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本編 2
第四十四話 奇跡を知る男
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「遅い」
真尋の第一声に、土下座する神の、相変わらず細い背が大げさなほどにびくりとはねた。
真尋も雪乃も気が付けば、いつかのように真っ白な空間にいて、二人はふかふかのソファに並んで腰かけていた。
「もうじわけありまぜん、わだじがふがいないばっがりにぃ……っ!!」
「あらあら、大変……」
隣に座っていた雪乃が立ち上がり、ポケットからハンカチを取り出して、足元のティーンクトゥスの横にしゃがむ。
真尋は、現実世界ではないというのに、現実と同様、動かない右腕とままならない体に舌打ちをする。それが聞こえたのかティーンクトゥスがまた「ずみまぜん」と謝る声がした。
よくよく見てみれば、真っ白だと思った空間には、ぽつぽつと花が咲いていた。
「ティーンクトゥス、顔を上げて、座れ。どうせお前のことだから今回も時間はあまりないんだろう? さっさと話しをしろ」
「あい、ずみまぜん」
ずるずると鼻をすすりながらティーンクトゥスが頷く。
雪乃が「ほらもう泣かないで」と子どもでもあやすかのようにその背を撫でて、ティーンクトゥスが自分で出した粗末な椅子に座らせた。持っていなさい、とハンカチを握らせると雪乃が隣に戻ってくる。
ティーンクトゥスはグラスをどこからともなく取り出すと魔法で水を注いで、それを飲み大きく息を吐いた。
「申し訳、ありません。私がポンコツなばかりに……ほ、報告が、遅れに遅れてしまって……っ!」
まだ少し喉をひくつかせながら、ティーンクトゥスが喋りだす。
「それで、真智と真咲はどうなるんだ?」
「け、結論から申し上げますと……、もとに戻ることはありません」
雪乃が息をのみ、前のめりになる。
「な、なら、一生、赤ちゃんのままなの?」
「いえ、違います!」
ティーンクトゥスが慌てて首を横に振った。
「これまでの十一年分の記憶をもった、以前のお二人には戻らないという意味です! 普通に成長はしますので、そこは安心してください。あれ以上、小さくなることも、これから先、急に二倍、三倍の速度で成長することもありません」
「そう……そうなのね、よかった……っ」
雪乃が安堵の表情を浮かべて、ソファへと座りなおした。
真尋も、ほっと息を漏らし、左腕で彼女の肩を抱き寄せた。毎日、これ以上小さくなってしまうのか、それとも、成長するのかしないのか、という不安に苦しんでいたので、それだけでも心が幾分か軽くなるのを感じた。
「……やっぱり、今回のことはあの子たちが、望んだことなのかしら」
雪乃がためらいがちに問う。
「その願いが、全く関係がなかったわけではないのですが……その、えっと」
ティーンクトゥスは、雪乃に渡されたハンカチを握りしめて、何か言葉を探すように唇を震わせた。だが、ふさわしい言葉が見いだせなかったのか、銀色の眼差しが伏せられる。
少しの沈黙ののち、彼は再び口を開いた。
「母の愛とは、」
ささやくようなか細い声でティーンクトゥスが告げる。
「神たちの力でさえも、及ばぬほどの強さを……持っているのです」
意味が分からず、真尋はわずかに眉を寄せた。
「真尋様も聞いていると思いますが、今回、双子様と海斗様、そして、充様は真尋様の下に行くに当たって、地球上での命の痕跡全てを消去しました。それは持ち物だけでなく、存在そのものです。両親の記憶からさえも……」
「承知の上だと聞いている」
「はい。異界の神である私ではなく、日本の神々と皆様が交わされた約束です。ですが……真尋様と雪乃様は、日本の神々が自らその器を作り、魂を入れた特別な存在です。ゆえにお二人は……特に真尋様は異質なほど美しく、そして、他より秀でているのです。私たちは、そういう存在を――『神の愛し子』と呼びます」
「それが今回のことと関係があるのか」
「直接ではありませんが……真奈美様は、真尋様を――神の愛し子を産んだ女性です。彼女もまた、ある種の、神によって選ばれた存在でした。それが今回のことを引き起こす、きっかけとなったのかもしれません」
「母さんに、何かあったのか?」
「……双子様の記憶をすべて無くしたはずの真奈美様は、真尋様を喪い悲しんで、悲しんで……空っぽになったとき、何かが足りないことに気づいたのです。必死に記憶を探り、自分の中の違和感を突き止め、思い出したのです。……この胎に宿った命は、三つであったと」
隣で息を呑む音が聞こえた。
「真奈美様は、自力で……真智様と真咲様という、我が子がいたことを思い出したのです」
何かを言おうと開いた口は、中途半端に息を漏らしただけで、閉じられた。
「存在したものを、存在しなかったことにするような、世界を変えるほどの神の力を押しのけたのは、純粋な――母の愛でした」
雪乃がゆるく首を横に振って両手で口を覆った。
「日本の神々は、動揺しました。神が奪った記憶を、ただの人間が思い出すはずがないのですから。ですが、真奈美様は、確かに真智様と真咲様がいたことを思い出しました。そして、それにつられるようにして、父の真琴様も、双子様の存在を思い出したのです」
「……あの人が?」
母はともかく、父が思い出したことが信じられなくて問い返す。
ティーンクトゥスは「はい」と頷いた。
「私は日本の神に呼ばれて、お二人の下に説明に行きました。真奈美様は取り乱しておいでで、真琴様にも怒鳴られました。子を奪ったのですから、致し方ないことです。ですが、真尋様のお姿を見て、怪我をしているので心配はしておられましたがほっとした様子でした」
「こちらに来ることは、できないのか」
ティーンクトゥスは、痛みに耐えるかのような表情を浮かべて、首を横に振った。
「……私が受け入れることは可能です。ですが、日本側がこれ以上、この短期間で特別な人間を異界に渡すことができないのです。世界の秩序が乱れ、何が起きるかわかりません。修復に修復を重ねている段階で、世界は綻びだらけです。その綻びが裂けて、大きな虚となれば、それは大きな厄災を招くでしょう。すでに……真奈美様と真琴様が思い出してしまったことは、世界にとって小さくも恐ろしい綻びですから」
「それで、そのことと真智と真咲に起きた異変は、どういう関係があるんだ?」
