58 / 173
本編
第三十九話 不器用な男
しおりを挟む
「これは確かにただのアンデットじゃないな!!」
ウィルフレッドは次から次へと湧いて出て来るそれを切り捨てながら叫ぶ。酷い雨の所為で視界が悪い。
見た目やその素早さからしてアンデットにはアンデットなのだろうけれど、炎を畏れないのはシェーマスの言う通り、異常だ。
しかし、ウィルフレッドに襲い掛かってくるそれらは、ウィルフレッドの操る淡い金の光を帯びた剣に触れるとただの死体へと戻って地に転がる。放って置けばまたアンデットになるだろうが、無力化できるだけでも話は違う。
第七師団の砦は、南に魔の森があり、そこを監視する役目を担っている。ウィルフレッド達は砦の東側から攻め入ったのだが、シェーマスの報告には居なかったはずの魔物や魔獣のアンデットが加わっている。幸い、キラーベアやゲイルウルフといった高位種はいないが、下級ゴブリンが無数にいるのは厄介だった。
「怯むな! 焼き払え!」
ウィルフレッドが馬上で叫べば、騎士たちが野太い雄叫びを上げてそこかしこら火柱が上がり、爆音が響く。だが、普通の魔法ではアンデットは消えず、その身に炎を纏いながらもまだ襲い掛かって来る。
ウィルフレッド達、救援部隊が砦に着いたのは、ついさきほどのことである。既に夜が深くなり、日付を跨ごうかという時間帯だと思われる。
「ウィル!」
「リオ!」
叫ぶように名を呼ばれて振り返れば、レベリオがこちらに駆け寄って来る。途中、彼に飛び掛かろうとしたアンデットは、ウィルフレッドが放った火の矢に打たれて落ちる。
「堀に飛び込んで砦へ! 私が補助します!」
「分かった!」
ウィルフレッドはアンデットの中を駆け抜け、レベリオが後に着いて来る。
ウィルフレッドに切り捨てられたアンデットは死体に戻る。レベリオは、氷魔法を操りアンデット達を氷漬けにして動きを封じる。そして、漸くアンデット達が何故か決して近寄らない堀へとたどり着き、ウィルフレッドは躊躇いなく飛び込んだ。水の冷たさに歯を食いしばり壁際へと泳いでいく。ウィルフレッドに気付いた騎士が上から縄梯子を投げてよこすが、どうやっても足りない。
「ウィル! 行きますよ! 《アイス・ステップ》!」
レベリオの声が聞こえたかと思えば、足が硬いものを捉えてウィルフレッドは迷うことなく駆けあがる。氷で出来た数段の階段を駆け上がって、思いっきり手を伸ばして縄梯子を掴んだ。騎士たちが引き上げてくれるのに合わせてウィルフレッド自身もそれを登っていく。
塀を超えて中に入れば、わらわらと騎士たちが駆け寄って来た。
ウィルフレッドは塀から外を見る。アンデットの数が減らず、折角ウィルフレッドが浄化した奴らも再び仲間のオーラに触れてアンデットに戻っている。
「ウィルフレッド団長!」
「兄上の元に案内しろ!」
「はっ」
敬礼した騎士の後に続き、ウィルフレッドは砦の最上階へと駆け上がる。
砦の廊下には、多くの負傷した騎士たちが横たわっている。殆どが第二大隊、近衛の騎士だ。
「ウィル! 来てくれたか!」
「メイ、大丈夫か?」
その騎士たちの間で治癒魔法を施していた男が顔を上げる。彼は、メイヤール・ディラン・フォン・シフェレス。クラージュ騎士団の副団長にしてウィルフレッドの従兄弟に当たる男だ。ウィルフレッドの四つ上の兄と同い年だ。
ウィルフレッドは、アイテムボックスからマヒロがくれたワインボトルを取り出してメイヤールに渡す。ついでにレベリオが書いた説明の紙もその手に握らせた。
「メイ、これは我がブランレトゥに来た救世主が下さった有難い魔法の水だ。騙されたと思ってその紙に書かれたとおりに使ってみろ」
「は?」
「全部、後で説明するから、今は兄上の元に行かなければならないんだ!」
ウィルフレッドはそれらをメイヤールに押し付けて、こちらですと再び駆け出した騎士に続いて砦の奥へと進んでいく。後ろでメイヤールが何か言っていたが聞こえなかったふりをした。
「アマーリア義姉上や子供たちは?」
「奥の間に侍女たちと共に避難しておられます」
「無事ならいい」
回廊を駆け上がり開け放たれた扉の外へと出れば、再び喧騒が鼓膜を揺さぶる。
「構え! 引け! 定め!」
凛と低く通る声が喧騒の中に響く。
屋上では弓使いの騎士たちが、弓に火矢を番えてアンデット達を狙っている。ウィルフレッド達が突っ込んだ方では無く、反対側を狙っているところを見るとどうやらシェーマスがここを発った後に数を増やしたようだ。
「放て!」
その号令に一斉に火矢が放たれる。
「ジークフリート様、駄目です! 奴ら、怯みもしません!」
その言葉に騎士たちの間に不安が漂い始める。
「兄上!」
「ウィル?」
振り返った兄の顔は、青白く額に冷汗まで浮かんでいる。常の仏頂面がいつもよりも険しくなっていて、迫力が増している。
ジークフリート・カルロ・フォン・アルゲンテウス。間違いなくウィルフレッドの実の兄であり、アルゲンテウス辺境伯だ。髪の色こそ同じだがウィルフレッドは母親似で、ジークフリートは父親似で似ていない。瞳の色も兄は、父親譲りの紅色だ。
「兄上、怪我を?」
ウィルフレッドは兄に近付き、やけに血の匂いが濃いことに気付いた。
ジークフリートがぐいっと右腕を見せる。二の腕に巻かれた包帯が赤黒く染まっていて彼の来ている黒いジャケットに同化している。
「先ほどあの女から矢を受けた。碌すっぽ動かん」
兄はぶっきらぼうに言い、忌々し気に自分の腕を見下ろした。
ウィルフレッドは、懐からマヒロの魔力が込められた魔石を取り出して、兄の手を取り握らせる。
「何を……」
「いいから黙っててください」
兄は訝しむ様に目を細めたが、大人しくウィルフレッドの言うことを聞いてくれた。だが、すぐに兄の目が見開かれた。
「……傷が癒えていく? お前、光属性なんて持ってたか?」
「これは我がブランレトゥに突如現れた謎多き神父様から頂いた魔石で、神父様の光の魔力が込められています」
「は?」
ジークフリートの表情が険しくなる。
「王都のコロル教ではなく、ティーンクトゥス教会という別の宗派の神父様で十八歳とまだ若い青年です」
腕の血まみれのそれを外す。包帯かと思っていたがただのハンカチだった。恐らく、血が乾いていないところを見るに矢を受けて尚、メイヤールを呼ばずにここで指揮を執り続けていたのだろう。傷口が跡形もなく消え去っているのを確認し、ウィルフレッドはひとまず安堵の息を零す。
「兄上、腕はどうです? 弓は扱えそうですか?」
ジークフリートがアイテムボックスから取り出した弓を構える。ジルコン作の美しいロングボウを引く姿を見るに、支障はなさそうだ。
ウィルフレッドは、アイテムボックスからマヒロがくれた謎の木箱を取り出す。弓を使える者という質問と細長い箱の形状を見るに恐らく矢だとは思うが色々怖くてまだ見ていないのだ。
「それは?」
「神父殿が先ほどの魔石をくださった時に一緒に下さったものです。説明は後でしますが、この異常なアンデットには心当たりがあって、神父殿の力を借りたのです」
そっと蓋を開ければ、覗き込んでいた騎士たちの口から感嘆の息が零れた。
箱の中に有ったのは、美しい輝きを放つ金色の光の矢だった。
ジークフリートが慎重な手つきでそれを取り出す。
「凄まじい密度の魔力だな……完璧な魔力の結晶だな、これは」
ウィルフレッドは胃がキリキリとし始めたのを感じる。確か、これを創ったのはあの可愛い方の神父見習いの少年だったと聞いているが、一体、あの二人はどれほどの力を宿しているのだろう。魔力だけで構成された矢をここまで運んでこられたという異常な事実にウィルフレッドの胃がキリキリする。普通は絶対にありえないのに、あの二人がやったかと思うと妙に納得できてしまう自分が居る。
ウィルフレッドは、箱の底に紙切れが一枚、入っていたのに気付いて手に取る。
やや丸みを帯びている綺麗な文字がこれの使い方について説明している。
「兄上、その矢で敵の頭と思われる例の女を狙って下さい、だそうです」
「……まあ良い。仔細は後で聞かせろ」
そう言って兄は、弓と矢を手に歩いて行き、塀の上に飛び乗ると弓を構えた。ウィルフレッドはその隣に登って兄を狙う矢を炎と風で撃ち落とす。
兄の狙う先、ローブ姿の多分、女だと思われるそれが居た。喧騒の中にあって、まるでそこだけ世界が違うかのように静寂を纏い、居るのか居ないのか分からない異様な存在だった。
「分かったか? あの女には一切の攻撃が効かず、攻撃をするたびに魔力を奪われる。あの女から攻撃を受けても同様にな」
