろに二人ほど若い男性が控えている。
「いらっしゃいませ、オーブにようこそおいでくださいました。私は支配人を務めておりますクルトと申します」
「私はマヒロ様に仕える執事の充と申します。本日はお忙しい中、無理なお願いをお聞きくださって、心よりお礼申し上げます」
「いえ、お客様の要望に柔軟にお応えするのが我々の務めてございます」
クルトは隙の無い笑みを浮かべる。
グレーのふさふさの尻尾が背後で優雅に揺れる。ロマンスグレーの髪を後ろに撫でつけていて、そこから生える三角の耳は、尻尾と同じく先のほうがわずかに黒い。狐系特有の猫のような縦長の瞳孔を持つ双眸が、こちらの様子をうかがっている。
「あの神父様とご縁を頂けるとは、光栄にございます」
「何か、行き違いがあったみたいですね」
声変わり前の少年特有の声が凛と響く。
ミツルが胸に手を当て、小さく頭を下げ、ルシアンとピアースは護衛らしく背筋を正す。
馬車からサヴィラがゆったりと降りてくる。
「父が来るとは一言も言っていないはずなのですが……今回、用があるのは僕なので。母にネックレスをプレゼントしたいんです」
サヴィラが少し困ったように笑いながら、自分がここへ来た理由を告げる。
いつものマヒロに通ずるものがある堂々とした様子ではなく、少し気弱な坊ちゃんを演じている。
「そうでしたか、それは大変失礼を。どこかで行き違いがあったようです。ですが、神父様のご子息に頼りにして頂けるのもまた、光栄でございます。さあ、こちらへどうぞ」
クルトがにこやかにサヴィラをエスコートし中へと入っていくのに続く。
案内されたのは、立派な応接間だ。暖炉があり、窓からは大通りの様子がよく見える。それに壁紙や絨毯も重厚で、調度品も惜しみなく金がかけられていることだけは、一般人のルシアンにもわかった。
サヴィラがソファに座り、ミツルとともにルシアンとピアースはその背後に控える。クルトはサヴィラの向かいのソファに腰かける。
メイドがすっと紅茶を提供し、さっと壁際に下がる。
「僕は宝石にはあまり明るくなくて……」
「私ども専門家にお任せください。まずは、色や、例えば知っている宝石の名があれば、そちら参考にご用意させて頂きます。当店では、石を選んでいただいたお客様には、アクセサリーに加工するために、腕利きの職人の紹介もさせて頂いておりますのでご安心ください」
「そうなんですね、ありがとうございます」
実年齢より少し幼いくらいの笑顔を浮かべて両手を合わせるサヴィラは、キラーベアを従え、件の二級騎士を地魔法で宙づりにしたり、教会に忍び込んだ暗殺者を氷漬けにしたりしたのが嘘のような無邪気さを湛えていた。
「その、分かりやすくて申し訳ないんですが、ダイヤモンドがよくて」
サヴィラが照れながら言った。
クルトは微笑ましそうに「いえ」と首を横にふると後ろに控えていた青年に耳打ちした。青年は隣の部屋にいくと黒くて薄く平べったい箱を持ってきてテーブルの上に置いた。小さな南京錠がかけられていて、クルトがそれをもったいぶるように開ける。
そこには、まばゆく輝くダイヤモンドがいくつも並んでいた。どれもこれも大粒で女性の小指の爪くらいはありそうだ。中には完成品を想像しやすくするためか指輪に加工されているものもある。
「わぁ、綺麗ですね、どれもキラキラしてる」
サヴィラが身を乗り出して無邪気にはしゃぐ。
あれらは一粒でどれくらいの価格なのだろうか。ルシアンの給料何カ月分なのだろう。
「こちらは、王国の一大産出地である南のカルマン地方で採れた天然のダイヤモンドでございます。どれもこれも資産価値を有した大きさと輝き、透明度を誇る逸品で、一粒一粒、熟練の職人が磨き上」
「この石ころ、今なら見なかったことにする」
クルトの説明にかぶせるようにサヴィラが言った。ぐっと下がった声の温度とその言葉にルシアンとピアースは顔を見合わせる。
紫紺の瞳がつまらなそうに細められ、サヴィラはソファに深々と座りなおして足を組んだ。クルトの微笑みが固まる。
「輝きが違います。これはダイヤモンドではなく、ダイヤモンドによく似たジルコン。そうでしょう、クルト」
人差し指の背を顎に当てながらサヴィラが小首を傾げる。
ちらりと見た先でミツルが、うんうん、と頷いている。どうやら彼もこれが偽物だと分かっているようだ。
「のぞき込めば一目瞭然ですよ。ファセットが二重に見えるダイヤモンドなんて、愉快じゃないですか。その上、左端一列は無色のサファイアを加工しただけのもの。……違いますか?」
切れ長の紫紺の瞳が、にんまりと細められる。
クルトは微笑みを崩さず、蓋をパタンと閉じた。
「これはこれは大変失礼いたしました。持ってくるものを間違えてしまったようです」
「一度限り、許します。誰にでも間違いはあるものですから」
言外に二度目はねえぞ、と告げてサヴィラは微笑んだ。
すると今度は、クルトが「失礼」と告げて立ち上がり、隣の部屋に行った。
正直なところ、ルシアンには偽物だと言われても違いが分からなかった。そもそもジルコンというのは、あの鍛冶屋のドワーフ族の爺さんの名前でしか知らない。鉱石の名前だったのかと感心してしまう。
しばらくしてクルトが戻ってきた。箱の色や形にはあまり変わりがないが、先ほどの箱より一回り大きく、こちらも小さな南京錠がかけられている。
「お詫びとして、本来であれば一見様にはお見せしない、当店にある最高品質のものでございます」
クルトがそれをサヴィラの前に置き、ポケットから鍵を取り出して開ける。
ゆっくりと開けられた蓋の下には、確かに先ほどよりもずっと美しく輝く宝石がずらりと並んでいた。しかも先ほどの宝石よりもずっと大きい。中には磨かれる前の原石のままのものもあった。
あれを磨けば、これほどまでに輝くのか、と感動さえ覚えるほど、そこに並ぶ石は美しい。
「うん、良い品ですね」
のぞき込んだサヴィラが満足そうに言った。ミツルも満足げだ。
「実は、先ほど一つだけ嘘をつきました。僕が母にと言いましたが、実は父が母にネックレスを贈りたいと言っていまして。驚かせたいからできるだけ内緒にって言われていたんです」
「おや、そうなのですか」