「お二人が赤ちゃんになったのは、お二人の心の奥底にあった願いが真奈美様の願いによって芽吹いたからです。……私の説明が終わった後、お二人が落ち着いたところで日本の神様は、お二人の記憶を改めて封じようとしました。真琴様は成功したのですが……真奈美様にはどうやっても神の力が効かなかったのです。結果、真奈美様は真智様と真咲様のことを覚えたままでいることになりましたが、誰にも話すことはできないよう、あるいは、書いたり、描いたりもできないよう、呪がかけられました。真奈美様も納得してのことです。その代わり……真奈美様は、双子様の持つ記憶の全てを望みました。そして、あの子たちが大好きな兄夫婦の子として、一から生きられるようにと願ったのです」
「おかあさまが?」
雪乃の声はかぼそく震えていた。
「はい。双子様が赤ちゃんになったのは、お二人の母の願いが双子様の願いを後押ししたからなのです。彼らのすべてを構成する十一年分の記憶は、すべて真奈美様に引き継がれました。そして、真奈美様の深い、深い愛に感動した神が……彼女の手元に二人のへその緒を返したのです。真奈美様はそれを……小さな小さな桐箱に入れられた真尋様のへその緒が置かれていた綿と綿の間に隠しました」
ティーンクトゥスがおもむろに立ち上がる。
彼はかがみこんで、彼の足元に咲いていた小さな花を手の平に乗せた。
「これは……お二人への、真奈美様からお預かりした最後のメッセージです」
そう告げて、ティーンクトゥスが花へと息をふきかけた。
ふわりと浮かんだ花はぱらぱらと花びらを散らして、ぱっと広がる。花びらとティーンクトゥスの魔力で作られた輪の中に徐々に母の姿が浮かび上がる。
「……母さん」
最後に見た時より、やせていた。
けれど、こちらをじっと見つめる眼差しは、柔らかく輝いている。
『真尋、あなたが生きていると知って、本当に本当に嬉しかったわ。あなたが突然、いなくなって……とても、とても、悲しかった。……でも生きているなら、たとえ同じ空の下じゃなくても、見ている星が違っても、それでもいいの。……ただ、あなた、無茶をしたそうね』
母の目つきがじとりとしたものになった。
怒るときの雪乃そっくりだ。
『だめよ、あなたには雪ちゃんがいるんだから、悲しませちゃだめよ? 母さん、言ったでしょ。気難しいあなたのお嫁さんなんて、雪ちゃんぐらいしかなってくれないわよって』
揺らぐ映像の中で、母が溌剌と笑う。
なんだか、どうしていいかわからなくなって立ち上がり、母の下へ行く。転びそうになった真尋を雪乃とティーンクトゥスが支えてくれた。
伸ばした手は母をすり抜けて空を掴んだ。
『あんまり夜更かししちゃだめよ。危ないこともよ? 一路くんに迷惑もかけすぎないように。三食ちゃんとごはんを食べて、元気でいてね。そうだ、おまじないをしてあげるわ。あなたにこのおまじないをするのは、久しぶりね。ん、んー、ごほんっ……いたいのいたいの、とんでいけー』
母が細い手をひらひらと振った。
そして、照れくさそうに頬を指で掻く。
『覚えている? 三歳のあなたにこれをやったら「それで、つまりいたみはどこへいくんだ?」って言われたのよ。あの時は困ったものだけど、大事な思い出よ。……それと雪ちゃん』
名前を呼ばれて雪乃が顔を向ける。
『真尋を……そして、真智と真咲をよろしくね。雪ちゃんは優しい良い子だから、私に申し訳ないって思っているかもしれないけど、そんなの必要ないのよ? だってこれまでずっと、ずっと雪ちゃんの愛情が、私の息子たちを三人とも護っていてくれたんだもの。私は最後、あの子たちを傷つけることしかできなかった。あなたがそうしてくれたように、私は……あの子たちを抱きしめてあげればよかった。自分勝手よね。本当にダメな母親だわ。でも、雪ちゃんはそんな私をいつも、あの子たちの母親として尊重してくれていた。だから、私は……私の大事な宝物を託せるの』
微笑んだ母の頬に涙が伝って落ちていく。
同時に自分の頬にも同じものが落ちていくのを感じて、手を伸ばす。やっぱり触れられない手は、ぬくもりのひとつも感じ取れず、母の涙をぬぐうこともできない。
「母、さん、……母さん……っ!」
「おかあさまっ」
『私は大丈夫だから、心配不要よ。真琴さんもいるもの。……真琴さんがね、言ってたの。「日本でもない、イギリスでも、ブラジルでもアフリカでも、どこもでもない世界で……何にも縛られずお前たちが生きているなら、その自由は、きっと、かつて俺も望んだものでもあったから、謳歌してほしい。俺だって、理解は得られなかったがお前たちの幸せを願っていたんだ。今も、これから先も、願っている。……ずっと、ずっと」って。あの人、あなたたちに興味がないわけじゃなかったの。愛し方が分からなかった、不器用な人なのよ。私がもっとちゃんと雪ちゃんが真尋にそうしてくれたように、教えてあげればよかった』
少しだけ寂しそうに目を伏せた母は、すぐにまた顔を上げた。
『真智と真咲のこと、真尋と雪ちゃんだから託したんだって、どうか忘れないでね。二人なら、何からもあの子たちを守って、愛して、育ててくれるって私、確信してるの。あの子たちに私がつけた傷は、責任をもって私が持っていくから。だけど同時に私にはちゃんとあの子たちとの愛しい記憶があるから、これから先も生きていける。……でも本当なら、そうね、ミアとサヴィラっていう孫に会ってみたかったわ』
そういって母は真尋と雪乃をじっと見据える。
彼女には真尋たちの姿は見えていないはずなのに、真尋は確かに母と目が合った。
『真尋、真智、真咲、雪乃。どこにいても何をしていても、私はあなたたちを愛しているわ。私の大事な子どもたち、どうか元気で長生きしてね。私も長寿のギネス記録を目指すつもりで長生きするから。世界は奇跡であふれているんだから、さよならは言わないわ。……真尋、雪ちゃん、またね』
母は、笑った。
あの日、空港で別れた時と同じ、溌剌として明るい、真尋がもっともよく知る母の笑顔だった。
ふわりとほどけるように花びらが散って、母の姿はあっけなく霧散する。ぬくもりも、かおりも、何も残らなかった。なのに胸の内で、悲しみやさみしさが、もどかしさが、言葉になど到底できない感情が、ぐるぐると渦巻いていた。
雪乃が真尋に抱き着いて、胸に顔をうずめている。震える細い背を掻き抱くように腕を回す。
「……私は、長く、永く生きています。人々の営みを眺め、見守り、ここまできました。その中で、様々な愛情があるのを知りました。愛とは、おかしなものです。それは深く大きく心の中を占めていて、だというのに誰かに注がれ、逆に与えられるのを渇望するものでもありました。なのに簡単に憎しみにも転じ、時に人を狂わました。母の愛もまた然り。すべてが美しかったわけでも、綺麗なわけでもありませんでした。ですが……真奈美様の愛はきっと、きっと……お二人を、そして、真智様と真咲様を未来永劫、護っていてくださるでしょう。たとえ生きる世界が違っても、愛は変わらぬのです」