「町には男型の同じものが出ましたよ。……神父殿が対処してくれましたが、交戦した騎士が同じように魔力を奪われました」
ヒュン、と矢が風を切る音がした。兄の放った矢は、真っ直ぐに女に向かう。女が咄嗟に何かをしようとするがそれより早く女の体を光の矢が射抜いた。
「……攻撃が、効いた」
ジークフリートが驚いたように呟いた次の瞬間だった。
矢を受けた女が体を丸めた瞬間、パァンとはじけ飛んだのだ。ぞわりとおぞけが走るほど黒い霧が溢れ出し、それを追う様に金色の光が無数に零れだす。
「伏せろぉぉおお!!」
ウィルフレッドは叫ぶと同時に咄嗟に兄を庇う様にして塀の上から飛び降りて自分の体を盾にする。
地鳴りのような音がして、刹那の沈黙の後、ごうっと唸るように風が吹き抜けていく。耳を劈くような悲鳴や叫びが聞こえて砦が揺れたようにすら感じた。
「……それで町に来たのは、魔王と言ったか?」
執務室の窓の向こう、ただの死体に戻ったアンデット達を騎士たちが掘った穴の中で燃え盛る炎の中に放り込むのを見ながら、ジークフリートが言った。
今しがた、ブランレトゥで起こっているクルィークに関する事件と貧民街の緊急クエストの報告を終えた所だ。ここは第七師団の師団長の執務室だ。
「いえ、兄上、魔王では無く神父です。ティーンクトゥス教の神父・マヒロ殿と見習い神父のイチロ殿です」
ウィルフレッドは先ほど様子を見に来たレベリオから貰った胃薬を飲みながら答えた。
あの光の爆発の後、風が収まってから下を覗けば、あの女の姿は跡形も無く、蠢いていたアンデット達は全てただの死体に戻っていた。辺り一帯は、清々しい空気に包まれていて、呼吸をするのが楽に感じる程だった。それに不思議なことにあの騒ぎに慌てているのは人間だけで、騎士たちが騎乗していた馬や使役していた従魔たちは取り乱すことも無く平然としていた。
「……このプルウィウス大陸、最果ての地に居るという魔王ではなく神父か」
くるりと椅子を回転させて兄がこちらを振り返る。
「はい……神父です。ティーンクトゥス教を広めるため、ブランレトゥにやって来たそうで、既に教会と隣の屋敷を現金一括払いで購入して暮らしています。イチロ神父殿は愛らしい少年ですがヴェルデウルフを従魔として従えています。マヒロ神父殿は、正直、怖いくらいに美しい人です。その上、ジョシュアと互角かそれ以上の剣術の腕を持ち、ナルキーサスをしのぐ治癒魔法を扱い、インサニアを浄化する力を有しています。あと、既婚です」
「……最後の情報はどうでもいいが。私が留守の間にとんでもないものを町に入れたものだな」
「大丈夫ですよ。神父殿は」
ウィルフレッドはあっけらかんと答える。その答えが意外だったのか、ジークフリートが顔を上げて首を傾げた。
「兄上も会えば分かると思いますが、あの方は……優しい人ですよ」
デスクの上で手を組んだ兄がその目に嘲りを浮かべる。
「……王都で教会が年々、勢力を増している。現王も教会のいいなりだ。王家のパーティーに爵位も無い神父が何人も来て傍若無人に振る舞っていたほどだ」
ジークフリートはため息を零して椅子に身を深く沈めた。
「四大公爵家は、ノッティンガム家を除いてまだ静観の体を取ってはいるが、この先、どう情勢が変わるかは分からん。教会の勢力が増せば、我々改革派は不利になる」
「ブランレトゥに来た神父殿は、王都の教会を忌み嫌って、柵さえなければ更地にしたいというような人ですよ。言ったでしょう、そもそも宗派が違うのだと」
ジークフリートがぱちりと目を瞬かせた。
ウィルフレッドは、苦笑交じりに肩を竦める。
「あの方が町に居るから、私はここへ来られた。そして、兄上や仲間たちを救う事が出来た。正直、あの神父殿の実力は計り知れず、恐ろしいものがありますが……それでも私は、あの人が悪い存在だとは思えないんです。あの人は、愚かにも愛のために生きている人です」
兄は、机に頬杖をついて目を伏せる。
「……愛、か。……随分と愚かなものに生かされているのだな、その男は」
その伏せられた目元に自嘲が浮かぶ。
兄の背の窓の向こうでは、ざあざあと夜を溶かしてしまう様な勢いで雨が降っている。ほんのりと外が明るいのは、死体を焼く炎の所為だろう。
こんこん、と控えめなノックの音が聞こえて振り返る。兄が、どうした、と返事をすればドアが僅かに空いて、銀色の髪がさらりと揺れた。少しして恐る恐る顔を出したのは、アマーリアだった。兄の妻、つまり領主夫人、アルゲンテウス辺境伯夫人だ。
ウィルフレッドは、ドアに近付いて行きそっと開けて中に入るように促す。
銀の髪に青い瞳を持ち、酷く小柄でまだ少女ともいえる様な愛らしい女性だ。事実、十五で兄に嫁いできた彼女は、二児の母ではあるがまだ二十四と若い。兄とは十四も年が離れているのだ。王国の法律上、一般人が正式に結婚できるのは十八だが、様々なしがらみやしきたりの多い貴族は、男は十三、女は十五で正式な結婚が認められている。
「……アマーリア」
兄の眉間に皺が寄る。
控えめなナイトドレスの裾が揺れる。ウィルフレッドが見るにショールを羽織っただけのその姿は、こっそりと部屋を抜け出してきたのが窺える。
「あ、あの……お怪我をしたと、侍女に聞いて……それで」
「部屋から出て良いとは一言も言って居ないが? それもそんなはしたない格好で、君には私の妻だという自覚が無いのか?」
「兄上」
過分に棘を含んだ物言いにアマーリアがますます体を小さくさせる。
「義姉上は、兄上を心配して来て下さったんですよ。そのような物言いをするべきではありません」
ウィルフレッドの言葉に兄はますます眉間に皺を深くした。常の仏頂面が険しさを増す。
「……ウィルフレッド、準備が出来次第、私もブランレトゥへ戻る。メイヤールは護衛として残し、安全が確保され次第、呼び戻せ。アマーリア、君と子供たちもここに残れ。レベリオ!」
「はい、お呼びでしょうか?」
廊下に控えていたレベリオがすぐに顔を出す。
「メイヤールと師団長と大隊長を呼べ、指示を出す。ウィルフレッドは、部屋に送り届けて来次第、出立の準備に入れ。準備が出来ても出来なくても一時間後には発つ」
ウィルフレッドとレベリオは、顔を見合わせてやれやれと気づかれない様にため息を零して騎士の礼を取り、アマーリアを促して執務室を後にする。アマーリアは、今にも泣き出しそうだがそれをぐっとこらえているようだ。
ウィルフレッドは、自分のジャケットを脱いでアマーリアの細い肩に掛ける。アマーリアが弾かれたように顔を上げた。
「義姉上、兄上は色々な案件が重なってぴりぴりしているだけです。それにここは男所帯ですから、義姉上のように魅力的なレディがそのように無防備な恰好をしてうろうろしていたら、兄上だって心配して言葉も厳しくなってしまいますよ。兄上は、不器用ですから」
ね、とウィルフレッドが笑いかければ、アマーリアは微かに笑って頷いてジャケットの襟を両手で寄せる。
兄夫妻があまり上手くいっていないのは、周知の事実だ。最近では兄は寝室に妻を尋ねることもなくなり、部屋は別々に用意させているらしい。
レベリオに二、三、用事を頼んでウィルフレッドは、アマーリアを部屋へと送る。
砦の最奥の貴賓室が彼女たちに用意された部屋の様だった。一応、ここは領主様が王都へ上がる時が戻る時、休憩地点になっているためにその為の部屋が用意されているのだ。
「失礼、奥様を……だっ」
「お母様!」
ドアが勢いよく開いてウィルフレッドは鼻を打ち付けてしゃがみ込む。
空いたドアから小さな子供が二人飛び出してきて、アマーリアに飛びついた。少し遅れて侍女が慌てて駆け寄って来る。
「ああ、奥様、急にいなくなるから心配を……って、ウィルフレッド様!」
「リリー、レオンにドアは静かに開けるようにきちんと言い聞かせておいてくれ」
ウィルフレッドは鼻を擦りながら立ち上がる。
侍女のリリーは、その言葉に事態を察した様で慌てて、申し訳ありませんと頭を下げた。リリーは、アマーリアが実家から連れて来た侍女だ。
「お母様、お父様は?」
「おとーさま、おけがしたんでしょ?」
兄譲りの蜂蜜色の髪と紅い瞳の男の子と母親にうり二つの銀髪碧眼の少女がアマーリアに尋ねる。アルゲンテウス家の嫡男・レオンハルトと娘のシルヴィアだ。
「お父様の怪我は、治療も終わってぴんぴんしているよ」
アマーリアの代わりに答えれば、漸く兄妹は叔父の存在に気付いたようだった。
「ウィル叔父様!」
「おじさま!」
母から離れて飛びついて来た二人を受け止めて、アマーリアを促し中へと入る。