「ごめんなさい、試すような真似をして。……母様にばれないように、内緒にしてくれますか?」
サヴィラが顔の前で手を合わせて申し訳なさそうな顔をしながら首を傾げた。
クルトが、ふっと微笑んで頷く。
「一本取られましたな。秘密を共有させていただきます。それに神父様は愛妻家と伺っております」
「ええ。それはもう。息子の前でも遠慮がないので、いたたまれない時もあるほどです」
「坊ちゃまは年頃ですし、大変そうでございますね。ですがご両親の仲がよろしいのは、宝石商としてはありがたいことです。こうして贈り物を求めて頂けますので」
クルトが冗談交じりに言えば、サヴィラは「たくましいですね」と可笑しそうに笑う。
「父は存在感のあるものがいいと言っていたので……そうだな、これなんかどうだろう。ミツルはどう思う?」
サヴィラが、その箱の中でもひときわ大きな、直径は一.五センチ、縦に三センチはありそうな雫型の大粒のダイヤモンドを指さして、ミツルに問う。
ミツルが横からのぞき込み、じっと観察する。それを受けて、クルトが説明をしてくれる。
「こちらのダイヤモンドは、十年ほど前にドワーフ族の里にある鉱山から見つかったもので、大変、希少なものになります。何分、ドワーフ族の方々は質が高ければ高いほど、宝物庫にしまい込んで里の外には出さない習性がありますので。売人が何年も通って交渉を続け、お譲り頂いたのです。ですので、少々、お値段は張ってしまうのですが……こちらは二千万Sほどになります」
ルシアンは驚きに上がりそうになった声をなんとか飲み込んだ。ピアースの尻尾が音もなくルシアンの太ももを叩いて驚きをあらわにしてくる。
「驚いたな」
サヴィラが目を丸くしている。さすがのサヴィラでもこの額は驚くんだ、とほっとするもすぐにそれは覆される。
「これ、加工したのはドワーフ族の宝石職人だと思ったんです。同じような大きさと透明度でも、こっちは、他の種族の職人でしょう? それに雫型は普通の物に比べて加工が難しい。……僕が選んだこの石の輝きは、一味違うように感じて。ドワーフ族の加工が施されたものは、クルトの言う通り、宝物庫にしまわれてなかなか市場には出ないでしょうから、もっと値段が張ると思ったんです」
「……流石でございます、坊ちゃま」
クルトも少し驚きをあらわにしている。
ルシアンには、どれもこれも同じように輝いているように見えるが、サヴィラには違って見えるらしい。しかも少年が驚いた理由が、高かったからではなく、想像より安かったということだと気づいて、余計に驚く。
「ドワーフ族の貴金属や宝石に関する加工技術は、やはり他種族がどれほど己の腕を高めようと得られぬものです。手ずから加工を施したものを手放さないのも彼らの習性でして」
「ええ、畑は違いますが、ブランレトゥで最も有名なドワーフ族の鍛冶師も、自分の作品をなかなか手放さなくて有名ですから」
「ジルコン殿ですね。噂は聞いております」
クルトがくすくすと笑い、サヴィラもころころと笑う。
「こちらのダイヤモンドをさらにアクセサリーに加工すれば、三千万S、四千万Sといくらでも値段は吊り上がりますが、こちらは石のみ、ですのでこの値段となっております」
「素晴らしい物には、ふさわしい価値があるものです。どう、ミツル」
「ええ、素晴らしい品です。透明度も大きさも申し分ない。加工も見事で、どの角度から見ても美しく輝くでしょう」
「なら、これを」
「ありがとうございます。鑑定書をご用意いたしますので、少々お待ちを」
クルトが指示を出し、手のひらに乗る大きさの布張りの小さな箱と鑑定書が用意される。鑑定書にサヴィラが目を通している間に、ダイヤモンドがその小さな箱に納められる。
クルトがその小さな箱をサヴィラに向ける。
「ご確認を」
「うん、綺麗だ。これのアクセサリーへの加工については、さすがに僕も聞いていないんです。もしかしたら、後日、父が頼るかもしれないんですが……」
「でしたら、私に直接連絡を頂ければ、最高の職人をご紹介いたします。ドワーフ族の宝石にはドワーフ族の職人が相応しいですからね」
「ありがとう、父に伝えておきます」
サヴィラが差し出した鑑定書をミツルが確認する。
「支払いは?」
「現金か小切手でお願いしております。現金の場合は、本日、お持ち帰り頂けます。小切手の場合は、本日、二割の手付金をお支払いいただき、商業ギルドにて残りの八割の入金を確認後、後日、お渡しになります」
「ミツル」
「はい、坊ちゃま」
ミツルが懐に手を入れ、革製の美しい財布を取り出す。
白手袋をはめた手が中から黒金貨を二枚取り出した。クルトが用意したトレーにそれが置かれる。
「確かに頂きました。領収書を用意いたします」
取引専用の高額硬貨である黒金貨(一枚一千万Sの価値がある)なんて初めて生で見た。これまで多くの悪党を摘発してきたが、なかなかこの取引専用高価を持っている者は少ない。その名が示す通り、取引専用であるため、悪事を働くにあたって足がつきやすいのだ。だから山のような金貨や銀貨はみたことはあるが、取引専用硬貨を見る機会は案外少ない。
こちらを、と差し出されたダイヤモンドの納まる小さな箱を受け取り、サヴィラが改めて中身を確認する。
領収書はミツルに渡された。
「近くで見ても実に質のいいものですね。父は、母を着飾ることに関しては妥協しないんです。オーブさんのことは、僕からもおすすめしておきます」
「これはこれは、光栄なお言葉に胸がいっぱいです」
クルトが感動した様子で胸をおさえる。
「本当は父も来たがっていたんですが、今、忙しくて」
そう言いながらサヴィラが懐にダイヤモンドをしまう。
「教会のお仕事がどういったものかは存じ上げませんが、領主様から請け負った仕事で怪我をして、こちらには療養を兼ねてきているとお聞きしましたが……」
心配そうにクルトが言った。
「いえ、教会の仕事はこちらではほとんど。ただ、最近、こちらの騎士の質が低下しているでしょう? それを憂いて、あれこれしているようです。息子としてはおっしゃる通り、療養中なのだから大人しくしていてほしいのですが」