ティーンクトゥスの声は穏やかで優しかった。
真尋は、無性に真智と真咲を抱きしたくなった。あの小さな、小さな二人を抱きしめてキスをして、愛していると伝えたかった。
「そろそろ、双子様の夜中のミルクのお時間です……私もちょっとじわじわと限界が」
顔を上げれば、真尋と雪乃はすでに半透明になっていた。足元はもう消えかかっている。
「ティーンクトゥス様……ありがとう、お義母様のことだけじゃなくて、全部、ぜんぶ」
「いえ、私のほうこそあまりお役に立てなくて、もっと何かできることがあればよかったのですが……」
「あの子たちが健康で元気なら十分だ。……一応確認だが、雪乃や海斗、園田には体の変化に伴う影響はないんだな?」
「ご安心ください。大丈夫です。今回は本当に、色々な条件が運良く重なった上の、私からしても奇跡としか言いようのない出来事ですので!」
ティーンクトゥスは、ぶんぶんと首がもげそうなほど頷いた。
「ティーンさん、あまり無茶をしないでね」
そういって雪乃が微笑むと同時にふわりと消えた。
先に戻ったのだろう。何回経験してもあまりなれない。
「ティーンクトゥス、今回のこと、雪乃たちを俺の下に連れてきてくれたこと、母さんのこと、ありがとう。心から感謝している」
ティーンクトゥスは真尋の言葉に照れくさそうに頬を掻いて、変な笑い声を漏らした。
「だが、それはそれとして、前回の……お前とザラームの顔が同じだったこと、世界に干渉していた云々は何か分かったのか?」
「それが……その……さっぱり」
真尋は不機嫌を隠しもせずに舌打ちをした。
ティーンクトゥスが秒で土下座を決める。
「す、すみません!! さっぱりと……さっぱりと分からず!! 私の記憶が捻じ曲げられているなんて、前代未聞でして!!」
「前代未聞を未聞のままにしておくな! 何らかの手立てを講じて、原因究明を続けろ!」
「は、はいぃぃ! あ、あの、でもですね……一つだけわかっていることが、ありまして、真尋様と一路様が転生してきた時、それと同時に、ザラームは生まれたような、そうでないような。私の記憶の異変は、そこから始まっているかもしれないような気がします!」
「不確定要素が多すぎる! それは分かったとは言わん!」
「す、すみませぇん!」
「あれは、未知の魔法を使う存在だ。神であるお前ですら制御できないはずのインサニアを紛い物とはいえ操るんだ。お前の世界を揺るがすほどの存在かもしれないんだ、もっときっちり調べておけ、いいな」
「は、はい!! わかりましたぁぁ!!」
ごり押しの土下座姿を最後に真尋の意識は、一気に現実へと引き戻されたのだった。
雪乃は、視界に広がる娘の寝顔に、戻ってきたのだと気づいて、その額にキスをして体を起こす。
ミアの向こうの夫はまだ眠っている。雪乃のほうが先に帰ってきて、真尋はまだティーンクトゥスと何か、話をしているのかもしれない。
雪乃はミアを起こさないように、そっと体を起こして足をベッドから降ろす。サイドボードに置かれているろうそくに火をともせば、部屋の中がふわりと明るくなる。布団の上に広げられていたショールを肩にかけて立ち上がり、ベビーベッドへと歩み寄る。
小さな双子はすやすやと眠っている。だが、覚醒は近いのだろう。瞼がぴくぴくしている。ティーンクトゥスが言っていた通り、もうすぐ夜中のミルクの時間だ。
心は凪いでいるのに、感情が荒れ狂っているような不思議な感覚だった。
衣擦れの音がして、振り返る。
案の定、真尋が起き上がっていた。
「あなた」
小声で声をかける。振り返った真尋が「ああ」と短く答えた。
だが、続けて何かを言おうとしたらしい夫は、ぴたりと動きを止めた。銀に蒼の混じる目が彼の固定されたままの腕に向けられる。
「……どうしたの? あなた?」
真尋が布団を跳ね上げるようにして立ち上がった。思わず駆け寄ろうとして雪乃は息をのむ。
真尋は腕をつるしていた三角巾を外し、ギプスを何らかの魔法を使って切り込みを入れて外してしまった。それだけではない。リハビリもまだで動かないはずの右手は当たり前のように動いて、彼はするすると自分の寝間着のボタンを外した。
その体を覆いていた包帯がほどかれ、ガーゼが落とされて雪乃は思わず駆け寄るも、すぐに足が止まる。
「……うそ」
真尋の左の脇腹には、ポチの攻撃で負った大きな裂傷があった。
魔獣につけられた傷は一向にふさがらず、治癒術師たちが縫合魔法を何度もかけなおし、最近ようやくかさぶたが落ち着いてきたところだった。
だが、そこにはもううっすらと赤く、傷跡だけが残っていた。
雪乃は彼に駆け寄り、真尋にズボンを脱ぐように言って他の傷も確認する。こめかみにあった傷も右脇の傷も太ももやふくらはぎの傷もうっすらと赤い痕だけが残り、しぶとく残っていた痣にいたってはきれいさっぱり消えていた。
それに怪我のせいで食事がままならず、痩せていたはずの夫の体はもとに戻っている。
「治っている、な」
真尋がズボンをはきなおし、ミアに布団をかけなおす雪乃を振り返って言った。
「……もしかしてティーンクトゥス様が治してくれたのかしら?」
「いや、俺たちを呼び出すだけで精一杯の上、そんな話は一つもしていない」
さすがの夫も困惑しているようだった。
雪乃は、ふと思い当たった可能性に「まさか」と声を漏らした。真尋が怪訝そうに雪乃を見る。
「お義母様、じゃないかしら、あなたの怪我を治してくれたのは」
「母さんが? ……まさかあの『いたいのいたいのとんでいけ』か? 母さんは普通の人間だぞ?」
ありえない、と夫の顔には書いてあった。
だが、雪乃にはそうとしか思えなかった。
「だって、お義母様が言っていたじゃない。世界は奇跡であふれてるって……これが奇跡じゃなかったらなんて言うの?」
雪乃の言葉に真尋は、自分の右手に視線を落とし握ったり、開いたりを繰り返す。
さらに雪乃が言いつのろうとしたとき、ベビーベッドから「ふにゃぁ」と泣き声が聞こえ、夫婦で慌ててかけよる。
ベッドの中では、ふにゃふにゃと双子が手足を動かしながら泣いていて、ミルクをねだっている。
「真尋さん、できそう?」
「ああ。問題ない」
そういって真尋が左側に寝ていた真智を抱き上げた。左腕で真智を抱えた彼にアイテムボックスから取り出したミルクを渡す。眠る前に作って、アイテムボックスに入れておけばそのまま使えるのだ。アイテムボックスの存在には感謝しきりだ。
ベッドに腰かけ、ミルクを上げ始めた真尋の隣に雪乃も真咲を抱いて座る。真咲も口元に乳首を運んであげれば、すぐにごくごくとミルクを飲み始めた。
「二人がミルクを飲み終えたら……すぐにブランレトゥのクロードに手紙を出す」