品の良い調度品でまとめられた部屋は、城の寝室に比べれば狭いが、過ごしやすいように使用人たちによってきちんと整えられているのが分かる。紅茶を用意しようとしてくれたリリーにやんわりと断りを入れて、ウィルフッドは飛びついて来た甥と姪をソファの上に下ろした。
「レオン、これから私とお父様は、ブランレトゥに戻らなければならない。君は、お母様とシルヴィアをちゃんと護るんだよ」
レオンは、兄と同じ紅い瞳でじっとウィルフレッドを見つめた後、こくりと頷いた。
「ウィルフレッド様、お手数をお掛けいたしました。それに先ほどは、レオンが……」
アマーリアが申し訳なそうに言った。
ウィルフレッドは、大丈夫ですよ、と声を掛けてアマーリアからジャケットを返してもらう。
「それでは義姉上、私はここで失礼させて頂きます」
ウィルフレッドは騎士の礼を取り、部屋を辞去する。
廊下に出て、ふうと一息ついたところで声を掛けられて振り返る。アマーリアが不安そうな表情を浮かべて顔を出していた。
「……ジークフリート様を、どうかお願い致します」
アマーリアが深々と頭を下げた。
「命に代えても御守りします」
ウィルフレッドはそれに騎士の礼で応える。
アマーリアは、ほっとしたように微笑んで、お願いします、ともう一度告げると部屋の中に戻って行く。
そして、アマーリアが部屋に入ったのを見届けて、ウィルフレッドは暗い廊下を歩いて行く。
「どこもかしこも問題だらけで困ったものだな……」
はぁとため息を零して、廊下の向こうから聞こえて来るウィルフレッドを呼ぶ声に応えるべく、ウィルフレッドは足を速めたのだった。
蹄の音が幾重にも重なって雨の中に響く。
轟轟と唸るように風が吹いて横殴りの雨が町中を覆っている。
真尋は、手綱をきつく握りしめて騎士団から屋敷へと馬を走らせていた。後ろからはリックがついて来ている。
騎士団から屋敷は馬を走らせれば十分もかからない距離だというのに今夜はその道のりがやけに長く遠く思えた。町の中が騒々しく、そこかしこで灯りが灯っていたのもそれを助長させていたかも知れない。
屋敷が見えて来る。
心臓が耳元で鳴っているかのようにうるさくて、胸の内に不安が溢れてぎりりと歯を食いしばった。
手を振れば鉄門が開く。開ききるのが待てずに滑り込む様に中へと走る。玄関先に人影が二つあった。雨の所為で良く見えないが誰かがそこに立って居る。
ぐっと手綱を引いて速度を落とし、馬の足を止めさせる。
「神父様、早くあの子の元へ。皆、そちらに居ます」
立って居たのはクレアだった。隣にはルーカスが居る。
二人の表情は暗く、纏う空気は 重苦しい。
「馬はオレたちに任せて、さあ、早く」
ルーカスが急かす様に真尋に言った。真尋は馬から飛び降りて、クレアとルーカスに声を掛けるのも、服を乾かすのも忘れて屋敷の中へと飛び込み、階段を駆け上がる。
三階、ノアの部屋のドアは薄く開いていて、中から灯りが零れている。ナルキーサスがロイスと言い争う様な声が聞こえる。治療を続行しようとする彼女とそれを止めるロイスの声だ。
「ミア!」
転がり込む様な勢いで中へと飛び込む。
その瞬間、雨の音も風の音もナルキーサスを止めるロイスの声も何も聞こえない無音の世界があって、ただ、ノアの頭上にあったノアのステータスの数値がゼロになり溶けるように消えて行った事実だけが鮮烈に真尋の網膜に焼き付いた。ノアの横に座り込んだミアの小さな手から、ノアの更に小さな手が、ぽとり、と落ちた。
ナルキーサスが動きを止めた。一路が肩を震わせるティナを抱き締める。壁に寄り掛かって事態をみていたレイがそっと目を伏せ、ソニアとプリシラは、夫の胸に顔を伏せた。
「…………ミア」
真尋は、ゆっくりとミアに近付いて行く。ミアの傍にいたサヴィラとネネが、ベッドから離れて涙を零すルイスたちの元へと行く。
「……ミア」
真尋は、ベッドの縁に腰掛けて後ろからミアに手を伸ばした。ミアは、光を失った珊瑚色の瞳で呆然とノアを見つめていた。
部屋の中を静寂が覆う。騒がしい雨の音も風の音もこの深い深い悲しみと絶望を消し去ってはくれない。
「……神父さま」
ミアの小さな声が空気を震わせた。
ミアの頬に触れる寸前で真尋の手が止まる。
「……ノア……ひとりぼっちになっちゃった……」
零された言葉もその声もまるで空っぽになってしまっているように頼りなく、絶望だけがそこに残ってしまったかのようだった。
パンドラの箱ですら、最後に残ったのは希望だったのに。
「……ノアは、甘えん坊で寂しがり屋で……私がいないとすぐに泣いちゃうのに」
脳裏にノアの笑顔が浮かび上がった。
貧民街で一度きり、真尋が上げたキャンディに愛らしい笑みを浮かべたノアの顔が、その隣で笑うミアの顔が浮かんでは消えていく。
たった二人きり。でも、だからこそ貧しい日々の中、お互いを支えにしてこの姉弟は生きていたのだ。どうしてもっと早く真尋は、二人に会いに行かなかったのだろう。いっそ、あの日、連れ帰ってしまえばよかった。そうすればノアもミアも今、真尋の腕の中であの日と同じように笑って居てくれただろうに。
「……こんな、想いをさせて、苦しませて……本当に、すまないっ」
絞り出すように告げて後ろからミアを抱き締めた。
真尋の腕があまる小さく細い体は力なく腕の中に納まってしまった。涙を零すことも忘れて、ミアはただじっとノアを見つめている。
「……どうしよう、神父さま……ノア、私が、抱きしめてあげられないところにいっちゃった。……ノア、ひとりぼっちになっちゃった」
ミアの言葉に胸が切り刻まれる様な想いがした。
どこまでも一途に弟を想うミアの心が痛かった。何もしてやれなかった自分が憎たらしくて仕方がない。
神から与えられたこの力は、人よりも随分と優れているらしいのに、小さな小さな男の子の命を救ってやることも出来なかった。
「……ミア、ノアは独りなんかじゃない。俺の愛する神様がお傍に居て下さる」
「……かみさま?」
「ああ。泣き虫だけど、とびきり優しい神様が頑張ったノアを迎えに来て、お空のとても綺麗なところに連れて行ってくれる。だから、ノアはひとりぼっちになんかなりはしない」
ミアの小さな手が真尋の腕に触れた。服の袖をきゅうと握りしめる。
「……そこに、おかあさんも、いる?」
その問いかけに思わず息を呑んだ。ちらりと視線をやった先で、サヴィラが驚愕の表情を浮かべている。
真尋は、何と答えて良いか分からずにミアを抱き締める腕に力を籠める。
「お母さん、すごくすごく遠いところに行かなきゃいけないって言ってたの……お母さん、ずっとノアみたいに具合が悪そうだったの、咳ばっかりして、顔色も悪くて……ノアのこと、大事にしてねって、約束、したのに……ミアが約束を守れない悪い子だから、ノアまでいなくなちゃったの?」
振り返ったミアの珊瑚色の瞳は空っぽだった。
悲しみも寂しささもない。ガラス玉のように空っぽな瞳がただじっと真尋を見上げる。
「ミアは、何も悪くない」
もっと、もっと何か、意味のある言葉が欲しいのに舌が動かない。どれだけ心の中を探っても、膨大な知識の詰まった頭の中を探ってもミアに向けるべき言葉が一つも見つからなかった。
とととっと足音が聞こえたかと思えば、ジョンがミアの前にやって来た。ジョンは真尋の袖を握っていたミアの右手を両手でそっと握りしめた。ジョンの空色の目は、赤く潤んでいて頬には涙を流した痕がある。
「ミアちゃんは、悪くないよ」
ジョンの声には陽だまりみたいな優しさがたっぷりと詰まっていた。
「悪いのは、ノアくんを傷付けたやつと病気だよ。僕、知っているよ、ミアちゃん、毎日、毎日、ずっとノアくんの傍でノアくんのお世話をしていた優しいお姉ちゃんだもん。ノアくんが寂しくない様にってずっと傍に居たミアちゃんが悪い子な訳が無いよ」
「……でも、」
「見てごらん、ミアちゃん。ノアくん、まるで眠っているみたいに優しい顔をしてるでしょ」
ジョンの声に促されて真尋は初めてノアを見る。
ジョンの言葉通り、ノアの顔には苦しんでいた時の辛さは欠片も無い。まるで本当にただ昼寝でもしているかのように穏やかだった。
「きっとね、ミアちゃんがこうやってノアくんの手をずーっと握っていたから、ノアくんの辛いのや痛いのや、苦しいのがミアちゃんの体の中に入ったんだよ。だから、ノアくんは、もうどこも痛くないし、苦しくもないんだよ」
「……ほんと?」
ミアが真尋に同意を求めるようにこちらを振り返る。真尋は、ああ、と頷いてミアの髪を撫でた。
「だから、今度はミアの番だ」
「ミアの番?」