「水の月の事件で、騎士団は大変だと聞いておりますが……確かに市民からすると目に余る行動も多々あるのは確かでございますね。坊ちゃまのお連れ様は、ブランレトゥの?」
クルトの視線に二人は小さく会釈を返す。
「ええ。ブランレトゥの騎士です。団長閣下が気にかけてくださって、優秀な小隊を一つ、護衛として我が家につけてくださったんです。その中でも父が目をかけているだけあって、二人とも優秀ですよ」
お世辞と分かっていても、あのマヒロに目をかけられていると言われると嬉しい。にやけそうになる頬を内側を噛んでやり過ごす。でも素直な尻尾がルシアンとピアースの背後でピンと立ちそうになっている。
「騎士様の前で言うのは憚られますが確かに最近は少々、物騒ですね。先日も市場への使いに出したメイドが声をかけられ怪我を……ああ、実は私はオーブの旦那様の執事でもありまして」
「クルトほどの人を雇えるなんて、旦那様は素晴らしい人なのでしょうね」
「お褒め頂き光栄です。旦那様は、商才のある素晴らしい方でございます。私は普段は、ブランレトゥの支店とあちらに住む長男ご夫妻と屋敷を任されているのですが、こちらの支配人が体調を崩してしまい、急遽、今は私が代わりに。本来、代行を務める副支配人も旦那様とともに買い付けに行ってしまっているのですよ」
「じゃあ、貴方に会えたのは幸運なのかな? だけど、僕も普段はブランレトゥにいるから、必要になった時にすぐにクルトに会えるのは心強いですね」
サヴィラが無邪気に告げる。クルトは「光栄です」と気恥しそうに目を伏せた。
「ああ、でもさっきのメイドさんの話に戻るけど、彼女は大丈夫なの?」
「お優しいですね、坊ちゃま。……メイドは使いの帰りに声をかけられまして。無事に戻って参りましたが、それ以来、使いは男性使用人に頼まざるを得ず、少々不便ですね。当家では男性使用人は普段、市場への使いをすることはないので勝手が分からないようでして」
「メイドさんに怪我とかは?」
「逃げるときに転んだそうで、膝をすりむいていましたがそれだけです。今日も元気に働いております。しかし、我々市民からすると、騎士様には逆らい難い。悪いことをしていなくても、なかなかどうしてあの制服を前にすると、非礼を働くわけにはいきませんしね」
「そうでしょう。騎士というものに、無遠慮に盾突くなんてことは難しいものです。……実は、先日も父が女性を一人保護したんです。ミツルと同じ犬系の獣人族の女性で、なんでも騎士風情の男に声をかけられて攫われたとかで。命からがら逃げだしてきたんだそうです。僕は少し姿を見ただけですが美しい金の髪も傷んでいて、やつれた様子はあまりに胸が痛みました」
クルトの目が一瞬だけ揺れたように見えた。
サヴィラは悲痛な表情を浮かべているが、その紫紺の双眸は油断なくクルトの様子をうかがっている。獲物を睨む蛇みたいだ。サヴィラは、蜥蜴だけれど。
「……なんとも痛ましいお話です。その方は今、どちらに?」
「それはさすがの僕も分からないです、騎士がすぐにどこかへ連れて行ったので。だから信用のおけるブランレトゥの騎士が預かっているのかも。その後、騎士が保護した女性の家を訪ねたらしくて、その騎士たちが話していたのをこっそり聞いたんです。あ、これは父には内緒でお願いしますね。危ないことに首を突っ込むと怒られるんですよ。……なんでも、酷い臭いの魔力の残り香が部屋にはあって、誘拐犯がまだ諦めていないんじゃないかって話で」
「確かに我々獣人族は鼻が利きます故に、嫌な魔力の臭いには辟易いたします。それはそれは酷い臭いだったのでしょうね」
「それが、腐った卵みたいな臭いだったらしいですよ。僕も獣人族ほどじゃないけど鼻が利くので、想像しただけで、うぇってなっちゃいましたよ」
「……腐った、卵、ですか。それは……想像しただけで私も胸が悪くなりそうです」
ルシアンとピアースは、サヴィラのその社交能力の高さに圧倒されながら、なんとか護衛としての無表情を保ち続ける。
間違いなくサヴィラは、目の前の隙のない支配人と駆け引きをしている。
「だから、クルトも気を付けてください。メイドさんたち、一度、目を付けられたら何をされるか分からないですから」
「その通りですね。やはり当面、外の用事は男性使用人に任せることにいたします」
クルトが神妙な顔で頷いた。
「坊ちゃま、そろそろお暇しませんと、奥様に怪しまれますよ。奥様には、市場に行くと言ってありますから」
「あ、そうだね。帰らないと」
ミツルの言葉にサヴィラが頷き立ち上がる。それに合わせてクルトも立ち上がった。
ぞろぞろと応接間を後にする。オーブの使用人が出してきてくれたのか、馬車が出口に停められていた。
「クルト、急な訪問にもかかわらず、素晴らしいもてなしをありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます。今後ともぜひ、御贔屓に」
「うん。今度は、父様と来るよ。ねえ、クルト、他の石についても先生をしてほしいな。もっと様々な種類の貴石や鉱石に詳しくなりたいんだ」
「私でよければ、いくらでも」
サヴィラは人懐こい笑みを浮かべて、クルトと握手を交わすとくるりと背を向け馬車へと乗り込む。
乗り込む寸前に贈られたサヴィラからの目くばせにルシアンは頷く。サヴィラの背を追うようにミツルが乗り込み、ピアースは御者席に乗る。
「クルト様、所属は違えど同じ騎士として、メイド女性への被害は恥ずべきことです。何かありましたら私どもに連絡を。我々はブランレトゥに籍を置いておりまして、現在は護衛のため、神父様の屋敷の近くの宿を借り上げておりますので。ルシアンかピアース、と我々の名を出してください」
「ありがとうございます。何かありましたら是非、ご相談させてください」
にこやかなクルトに見送られて、ルシアンも馬車に乗り込み、内側からドアを閉める。
こんこんと壁を叩いて合図を出せば、ピアースが馬たちに声をかけて馬車が動き出す。
「あれ、何か知ってるね」
サヴィラが面白そうに言った。
先ほどまでの無邪気な様子が嘘のように大人びた笑みを浮かべている。
「そのようでございますね。収穫祭も迫っておりますから、早々に片を付けたいと真尋様もおっしゃられていたので、ありがたいことですが」