「確か、商業ギルドのギルドマスターさんだったかしら?」
「ああ。君たちはまだギルドカードがないだろう? 海斗と園田は知らんが、君と双子はミアやサヴィと同じで、商業ギルドで住民タイプのギルドカードを発行してもらわなければと、思っていたんだ。俺や一路は冒険者タイプだからな。君は冒険には出ないだろう?」
「ええ。そうだけど……この子達は、どう登録するの?」
「君が産んだことにして登録できないか、クロードに相談する。俺が故郷を出た後に妊娠が発覚して追いかけてきたことにすればいい。君はそれでもいいか?」
「もちろん。でも、ジョシュアさんたちには? みんな、二人が大きかったことは覚えているわ」
「……そこは俺がこう……いい感じに説明する。大体は『だって真尋だからな』で片づけてくれるから、その辺は大丈夫だろう。君たちのことを知っているのが、そもそも信用のおける人間だけだ。箝口令を敷くのはそこまで難しくないはずだ」
真尋はそう言って、哺乳瓶の角度を少し変えて中身を確認する。
「よく飲むな。いいことだ」
こっそり、真尋が赤ちゃん言葉を使えば面白いのに、と思ってしまったのは内緒だ。
真咲へ視線を落とすと、目が合った。雪乃が微笑むとゆっくりと瞬きをして、また一生懸命ミルクを飲む。
真咲は大人しくて、真智は活動的で、正反対の性格をしていたけれど、どちらも優しい子だった。雪乃の体をいつも案じてくれて、お手伝いも率先してやってくれた。真尋と違って、将来的には料理だって洗濯だってお手の物だっただろう。真智はサッカーに係わる仕事がしたいと言っていて、真咲は通訳か翻訳家になりたいと言っていた。
雪乃が熱を出したときは、ずっとそばにいて心配してくれた。母の日には毎年、カーネーションをくれた。二人が怪我をしてしまった日は、雪乃はつきっきりでそばにいたし、悪夢を見て二人が泣いた夜は真尋と一緒に眠った。五歳くらいのころ、雪乃が真尋の恋人で、実の姉ではないと知って泣かれたこともあった。真尋に「ゆきちゃんをおよめさんにして」と二人が念を押して、真尋が笑いながら「もちろん」と応えた。(その時、二人は後で『おにいちゃんがいやならぼくたちでもいいよ』と言ってくれた。真尋は盛大に拗ねた)数年後、入籍した時には「雪ちゃんが僕らの本当のお姉ちゃんになった」と誰よりも喜んでくれた。
真咲の顔が歪んで、頬を伝って落ちたそれが真咲の服に落ちた。
「二人が、無事で嬉しいのに……さみしいわ……っ」
「……ああ」
真尋の返事も何かが詰まったようにくぐもっていた。
十一年。ずっと、ずっとそばにいて、共に過ごして、たくさんの思い出を作ってきた。
嬉しかったことも、幸せだったことも、悲しかったことも、辛かったことも、困ったことも、全部、全部、雪乃は覚えている。
「お義母様にとって、誰にも話せないのに二人の記憶があること、それは辛いことかもしれないけれど……」
「母さんが、自ら望んだことだ」
「ええ、そうね。そうだったわ……なら、お義母様のこれからを支えるものに、きっと、なってくれると信じてもいいかしら」
「ああ」
ぼたぼたと涙がおちて、真咲の頬を濡らした。
真咲がもういらない、と乳首を口から出し、雪乃は哺乳瓶を傍らに置いて、小さな体を縦に抱いてげっぷを促すために背を撫でる。
肩に感じるぬくもりある重さが、せつなくて、何よりも愛おしかった。
けぷっとげっぷの音が聞こえて、雪乃は真咲を抱きなおす。真咲は、じっと雪乃を見つめている。横をみれば、同じくミルクを終えた真智が真尋を見上げて、あーうーと声を出して、手を伸ばしていた。
真尋が片腕で真智を抱き、雪乃の肩を抱き寄せた。双子の距離が近くなる。
「あなたの、あなたたちの…………お母さん、に……なってもいいかしら」
「俺が、父親でも、いいだろうか?」
「うー、あー」
「ああー」
にこっと真咲と真智が笑う。
可愛い笑顔がにじんでよく見えない。ぺちゃんこの小さな鼻に自分の鼻を摺り寄せ、額にキスをする。
つよく、強く抱きしめたいのに、この小さな体にはそれができない。
「お義母様、おかあさま……っ」
真咲を柔く抱きしめたまま、雪乃は大好きだったもう一人の母をすがるように呼んだ。真尋の腕の力が強くなり、頭上で彼が鼻をすする音がした。雪乃の髪に彼の唇が寄せられて、そこから吐き出された息は熱く震えていた。
「君の、言う通り……俺の怪我も……母さんが、治してくれたんだろうか……っ」
弱弱しい声で真尋が、そうであってくれと願うように問いかけてくる。
「そうよ……そうに違いないわ、だって……優しいおかあさまだもの」
「あーあー」
真咲の小さな手が雪乃の髪を引っ張る。
「ふっ、大丈夫よ、ありがとう、真咲」
雪乃は首を動かして、真尋にキスをして彼から離れて立ち上がる。
眠たそうにし始めた真咲を抱いたまま、ゆらゆらと揺れながら子守唄を口ずさむ。真尋もベッドに座ったまま、雪乃の歌に合わせて体を揺らしている。
寝つきの良い双子は、まもなくすやすやと眠り始めた。先に真尋が真智をベッドに降ろし、その隣に真咲をおろす。一瞬、ぐずった二人のお腹を両手でとんとんして、子守唄をくちずさめば、今度こそ二人は夢の世界に旅立っていく。
「おやすみ、私の可愛いこどもたち」
声をかけ、布団をかけなおす。
「……雪乃」
呼ばれて振り返れば、真尋が腕を広げていた。雪乃は迷わず、その腕の中に飛び込んだ。
痛いくらいに強く抱きしめられて、雪乃も負けないくらいに強く抱きしめ返した。真尋の鼓動が、どくん、どくんと力強く鳴っている。
「ずっと、こうやって君を抱きしめたかった」
「私も、抱きしめてほしかったの。いま、すごく幸せよ」
顔を上げれば、キスが降ってくる。
息継ぎもさせてもらえないようなキスに雪乃は一生懸命応える。それでも限界はやってきて、真尋の背をたたけば、ようやく彼の唇が離れていく。
「ん、もう……ミアがいるのに……」
「朝まで起きない」
じとりと睨むが自分勝手な夫はそう言って雪乃の額や目じり、頬にキスをしてくる。
「四人の子どものお父さんとお母さんになったわね」
「ああ。…………真智と真咲には、パパ呼びを推奨してもいいだろうか」
「ふふっ、あなたったら昔からそればっかり。サヴィラに頼むのはやめなさいね。もうパパって年じゃないわ」
「……善処する」
「これから大変だろうけれど、あなたとだから頑張れるわ。それに頼りになる長男と長女もいるし、みんなも」
「おむつ替えは、俺も教えてもらわないとな。布は使ったことがないから」
「ふふっ、そうね」
触れ合うだけのキスをじゃれあうようにして、雪乃と真尋はしばらく抱きしめあっていた。