「ああ。ノアから引き受けた、痛いのや苦しいのや辛いのを出さないとならない」
真尋はミアの頬を撫でて問う。
ミアは、顔を俯けノアを振り返った。ジョンは握りしめたミアの手を離さない。
「……どうやったらいいの?」
「ミアの本当の気持ちを教えてくれないか?」
ミアが自由な左手で自分の胸を抑えた。
「……ティナお姉ちゃんから落ちたお花、見せてあげたかったの」
ぽつりと零された言葉に真尋は、ああ、と頷く。
「おじちゃんが作ってくれる美味しいご飯も食べさせてあげたかったの。クレアおばあちゃんのジャムだって……それに、絵本だって見せて上げたかったし、この大きなお家を一緒に探検したかったの、ロビンにだってふわふわだから触らせてあげたかったの、それで夜は神父さまと眠って、子守唄を歌ってもらうのよ……っ、それで、もっといっぱい、ずっと……ずっと、いっしょに、いたかったのっ」
珊瑚色の瞳からぽたぽたと溢れ出した涙がミアの頬を濡らす。けれど、ミアはそれがまるで罪悪であるかのように必死に左手で頬を擦って涙を止めようとする。
「……ミア、擦っちゃだめだ」
「わた、私っ、お姉ちゃんだから泣いちゃいけないの……っ。だって、私が泣くとノアも泣いちゃうんだもの……っ、だから、私は、笑ってないと」
ミアが笑う。不恰好な笑顔ともいえない様に、ただ顔を歪ませただけのそれは酷く痛々しくて仕方が無かった。そんなミアの視界を遮るようにジョンが抱き締める。
「こうしてれば、ノアくんには見えないから、僕が隠してあげるから、泣いて良いよ。バレちゃったら、僕の所為にしていいよ……ぼくが、ないてるから……お姉ちゃんも泣いちゃったんだって……っ」
空色の瞳から落ちた涙がミアの頬を濡らした。真尋は自分の視界がじわりを歪むのを隠す様にジョンごとミアを抱き締める。
「神父様の所為にしてもいい」
ミアの小さな手がジョンの服と真尋の服をきつく、きつく握りしめた。
「な、なんで……なんで、ノア、しんじゃったの……っ? ずっと、いっしょだって約束したのに……っ、ひとりにしないでよぉっ!」
喉が絞められたかのように苦しくて、真尋は唇をきつく噛み締めた。
「ふっ、うっ、ふぇっ、うえぇぇえええ!!」
ダムが決壊したかの如く溢れだした涙と慟哭が哀しみに満ちた部屋の中に溢れて広がる。
その泣き声は、ミアの小さな体を哀しみでバラバラにしてしまいそうで、そうならないように真尋は抱き締める腕に力を籠める。
雨がまるでミアの哀しみに溢れる涙に同調するかのように強くなっていく。
そうしてミアは、気を失うまでずっと真尋とジョンの腕の中で泣き続けたのだった。
ガチャリ、と図書室のドアを開ける。
本が雨の音を吸い込んで中は不気味な程静まり返っていて、奥にちらちらと見える光が無ければ、一路は中へ入ることはしなかっただろう。
一路は、その光を目指して歩いて行く。背の高い本棚の向こう、窓際に置かれたカウチに真尋が腰掛けていた。真尋の膝には、ミアを抱き締めるジョンがいて、二人の子供は毛布に包まり眠っている。
二人の目元には濡らした布が当てられていて、真尋の手がとんとんとミアの背を一定のリズムで撫でていた。
「……ノアくんの処置、終わったよ」
一路は傍に有った椅子に腰かけながら言った。
「そうか」
返って来た返事はそれだけだった。一路は、そうだよ、と返して目を伏せる。泣いたせいで目元が少し熱を持っている。
ミアが泣き疲れて気を失った後、ナルキーサスがノアの足を切断すると言った。腐った左脚をそのままにしておけば、今夜中にでもノアがアンデット化してしまうからそうならないように処置をしなければならないのだとナルキーサスは言っていた。
それを告げたナルキーサスは、治癒術師らしく冷静で淡々としていたけれど、ノアの容体が急変した時、彼女は必死だった。一分でも一秒でもノアを生かそうと手を尽くしてくれた。最後は、それ以上は苦しみを長引かせるだけだとロイスに止められていたけれど、ナルキーサスは最後の最期までノアを諦めはしなかった。
彼女は治癒術師として救えない命があることを割り切っているようで、割り切れない部分が有るのかもしれない。ノアのステータスが消えた瞬間のナルキーサスの表情は、絶望の二文字に彩られていた。処置をするからと皆に退出を促した後、まるで何か悪夢を繰り返し見ているかのように、ただじっと永の眠りについたノアを見つめていた横顔が脳裏に焼き付いている。
「……ずっと、考えていたことがある」
顔を上げる。
真尋は頬杖をついて窓の外を見ていた。その横顔を一路はじっと見つめる。
「ミアは、ノアを噛んだグリースマウスに同じように傷つけられた。だが、ミアの腕には死の痣は残らなかった」
「……一匹につき一人しか死の痣は残せないとか?」
「いいや。貧民街でウォルフとカマラは、同じグリースマウスに傷付けられ死の痣をその体に残されそうになった。そうだろう?」
「そういえば、そうだね。なら、どうしてミアちゃんは無事だったんだろう」
そこで会話が途切れた。
真尋はただじっと窓の外を見つめている。彼の傍に浮かぶ光の球がふよふよと漂って、その美しい横顔を照らす。
長い様な短い様な沈黙を破ったのは、真尋だった。
「……ミアに初めて会った日、俺はミアに花をあげたんだ。名前は知らん、ミアの瞳と同じ珊瑚色の花だった」
真尋の声は静かに凪いでいたけれど、隠し切れない後悔がその声に滲んでいるのに一路は気が付いた。
「貧民街で再会した日もミアは、その花をまだ身に着けていて、俺は再び力を込めて花を生かした。その次の日だった、ミアとノアがグリースマウスに襲われたのは。きっと花はまだ俺の力を残して、瑞々しく咲き誇っていただろう」
「……もしかして、魔石と同じ働きをしたかもしれないってこと?」
一路の言葉に真尋は、ああ、と頷いて目を伏せた。長い睫毛が頬に影を作る。
彼の唇の端に自嘲がありありと滲む。
「あの日、どうして俺は、ノアにも花をやらなかったんだろう、とそればかりだ。いっそのこと、あの日、ミアとノアを攫ってしまえば良かった。どうしてあの日、俺は……あんな寂しい場所に二人を置き去りにしてしまったんだろうな」
「……真尋くん」
「ミアからノアを奪ってしまったのは、俺なのかもしれないな。人から恐れられるほどの力がありながら、何も出来なかった俺だ」
一路はその一言に立ち上がり、真尋の前に立ち、思いっきりその頬をひっぱたいた。パンッと乾いた音が暗い図書室に響き渡った。
真尋が驚きを露わにして、一路を見上げている。一路は、じんじんと痛む右手を握りしめながら真尋を睨み付けた。
「馬鹿は休み休み言いなよ」
「一?」
「……君は、君が出来る最善のことをしたでしょ。悪いのは、君でもミアちゃんでもあの場所でもない。命を命とも思わないザラームやエイブにリヨンズでしょ。それなのに君が君を責めてどうするの? 後悔するなとは言わないけど、そんな無意味な後悔なんかするなよ! 僕らの力は万能なんかじゃない! 思い上がりもいいところだっ!」
銀に蒼の混じる月夜色の瞳がじっと一路を見つめて後、ふっと柔らかに細められた。
「……そう、だな。お前の言う通りだな」
真尋は、視線をミアとジョンに映す。
「こんな後悔、意味の無いものだな。どれだけの力が有ったとしても全てが上手くいかないことを俺は知っていたのに、忘れてしまっていた。ありがとう、一路」
一路は腕を組んで、そっぽを向く。
「君は全てを上手に出来るなんていう認識を捨てたほうが良い。真尋くんは料理も掃除も洗濯も満足に出来ないし、この図書室だって、君の杜撰な片付けの所為で足元が本だらけで歩きにくいったらないんだから」
「……杜撰とは失礼な。俺なりに片付けているといっただろう」
「誰が見たって散らかしているようにしか見えないよ。それよりも君、今日一日、ろくすっぽご飯を食べていないでしょう?」
「そういえば、そうだったな」
今気づいたと言わんばかりに、真尋は自分の腹を撫でた。
「部屋に用意してもらったからそれを食べて。カロリーナさん達もあと少しで来るって先ぶれが来たよ、明日……もう今日だけど、ザラームの言っていた終わりについて対策を考えたいって」
一路はくるりと背を向け、出口に向かって歩き出す。
「一路」
「何?」
振り返らずに返事をする。
「ありがとう」
その言葉にぱちりと目を瞬かせて、くすりと笑って振り返る。
「……お互い様だよ」
真尋は、そうか、と頷いた。
その声は、何だかとても安心に満ちているような気がした。
―――――――――――――
ここまで読んで下さって、ありがとうございました!