「ミアも寂しがってるしね」
「……やはり、カレン嬢のこと、関係しているのでしょうか」
ルシアンのつぶやきにサヴィラが「無関係ではないでしょ」と言いながらリボンタイをいじる。
「誰かが何か被害にあったって時には、やっぱり普通は『怪我の有無』を気にするでしょ。俺だってメイドのことを聞いて、メイドの怪我について聞いた。だけど、クルトは俺にこう聞いた。『その方は、どちらに?』ってね」
紫紺の瞳がにんまりと細められる。
「所在を知りたいってことは探してるってことだろうね。金髪の犬系獣人族ってだけで、カレンを想像するには容易いし」
「……坊ちゃん、将来、騎士になりませんか?」
「ふふっ、ありがとう。考えておくよ」
照れくさそうにサヴィラは首をすくめた。
ウィルフレッドやナルキーサスが、うちへ来ないか、と誘いたくなる気持ちがルシアンにもよくわかった。彼は優秀だ。判断力があり、頭の回転が速く、度胸もある。それに三つの属性を操る魔法と剣術の腕も伸びしろがある。これは、魔導院も騎士団も欲しくなる人材だ。
サヴィラが懐から例の小さな箱を取り出して蓋を開ける。
「ルシアン、これが本物だよ。さっきのジルコンとは輝きが全然違うでしょう」
磨き上げられたダイヤモンドは、複雑なカットの効果で薄暗い馬車の中でもわずかな光でキラキラと輝く。
ルシアンは、一般家庭に生まれ育った一般人なので、例えば将来これが買える給料になるだろう正騎士になっても、サヴィラのようにあんな余裕をもって買えないかもしれない。
だが、裕福な女性たちが魅了されるのも分かるほど、ダイヤモンドは美しい。
「でも、あの……二千万Sなんて大金、その、捜査のためとはいえ、大丈夫なんでしょうか? さすがに経費では落ちないような……」
「これは父様の個人的な買い物だから大丈夫だよ。良いのがあったら買って来いって言われていたのは事実だし、ね、ミツル」
「はい。これならば真尋様もお気に召すかと、雪乃様にもよく似合いそうです」
「ね、本当に綺麗だよね。俺も父様のいつもの無駄遣いならあれだけど、これは奇跡の再会を記念する贈り物だって言うから協力したんだよ」
金持ちって分からないな、とルシアンは遠くを見つめる。
でもマヒロは、日用品感覚で家を買って困るとリックが嘆いていたのを思い出す。
リック、頑張れよ、とルシアンは後輩の今後の平穏を願うのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
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明日は祝日、成人の日ですね!
なので勢いで更新予定です!
次のお話も楽しんで頂ければ幸いです♪
朝陽が差し込む窓からふわりと主の腕に降り立ったカラスから受け取った報告書を読みながら、マヒロが言った。
別の報告書を仕上げていたリックは、どうしました、と声をかける。
仲間たちは交代で仮眠を取りながら、捜査に当たっている。今日には、海斗がブランレトゥに寄るついでに応援を連れてきてくれる予定なので、彼らが到着し次第、第二小隊は全員が今回の事件の捜査に当たる。
マヒロが何と言ってウィルフレッドから小隊を一つ応援として呼び寄せる許可を取ったのかは知らないが、気苦労の多いウィルフレッドの胃が無事であるようにと願うことしかリックにはできない。
「園田にカレンの身辺を探らせているのだが……このオーブとかいう宝石商、怪しい」
「オーブというとグラウでもブランレトゥでも有名な商会ですね。本店はこちらにあるのですが、ブランレトゥにも支店があります」
「そんな悪い噂は聞いたことないですけどね」
隣で同じく書類を作成していたエドワードが顔を上げる。
マヒロが「読んでおけ」と差し出した報告書を受け取り、目を通す。エドワードも横からのぞき込んできた。
筆跡は、ルシアンのものだ。昨夜から、マヒロの執事であるミツルとともにカレンの身辺調査に駆り出されている。
「……これは……確かに、なんだか別件で色々と厄介そうですね」
アパートメントのカレンの部屋に現れたというオーブの坊ちゃまと思われる男の言動にリックは眉を寄せる。
「ちょっと、刺激してみるか。サヴィラなら行けるだろ」
「は、はい?」
「度胸試しだ」
主は訳の分からないことを言いながら、手紙をしたため始めた。彼の肩でカラスが「カァ」と鳴いて、その手紙を見ている。
リックとエドワードは顔を見合わせるが、マヒロはリックたちの混乱などお構いなしに手紙を二通、仕上げるとそれをカラスに持たせた。カラスは真っ黒な翼を広げて窓の外へと出て行った。
「マヒロさん? あの、どういう……」
「サヴィラを行かせて、揺さぶりをかけようと思ってな。……例えば、ラモンがエリーヌを組織に誘拐させたように、オーブがこの息子の目を覚まさせるために邪魔なメイドを誘拐させたという線もあるかもしれんだろ」
「それは……確かにそうですが、どうしてサヴィラを?」
「雪乃は昨日、騎士団に行ってもらったし、子どもたちとカレンの世話で忙しい。それにサヴィラなら、うまくやるだろうし、ルシアン、ピアース……それに何より園田がいれば、何があっても問題ないだろうしな」
リックは、この天才と呼ばれる主の頭の中がさっぱり分からない。
それが伝わったのか、少しの間を置いてマヒロが口を開く。
「俺が……神父が探っているということを知らせたいんだ。焦れば必ず尻尾を出すし、そうでなくとも今後、カレンの身を保証するにもしないにもオーブに行かねばならんからな」
「ですが、サヴィラは賢い子ですが、まだ子供ですよ?」
「息子の代わりにお前たちをやってもいいんだが……」
煙草を取り出しながらマヒロが胡乱な目をする。
「向こうはおそらくこちらを試してくる。きっと偽の宝石を出してきて区別がつくかどうかを伺ってくるだろう。……お前、宝石の偽物と本物の区別つくのか? 本物であっても良し悪しがあるんだぞ」
宝石なんてものが身近にあったことがない。事件で逮捕した犯罪者の中には、それを身に着けていたものはいたが、押収品としてしか見ていなかったし、宝石の良し悪しなどそれこそ分からない。透明度とか色とか、にわか知識ならあるが、役に立つかと問われると立たない程度の知識だ。