言葉にできない寂しさやもどかしさを埋め合うように、ただそうして寄り添いながら、雪乃は心から義母の――真奈美の幸福と平穏を願ったのだった。
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「もうじわけありまぜん、わだじがふがいないばっがりにぃ……っ!!」
「あらあら、大変……」
隣に座っていた雪乃が立ち上がり、ポケットからハンカチを取り出して、足元のティーンクトゥスの横にしゃがむ。
真尋は、現実世界ではないというのに、現実と同様、動かない右腕とままならない体に舌打ちをする。それが聞こえたのかティーンクトゥスがまた「ずみまぜん」と謝る声がした。
よくよく見てみれば、真っ白だと思った空間には、ぽつぽつと花が咲いていた。
「ティーンクトゥス、顔を上げて、座れ。どうせお前のことだから今回も時間はあまりないんだろう? さっさと話しをしろ」
「あい、ずみまぜん」
ずるずると鼻をすすりながらティーンクトゥスが頷く。
雪乃が「ほらもう泣かないで」と子どもでもあやすかのようにその背を撫でて、ティーンクトゥスが自分で出した粗末な椅子に座らせた。持っていなさい、とハンカチを握らせると雪乃が隣に戻ってくる。
ティーンクトゥスはグラスをどこからともなく取り出すと魔法で水を注いで、それを飲み大きく息を吐いた。
「申し訳、ありません。私がポンコツなばかりに……ほ、報告が、遅れに遅れてしまって……っ!」
まだ少し喉をひくつかせながら、ティーンクトゥスが喋りだす。
「それで、真智と真咲はどうなるんだ?」
「け、結論から申し上げますと……、もとに戻ることはありません」
雪乃が息をのみ、前のめりになる。
「な、なら、一生、赤ちゃんのままなの?」
「いえ、違います!」
ティーンクトゥスが慌てて首を横に振った。
「これまでの十一年分の記憶をもった、以前のお二人には戻らないという意味です! 普通に成長はしますので、そこは安心してください。あれ以上、小さくなることも、これから先、急に二倍、三倍の速度で成長することもありません」
「そう……そうなのね、よかった……っ」
雪乃が安堵の表情を浮かべて、ソファへと座りなおした。
真尋も、ほっと息を漏らし、左腕で彼女の肩を抱き寄せた。毎日、これ以上小さくなってしまうのか、それとも、成長するのかしないのか、という不安に苦しんでいたので、それだけでも心が幾分か軽くなるのを感じた。
「……やっぱり、今回のことはあの子たちが、望んだことなのかしら」
雪乃がためらいがちに問う。
「その願いが、全く関係がなかったわけではないのですが……その、えっと」
ティーンクトゥスは、雪乃に渡されたハンカチを握りしめて、何か言葉を探すように唇を震わせた。だが、ふさわしい言葉が見いだせなかったのか、銀色の眼差しが伏せられる。
少しの沈黙ののち、彼は再び口を開いた。
「母の愛とは、」
ささやくようなか細い声でティーンクトゥスが告げる。
「神たちの力でさえも、及ばぬほどの強さを……持っているのです」
意味が分からず、真尋はわずかに眉を寄せた。
「真尋様も聞いていると思いますが、今回、双子様と海斗様、そして、充様は真尋様の下に行くに当たって、地球上での命の痕跡全てを消去しました。それは持ち物だけでなく、存在そのものです。両親の記憶からさえも……」
「承知の上だと聞いている」
「はい。異界の神である私ではなく、日本の神々と皆様が交わされた約束です。ですが……真尋様と雪乃様は、日本の神々が自らその器を作り、魂を入れた特別な存在です。ゆえにお二人は……特に真尋様は異質なほど美しく、そして、他より秀でているのです。私たちは、そういう存在を――『神の愛し子』と呼びます」
「それが今回のことと関係があるのか」
「直接ではありませんが……真奈美様は、真尋様を――神の愛し子を産んだ女性です。彼女もまた、ある種の、神によって選ばれた存在でした。それが今回のことを引き起こす、きっかけとなったのかもしれません」
「母さんに、何かあったのか?」
「……双子様の記憶をすべて無くしたはずの真奈美様は、真尋様を喪い悲しんで、悲しんで……空っぽになったとき、何かが足りないことに気づいたのです。必死に記憶を探り、自分の中の違和感を突き止め、思い出したのです。……この胎に宿った命は、三つであったと」
隣で息を呑む音が聞こえた。
「真奈美様は、自力で……真智様と真咲様という、我が子がいたことを思い出したのです」
何かを言おうと開いた口は、中途半端に息を漏らしただけで、閉じられた。
「存在したものを、存在しなかったことにするような、世界を変えるほどの神の力を押しのけたのは、純粋な――母の愛でした」
雪乃がゆるく首を横に振って両手で口を覆った。
「日本の神々は、動揺しました。神が奪った記憶を、ただの人間が思い出すはずがないのですから。ですが、真奈美様は、確かに真智様と真咲様がいたことを思い出しました。そして、それにつられるようにして、父の真琴様も、双子様の存在を思い出したのです」
「……あの人が?」
母はともかく、父が思い出したことが信じられなくて問い返す。
ティーンクトゥスは「はい」と頷いた。
「私は日本の神に呼ばれて、お二人の下に説明に行きました。真奈美様は取り乱しておいでで、真琴様にも怒鳴られました。子を奪ったのですから、致し方ないことです。ですが、真尋様のお姿を見て、怪我をしているので心配はしておられましたがほっとした様子でした」
「こちらに来ることは、できないのか」
ティーンクトゥスは、痛みに耐えるかのような表情を浮かべて、首を横に振った。
「……私が受け入れることは可能です。ですが、日本側がこれ以上、この短期間で特別な人間を異界に渡すことができないのです。世界の秩序が乱れ、何が起きるかわかりません。修復に修復を重ねている段階で、世界は綻びだらけです。その綻びが裂けて、大きな虚となれば、それは大きな厄災を招くでしょう。すでに……真奈美様と真琴様が思い出してしまったことは、世界にとって小さくも恐ろしい綻びですから」
「それで、そのことと真智と真咲に起きた異変は、どういう関係があるんだ?」
「お二人が赤ちゃんになったのは、お二人の心の奥底にあった願いが真奈美様の願いによって芽吹いたからです。……私の説明が終わった後、お二人が落ち着いたところで日本の神様は、お二人の記憶を改めて封じようとしました。真琴様は成功したのですが……真奈美様にはどうやっても神の力が効かなかったのです。結果、真奈美様は真智様と真咲様のことを覚えたままでいることになりましたが、誰にも話すことはできないよう、あるいは、書いたり、描いたりもできないよう、呪がかけられました。真奈美様も納得してのことです。その代わり……真奈美様は、双子様の持つ記憶の全てを望みました。そして、あの子たちが大好きな兄夫婦の子として、一から生きられるようにと願ったのです」