いつも閲覧、感想、お気に入り登録、励みになっております。
ノアの最期、悩みに悩んだのですが最初から決めていた通りに書かせて頂きました。正直、本当に苦しかったです。
皆様も思うところがあるとは思いますが、どうか安らかな眠りを祈って下さればと思います。
そしてファンタジー大賞への応援、投票、本当に本当にありがとうございました。
次のお話も楽しんで頂ければ幸いです。
ウィルフレッドは次から次へと湧いて出て来るそれを切り捨てながら叫ぶ。酷い雨の所為で視界が悪い。
見た目やその素早さからしてアンデットにはアンデットなのだろうけれど、炎を畏れないのはシェーマスの言う通り、異常だ。
しかし、ウィルフレッドに襲い掛かってくるそれらは、ウィルフレッドの操る淡い金の光を帯びた剣に触れるとただの死体へと戻って地に転がる。放って置けばまたアンデットになるだろうが、無力化できるだけでも話は違う。
第七師団の砦は、南に魔の森があり、そこを監視する役目を担っている。ウィルフレッド達は砦の東側から攻め入ったのだが、シェーマスの報告には居なかったはずの魔物や魔獣のアンデットが加わっている。幸い、キラーベアやゲイルウルフといった高位種はいないが、下級ゴブリンが無数にいるのは厄介だった。
「怯むな! 焼き払え!」
ウィルフレッドが馬上で叫べば、騎士たちが野太い雄叫びを上げてそこかしこら火柱が上がり、爆音が響く。だが、普通の魔法ではアンデットは消えず、その身に炎を纏いながらもまだ襲い掛かって来る。
ウィルフレッド達、救援部隊が砦に着いたのは、ついさきほどのことである。既に夜が深くなり、日付を跨ごうかという時間帯だと思われる。
「ウィル!」
「リオ!」
叫ぶように名を呼ばれて振り返れば、レベリオがこちらに駆け寄って来る。途中、彼に飛び掛かろうとしたアンデットは、ウィルフレッドが放った火の矢に打たれて落ちる。
「堀に飛び込んで砦へ! 私が補助します!」
「分かった!」
ウィルフレッドはアンデットの中を駆け抜け、レベリオが後に着いて来る。
ウィルフレッドに切り捨てられたアンデットは死体に戻る。レベリオは、氷魔法を操りアンデット達を氷漬けにして動きを封じる。そして、漸くアンデット達が何故か決して近寄らない堀へとたどり着き、ウィルフレッドは躊躇いなく飛び込んだ。水の冷たさに歯を食いしばり壁際へと泳いでいく。ウィルフレッドに気付いた騎士が上から縄梯子を投げてよこすが、どうやっても足りない。
「ウィル! 行きますよ! 《アイス・ステップ》!」
レベリオの声が聞こえたかと思えば、足が硬いものを捉えてウィルフレッドは迷うことなく駆けあがる。氷で出来た数段の階段を駆け上がって、思いっきり手を伸ばして縄梯子を掴んだ。騎士たちが引き上げてくれるのに合わせてウィルフレッド自身もそれを登っていく。
塀を超えて中に入れば、わらわらと騎士たちが駆け寄って来た。
ウィルフレッドは塀から外を見る。アンデットの数が減らず、折角ウィルフレッドが浄化した奴らも再び仲間のオーラに触れてアンデットに戻っている。
「ウィルフレッド団長!」
「兄上の元に案内しろ!」
「はっ」
敬礼した騎士の後に続き、ウィルフレッドは砦の最上階へと駆け上がる。
砦の廊下には、多くの負傷した騎士たちが横たわっている。殆どが第二大隊、近衛の騎士だ。
「ウィル! 来てくれたか!」
「メイ、大丈夫か?」
その騎士たちの間で治癒魔法を施していた男が顔を上げる。彼は、メイヤール・ディラン・フォン・シフェレス。クラージュ騎士団の副団長にしてウィルフレッドの従兄弟に当たる男だ。ウィルフレッドの四つ上の兄と同い年だ。
ウィルフレッドは、アイテムボックスからマヒロがくれたワインボトルを取り出してメイヤールに渡す。ついでにレベリオが書いた説明の紙もその手に握らせた。
「メイ、これは我がブランレトゥに来た救世主が下さった有難い魔法の水だ。騙されたと思ってその紙に書かれたとおりに使ってみろ」
「は?」
「全部、後で説明するから、今は兄上の元に行かなければならないんだ!」
ウィルフレッドはそれらをメイヤールに押し付けて、こちらですと再び駆け出した騎士に続いて砦の奥へと進んでいく。後ろでメイヤールが何か言っていたが聞こえなかったふりをした。
「アマーリア義姉上や子供たちは?」
「奥の間に侍女たちと共に避難しておられます」
「無事ならいい」
回廊を駆け上がり開け放たれた扉の外へと出れば、再び喧騒が鼓膜を揺さぶる。
「構え! 引け! 定め!」
凛と低く通る声が喧騒の中に響く。
屋上では弓使いの騎士たちが、弓に火矢を番えてアンデット達を狙っている。ウィルフレッド達が突っ込んだ方では無く、反対側を狙っているところを見るとどうやらシェーマスがここを発った後に数を増やしたようだ。
「放て!」
その号令に一斉に火矢が放たれる。
「ジークフリート様、駄目です! 奴ら、怯みもしません!」
その言葉に騎士たちの間に不安が漂い始める。
「兄上!」
「ウィル?」
振り返った兄の顔は、青白く額に冷汗まで浮かんでいる。常の仏頂面がいつもよりも険しくなっていて、迫力が増している。
ジークフリート・カルロ・フォン・アルゲンテウス。間違いなくウィルフレッドの実の兄であり、アルゲンテウス辺境伯だ。髪の色こそ同じだがウィルフレッドは母親似で、ジークフリートは父親似で似ていない。瞳の色も兄は、父親譲りの紅色だ。
「兄上、怪我を?」
ウィルフレッドは兄に近付き、やけに血の匂いが濃いことに気付いた。
ジークフリートがぐいっと右腕を見せる。二の腕に巻かれた包帯が赤黒く染まっていて彼の来ている黒いジャケットに同化している。
「先ほどあの女から矢を受けた。碌すっぽ動かん」
兄はぶっきらぼうに言い、忌々し気に自分の腕を見下ろした。
ウィルフレッドは、懐からマヒロの魔力が込められた魔石を取り出して、兄の手を取り握らせる。
「何を……」
「いいから黙っててください」
兄は訝しむ様に目を細めたが、大人しくウィルフレッドの言うことを聞いてくれた。だが、すぐに兄の目が見開かれた。
「……傷が癒えていく? お前、光属性なんて持ってたか?」
「これは我がブランレトゥに突如現れた謎多き神父様から頂いた魔石で、神父様の光の魔力が込められています」
「は?」
ジークフリートの表情が険しくなる。
「王都のコロル教ではなく、ティーンクトゥス教会という別の宗派の神父様で十八歳とまだ若い青年です」
腕の血まみれのそれを外す。包帯かと思っていたがただのハンカチだった。恐らく、血が乾いていないところを見るに矢を受けて尚、メイヤールを呼ばずにここで指揮を執り続けていたのだろう。傷口が跡形もなく消え去っているのを確認し、ウィルフレッドはひとまず安堵の息を零す。
「兄上、腕はどうです? 弓は扱えそうですか?」
ジークフリートがアイテムボックスから取り出した弓を構える。ジルコン作の美しいロングボウを引く姿を見るに、支障はなさそうだ。
ウィルフレッドは、アイテムボックスからマヒロがくれた謎の木箱を取り出す。弓を使える者という質問と細長い箱の形状を見るに恐らく矢だとは思うが色々怖くてまだ見ていないのだ。
「それは?」
「神父殿が先ほどの魔石をくださった時に一緒に下さったものです。説明は後でしますが、この異常なアンデットには心当たりがあって、神父殿の力を借りたのです」
そっと蓋を開ければ、覗き込んでいた騎士たちの口から感嘆の息が零れた。
箱の中に有ったのは、美しい輝きを放つ金色の光の矢だった。
ジークフリートが慎重な手つきでそれを取り出す。
「凄まじい密度の魔力だな……完璧な魔力の結晶だな、これは」
ウィルフレッドは胃がキリキリとし始めたのを感じる。確か、これを創ったのはあの可愛い方の神父見習いの少年だったと聞いているが、一体、あの二人はどれほどの力を宿しているのだろう。魔力だけで構成された矢をここまで運んでこられたという異常な事実にウィルフレッドの胃がキリキリする。普通は絶対にありえないのに、あの二人がやったかと思うと妙に納得できてしまう自分が居る。
ウィルフレッドは、箱の底に紙切れが一枚、入っていたのに気付いて手に取る。
やや丸みを帯びている綺麗な文字がこれの使い方について説明している。
「兄上、その矢で敵の頭と思われる例の女を狙って下さい、だそうです」
「……まあ良い。仔細は後で聞かせろ」
そう言って兄は、弓と矢を手に歩いて行き、塀の上に飛び乗ると弓を構えた。ウィルフレッドはその隣に登って兄を狙う矢を炎と風で撃ち落とす。
兄の狙う先、ローブ姿の多分、女だと思われるそれが居た。喧騒の中にあって、まるでそこだけ世界が違うかのように静寂を纏い、居るのか居ないのか分からない異様な存在だった。
「分かったか? あの女には一切の攻撃が効かず、攻撃をするたびに魔力を奪われる。あの女から攻撃を受けても同様にな」
「町には男型の同じものが出ましたよ。……神父殿が対処してくれましたが、交戦した騎士が同じように魔力を奪われました」
ヒュン、と矢が風を切る音がした。兄の放った矢は、真っ直ぐに女に向かう。女が咄嗟に何かをしようとするがそれより早く女の体を光の矢が射抜いた。