「…………」
「あ、俺は無理です」
押し黙るリックの横でエドワードは潔く負けを認めた。
「お前は貴族だろ。分かれよ!」
「分かるわけないだろ! うちには宝石なんて代々伝わる男爵夫人の指輪とネックレスしかないんだ! どっちもマヒロさんがこの間、ユキノさんに買ってたやつよりしょぼい!!」
「威張るな!」
きりっとした顔で情けない宣言をする相棒にリックはうなだれる。
「お前たちにも今後のために追々教えてやるつもりではあるが、今は時間がない。その点、サヴィラは生家での教育のおかげでその辺も明るいからな」
思っていた十倍、主の息子が優秀だ。
でも、そうだよな、と同時に納得する。隣の貧乏貴族の相棒よりも、マヒロ同様、サヴィラは貴族といわれても納得できる。マナーは完ぺきだし、教養があり、場を読む空気に長け、その場に見合った立ち居振る舞いもマヒロに引けを取らない。
「応援部隊が到着し次第、人員にも余裕がでる。そうなれば他のアジトを探る。それの準備を頼むぞ。俺はあいつらに聞きたいことができたので、ちょっと行ってくる」
そういって真尋は、縛り上げられたままの誘拐犯どもの部屋へと行ってしまった。
リックは、溜息をつきたいのをぐっとこらえて、ペンを握りなおすのだった。
ルシアンの目の前には、どこからどうみても貴族の坊ちゃんと呼べる少年がいた。
「変じゃないかな? 母様が見立ててくれたんだけど」
「よくお似合いです、坊ちゃま」
ミツルが拍手を送るとその隣に座る少年――サヴィラは気恥ずかしそうに微笑んだ。
ルシアンは相棒のピアースとともに怪しい宝石商オーブへと向かっていた。ちなみにピアースが御者席に座っている。
オーブに向かうに当たって、一度、マヒロの家に行ったのだ。何かミツルが必要なものを取りに戻ったのかと思えば、正装したサヴィラが乗り込んできた。
紺色を基調としたジャケットにベスト、スラックス。ジャケットの襟には銀の糸で丁寧な刺繍が施されている。ブルーのリボンタイが少年らしく、グレーのシャツが全体を引き締めている。明るい金の長い髪は首の後ろで瞳の色と同じ紫紺色のリボンで結ばれている。
もともと、貧民街にいるのが不思議なほど顔の整った品のある少年だったので、ふさわしい格好をすれば、ただただ本当に貴族のご令息だ。
「ルシアン、今日は俺の護衛ってことでよろしくね」
「こ、こちらこそ、あの、でも、なぜ、サヴィラ坊ちゃんが」
「父様に頼まれたんだよ。オーブにカマかけて来いって。一応、宝石の良し悪しは分かるからさ。ごめんね、人使いの荒い父で」
「いえ、仕事ですから。それに神父殿は、尊敬できる方ですから、彼のお役に立てることを光栄に思います」
するとサヴィラは「ありがとう」と優しく微笑んだ。将来、とてもモテそうだな、とルシアンは場違いな感想を抱いた。
馬車がゆっくりと止まる。オーブに着いたようだ。
ピアースがドアを開けてくれ、先にルシアンが降りて、次にミツルが降りた。
オーブには、事前に連絡がいっていたようで三つ揃えのスーツに身を包んだ初老の狐系と思われる獣人族の男性が――おそらくオーブの支配人か執事だ――いて、その後ろに二人ほど若い男性が控えている。
「いらっしゃいませ、オーブにようこそおいでくださいました。私は支配人を務めておりますクルトと申します」
「私はマヒロ様に仕える執事の充と申します。本日はお忙しい中、無理なお願いをお聞きくださって、心よりお礼申し上げます」
「いえ、お客様の要望に柔軟にお応えするのが我々の務めてございます」
クルトは隙の無い笑みを浮かべる。
グレーのふさふさの尻尾が背後で優雅に揺れる。ロマンスグレーの髪を後ろに撫でつけていて、そこから生える三角の耳は、尻尾と同じく先のほうがわずかに黒い。狐系特有の猫のような縦長の瞳孔を持つ双眸が、こちらの様子をうかがっている。
「あの神父様とご縁を頂けるとは、光栄にございます」
「何か、行き違いがあったみたいですね」
声変わり前の少年特有の声が凛と響く。
ミツルが胸に手を当て、小さく頭を下げ、ルシアンとピアースは護衛らしく背筋を正す。
馬車からサヴィラがゆったりと降りてくる。
「父が来るとは一言も言っていないはずなのですが……今回、用があるのは僕なので。母にネックレスをプレゼントしたいんです」
サヴィラが少し困ったように笑いながら、自分がここへ来た理由を告げる。
いつものマヒロに通ずるものがある堂々とした様子ではなく、少し気弱な坊ちゃんを演じている。
「そうでしたか、それは大変失礼を。どこかで行き違いがあったようです。ですが、神父様のご子息に頼りにして頂けるのもまた、光栄でございます。さあ、こちらへどうぞ」
クルトがにこやかにサヴィラをエスコートし中へと入っていくのに続く。
案内されたのは、立派な応接間だ。暖炉があり、窓からは大通りの様子がよく見える。それに壁紙や絨毯も重厚で、調度品も惜しみなく金がかけられていることだけは、一般人のルシアンにもわかった。
サヴィラがソファに座り、ミツルとともにルシアンとピアースはその背後に控える。クルトはサヴィラの向かいのソファに腰かける。
メイドがすっと紅茶を提供し、さっと壁際に下がる。
「僕は宝石にはあまり明るくなくて……」
「私ども専門家にお任せください。まずは、色や、例えば知っている宝石の名があれば、そちら参考にご用意させて頂きます。当店では、石を選んでいただいたお客様には、アクセサリーに加工するために、腕利きの職人の紹介もさせて頂いておりますのでご安心ください」
「そうなんですね、ありがとうございます」
実年齢より少し幼いくらいの笑顔を浮かべて両手を合わせるサヴィラは、キラーベアを従え、件の二級騎士を地魔法で宙づりにしたり、教会に忍び込んだ暗殺者を氷漬けにしたりしたのが嘘のような無邪気さを湛えていた。
「その、分かりやすくて申し訳ないんですが、ダイヤモンドがよくて」
サヴィラが照れながら言った。
クルトは微笑ましそうに「いえ」と首を横にふると後ろに控えていた青年に耳打ちした。青年は隣の部屋にいくと黒くて薄く平べったい箱を持ってきてテーブルの上に置いた。小さな南京錠がかけられていて、クルトがそれをもったいぶるように開ける。
そこには、まばゆく輝くダイヤモンドがいくつも並んでいた。どれもこれも大粒で女性の小指の爪くらいはありそうだ。中には完成品を想像しやすくするためか指輪に加工されているものもある。
「わぁ、綺麗ですね、どれもキラキラしてる」
サヴィラが身を乗り出して無邪気にはしゃぐ。
あれらは一粒でどれくらいの価格なのだろうか。ルシアンの給料何カ月分なのだろう。
「こちらは、王国の一大産出地である南のカルマン地方で採れた天然のダイヤモンドでございます。どれもこれも資産価値を有した大きさと輝き、透明度を誇る逸品で、一粒一粒、熟練の職人が磨き上」
「この石ころ、今なら見なかったことにする」
クルトの説明にかぶせるようにサヴィラが言った。ぐっと下がった声の温度とその言葉にルシアンとピアースは顔を見合わせる。
紫紺の瞳がつまらなそうに細められ、サヴィラはソファに深々と座りなおして足を組んだ。クルトの微笑みが固まる。
「輝きが違います。これはダイヤモンドではなく、ダイヤモンドによく似たジルコン。そうでしょう、クルト」
人差し指の背を顎に当てながらサヴィラが小首を傾げる。
ちらりと見た先でミツルが、うんうん、と頷いている。どうやら彼もこれが偽物だと分かっているようだ。
「のぞき込めば一目瞭然ですよ。ファセットが二重に見えるダイヤモンドなんて、愉快じゃないですか。その上、左端一列は無色のサファイアを加工しただけのもの。……違いますか?」
切れ長の紫紺の瞳が、にんまりと細められる。
クルトは微笑みを崩さず、蓋をパタンと閉じた。
「これはこれは大変失礼いたしました。持ってくるものを間違えてしまったようです」
「一度限り、許します。誰にでも間違いはあるものですから」
言外に二度目はねえぞ、と告げてサヴィラは微笑んだ。
すると今度は、クルトが「失礼」と告げて立ち上がり、隣の部屋に行った。
正直なところ、ルシアンには偽物だと言われても違いが分からなかった。そもそもジルコンというのは、あの鍛冶屋のドワーフ族の爺さんの名前でしか知らない。鉱石の名前だったのかと感心してしまう。
しばらくしてクルトが戻ってきた。箱の色や形にはあまり変わりがないが、先ほどの箱より一回り大きく、こちらも小さな南京錠がかけられている。
「お詫びとして、本来であれば一見様にはお見せしない、当店にある最高品質のものでございます」
クルトがそれをサヴィラの前に置き、ポケットから鍵を取り出して開ける。
ゆっくりと開けられた蓋の下には、確かに先ほどよりもずっと美しく輝く宝石がずらりと並んでいた。しかも先ほどの宝石よりもずっと大きい。中には磨かれる前の原石のままのものもあった。
あれを磨けば、これほどまでに輝くのか、と感動さえ覚えるほど、そこに並ぶ石は美しい。
「うん、良い品ですね」
のぞき込んだサヴィラが満足そうに言った。ミツルも満足げだ。
「実は、先ほど一つだけ嘘をつきました。僕が母にと言いましたが、実は父が母にネックレスを贈りたいと言っていまして。驚かせたいからできるだけ内緒にって言われていたんです」
「おや、そうなのですか」
「ごめんなさい、試すような真似をして。……母様にばれないように、内緒にしてくれますか?」
サヴィラが顔の前で手を合わせて申し訳なさそうな顔をしながら首を傾げた。
クルトが、ふっと微笑んで頷く。
「一本取られましたな。秘密を共有させていただきます。それに神父様は愛妻家と伺っております」
「ええ。それはもう。息子の前でも遠慮がないので、いたたまれない時もあるほどです」
「坊ちゃまは年頃ですし、大変そうでございますね。ですがご両親の仲がよろしいのは、宝石商としてはありがたいことです。こうして贈り物を求めて頂けますので」
クルトが冗談交じりに言えば、サヴィラは「たくましいですね」と可笑しそうに笑う。
「父は存在感のあるものがいいと言っていたので……そうだな、これなんかどうだろう。ミツルはどう思う?」
サヴィラが、その箱の中でもひときわ大きな、直径は一.五センチ、縦に三センチはありそうな雫型の大粒のダイヤモンドを指さして、ミツルに問う。
ミツルが横からのぞき込み、じっと観察する。それを受けて、クルトが説明をしてくれる。
「こちらのダイヤモンドは、十年ほど前にドワーフ族の里にある鉱山から見つかったもので、大変、希少なものになります。何分、ドワーフ族の方々は質が高ければ高いほど、宝物庫にしまい込んで里の外には出さない習性がありますので。売人が何年も通って交渉を続け、お譲り頂いたのです。ですので、少々、お値段は張ってしまうのですが……こちらは二千万Sほどになります」
ルシアンは驚きに上がりそうになった声をなんとか飲み込んだ。ピアースの尻尾が音もなくルシアンの太ももを叩いて驚きをあらわにしてくる。
「驚いたな」
サヴィラが目を丸くしている。さすがのサヴィラでもこの額は驚くんだ、とほっとするもすぐにそれは覆される。
「これ、加工したのはドワーフ族の宝石職人だと思ったんです。同じような大きさと透明度でも、こっちは、他の種族の職人でしょう? それに雫型は普通の物に比べて加工が難しい。……僕が選んだこの石の輝きは、一味違うように感じて。ドワーフ族の加工が施されたものは、クルトの言う通り、宝物庫にしまわれてなかなか市場には出ないでしょうから、もっと値段が張ると思ったんです」
「……流石でございます、坊ちゃま」
クルトも少し驚きをあらわにしている。
ルシアンには、どれもこれも同じように輝いているように見えるが、サヴィラには違って見えるらしい。しかも少年が驚いた理由が、高かったからではなく、想像より安かったということだと気づいて、余計に驚く。
「ドワーフ族の貴金属や宝石に関する加工技術は、やはり他種族がどれほど己の腕を高めようと得られぬものです。手ずから加工を施したものを手放さないのも彼らの習性でして」
「ええ、畑は違いますが、ブランレトゥで最も有名なドワーフ族の鍛冶師も、自分の作品をなかなか手放さなくて有名ですから」
「ジルコン殿ですね。噂は聞いております」