「おかあさまが?」
雪乃の声はかぼそく震えていた。
「はい。双子様が赤ちゃんになったのは、お二人の母の願いが双子様の願いを後押ししたからなのです。彼らのすべてを構成する十一年分の記憶は、すべて真奈美様に引き継がれました。そして、真奈美様の深い、深い愛に感動した神が……彼女の手元に二人のへその緒を返したのです。真奈美様はそれを……小さな小さな桐箱に入れられた真尋様のへその緒が置かれていた綿と綿の間に隠しました」
ティーンクトゥスがおもむろに立ち上がる。
彼はかがみこんで、彼の足元に咲いていた小さな花を手の平に乗せた。
「これは……お二人への、真奈美様からお預かりした最後のメッセージです」
そう告げて、ティーンクトゥスが花へと息をふきかけた。
ふわりと浮かんだ花はぱらぱらと花びらを散らして、ぱっと広がる。花びらとティーンクトゥスの魔力で作られた輪の中に徐々に母の姿が浮かび上がる。
「……母さん」
最後に見た時より、やせていた。
けれど、こちらをじっと見つめる眼差しは、柔らかく輝いている。
『真尋、あなたが生きていると知って、本当に本当に嬉しかったわ。あなたが突然、いなくなって……とても、とても、悲しかった。……でも生きているなら、たとえ同じ空の下じゃなくても、見ている星が違っても、それでもいいの。……ただ、あなた、無茶をしたそうね』
母の目つきがじとりとしたものになった。
怒るときの雪乃そっくりだ。
『だめよ、あなたには雪ちゃんがいるんだから、悲しませちゃだめよ? 母さん、言ったでしょ。気難しいあなたのお嫁さんなんて、雪ちゃんぐらいしかなってくれないわよって』
揺らぐ映像の中で、母が溌剌と笑う。
なんだか、どうしていいかわからなくなって立ち上がり、母の下へ行く。転びそうになった真尋を雪乃とティーンクトゥスが支えてくれた。
伸ばした手は母をすり抜けて空を掴んだ。
『あんまり夜更かししちゃだめよ。危ないこともよ? 一路くんに迷惑もかけすぎないように。三食ちゃんとごはんを食べて、元気でいてね。そうだ、おまじないをしてあげるわ。あなたにこのおまじないをするのは、久しぶりね。ん、んー、ごほんっ……いたいのいたいの、とんでいけー』
母が細い手をひらひらと振った。
そして、照れくさそうに頬を指で掻く。
『覚えている? 三歳のあなたにこれをやったら「それで、つまりいたみはどこへいくんだ?」って言われたのよ。あの時は困ったものだけど、大事な思い出よ。……それと雪ちゃん』
名前を呼ばれて雪乃が顔を向ける。
『真尋を……そして、真智と真咲をよろしくね。雪ちゃんは優しい良い子だから、私に申し訳ないって思っているかもしれないけど、そんなの必要ないのよ? だってこれまでずっと、ずっと雪ちゃんの愛情が、私の息子たちを三人とも護っていてくれたんだもの。私は最後、あの子たちを傷つけることしかできなかった。あなたがそうしてくれたように、私は……あの子たちを抱きしめてあげればよかった。自分勝手よね。本当にダメな母親だわ。でも、雪ちゃんはそんな私をいつも、あの子たちの母親として尊重してくれていた。だから、私は……私の大事な宝物を託せるの』
微笑んだ母の頬に涙が伝って落ちていく。
同時に自分の頬にも同じものが落ちていくのを感じて、手を伸ばす。やっぱり触れられない手は、ぬくもりのひとつも感じ取れず、母の涙をぬぐうこともできない。
「母、さん、……母さん……っ!」
「おかあさまっ」
『私は大丈夫だから、心配不要よ。真琴さんもいるもの。……真琴さんがね、言ってたの。「日本でもない、イギリスでも、ブラジルでもアフリカでも、どこもでもない世界で……何にも縛られずお前たちが生きているなら、その自由は、きっと、かつて俺も望んだものでもあったから、謳歌してほしい。俺だって、理解は得られなかったがお前たちの幸せを願っていたんだ。今も、これから先も、願っている。……ずっと、ずっと」って。あの人、あなたたちに興味がないわけじゃなかったの。愛し方が分からなかった、不器用な人なのよ。私がもっとちゃんと雪ちゃんが真尋にそうしてくれたように、教えてあげればよかった』
少しだけ寂しそうに目を伏せた母は、すぐにまた顔を上げた。
『真智と真咲のこと、真尋と雪ちゃんだから託したんだって、どうか忘れないでね。二人なら、何からもあの子たちを守って、愛して、育ててくれるって私、確信してるの。あの子たちに私がつけた傷は、責任をもって私が持っていくから。だけど同時に私にはちゃんとあの子たちとの愛しい記憶があるから、これから先も生きていける。……でも本当なら、そうね、ミアとサヴィラっていう孫に会ってみたかったわ』
そういって母は真尋と雪乃をじっと見据える。
彼女には真尋たちの姿は見えていないはずなのに、真尋は確かに母と目が合った。
『真尋、真智、真咲、雪乃。どこにいても何をしていても、私はあなたたちを愛しているわ。私の大事な子どもたち、どうか元気で長生きしてね。私も長寿のギネス記録を目指すつもりで長生きするから。世界は奇跡であふれているんだから、さよならは言わないわ。……真尋、雪ちゃん、またね』
母は、笑った。
あの日、空港で別れた時と同じ、溌剌として明るい、真尋がもっともよく知る母の笑顔だった。
ふわりとほどけるように花びらが散って、母の姿はあっけなく霧散する。ぬくもりも、かおりも、何も残らなかった。なのに胸の内で、悲しみやさみしさが、もどかしさが、言葉になど到底できない感情が、ぐるぐると渦巻いていた。
雪乃が真尋に抱き着いて、胸に顔をうずめている。震える細い背を掻き抱くように腕を回す。
「……私は、長く、永く生きています。人々の営みを眺め、見守り、ここまできました。その中で、様々な愛情があるのを知りました。愛とは、おかしなものです。それは深く大きく心の中を占めていて、だというのに誰かに注がれ、逆に与えられるのを渇望するものでもありました。なのに簡単に憎しみにも転じ、時に人を狂わました。母の愛もまた然り。すべてが美しかったわけでも、綺麗なわけでもありませんでした。ですが……真奈美様の愛はきっと、きっと……お二人を、そして、真智様と真咲様を未来永劫、護っていてくださるでしょう。たとえ生きる世界が違っても、愛は変わらぬのです」
ティーンクトゥスの声は穏やかで優しかった。
真尋は、無性に真智と真咲を抱きしたくなった。あの小さな、小さな二人を抱きしめてキスをして、愛していると伝えたかった。