「……攻撃が、効いた」
ジークフリートが驚いたように呟いた次の瞬間だった。
矢を受けた女が体を丸めた瞬間、パァンとはじけ飛んだのだ。ぞわりとおぞけが走るほど黒い霧が溢れ出し、それを追う様に金色の光が無数に零れだす。
「伏せろぉぉおお!!」
ウィルフレッドは叫ぶと同時に咄嗟に兄を庇う様にして塀の上から飛び降りて自分の体を盾にする。
地鳴りのような音がして、刹那の沈黙の後、ごうっと唸るように風が吹き抜けていく。耳を劈くような悲鳴や叫びが聞こえて砦が揺れたようにすら感じた。
「……それで町に来たのは、魔王と言ったか?」
執務室の窓の向こう、ただの死体に戻ったアンデット達を騎士たちが掘った穴の中で燃え盛る炎の中に放り込むのを見ながら、ジークフリートが言った。
今しがた、ブランレトゥで起こっているクルィークに関する事件と貧民街の緊急クエストの報告を終えた所だ。ここは第七師団の師団長の執務室だ。
「いえ、兄上、魔王では無く神父です。ティーンクトゥス教の神父・マヒロ殿と見習い神父のイチロ殿です」
ウィルフレッドは先ほど様子を見に来たレベリオから貰った胃薬を飲みながら答えた。
あの光の爆発の後、風が収まってから下を覗けば、あの女の姿は跡形も無く、蠢いていたアンデット達は全てただの死体に戻っていた。辺り一帯は、清々しい空気に包まれていて、呼吸をするのが楽に感じる程だった。それに不思議なことにあの騒ぎに慌てているのは人間だけで、騎士たちが騎乗していた馬や使役していた従魔たちは取り乱すことも無く平然としていた。
「……このプルウィウス大陸、最果ての地に居るという魔王ではなく神父か」
くるりと椅子を回転させて兄がこちらを振り返る。
「はい……神父です。ティーンクトゥス教を広めるため、ブランレトゥにやって来たそうで、既に教会と隣の屋敷を現金一括払いで購入して暮らしています。イチロ神父殿は愛らしい少年ですがヴェルデウルフを従魔として従えています。マヒロ神父殿は、正直、怖いくらいに美しい人です。その上、ジョシュアと互角かそれ以上の剣術の腕を持ち、ナルキーサスをしのぐ治癒魔法を扱い、インサニアを浄化する力を有しています。あと、既婚です」
「……最後の情報はどうでもいいが。私が留守の間にとんでもないものを町に入れたものだな」
「大丈夫ですよ。神父殿は」
ウィルフレッドはあっけらかんと答える。その答えが意外だったのか、ジークフリートが顔を上げて首を傾げた。
「兄上も会えば分かると思いますが、あの方は……優しい人ですよ」
デスクの上で手を組んだ兄がその目に嘲りを浮かべる。
「……王都で教会が年々、勢力を増している。現王も教会のいいなりだ。王家のパーティーに爵位も無い神父が何人も来て傍若無人に振る舞っていたほどだ」
ジークフリートはため息を零して椅子に身を深く沈めた。
「四大公爵家は、ノッティンガム家を除いてまだ静観の体を取ってはいるが、この先、どう情勢が変わるかは分からん。教会の勢力が増せば、我々改革派は不利になる」
「ブランレトゥに来た神父殿は、王都の教会を忌み嫌って、柵さえなければ更地にしたいというような人ですよ。言ったでしょう、そもそも宗派が違うのだと」
ジークフリートがぱちりと目を瞬かせた。
ウィルフレッドは、苦笑交じりに肩を竦める。
「あの方が町に居るから、私はここへ来られた。そして、兄上や仲間たちを救う事が出来た。正直、あの神父殿の実力は計り知れず、恐ろしいものがありますが……それでも私は、あの人が悪い存在だとは思えないんです。あの人は、愚かにも愛のために生きている人です」
兄は、机に頬杖をついて目を伏せる。
「……愛、か。……随分と愚かなものに生かされているのだな、その男は」
その伏せられた目元に自嘲が浮かぶ。
兄の背の窓の向こうでは、ざあざあと夜を溶かしてしまう様な勢いで雨が降っている。ほんのりと外が明るいのは、死体を焼く炎の所為だろう。
こんこん、と控えめなノックの音が聞こえて振り返る。兄が、どうした、と返事をすればドアが僅かに空いて、銀色の髪がさらりと揺れた。少しして恐る恐る顔を出したのは、アマーリアだった。兄の妻、つまり領主夫人、アルゲンテウス辺境伯夫人だ。
ウィルフレッドは、ドアに近付いて行きそっと開けて中に入るように促す。
銀の髪に青い瞳を持ち、酷く小柄でまだ少女ともいえる様な愛らしい女性だ。事実、十五で兄に嫁いできた彼女は、二児の母ではあるがまだ二十四と若い。兄とは十四も年が離れているのだ。王国の法律上、一般人が正式に結婚できるのは十八だが、様々なしがらみやしきたりの多い貴族は、男は十三、女は十五で正式な結婚が認められている。
「……アマーリア」
兄の眉間に皺が寄る。
控えめなナイトドレスの裾が揺れる。ウィルフレッドが見るにショールを羽織っただけのその姿は、こっそりと部屋を抜け出してきたのが窺える。
「あ、あの……お怪我をしたと、侍女に聞いて……それで」
「部屋から出て良いとは一言も言って居ないが? それもそんなはしたない格好で、君には私の妻だという自覚が無いのか?」
「兄上」
過分に棘を含んだ物言いにアマーリアがますます体を小さくさせる。
「義姉上は、兄上を心配して来て下さったんですよ。そのような物言いをするべきではありません」
ウィルフレッドの言葉に兄はますます眉間に皺を深くした。常の仏頂面が険しさを増す。
「……ウィルフレッド、準備が出来次第、私もブランレトゥへ戻る。メイヤールは護衛として残し、安全が確保され次第、呼び戻せ。アマーリア、君と子供たちもここに残れ。レベリオ!」
「はい、お呼びでしょうか?」
廊下に控えていたレベリオがすぐに顔を出す。
「メイヤールと師団長と大隊長を呼べ、指示を出す。ウィルフレッドは、部屋に送り届けて来次第、出立の準備に入れ。準備が出来ても出来なくても一時間後には発つ」
ウィルフレッドとレベリオは、顔を見合わせてやれやれと気づかれない様にため息を零して騎士の礼を取り、アマーリアを促して執務室を後にする。アマーリアは、今にも泣き出しそうだがそれをぐっとこらえているようだ。
ウィルフレッドは、自分のジャケットを脱いでアマーリアの細い肩に掛ける。アマーリアが弾かれたように顔を上げた。
「義姉上、兄上は色々な案件が重なってぴりぴりしているだけです。それにここは男所帯ですから、義姉上のように魅力的なレディがそのように無防備な恰好をしてうろうろしていたら、兄上だって心配して言葉も厳しくなってしまいますよ。兄上は、不器用ですから」
ね、とウィルフレッドが笑いかければ、アマーリアは微かに笑って頷いてジャケットの襟を両手で寄せる。
兄夫妻があまり上手くいっていないのは、周知の事実だ。最近では兄は寝室に妻を尋ねることもなくなり、部屋は別々に用意させているらしい。
レベリオに二、三、用事を頼んでウィルフレッドは、アマーリアを部屋へと送る。
砦の最奥の貴賓室が彼女たちに用意された部屋の様だった。一応、ここは領主様が王都へ上がる時が戻る時、休憩地点になっているためにその為の部屋が用意されているのだ。
「失礼、奥様を……だっ」
「お母様!」
ドアが勢いよく開いてウィルフレッドは鼻を打ち付けてしゃがみ込む。
空いたドアから小さな子供が二人飛び出してきて、アマーリアに飛びついた。少し遅れて侍女が慌てて駆け寄って来る。
「ああ、奥様、急にいなくなるから心配を……って、ウィルフレッド様!」
「リリー、レオンにドアは静かに開けるようにきちんと言い聞かせておいてくれ」
ウィルフレッドは鼻を擦りながら立ち上がる。
侍女のリリーは、その言葉に事態を察した様で慌てて、申し訳ありませんと頭を下げた。リリーは、アマーリアが実家から連れて来た侍女だ。
「お母様、お父様は?」
「おとーさま、おけがしたんでしょ?」
兄譲りの蜂蜜色の髪と紅い瞳の男の子と母親にうり二つの銀髪碧眼の少女がアマーリアに尋ねる。アルゲンテウス家の嫡男・レオンハルトと娘のシルヴィアだ。
「お父様の怪我は、治療も終わってぴんぴんしているよ」
アマーリアの代わりに答えれば、漸く兄妹は叔父の存在に気付いたようだった。
「ウィル叔父様!」
「おじさま!」
母から離れて飛びついて来た二人を受け止めて、アマーリアを促し中へと入る。
品の良い調度品でまとめられた部屋は、城の寝室に比べれば狭いが、過ごしやすいように使用人たちによってきちんと整えられているのが分かる。紅茶を用意しようとしてくれたリリーにやんわりと断りを入れて、ウィルフッドは飛びついて来た甥と姪をソファの上に下ろした。
「レオン、これから私とお父様は、ブランレトゥに戻らなければならない。君は、お母様とシルヴィアをちゃんと護るんだよ」
レオンは、兄と同じ紅い瞳でじっとウィルフレッドを見つめた後、こくりと頷いた。
「ウィルフレッド様、お手数をお掛けいたしました。それに先ほどは、レオンが……」
アマーリアが申し訳なそうに言った。
ウィルフレッドは、大丈夫ですよ、と声を掛けてアマーリアからジャケットを返してもらう。
「それでは義姉上、私はここで失礼させて頂きます」
ウィルフレッドは騎士の礼を取り、部屋を辞去する。