クルトがくすくすと笑い、サヴィラもころころと笑う。
「こちらのダイヤモンドをさらにアクセサリーに加工すれば、三千万S、四千万Sといくらでも値段は吊り上がりますが、こちらは石のみ、ですのでこの値段となっております」
「素晴らしい物には、ふさわしい価値があるものです。どう、ミツル」
「ええ、素晴らしい品です。透明度も大きさも申し分ない。加工も見事で、どの角度から見ても美しく輝くでしょう」
「なら、これを」
「ありがとうございます。鑑定書をご用意いたしますので、少々お待ちを」
クルトが指示を出し、手のひらに乗る大きさの布張りの小さな箱と鑑定書が用意される。鑑定書にサヴィラが目を通している間に、ダイヤモンドがその小さな箱に納められる。
クルトがその小さな箱をサヴィラに向ける。
「ご確認を」
「うん、綺麗だ。これのアクセサリーへの加工については、さすがに僕も聞いていないんです。もしかしたら、後日、父が頼るかもしれないんですが……」
「でしたら、私に直接連絡を頂ければ、最高の職人をご紹介いたします。ドワーフ族の宝石にはドワーフ族の職人が相応しいですからね」
「ありがとう、父に伝えておきます」
サヴィラが差し出した鑑定書をミツルが確認する。
「支払いは?」
「現金か小切手でお願いしております。現金の場合は、本日、お持ち帰り頂けます。小切手の場合は、本日、二割の手付金をお支払いいただき、商業ギルドにて残りの八割の入金を確認後、後日、お渡しになります」
「ミツル」
「はい、坊ちゃま」
ミツルが懐に手を入れ、革製の美しい財布を取り出す。
白手袋をはめた手が中から黒金貨を二枚取り出した。クルトが用意したトレーにそれが置かれる。
「確かに頂きました。領収書を用意いたします」
取引専用の高額硬貨である黒金貨(一枚一千万Sの価値がある)なんて初めて生で見た。これまで多くの悪党を摘発してきたが、なかなかこの取引専用高価を持っている者は少ない。その名が示す通り、取引専用であるため、悪事を働くにあたって足がつきやすいのだ。だから山のような金貨や銀貨はみたことはあるが、取引専用硬貨を見る機会は案外少ない。
こちらを、と差し出されたダイヤモンドの納まる小さな箱を受け取り、サヴィラが改めて中身を確認する。
領収書はミツルに渡された。
「近くで見ても実に質のいいものですね。父は、母を着飾ることに関しては妥協しないんです。オーブさんのことは、僕からもおすすめしておきます」
「これはこれは、光栄なお言葉に胸がいっぱいです」
クルトが感動した様子で胸をおさえる。
「本当は父も来たがっていたんですが、今、忙しくて」
そう言いながらサヴィラが懐にダイヤモンドをしまう。
「教会のお仕事がどういったものかは存じ上げませんが、領主様から請け負った仕事で怪我をして、こちらには療養を兼ねてきているとお聞きしましたが……」
心配そうにクルトが言った。
「いえ、教会の仕事はこちらではほとんど。ただ、最近、こちらの騎士の質が低下しているでしょう? それを憂いて、あれこれしているようです。息子としてはおっしゃる通り、療養中なのだから大人しくしていてほしいのですが」
「水の月の事件で、騎士団は大変だと聞いておりますが……確かに市民からすると目に余る行動も多々あるのは確かでございますね。坊ちゃまのお連れ様は、ブランレトゥの?」
クルトの視線に二人は小さく会釈を返す。
「ええ。ブランレトゥの騎士です。団長閣下が気にかけてくださって、優秀な小隊を一つ、護衛として我が家につけてくださったんです。その中でも父が目をかけているだけあって、二人とも優秀ですよ」
お世辞と分かっていても、あのマヒロに目をかけられていると言われると嬉しい。にやけそうになる頬を内側を噛んでやり過ごす。でも素直な尻尾がルシアンとピアースの背後でピンと立ちそうになっている。
「騎士様の前で言うのは憚られますが確かに最近は少々、物騒ですね。先日も市場への使いに出したメイドが声をかけられ怪我を……ああ、実は私はオーブの旦那様の執事でもありまして」
「クルトほどの人を雇えるなんて、旦那様は素晴らしい人なのでしょうね」
「お褒め頂き光栄です。旦那様は、商才のある素晴らしい方でございます。私は普段は、ブランレトゥの支店とあちらに住む長男ご夫妻と屋敷を任されているのですが、こちらの支配人が体調を崩してしまい、急遽、今は私が代わりに。本来、代行を務める副支配人も旦那様とともに買い付けに行ってしまっているのですよ」
「じゃあ、貴方に会えたのは幸運なのかな? だけど、僕も普段はブランレトゥにいるから、必要になった時にすぐにクルトに会えるのは心強いですね」
サヴィラが無邪気に告げる。クルトは「光栄です」と気恥しそうに目を伏せた。
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「お優しいですね、坊ちゃま。……メイドは使いの帰りに声をかけられまして。無事に戻って参りましたが、それ以来、使いは男性使用人に頼まざるを得ず、少々不便ですね。当家では男性使用人は普段、市場への使いをすることはないので勝手が分からないようでして」
「メイドさんに怪我とかは?」
「逃げるときに転んだそうで、膝をすりむいていましたがそれだけです。今日も元気に働いております。しかし、我々市民からすると、騎士様には逆らい難い。悪いことをしていなくても、なかなかどうしてあの制服を前にすると、非礼を働くわけにはいきませんしね」
「そうでしょう。騎士というものに、無遠慮に盾突くなんてことは難しいものです。……実は、先日も父が女性を一人保護したんです。ミツルと同じ犬系の獣人族の女性で、なんでも騎士風情の男に声をかけられて攫われたとかで。命からがら逃げだしてきたんだそうです。僕は少し姿を見ただけですが美しい金の髪も傷んでいて、やつれた様子はあまりに胸が痛みました」
クルトの目が一瞬だけ揺れたように見えた。
サヴィラは悲痛な表情を浮かべているが、その紫紺の双眸は油断なくクルトの様子をうかがっている。獲物を睨む蛇みたいだ。サヴィラは、蜥蜴だけれど。
「……なんとも痛ましいお話です。その方は今、どちらに?」
「それはさすがの僕も分からないです、騎士がすぐにどこかへ連れて行ったので。だから信用のおけるブランレトゥの騎士が預かっているのかも。その後、騎士が保護した女性の家を訪ねたらしくて、その騎士たちが話していたのをこっそり聞いたんです。あ、これは父には内緒でお願いしますね。危ないことに首を突っ込むと怒られるんですよ。……なんでも、酷い臭いの魔力の残り香が部屋にはあって、誘拐犯がまだ諦めていないんじゃないかって話で」
「確かに我々獣人族は鼻が利きます故に、嫌な魔力の臭いには辟易いたします。それはそれは酷い臭いだったのでしょうね」
「それが、腐った卵みたいな臭いだったらしいですよ。僕も獣人族ほどじゃないけど鼻が利くので、想像しただけで、うぇってなっちゃいましたよ」
「……腐った、卵、ですか。それは……想像しただけで私も胸が悪くなりそうです」
ルシアンとピアースは、サヴィラのその社交能力の高さに圧倒されながら、なんとか護衛としての無表情を保ち続ける。
間違いなくサヴィラは、目の前の隙のない支配人と駆け引きをしている。
「だから、クルトも気を付けてください。メイドさんたち、一度、目を付けられたら何をされるか分からないですから」
「その通りですね。やはり当面、外の用事は男性使用人に任せることにいたします」
クルトが神妙な顔で頷いた。
「坊ちゃま、そろそろお暇しませんと、奥様に怪しまれますよ。奥様には、市場に行くと言ってありますから」
「あ、そうだね。帰らないと」
ミツルの言葉にサヴィラが頷き立ち上がる。それに合わせてクルトも立ち上がった。
ぞろぞろと応接間を後にする。オーブの使用人が出してきてくれたのか、馬車が出口に停められていた。
「クルト、急な訪問にもかかわらず、素晴らしいもてなしをありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます。今後ともぜひ、御贔屓に」
「うん。今度は、父様と来るよ。ねえ、クルト、他の石についても先生をしてほしいな。もっと様々な種類の貴石や鉱石に詳しくなりたいんだ」
「私でよければ、いくらでも」
サヴィラは人懐こい笑みを浮かべて、クルトと握手を交わすとくるりと背を向け馬車へと乗り込む。
乗り込む寸前に贈られたサヴィラからの目くばせにルシアンは頷く。サヴィラの背を追うようにミツルが乗り込み、ピアースは御者席に乗る。
「クルト様、所属は違えど同じ騎士として、メイド女性への被害は恥ずべきことです。何かありましたら私どもに連絡を。我々はブランレトゥに籍を置いておりまして、現在は護衛のため、神父様の屋敷の近くの宿を借り上げておりますので。ルシアンかピアース、と我々の名を出してください」
「ありがとうございます。何かありましたら是非、ご相談させてください」
にこやかなクルトに見送られて、ルシアンも馬車に乗り込み、内側からドアを閉める。
こんこんと壁を叩いて合図を出せば、ピアースが馬たちに声をかけて馬車が動き出す。
「あれ、何か知ってるね」
サヴィラが面白そうに言った。
先ほどまでの無邪気な様子が嘘のように大人びた笑みを浮かべている。
「そのようでございますね。収穫祭も迫っておりますから、早々に片を付けたいと真尋様もおっしゃられていたので、ありがたいことですが」
「ミアも寂しがってるしね」
「……やはり、カレン嬢のこと、関係しているのでしょうか」
ルシアンのつぶやきにサヴィラが「無関係ではないでしょ」と言いながらリボンタイをいじる。
「誰かが何か被害にあったって時には、やっぱり普通は『怪我の有無』を気にするでしょ。俺だってメイドのことを聞いて、メイドの怪我について聞いた。だけど、クルトは俺にこう聞いた。『その方は、どちらに?』ってね」
紫紺の瞳がにんまりと細められる。
「所在を知りたいってことは探してるってことだろうね。金髪の犬系獣人族ってだけで、カレンを想像するには容易いし」
「……坊ちゃん、将来、騎士になりませんか?」
「ふふっ、ありがとう。考えておくよ」
照れくさそうにサヴィラは首をすくめた。
ウィルフレッドやナルキーサスが、うちへ来ないか、と誘いたくなる気持ちがルシアンにもよくわかった。彼は優秀だ。判断力があり、頭の回転が速く、度胸もある。それに三つの属性を操る魔法と剣術の腕も伸びしろがある。これは、魔導院も騎士団も欲しくなる人材だ。
サヴィラが懐から例の小さな箱を取り出して蓋を開ける。
「ルシアン、これが本物だよ。さっきのジルコンとは輝きが全然違うでしょう」
磨き上げられたダイヤモンドは、複雑なカットの効果で薄暗い馬車の中でもわずかな光でキラキラと輝く。
ルシアンは、一般家庭に生まれ育った一般人なので、例えば将来これが買える給料になるだろう正騎士になっても、サヴィラのようにあんな余裕をもって買えないかもしれない。
だが、裕福な女性たちが魅了されるのも分かるほど、ダイヤモンドは美しい。
「でも、あの……二千万Sなんて大金、その、捜査のためとはいえ、大丈夫なんでしょうか? さすがに経費では落ちないような……」
「これは父様の個人的な買い物だから大丈夫だよ。良いのがあったら買って来いって言われていたのは事実だし、ね、ミツル」
「はい。これならば真尋様もお気に召すかと、雪乃様にもよく似合いそうです」
「ね、本当に綺麗だよね。俺も父様のいつもの無駄遣いならあれだけど、これは奇跡の再会を記念する贈り物だって言うから協力したんだよ」
金持ちって分からないな、とルシアンは遠くを見つめる。
でもマヒロは、日用品感覚で家を買って困るとリックが嘆いていたのを思い出す。
リック、頑張れよ、とルシアンは後輩の今後の平穏を願うのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
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明日は祝日、成人の日ですね!
なので勢いで更新予定です!
次のお話も楽しんで頂ければ幸いです♪
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