「そろそろ、双子様の夜中のミルクのお時間です……私もちょっとじわじわと限界が」
顔を上げれば、真尋と雪乃はすでに半透明になっていた。足元はもう消えかかっている。
「ティーンクトゥス様……ありがとう、お義母様のことだけじゃなくて、全部、ぜんぶ」
「いえ、私のほうこそあまりお役に立てなくて、もっと何かできることがあればよかったのですが……」
「あの子たちが健康で元気なら十分だ。……一応確認だが、雪乃や海斗、園田には体の変化に伴う影響はないんだな?」
「ご安心ください。大丈夫です。今回は本当に、色々な条件が運良く重なった上の、私からしても奇跡としか言いようのない出来事ですので!」
ティーンクトゥスは、ぶんぶんと首がもげそうなほど頷いた。
「ティーンさん、あまり無茶をしないでね」
そういって雪乃が微笑むと同時にふわりと消えた。
先に戻ったのだろう。何回経験してもあまりなれない。
「ティーンクトゥス、今回のこと、雪乃たちを俺の下に連れてきてくれたこと、母さんのこと、ありがとう。心から感謝している」
ティーンクトゥスは真尋の言葉に照れくさそうに頬を掻いて、変な笑い声を漏らした。
「だが、それはそれとして、前回の……お前とザラームの顔が同じだったこと、世界に干渉していた云々は何か分かったのか?」
「それが……その……さっぱり」
真尋は不機嫌を隠しもせずに舌打ちをした。
ティーンクトゥスが秒で土下座を決める。
「す、すみません!! さっぱりと……さっぱりと分からず!! 私の記憶が捻じ曲げられているなんて、前代未聞でして!!」
「前代未聞を未聞のままにしておくな! 何らかの手立てを講じて、原因究明を続けろ!」
「は、はいぃぃ! あ、あの、でもですね……一つだけわかっていることが、ありまして、真尋様と一路様が転生してきた時、それと同時に、ザラームは生まれたような、そうでないような。私の記憶の異変は、そこから始まっているかもしれないような気がします!」
「不確定要素が多すぎる! それは分かったとは言わん!」
「す、すみませぇん!」
「あれは、未知の魔法を使う存在だ。神であるお前ですら制御できないはずのインサニアを紛い物とはいえ操るんだ。お前の世界を揺るがすほどの存在かもしれないんだ、もっときっちり調べておけ、いいな」
「は、はい!! わかりましたぁぁ!!」
ごり押しの土下座姿を最後に真尋の意識は、一気に現実へと引き戻されたのだった。
雪乃は、視界に広がる娘の寝顔に、戻ってきたのだと気づいて、その額にキスをして体を起こす。
ミアの向こうの夫はまだ眠っている。雪乃のほうが先に帰ってきて、真尋はまだティーンクトゥスと何か、話をしているのかもしれない。
雪乃はミアを起こさないように、そっと体を起こして足をベッドから降ろす。サイドボードに置かれているろうそくに火をともせば、部屋の中がふわりと明るくなる。布団の上に広げられていたショールを肩にかけて立ち上がり、ベビーベッドへと歩み寄る。
小さな双子はすやすやと眠っている。だが、覚醒は近いのだろう。瞼がぴくぴくしている。ティーンクトゥスが言っていた通り、もうすぐ夜中のミルクの時間だ。
心は凪いでいるのに、感情が荒れ狂っているような不思議な感覚だった。
衣擦れの音がして、振り返る。
案の定、真尋が起き上がっていた。
「あなた」
小声で声をかける。振り返った真尋が「ああ」と短く答えた。
だが、続けて何かを言おうとしたらしい夫は、ぴたりと動きを止めた。銀に蒼の混じる目が彼の固定されたままの腕に向けられる。
「……どうしたの? あなた?」
真尋が布団を跳ね上げるようにして立ち上がった。思わず駆け寄ろうとして雪乃は息をのむ。
真尋は腕をつるしていた三角巾を外し、ギプスを何らかの魔法を使って切り込みを入れて外してしまった。それだけではない。リハビリもまだで動かないはずの右手は当たり前のように動いて、彼はするすると自分の寝間着のボタンを外した。
その体を覆いていた包帯がほどかれ、ガーゼが落とされて雪乃は思わず駆け寄るも、すぐに足が止まる。
「……うそ」
真尋の左の脇腹には、ポチの攻撃で負った大きな裂傷があった。
魔獣につけられた傷は一向にふさがらず、治癒術師たちが縫合魔法を何度もかけなおし、最近ようやくかさぶたが落ち着いてきたところだった。
だが、そこにはもううっすらと赤く、傷跡だけが残っていた。
雪乃は彼に駆け寄り、真尋にズボンを脱ぐように言って他の傷も確認する。こめかみにあった傷も右脇の傷も太ももやふくらはぎの傷もうっすらと赤い痕だけが残り、しぶとく残っていた痣にいたってはきれいさっぱり消えていた。
それに怪我のせいで食事がままならず、痩せていたはずの夫の体はもとに戻っている。
「治っている、な」
真尋がズボンをはきなおし、ミアに布団をかけなおす雪乃を振り返って言った。
「……もしかしてティーンクトゥス様が治してくれたのかしら?」
「いや、俺たちを呼び出すだけで精一杯の上、そんな話は一つもしていない」
さすがの夫も困惑しているようだった。
雪乃は、ふと思い当たった可能性に「まさか」と声を漏らした。真尋が怪訝そうに雪乃を見る。
「お義母様、じゃないかしら、あなたの怪我を治してくれたのは」
「母さんが? ……まさかあの『いたいのいたいのとんでいけ』か? 母さんは普通の人間だぞ?」
ありえない、と夫の顔には書いてあった。
だが、雪乃にはそうとしか思えなかった。
「だって、お義母様が言っていたじゃない。世界は奇跡であふれてるって……これが奇跡じゃなかったらなんて言うの?」
雪乃の言葉に真尋は、自分の右手に視線を落とし握ったり、開いたりを繰り返す。
さらに雪乃が言いつのろうとしたとき、ベビーベッドから「ふにゃぁ」と泣き声が聞こえ、夫婦で慌ててかけよる。
ベッドの中では、ふにゃふにゃと双子が手足を動かしながら泣いていて、ミルクをねだっている。
「真尋さん、できそう?」
「ああ。問題ない」
そういって真尋が左側に寝ていた真智を抱き上げた。左腕で真智を抱えた彼にアイテムボックスから取り出したミルクを渡す。眠る前に作って、アイテムボックスに入れておけばそのまま使えるのだ。アイテムボックスの存在には感謝しきりだ。
ベッドに腰かけ、ミルクを上げ始めた真尋の隣に雪乃も真咲を抱いて座る。真咲も口元に乳首を運んであげれば、すぐにごくごくとミルクを飲み始めた。
「二人がミルクを飲み終えたら……すぐにブランレトゥのクロードに手紙を出す」
「確か、商業ギルドのギルドマスターさんだったかしら?」
「ああ。君たちはまだギルドカードがないだろう? 海斗と園田は知らんが、君と双子はミアやサヴィと同じで、商業ギルドで住民タイプのギルドカードを発行してもらわなければと、思っていたんだ。俺や一路は冒険者タイプだからな。君は冒険には出ないだろう?」