廊下に出て、ふうと一息ついたところで声を掛けられて振り返る。アマーリアが不安そうな表情を浮かべて顔を出していた。
「……ジークフリート様を、どうかお願い致します」
アマーリアが深々と頭を下げた。
「命に代えても御守りします」
ウィルフレッドはそれに騎士の礼で応える。
アマーリアは、ほっとしたように微笑んで、お願いします、ともう一度告げると部屋の中に戻って行く。
そして、アマーリアが部屋に入ったのを見届けて、ウィルフレッドは暗い廊下を歩いて行く。
「どこもかしこも問題だらけで困ったものだな……」
はぁとため息を零して、廊下の向こうから聞こえて来るウィルフレッドを呼ぶ声に応えるべく、ウィルフレッドは足を速めたのだった。
蹄の音が幾重にも重なって雨の中に響く。
轟轟と唸るように風が吹いて横殴りの雨が町中を覆っている。
真尋は、手綱をきつく握りしめて騎士団から屋敷へと馬を走らせていた。後ろからはリックがついて来ている。
騎士団から屋敷は馬を走らせれば十分もかからない距離だというのに今夜はその道のりがやけに長く遠く思えた。町の中が騒々しく、そこかしこで灯りが灯っていたのもそれを助長させていたかも知れない。
屋敷が見えて来る。
心臓が耳元で鳴っているかのようにうるさくて、胸の内に不安が溢れてぎりりと歯を食いしばった。
手を振れば鉄門が開く。開ききるのが待てずに滑り込む様に中へと走る。玄関先に人影が二つあった。雨の所為で良く見えないが誰かがそこに立って居る。
ぐっと手綱を引いて速度を落とし、馬の足を止めさせる。
「神父様、早くあの子の元へ。皆、そちらに居ます」
立って居たのはクレアだった。隣にはルーカスが居る。
二人の表情は暗く、纏う空気は 重苦しい。
「馬はオレたちに任せて、さあ、早く」
ルーカスが急かす様に真尋に言った。真尋は馬から飛び降りて、クレアとルーカスに声を掛けるのも、服を乾かすのも忘れて屋敷の中へと飛び込み、階段を駆け上がる。
三階、ノアの部屋のドアは薄く開いていて、中から灯りが零れている。ナルキーサスがロイスと言い争う様な声が聞こえる。治療を続行しようとする彼女とそれを止めるロイスの声だ。
「ミア!」
転がり込む様な勢いで中へと飛び込む。
その瞬間、雨の音も風の音もナルキーサスを止めるロイスの声も何も聞こえない無音の世界があって、ただ、ノアの頭上にあったノアのステータスの数値がゼロになり溶けるように消えて行った事実だけが鮮烈に真尋の網膜に焼き付いた。ノアの横に座り込んだミアの小さな手から、ノアの更に小さな手が、ぽとり、と落ちた。
ナルキーサスが動きを止めた。一路が肩を震わせるティナを抱き締める。壁に寄り掛かって事態をみていたレイがそっと目を伏せ、ソニアとプリシラは、夫の胸に顔を伏せた。
「…………ミア」
真尋は、ゆっくりとミアに近付いて行く。ミアの傍にいたサヴィラとネネが、ベッドから離れて涙を零すルイスたちの元へと行く。
「……ミア」
真尋は、ベッドの縁に腰掛けて後ろからミアに手を伸ばした。ミアは、光を失った珊瑚色の瞳で呆然とノアを見つめていた。
部屋の中を静寂が覆う。騒がしい雨の音も風の音もこの深い深い悲しみと絶望を消し去ってはくれない。
「……神父さま」
ミアの小さな声が空気を震わせた。
ミアの頬に触れる寸前で真尋の手が止まる。
「……ノア……ひとりぼっちになっちゃった……」
零された言葉もその声もまるで空っぽになってしまっているように頼りなく、絶望だけがそこに残ってしまったかのようだった。
パンドラの箱ですら、最後に残ったのは希望だったのに。
「……ノアは、甘えん坊で寂しがり屋で……私がいないとすぐに泣いちゃうのに」
脳裏にノアの笑顔が浮かび上がった。
貧民街で一度きり、真尋が上げたキャンディに愛らしい笑みを浮かべたノアの顔が、その隣で笑うミアの顔が浮かんでは消えていく。
たった二人きり。でも、だからこそ貧しい日々の中、お互いを支えにしてこの姉弟は生きていたのだ。どうしてもっと早く真尋は、二人に会いに行かなかったのだろう。いっそ、あの日、連れ帰ってしまえばよかった。そうすればノアもミアも今、真尋の腕の中であの日と同じように笑って居てくれただろうに。
「……こんな、想いをさせて、苦しませて……本当に、すまないっ」
絞り出すように告げて後ろからミアを抱き締めた。
真尋の腕があまる小さく細い体は力なく腕の中に納まってしまった。涙を零すことも忘れて、ミアはただじっとノアを見つめている。
「……どうしよう、神父さま……ノア、私が、抱きしめてあげられないところにいっちゃった。……ノア、ひとりぼっちになっちゃった」
ミアの言葉に胸が切り刻まれる様な想いがした。
どこまでも一途に弟を想うミアの心が痛かった。何もしてやれなかった自分が憎たらしくて仕方がない。
神から与えられたこの力は、人よりも随分と優れているらしいのに、小さな小さな男の子の命を救ってやることも出来なかった。
「……ミア、ノアは独りなんかじゃない。俺の愛する神様がお傍に居て下さる」
「……かみさま?」
「ああ。泣き虫だけど、とびきり優しい神様が頑張ったノアを迎えに来て、お空のとても綺麗なところに連れて行ってくれる。だから、ノアはひとりぼっちになんかなりはしない」
ミアの小さな手が真尋の腕に触れた。服の袖をきゅうと握りしめる。
「……そこに、おかあさんも、いる?」
その問いかけに思わず息を呑んだ。ちらりと視線をやった先で、サヴィラが驚愕の表情を浮かべている。
真尋は、何と答えて良いか分からずにミアを抱き締める腕に力を籠める。
「お母さん、すごくすごく遠いところに行かなきゃいけないって言ってたの……お母さん、ずっとノアみたいに具合が悪そうだったの、咳ばっかりして、顔色も悪くて……ノアのこと、大事にしてねって、約束、したのに……ミアが約束を守れない悪い子だから、ノアまでいなくなちゃったの?」
振り返ったミアの珊瑚色の瞳は空っぽだった。
悲しみも寂しささもない。ガラス玉のように空っぽな瞳がただじっと真尋を見上げる。
「ミアは、何も悪くない」
もっと、もっと何か、意味のある言葉が欲しいのに舌が動かない。どれだけ心の中を探っても、膨大な知識の詰まった頭の中を探ってもミアに向けるべき言葉が一つも見つからなかった。
とととっと足音が聞こえたかと思えば、ジョンがミアの前にやって来た。ジョンは真尋の袖を握っていたミアの右手を両手でそっと握りしめた。ジョンの空色の目は、赤く潤んでいて頬には涙を流した痕がある。
「ミアちゃんは、悪くないよ」
ジョンの声には陽だまりみたいな優しさがたっぷりと詰まっていた。
「悪いのは、ノアくんを傷付けたやつと病気だよ。僕、知っているよ、ミアちゃん、毎日、毎日、ずっとノアくんの傍でノアくんのお世話をしていた優しいお姉ちゃんだもん。ノアくんが寂しくない様にってずっと傍に居たミアちゃんが悪い子な訳が無いよ」
「……でも、」
「見てごらん、ミアちゃん。ノアくん、まるで眠っているみたいに優しい顔をしてるでしょ」
ジョンの声に促されて真尋は初めてノアを見る。
ジョンの言葉通り、ノアの顔には苦しんでいた時の辛さは欠片も無い。まるで本当にただ昼寝でもしているかのように穏やかだった。
「きっとね、ミアちゃんがこうやってノアくんの手をずーっと握っていたから、ノアくんの辛いのや痛いのや、苦しいのがミアちゃんの体の中に入ったんだよ。だから、ノアくんは、もうどこも痛くないし、苦しくもないんだよ」
「……ほんと?」
ミアが真尋に同意を求めるようにこちらを振り返る。真尋は、ああ、と頷いてミアの髪を撫でた。
「だから、今度はミアの番だ」
「ミアの番?」
「ああ。ノアから引き受けた、痛いのや苦しいのや辛いのを出さないとならない」
真尋はミアの頬を撫でて問う。
ミアは、顔を俯けノアを振り返った。ジョンは握りしめたミアの手を離さない。
「……どうやったらいいの?」
「ミアの本当の気持ちを教えてくれないか?」
ミアが自由な左手で自分の胸を抑えた。
「……ティナお姉ちゃんから落ちたお花、見せてあげたかったの」
ぽつりと零された言葉に真尋は、ああ、と頷く。
「おじちゃんが作ってくれる美味しいご飯も食べさせてあげたかったの。クレアおばあちゃんのジャムだって……それに、絵本だって見せて上げたかったし、この大きなお家を一緒に探検したかったの、ロビンにだってふわふわだから触らせてあげたかったの、それで夜は神父さまと眠って、子守唄を歌ってもらうのよ……っ、それで、もっといっぱい、ずっと……ずっと、いっしょに、いたかったのっ」
珊瑚色の瞳からぽたぽたと溢れ出した涙がミアの頬を濡らす。けれど、ミアはそれがまるで罪悪であるかのように必死に左手で頬を擦って涙を止めようとする。
「……ミア、擦っちゃだめだ」
「わた、私っ、お姉ちゃんだから泣いちゃいけないの……っ。だって、私が泣くとノアも泣いちゃうんだもの……っ、だから、私は、笑ってないと」
ミアが笑う。不恰好な笑顔ともいえない様に、ただ顔を歪ませただけのそれは酷く痛々しくて仕方が無かった。そんなミアの視界を遮るようにジョンが抱き締める。