「ええ。そうだけど……この子達は、どう登録するの?」
「君が産んだことにして登録できないか、クロードに相談する。俺が故郷を出た後に妊娠が発覚して追いかけてきたことにすればいい。君はそれでもいいか?」
「もちろん。でも、ジョシュアさんたちには? みんな、二人が大きかったことは覚えているわ」
「……そこは俺がこう……いい感じに説明する。大体は『だって真尋だからな』で片づけてくれるから、その辺は大丈夫だろう。君たちのことを知っているのが、そもそも信用のおける人間だけだ。箝口令を敷くのはそこまで難しくないはずだ」
真尋はそう言って、哺乳瓶の角度を少し変えて中身を確認する。
「よく飲むな。いいことだ」
こっそり、真尋が赤ちゃん言葉を使えば面白いのに、と思ってしまったのは内緒だ。
真咲へ視線を落とすと、目が合った。雪乃が微笑むとゆっくりと瞬きをして、また一生懸命ミルクを飲む。
真咲は大人しくて、真智は活動的で、正反対の性格をしていたけれど、どちらも優しい子だった。雪乃の体をいつも案じてくれて、お手伝いも率先してやってくれた。真尋と違って、将来的には料理だって洗濯だってお手の物だっただろう。真智はサッカーに係わる仕事がしたいと言っていて、真咲は通訳か翻訳家になりたいと言っていた。
雪乃が熱を出したときは、ずっとそばにいて心配してくれた。母の日には毎年、カーネーションをくれた。二人が怪我をしてしまった日は、雪乃はつきっきりでそばにいたし、悪夢を見て二人が泣いた夜は真尋と一緒に眠った。五歳くらいのころ、雪乃が真尋の恋人で、実の姉ではないと知って泣かれたこともあった。真尋に「ゆきちゃんをおよめさんにして」と二人が念を押して、真尋が笑いながら「もちろん」と応えた。(その時、二人は後で『おにいちゃんがいやならぼくたちでもいいよ』と言ってくれた。真尋は盛大に拗ねた)数年後、入籍した時には「雪ちゃんが僕らの本当のお姉ちゃんになった」と誰よりも喜んでくれた。
真咲の顔が歪んで、頬を伝って落ちたそれが真咲の服に落ちた。
「二人が、無事で嬉しいのに……さみしいわ……っ」
「……ああ」
真尋の返事も何かが詰まったようにくぐもっていた。
十一年。ずっと、ずっとそばにいて、共に過ごして、たくさんの思い出を作ってきた。
嬉しかったことも、幸せだったことも、悲しかったことも、辛かったことも、困ったことも、全部、全部、雪乃は覚えている。
「お義母様にとって、誰にも話せないのに二人の記憶があること、それは辛いことかもしれないけれど……」
「母さんが、自ら望んだことだ」
「ええ、そうね。そうだったわ……なら、お義母様のこれからを支えるものに、きっと、なってくれると信じてもいいかしら」
「ああ」
ぼたぼたと涙がおちて、真咲の頬を濡らした。
真咲がもういらない、と乳首を口から出し、雪乃は哺乳瓶を傍らに置いて、小さな体を縦に抱いてげっぷを促すために背を撫でる。
肩に感じるぬくもりある重さが、せつなくて、何よりも愛おしかった。
けぷっとげっぷの音が聞こえて、雪乃は真咲を抱きなおす。真咲は、じっと雪乃を見つめている。横をみれば、同じくミルクを終えた真智が真尋を見上げて、あーうーと声を出して、手を伸ばしていた。
真尋が片腕で真智を抱き、雪乃の肩を抱き寄せた。双子の距離が近くなる。
「あなたの、あなたたちの…………お母さん、に……なってもいいかしら」
「俺が、父親でも、いいだろうか?」
「うー、あー」
「ああー」
にこっと真咲と真智が笑う。
可愛い笑顔がにじんでよく見えない。ぺちゃんこの小さな鼻に自分の鼻を摺り寄せ、額にキスをする。
つよく、強く抱きしめたいのに、この小さな体にはそれができない。
「お義母様、おかあさま……っ」
真咲を柔く抱きしめたまま、雪乃は大好きだったもう一人の母をすがるように呼んだ。真尋の腕の力が強くなり、頭上で彼が鼻をすする音がした。雪乃の髪に彼の唇が寄せられて、そこから吐き出された息は熱く震えていた。
「君の、言う通り……俺の怪我も……母さんが、治してくれたんだろうか……っ」
弱弱しい声で真尋が、そうであってくれと願うように問いかけてくる。
「そうよ……そうに違いないわ、だって……優しいおかあさまだもの」
「あーあー」
真咲の小さな手が雪乃の髪を引っ張る。
「ふっ、大丈夫よ、ありがとう、真咲」
雪乃は首を動かして、真尋にキスをして彼から離れて立ち上がる。
眠たそうにし始めた真咲を抱いたまま、ゆらゆらと揺れながら子守唄を口ずさむ。真尋もベッドに座ったまま、雪乃の歌に合わせて体を揺らしている。
寝つきの良い双子は、まもなくすやすやと眠り始めた。先に真尋が真智をベッドに降ろし、その隣に真咲をおろす。一瞬、ぐずった二人のお腹を両手でとんとんして、子守唄をくちずさめば、今度こそ二人は夢の世界に旅立っていく。
「おやすみ、私の可愛いこどもたち」
声をかけ、布団をかけなおす。
「……雪乃」
呼ばれて振り返れば、真尋が腕を広げていた。雪乃は迷わず、その腕の中に飛び込んだ。
痛いくらいに強く抱きしめられて、雪乃も負けないくらいに強く抱きしめ返した。真尋の鼓動が、どくん、どくんと力強く鳴っている。
「ずっと、こうやって君を抱きしめたかった」
「私も、抱きしめてほしかったの。いま、すごく幸せよ」
顔を上げれば、キスが降ってくる。
息継ぎもさせてもらえないようなキスに雪乃は一生懸命応える。それでも限界はやってきて、真尋の背をたたけば、ようやく彼の唇が離れていく。
「ん、もう……ミアがいるのに……」
「朝まで起きない」
じとりと睨むが自分勝手な夫はそう言って雪乃の額や目じり、頬にキスをしてくる。
「四人の子どものお父さんとお母さんになったわね」
「ああ。…………真智と真咲には、パパ呼びを推奨してもいいだろうか」
「ふふっ、あなたったら昔からそればっかり。サヴィラに頼むのはやめなさいね。もうパパって年じゃないわ」
「……善処する」
「これから大変だろうけれど、あなたとだから頑張れるわ。それに頼りになる長男と長女もいるし、みんなも」
「おむつ替えは、俺も教えてもらわないとな。布は使ったことがないから」
「ふふっ、そうね」
触れ合うだけのキスをじゃれあうようにして、雪乃と真尋はしばらく抱きしめあっていた。
言葉にできない寂しさやもどかしさを埋め合うように、ただそうして寄り添いながら、雪乃は心から義母の――真奈美の幸福と平穏を願ったのだった。
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