「こうしてれば、ノアくんには見えないから、僕が隠してあげるから、泣いて良いよ。バレちゃったら、僕の所為にしていいよ……ぼくが、ないてるから……お姉ちゃんも泣いちゃったんだって……っ」
空色の瞳から落ちた涙がミアの頬を濡らした。真尋は自分の視界がじわりを歪むのを隠す様にジョンごとミアを抱き締める。
「神父様の所為にしてもいい」
ミアの小さな手がジョンの服と真尋の服をきつく、きつく握りしめた。
「な、なんで……なんで、ノア、しんじゃったの……っ? ずっと、いっしょだって約束したのに……っ、ひとりにしないでよぉっ!」
喉が絞められたかのように苦しくて、真尋は唇をきつく噛み締めた。
「ふっ、うっ、ふぇっ、うえぇぇえええ!!」
ダムが決壊したかの如く溢れだした涙と慟哭が哀しみに満ちた部屋の中に溢れて広がる。
その泣き声は、ミアの小さな体を哀しみでバラバラにしてしまいそうで、そうならないように真尋は抱き締める腕に力を籠める。
雨がまるでミアの哀しみに溢れる涙に同調するかのように強くなっていく。
そうしてミアは、気を失うまでずっと真尋とジョンの腕の中で泣き続けたのだった。
ガチャリ、と図書室のドアを開ける。
本が雨の音を吸い込んで中は不気味な程静まり返っていて、奥にちらちらと見える光が無ければ、一路は中へ入ることはしなかっただろう。
一路は、その光を目指して歩いて行く。背の高い本棚の向こう、窓際に置かれたカウチに真尋が腰掛けていた。真尋の膝には、ミアを抱き締めるジョンがいて、二人の子供は毛布に包まり眠っている。
二人の目元には濡らした布が当てられていて、真尋の手がとんとんとミアの背を一定のリズムで撫でていた。
「……ノアくんの処置、終わったよ」
一路は傍に有った椅子に腰かけながら言った。
「そうか」
返って来た返事はそれだけだった。一路は、そうだよ、と返して目を伏せる。泣いたせいで目元が少し熱を持っている。
ミアが泣き疲れて気を失った後、ナルキーサスがノアの足を切断すると言った。腐った左脚をそのままにしておけば、今夜中にでもノアがアンデット化してしまうからそうならないように処置をしなければならないのだとナルキーサスは言っていた。
それを告げたナルキーサスは、治癒術師らしく冷静で淡々としていたけれど、ノアの容体が急変した時、彼女は必死だった。一分でも一秒でもノアを生かそうと手を尽くしてくれた。最後は、それ以上は苦しみを長引かせるだけだとロイスに止められていたけれど、ナルキーサスは最後の最期までノアを諦めはしなかった。
彼女は治癒術師として救えない命があることを割り切っているようで、割り切れない部分が有るのかもしれない。ノアのステータスが消えた瞬間のナルキーサスの表情は、絶望の二文字に彩られていた。処置をするからと皆に退出を促した後、まるで何か悪夢を繰り返し見ているかのように、ただじっと永の眠りについたノアを見つめていた横顔が脳裏に焼き付いている。
「……ずっと、考えていたことがある」
顔を上げる。
真尋は頬杖をついて窓の外を見ていた。その横顔を一路はじっと見つめる。
「ミアは、ノアを噛んだグリースマウスに同じように傷つけられた。だが、ミアの腕には死の痣は残らなかった」
「……一匹につき一人しか死の痣は残せないとか?」
「いいや。貧民街でウォルフとカマラは、同じグリースマウスに傷付けられ死の痣をその体に残されそうになった。そうだろう?」
「そういえば、そうだね。なら、どうしてミアちゃんは無事だったんだろう」
そこで会話が途切れた。
真尋はただじっと窓の外を見つめている。彼の傍に浮かぶ光の球がふよふよと漂って、その美しい横顔を照らす。
長い様な短い様な沈黙を破ったのは、真尋だった。
「……ミアに初めて会った日、俺はミアに花をあげたんだ。名前は知らん、ミアの瞳と同じ珊瑚色の花だった」
真尋の声は静かに凪いでいたけれど、隠し切れない後悔がその声に滲んでいるのに一路は気が付いた。
「貧民街で再会した日もミアは、その花をまだ身に着けていて、俺は再び力を込めて花を生かした。その次の日だった、ミアとノアがグリースマウスに襲われたのは。きっと花はまだ俺の力を残して、瑞々しく咲き誇っていただろう」
「……もしかして、魔石と同じ働きをしたかもしれないってこと?」
一路の言葉に真尋は、ああ、と頷いて目を伏せた。長い睫毛が頬に影を作る。
彼の唇の端に自嘲がありありと滲む。
「あの日、どうして俺は、ノアにも花をやらなかったんだろう、とそればかりだ。いっそのこと、あの日、ミアとノアを攫ってしまえば良かった。どうしてあの日、俺は……あんな寂しい場所に二人を置き去りにしてしまったんだろうな」
「……真尋くん」
「ミアからノアを奪ってしまったのは、俺なのかもしれないな。人から恐れられるほどの力がありながら、何も出来なかった俺だ」
一路はその一言に立ち上がり、真尋の前に立ち、思いっきりその頬をひっぱたいた。パンッと乾いた音が暗い図書室に響き渡った。
真尋が驚きを露わにして、一路を見上げている。一路は、じんじんと痛む右手を握りしめながら真尋を睨み付けた。
「馬鹿は休み休み言いなよ」
「一?」
「……君は、君が出来る最善のことをしたでしょ。悪いのは、君でもミアちゃんでもあの場所でもない。命を命とも思わないザラームやエイブにリヨンズでしょ。それなのに君が君を責めてどうするの? 後悔するなとは言わないけど、そんな無意味な後悔なんかするなよ! 僕らの力は万能なんかじゃない! 思い上がりもいいところだっ!」
銀に蒼の混じる月夜色の瞳がじっと一路を見つめて後、ふっと柔らかに細められた。
「……そう、だな。お前の言う通りだな」
真尋は、視線をミアとジョンに映す。
「こんな後悔、意味の無いものだな。どれだけの力が有ったとしても全てが上手くいかないことを俺は知っていたのに、忘れてしまっていた。ありがとう、一路」
一路は腕を組んで、そっぽを向く。
「君は全てを上手に出来るなんていう認識を捨てたほうが良い。真尋くんは料理も掃除も洗濯も満足に出来ないし、この図書室だって、君の杜撰な片付けの所為で足元が本だらけで歩きにくいったらないんだから」
「……杜撰とは失礼な。俺なりに片付けているといっただろう」
「誰が見たって散らかしているようにしか見えないよ。それよりも君、今日一日、ろくすっぽご飯を食べていないでしょう?」
「そういえば、そうだったな」
今気づいたと言わんばかりに、真尋は自分の腹を撫でた。
「部屋に用意してもらったからそれを食べて。カロリーナさん達もあと少しで来るって先ぶれが来たよ、明日……もう今日だけど、ザラームの言っていた終わりについて対策を考えたいって」
一路はくるりと背を向け、出口に向かって歩き出す。
「一路」
「何?」
振り返らずに返事をする。
「ありがとう」
その言葉にぱちりと目を瞬かせて、くすりと笑って振り返る。
「……お互い様だよ」
真尋は、そうか、と頷いた。
その声は、何だかとても安心に満ちているような気がした。
―――――――――――――
ここまで読んで下さって、ありがとうございました!
いつも閲覧、感想、お気に入り登録、励みになっております。
ノアの最期、悩みに悩んだのですが最初から決めていた通りに書かせて頂きました。正直、本当に苦しかったです。
皆様も思うところがあるとは思いますが、どうか安らかな眠りを祈って下さればと思います。
そしてファンタジー大賞への応援、投票、本当に本当にありがとうございました。
次のお話も楽しんで頂ければ幸いです。
289
お気に入りに追加
7,514
あなたにおすすめの小説
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

女神の代わりに異世界漫遊 ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~
大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。
麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。
使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。
厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒!
忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪
13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください!
最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^
※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!
(なかなかお返事書けなくてごめんなさい)
※小説家になろう様にも投稿しています

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる