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本編
第十一話 喧嘩を買い損ねた男
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「お知り合い、ですか?」
一路が躊躇いがちにジョシュアに尋ねる。
「あ、ああ。俺の元冒険者仲間で、俺の」
ジョシュアはレイと呼んだ青年を見つめたまま頷いた。
黄緑色の瞳が真尋からジョシュアへと移り、彼を一瞥する。
「誰かと思えば、臆病風のジョシュじゃないか」
はっと乾ききった嘲笑が男の薄い唇から零れた。その目には明らかな侮蔑の色が宿っている。
「久しぶりだな、レイ。半年ぶりか……お前が町に帰って来た時以来だ。マスターに聞いたが、その……最近は随分と無茶をしているらしいな。お前の実力は分かっているが、そうはいっても」
「黙れ。裏切者」
氷のような冷たい声がジョシュアの言葉を遮って、切り捨てた。
一路がジョシュアから離れてこちらにやって来る。袖を引かれて目だけを向ければ、大丈夫?と小さな声が問いかけて来て、真尋は返事の代わりにその頭をぽんと撫でて返した。
「裏切者? 俺は一度だってお前を裏切ったことなんて……」
「現在進行形でお前の裏切りの証拠はそこにいる」
黄緑の瞳が再び真尋に向けられた。一路が困惑を隠しきれずに真尋とレイを交互に見つめている。
「なぁジョシュ、俺の苦しみの全てを知るお前がどうして……神父なんて言う下賤で卑劣な生き物と一緒にいるんだ?」
「それは先ほどまで、ジョシュアが俺達の職業について知らなかったからだ」
真尋の答えにジョシュアが、弾かれたように顔を上げた。真尋は、彼に目も向けずに腕を組んでカウンターに寄り掛かり、目の前で怒気をまき散らす男を見据える。
「先ほど、ここでステータスを見てジョシュアは初めて俺と連れの職業が神父と神父見習いであると知った。お前とジョシュアがどういう関係かは知らんがな」
「ティナ」
レイは真尋と一路の存在をまるで空気か何かのように無視して、真尋たちの背後にいるティナに声を掛けた。エルフの女性の腕の中で固まっていたティナが、びくりと体を揺らして顔を上げた。サファイアブルーの瞳がレイの黄緑色の瞳を映す。
「あ、あの……っ」
「今すぐにこのゴミクズ共の冒険者登録を無効にしろ。クイリーン、お前でも良い」
ひゅっとティナが息を飲む音が聞こえた。
ティナを抱き締めているエルフの女性、クイリーンが美しい顔に険を浮かべてレイを睨み返す。
「レイ、幾ら貴方がAランクの冒険者であったとしても、いいえ、例えこの国王様であったとしたって、そんな横暴はまかり通りません」
「ぼ、冒険者になるのに職業は問われません。アルゲンテウス領ブランレトゥ支部の当冒険者ギルドは、アーテル王国の国民全てに平等に扉を開く、ば、場所ですっ」
ティナが震えながらも真っ直ぐに答える。レイは、それが望んだ答えではなかったからか黄緑色の瞳を眇めて、舌打ちをした。ティナが「ひゃっ」と悲鳴を上げてクイリーンの腕の中で飛び跳ねる。
「レイ、冒険者ギルドは平等に扉を開き、冒険者たちは実力のみでのし上がっていく世界です。職業が神父であろうが、王子であろうが、乞食であろうがギルドが冒険者になることを拒むことは出来ません」
ジョシュアが一路の肩を叩き、抱えていたジョンを一路に任せる。ジョンは一路に抱き着いて彼の背中に隠れた。ジョシュアは、息子の頭をあやす様に撫でると真尋とレイの間に立って、レイに向き合う。
「クイリーンとティナの言う通りだ。お前はマヒロとイチロのことを何も知らないだろう? 二人の人柄は俺が保証する。だから一度、頭を冷やすんだ」
それでもジョシュアの肩越しにこちらを睨み付けるその黄緑の瞳から激情が消えることは無い。
あの目の奥に揺れるのは、彼の感情を支配しているのは、憎しみだ。それもぞっとするほど深く強く根付いた憎しみが真尋に向けられている。
「神だか何だかに祈りを捧げて金を巻き上げてるような下世話で強欲な詐欺師が冒険者になれるものか。俺達は命を賭けて金を稼いで日々の糧にするんだ。神父なんて言う家畜の餌にもならねぇような下賤な奴が誇り高き冒険者になれる権利があると本気で思っているのか?」
理性でもって抑え込まれている感情は、しかし彼の言葉の端々に浮かび上がっている。
真尋は、彼の言葉を吟味にしながら周囲に視線を巡らせる。困惑している者、面白がっている者、怯えている者、そして、レイと同じような感情を宿して真尋たちを睨み付けている者。ギルド内に溢れている感情はあまり真尋たちにとって気持ちの良いものでは無かった。
「レイ、マヒロを馬鹿にするのはよせ。お前がこのギルドの最高ランクの冒険者という自覚があるなら、それに相応しい振る舞いを心掛けるんだ」
「黙れ。臆病者が俺に指図するな」
ジョシュアの忠告にレイが唸る。一触即発の雰囲気にびりびりと空気が震えている。
真尋は、ふむ、と顎を撫でて一路を振り返る。その目は、絶対にダメと言っている。一路は少し融通の利かない所がある。それにまだ真尋は何をするともしないとも言っていないというのに。
「愛だ恋だと馬鹿げた理由で表舞台を下りた臆病者が俺に指図すんじゃねぇ」
「少なくとも俺は、その愛の為に剣を握っていた。愛の為に生きていることを恥じたことは、これまで一度としてない」
きっぱりと言い切ったジョシュアは、間違いなく良い男だった。彼の妻は、本当に男を見る目がある。
「はっ、愛! そんなもん幻だ。臆病者が縋るにゃあ、都合が良いかもしれないけどな。愛なんて、飯の足しにもなりやしねえ」
「飯の足しにはならずとも、美味い飯には必要な調味料になるんだ、愛というものはな」
真尋は、寄り掛かっていたカウンターから体を離し、一歩ずつゆっくりと前に出る。
「さて、そこの馬鹿。言いたいことは言い切ったか?」
がしりと腕を掴まれて振り返れば、一路が目だけで大人しくしてと訴えて来る。
「あ、あのー、僕らこれで失礼しますんで! もう本当にお騒がせしました!」
真尋の腕を掴んだまま一路がフェードアウトしようとする。一瞬、逆らおうかと思ったが後々、説教と小言のフルコースは勘弁だと素直に従うことにした。一路に背中を押されたジョンが父親に駆け寄り、ジョシュアがジョンを抱き上げる。
「おい、まだギルドカードを返上していないだろう、クソ神父」
折角、此方が折れてやったというのに向こうが食いついて来るのでは致し方ない、と真尋は足を止めた。一路が「駄目だよ」と念を押してくる。
「初対面の人間に、そんな風に呼ばれる理由も、貰ったばかりのギルドカードを返上する理由も無い。それと、」
くるりと振り返り、男の前に歩み出てその黄緑色の瞳を覗き込んだ。
「俺達をあの強欲で神を愛する心すら忘れた愚か極まりないパトリア教の連中と一緒にするな。虫唾が走る」
すっと細めた眼差しに、一瞬だけ黄緑の瞳が気圧された。だが、すぐにそれは憎しみの炎にかき消されて真尋を威圧する。
「あ?」
「あー、見知らぬ冒険者さん。真尋くん、今、不機嫌になり始めてるからあまり逆らわない方がいいですよ」
未だに真尋の腕を掴んで離すまいとしている一路が、心優しい助言をするがレイは、愚かにもそれを一笑に付す。
「はっ、こんななよっちい若造を俺が恐れる理由が無い」
「はっ、礼儀も弁えない愚者の分際で……俺やこいつの言葉が理解できないなんてトロールの方が頭が良いんじゃないか?」
トロールとは、アーテル王国の深い森や洞窟、谷に棲む巨人型の魔獣だ。非常に狂暴で力が強いが、総じて頭が悪いらしい。それも悲劇的な程。ボックスに入っていた魔獣図鑑に載っていたのだ。
レイのこめかみが引きつって、歯ぎしりが聞こえた。そのまま奥歯が砕けてしまえばいいのにと真尋は目を眇める。ぐいっと胸倉をつかまれて、息が詰まって眉を寄せる。ジョシュアが「レイ!」と叫ぶように呼んだが、その手が力を緩めることは無い。
「……人の命を弄んで、己の私腹を肥やすことだけに心血を注ぐ詐欺師紛いの神父を従えたお山の大将気取りの神様にお願いしたらどうだ? 助けて下さい、と」
「生憎とあのバ……あのお方に縋るほど、俺はお前を恐れてはいないし、今のお前如きに俺が負ける訳が無い。それと……俺達の大切な神を馬鹿にするなら、それ相応の痛みは覚悟してもらうことになるが?」
「ははっ、馬鹿馬鹿しい強がりと過信は寿命を縮めるぞ。神なんて物は、総じて強欲で冷酷で愚かだ。だってそうだろう? 王都の神父共は、神の名の下に命に値段を付ける。神の御心に従っているからこそだと嘯いて、貴族や裕福な商人の命だけを命と認め、それ以外は全て神にとって、その辺に転がる石ころと同じだと宣うんだ。それが神の思し召しだと、助けを乞う手を切り捨てることが神の意志だと……御大層なことじゃないかっ、まるであいつらそのものが神のようだ! お前らの言う神もどうせ同じだろう? お前らとあいつらで何が違うと言うんだ?」
愛したいのだと泣いた愚かな神様の姿が脳裏に浮かび上がった。無力な自分を恥じて、己の命と引き換えにしても尚、息づく命を、愛しい我が子を護ろうとした馬鹿で愚かな神様の姿が真っ白な記憶の中に浮かび上がる。
尤も身勝手だったのは、彼を忘れた彼の我が子らだったというのに、襤褸切れのような服を纏い、ガリガリに痩せ細って、憐れな姿に落とされたというのにあの愚かな神の口からは一言だって我が子を責める言葉なんて出てこなかった。彼が嘆いたのは、我が子らを愛してやれなくなる自分、彼が本当に恐れたのは我が子らに忘れられることだ。
「俺達の親愛なる神が、愚かであることは認めよう。だが、我が神にとってアーテル王国に息づく命は全て、等しく愛しい我が子だ」
胸倉を掴むレイの手首に自分の手を掛ける。
「お前は王都の下劣な神父共が、真に神を敬い、愛しているとでも言うのか?」
骨が軋む程の力を込めてその手首を握りしめた。レイは痛みに眉を寄せたがそれでも尚、真尋を離そうとはしない。
一体、彼はどうしてここまで神父を憎むのだろうか。彼は神父に、神に、何を奪われたのだろうか。
「俺に神父らしく御高説垂れるのか? 愛を説くか? 希望を説くか? そうして迷える憐れな者たちを救おうとでもいうのか? 傲慢な詐欺師風情がっ」
レイの目に蔑みが浮かんで、その薄い唇が嘲りに歪む。
真尋は、急速に自身の中の怒りが萎んでいくのを感じた。同時に目の前の男が手負いの獣のように憐れに想えた。
「……俺に当たり散らしたところで、お前が奪われたものは、戻らない」
瞬間、突き飛ばされてたたらを踏んだ。踏ん張り切れなかった一路がその場に尻餅をついたが、真尋はそれを気にするより先に腰のロザリオを外して、振り下ろされ大剣を受け止めた。ガキンッと金属のぶつかり合う音がギルドに響いて、一瞬で喧騒が蘇り、悲鳴が響き渡って逃げ惑う人々がギルドの外へと飛び出していく。
「黙れ! 知った風な口を利くな!」
レイが激高したままに叫ぶ。片腕一本では流石に馬鹿力で大剣を押し付けられては不利だな、と冷静に判断し、真尋は、レイの一瞬の隙をついて大剣を蹴り上げ、一路の首根っこを掴んで壁の方へと投げた。
「また投げる!!」
そう文句を垂れながらも一路は、くるりと猫のように一回転してカウンターの上に着地した。それを横目に真尋は、一度、レイと距離を取るために再び振り下ろされた剣を押し返して力を殺し、更に押される力を利用して後ろへと飛んだ。
ゆっくりと立ち上がり銀に輝くロザリオを構える。レイは、大剣を片手で構え直す。彼の足元で不自然に風が起こり始めている。激昂する感情に魔力が引っ張られでもしているのだろうか。灰色の長い髪がぶわりと揺れる。
ギルド内は再び静まり返り、レイの乱れた息遣いが聞こえる。
「…………殺す」
レイの低い呟きが落とされた。
真尋を射抜くように鋭く尖る黒い瞳は、背筋がゾッとするほどの憎悪が宿っている。
「剣を、抜いたな?」
静まり返ったギルド内に、真尋の声が落ちる。
レイの怒りに狂った荒い呼吸が耳障りなほどに響いている。
「剣を、自らの意思で、お前は抜いたな?」
真尋はもう一度、確かめるように問うた。
「それがどうした! 怖気付きやがったか?」
レイが醜い笑みを浮かべて首を傾げる。
「今更命が惜しくなったか? 助けてほしいのか? 俺にこの剣を収めて欲しくば地べたにはいつくばって許しを乞え」
「……神に赦しを乞うのは、お前。そして、その咎を赦すのは神父である俺の役目だ」
真尋は、美しく微笑んで見せた。ロザリオの中の真尋の魔力が、吹き抜けの天井から降る光を反射して輝いている。
「はっ、その棒きれが剣の代わりか?」
レイが鼻で嗤う。
しかし、真尋はレイの言葉には答えない。
「冒険者ギルド規定、第十八条、ランク上位のものがランク下位の者に武器を向けること、これを禁ずる」
「……あ?」
「尚、規定を破った者は如何なる理由が有ろうとも処罰の対象となる。さっきもらったばかりの冊子にそう書いてあったぞ、馬鹿者」
「そこの神父君の言う通りよぉ、レイちゃん」
聞こえて来たのは、おっさんの裏声だった。振り返り、真尋は得体の知れない生物を視界に映すことになった。視界の端で一路が水に落ちた猫みたいにびっくりして固まっている。
関係者以外立ち入り禁止の札が掛けられたドアの向こうから現れたのは二メートル近い身長のガタイの良い男だった。そう間違いなく男だ。そのごつい体つきも、何もかも。だがふんだんにレースのあしらわれたフリフリのピンクのドレスを着ているのだ。くすんだブロンドは真っ赤なリボンでツインテールに結ばれていて、その精悍な顔立ちには丁寧な愛らしい厚化粧が施されているのだが、どうにもこうにも似あっていない。手に持ったピンク色のふさふさした飾りがついた扇を弄びながらそいつは近づいて来る。
「ま、真尋くん! あれ何!?」
我に返った一路が怯えた様子でこちらに駆け寄って来て、真尋の背後に隠れる。
「俺も初めて見たな。あんな魔獣までいるとは……おい、ジョシュア、あの化けも」
「マ、マ、マヒロ! あれはギルドマスターのアンナだ! 断じて魔獣でも化け物でもない!」
がしっと慌てて突っ込んできたジョシュアに手で口を塞がれる。だが、真尋が言いたかったことをジョシュアが代弁したおかげでそのピンクのふりふりの化け物がこちらを振り返ってにこっと笑った。
「ジョシュー、あんたの本音は分かったわ。後で面貸しなさいねぇ」
「今日も大変、お美しいです!」
ジョシュアが青い顔で叫ぶと化け物、もとい、アンナは「まあいいわ」と興味を大剣を構えたままのレイへと視線を移す。
「レイ。しまいなさい」
「マスター、俺はっ!」
「しまいなさいって言っているの」
別段、声を張り上げた訳でも、鋭く尖らせた訳でもない。駄々をこねる子供に言い聞かせるように告げられた言葉は、しかし、逆らうことを許さない威厳を纏っている。
レイが蒼い顔で固まる。
「レイ、最近の貴方の我が儘は随分と酷いものだったみたいねぇ。あんまりうちの可愛い受付嬢やスタッフちゃん達を困らせないでちょうだい? 今日明日中にとっ捕まえて話をしようと思っていたのだけど、わざわざこうして来てくれて助かったわ。でも、こんな騒ぎを起こして……冒険者になったばかりのEランクの子に対して、Aランクである貴方が剣を抜くなんて、」
パチン、と扇が閉じられた。
バサバサの睫毛の下の碧い瞳がすっと細められた。こんな化け物みたいななりをしているくせに、その目はどこまでも澄んで真っ直ぐだ。強い、と肌に突き刺さるようなオーラがある。
「――恥を知れ、クソガキが」
低く唸るような声は腹の底に響いた。彼の周りにいた冒険者たちが、ひっ、と情けない声を上げて後ずさる。レイの手から大剣が落ちて、ゴトンと音を立てた。
「……来なさい、レイちゃん」
うふふっと笑った化け物は、くるりと踵を返してギルドの再びドアの向こうに消えていく。銀髪のびしっとした身形のエルフの女性がレイに声をかけた。レイは、大剣を拾い上げるとのろのろと立ち上がり、女性に促されるようにしてギルドの奥へと消えて行った。
真尋は、一路に顔を向ける。胡乱な目をした親友は、少々、お怒りの様だ。別にあの男を倒した訳ではないのだから、大目に見てくれても良い筈だと思うのだが。
「真尋くん、まだ目立ったことはしないって約束したよね?」
「あいつが俺に絡んで来たんだから不可抗力、引いては、正当防衛だ。そもそも俺はお前を投げた以外は手を出していない」
「手は出さなくても足は出したでしょ! Aランクの冒険者を足蹴にするなんて! まったくもう! 素直に謝ればいいでしょ! 適当にへこへこしとけばあんな馬鹿はすぐにどっかいったよ!」
無垢な顔してこいつも大概だな、と真尋は思う。
「……俺のプライドに反する」
真尋は盛大に顔を顰めた。真尋は別段、謝罪というものをしない人間ではない。自分が悪い場合は年上相手だろうが年下相手だろうが素直に頭を下げる。ただあんなトロールみたいな礼儀も礼節も弁えず、初対面の人間に喧嘩を吹っかけて来るようなウスラトンカチの馬鹿に頭を下げるなんて、想像しただけで吐き気がする。
「ジョシュア」
何か言おうとした一路を遮り、真尋は隣に立つ男を見上げる。
「隠していたつもりはなかったが、言わなかった俺達に非がある。案内はここまででいい。迷惑をかけたな、すまなかった」
「こんなことになって、すみませんでした」
真尋が頭を下げれば、一路も同じように深々と頭を下げた。
ジョシュアにはとても世話になったというのに、こんな形で迷惑をかけてしまっては本当に申し訳ないと思う。あの馬鹿に下げる頭は無いが、ジョシュアにはいくら下げても足りないような気がする。
真尋はしばらくその姿勢を保った後、ゆっくりと体を起こし、ポケットから小袋を取り出した。ジョシュアがくれた盗賊共の賞金の自分たちの取り分だ。
「迷惑料だ、受け取ってくれ。ここでお別れだ」
セピア色の瞳は、瞠目したまま真尋を見つめていた。
だが、ジョシュアが口を開くより先にジョンが真尋に抱き着いて来る。
「やだ! だってマヒロお兄ちゃんは、何も悪くないもん! それに市場通りに行くって約束したでしょ!」
そう叫んだジョンが真尋の腹に顔を押しつける。ひっくひっくとしゃくりあげる声が漏れ聞こえて来た。一路が眉を下げて、ジョンの金茶の髪を撫でる。真尋は、小さな背をとんとんとあやす様に叩いてやるが、ジョンは離れようとしない。
「……確かに、驚きはしたが、」
くしゃりと髪を撫でられて顔を上げれば、苦笑を浮かべるジョシュアと目が合った。
「でも、マヒロもイチロも王都の奴らとは違うんだろ? 俺は二人の言葉を信じるよ、それに俺の自慢の息子が悪人なんかに懐くもんか。だから迷惑料なんていらないさ」
そう言って、ジョシュアは優しく笑った。
「ジョシュアさん……でも、」
一路の言葉の先を紡がせず、ジョシュアは彼の頭も撫でて黙らせた。
「レイのことは、俺にも非があるし、俺だって元Aランクだって言ってなかった。だからお相子だ、お相子」
ジョシュアは冗談交じりに告げて肩を竦めた。絶対にこの金は受け取ってもらえないだろうと、真尋はそれをポケットに戻す。
「素晴らしい友を得られた幸福を神に感謝したい気分だ」
真尋は、ふっと笑ってジョンを抱き上げた。ぎゅうと首にしがみつかれて少し苦しかった。
「ジョン、約束を破ろうとしてすまなかった。後で、必ず市場通りとやらに行こう」
「うんっ」
ジョンが、ぐずぐずと鼻を啜り、しゃくりあげながら頷いた。真尋は、優しく優しくジョンの頭を撫でて、小さな体を抱えなおした。
そしてジョシュアを振り返る。
「よし、ジョシュア、和解もしたし行くぞ。武器屋に案内してくれ」
「……マヒロは本当にマイペースだな」
ジョシュアが苦笑交じりに言った。
「はぁ……全くこの人は」
一路が額に手を当ててため息を零す。
ギルド内は、ざわめきを取り戻してはいるが、居心地が良い訳ではない。向けられる視線は先ほどよりも増えたし、怯えも羨望も蔑みも様々なものが入り混じっている。
「そういえば、ティナちゃん、大丈夫?」
一路が顔を上げる。ティナは、蒼い顔でまだ震えていたが、健気にこくりと頷いた。
「その小さな形であの馬鹿でかいトロールにきちんと立ち向かった姿は格好良かったぞ」
真尋がそう声をかけるとティナは、ぱちりと青い目を瞬かせた。
一路がポケットをあさるとここへ来る途中で彼が買ったキャンディを二つ取り出した。
「ほら、手を出して。甘いものは心を落ち着けてくれるよ。頑張ったティナちゃんにはご褒美。お姉さんにもね」
ティナが出した手のひらにピンクと青の紙に包まれたキャンディを二粒乗せて、一路がにこっと笑う。途端に青かったティナの顔が一瞬で赤くなり、クイリーンが生暖かく、そして、面白がるような目でティナを見ていた。
「あ、ありがとう、ございます……っ」
消え入りそうな声でお礼を言うティナに一路は「どういたしまして」とにこやかに笑っていた。
「……マヒロ、ちゃんと友達は躾とかなきゃ駄目だぞ」
「無自覚は治し様がない」
真尋はきっぱりと言い切った。
「ところでティナは幾つなんだ? あいつ、年下相手に接しているが」
「ティナはまだ十六歳だった筈だから問題はないと思うが……イチロは鈍いのか?」
「ものすごく」
真尋の答えにジョシュアが、憐れむ様な目を真っ赤な顔であわあわしているティナに向けたのだった。
「おいひー!」
「おいしいねぇ」
カフェのテラス席でジョンと一路が、ケーキを食べて嬉しそうに顔を綻ばせている。ジョシュアは、ブランデーの効いたパウンドケーキ、真尋は紅茶を飲みながら、どっちが子供か分からない彼らを眺めていた。
「マヒロ、本当にいいのか? お前も何か食べればいいじゃないか」
「俺は甘いものは好かないから、大丈夫だ」
真尋が肩をすくめて返せば、ジョシュアは、そうか、と納得してくれる。
ギルドを後にし、武器屋に行こうとしたのだが、ジョシュアが「先に話をしよう」と言って近くにあったカフェに来たのだ。
「まずは、あいつの非礼を詫びる……正直、あいつの気持ちは分かるが、それでも初対面の二人にあんな態度をとるなんてどう考えても非常識だった。本当にすまない」
ジョシュアが唐突に頭を下げた。
「ま、待ってください! ジョシュアさんが謝るべきことじゃないですよ!」
一路が慌てて顔を上げるように促した。真尋が「そうだ」と頷けば、ジョシュアはゆっくりと顔を上げた。そしてしばらく何事かを思案すると漸く口を開いた。
「……ところで、神父っていうのは、本当なのか?」
「ああ。一路は見習いだが間違いなく、俺と一路は神に仕えるものだ」
真尋は、ソーサーの上にカップを戻して、テーブルの上に置く。
「だが、パトリア教ではない、と?」
「そうだ。あの糞みたいな連中と一緒にはしないでくれ」
とりあえず会ったことも無いが、嫌われていることは間違いなさそうなのでそう言っておく。それにティーンクトゥスの現状を見れば、パトリア教が正当な教会だとは言い難かった。
ジョシュアは、困ったような顔で顎を撫でて、パウンドケーキをひとかけ、口に放り込んだ。
「……パトリア教の本部は、王都にある……というか、王都にしか教会と呼ばれる類のものはないんだ。精霊を祀る神殿は各地にあるが、それとはまた異なるだろう? 遠い昔、つっても千年以上も前だけど、その頃は各地に教会って呼ばれるものはあったらしい。この町にも一つ、残ってる。そこには、数十年前まで神父だかなんだかがいたらしいが、興味が無かったんで詳しいことは知らないけどな」
「……そうか。俺達は……ティーンクトゥス教という一派の者だが、聞いたことはあるか?」
ジョシュアは、暫し考え込んだあと、ない、と首を横に振った。
「ティーンクトゥスという、神を祀っている。ただそれだけだ」
「それだけ? 教会だから治療をしたり、悪魔祓いをしたりするんじゃないのか?」
「俺達は、祈るだけだ。祈り、この愛おしく愚かな神の話を紡ぎ、集まってくれた人々と共に祈る。時にその人々の罪に耳を傾け、神の代わりに赦しを与え、そして再び共に祈ってもらうことしか出来ない。神父は万能ではない。ただの人間が浅ましくも神に仕え、神の代わりに赦しを与える。たったそれだけの者だ」
真尋の言葉を肯定するように一路も、うんうん、と頷いた。
ジョシュアは、そうか、と頷くと顔を俯けた。僅かに見える口元は固く引き結ばれていて、どこかもどかしげな様子で息を一つ吐き出した。
「……あの男は、神父に何を奪われたんだ?」
真尋の問いにジョシュアは、唇を噛み締めて俯いた。
「俺とレイは、八つ年が離れていて、俺にとってレイは弟みたいなものなんだ。あいつが生まれた時から知ってるんだからな」
似たようなことをソニアがジョシュアに対して言っていたのを思い出す。
「……レイは、この町の英雄だ。二十歳の時に史上最年少でAランクの冒険者に昇格したんだ」
ジョシュアが淡々と語りだす。
「レイは、この町の貧民街の出でな。貧民街は、この町の南側、青の3地区にある。高い壁所為で日が当たらないから、昼でも薄暗い場所だ。レイの母親はソフィというんだ。ソニアの親友だった。ソニアの二つ下、俺の六つ上の……笑顔の絶えない優しく素敵な人だった。ソフィは貧民街で娼婦をしていて、ソフィがレイを産んだのは、彼女が十四歳の時だった。彼女の職業柄父親は分からなかったが、ソフィはレイにありったけの愛情を注いで育てていた。ソニアも足繁く通って、レイの面倒を見ていたし、俺も時折、子守を任された。やんちゃな奴でな、目を離せば外に行ってしまって、剣術のスキル持ちだったから、俺はしょっちゅうあいつと木の棒きれを交えて遊んだんだ」
ジョシュアが懐かしむ様にセピア色の目を細めた。
「レイは明るくて元気な母親想いの男の子だった。六歳の頃から街角で靴磨きの仕事をして母親を支えていたんだ。そして、レイが八つの時、ソフィが結婚した。夫となったアンディは、腕の良い大工だった。太陽みたいに温かくて懐の広い良い男だったんだ。ソフィは、結婚を機に娼婦を辞めて、親子は貧民街を出て青の2地区の住宅街に移り住んだ。そして、同じ年に、娘が生まれた。ミモザという名前で母親によく似た可愛い娘だった。レイもアンディもメロメロで、暇さえあればミモザを構っていたよ。アンディなんか仕事に行くのも忘れて、よくソフィに怒られていた」
ははっとジョシュアが声を上げて笑った。
真尋にもそれは心当たりがある。真尋には双子の弟達がいる。年が離れているから、本当に可愛くて可愛くて、どれだけ眺めていても飽きない存在だった。
「でも……幸せはあまり長くは続かなかった。結婚した三年後、アンディが現場で起きた事故で死んでしまったんだ。後輩を庇って倒れて来た鉄材の下敷きになってしまったんだ。アンディが幾らか金を遺してくれたから家は売らずに済んだが……ソフィは酒場で働きだし、レイは学校を辞めて再び街角で靴を磨くようになった。悪いことは重なる物で、ミモザは肺に病を患いベッドにいることが増えた。二人は身を粉にしてミモザの為に昼も夜も無く働いた。ソフィは昼は食堂で、夜は酒場で働き、レイは靴磨きの他に夜の酒場の裏方で延々、野菜の皮をむいて皿を洗って片付けていた。俺はその当時、既に冒険者としてサンドロとパーティーを組んでいた。だから、薬草採取のクエストを優先して少しでもミモザの薬が安くなるように手伝うことくらいしか出来なかった。……なぁ、マヒロ、人を助けるというのは本当に難しいんだ。冒険者で実家に住んでた俺は、クエスト報酬を全部、二人に渡してしまうことだって出来たけど、それを二人が喜ばないことも、それをしてしまうことで俺達の関係が壊れてしまうことも分かっていたんだ。彼らを助けるためにさせてもらえることなんて、本当に少なかった」
ジョシュアが、何とも言えない哀しい笑みを浮かべて俯いた。
「……そうしているうちに、今度はソフィが体を壊した。酒場で倒れたんだ。ソフィは、あっと言う間に逝ってしまった。まだ十三歳のレイと五歳のミモザを遺して、アンディの元に逝ってしまったんだ。当時、既にサンドロと結婚して、二児の母でもあったソニアは、山猫亭を切り盛りしていて、レイとミモザを引き取ろうとしたんだが、レイがそれを拒否した。ソニアが嫌いだったとか、そういうことじゃなくて、レイは、幸せな想い出の残る家に残ることを選んだんだ。レイは再びがむしゃらに働いて、十五になるとすぐに冒険者になった。手当たり次第に該当ランクのクエストを受けて、十八になると一気にCランクに駆けあがった。レイが成人してすぐに俺とサンドロ、レイでパーティーを組んだ。高額報酬のクエストばかりを選んだよ。ミモザの薬代は馬鹿にならなくて、いつもあいつを言い包めて報酬はクエスト報酬を山分け、素材は全部あいつにやった。ソニアやプリシラ、マスターの嫁さんなんかがクエストで長期で家を留守にするレイの代わりにミモザの面倒を見てくれた。ミモザも十三くらいになると大分、落ち着いて、一時は家のことを細々とだが出来るようになるまで回復したんだ」
ふっと小さな笑みが零された。
「あの頃のレイは、子どもの頃と同じようによく笑っていたし、ミモザだって楽しそうだった。俺やサンドロのことも兄のように慕ってくれていたし、ソニアをもう一人の母親のように頼りにしていた。俺とサンドロが家族の為に冒険者を引退した後も変わりなく慕ってくれた。だがな……今から四年前、レイが二十六、ミモザが十六になった時だ。ミモザが風邪を引いた。俺達だったら飯食って寝れば治るようなもんだったろう。でも、ミモザにとっては、それが命取りだった。風邪がだんだんと悪化して、ミモザはベッドから起きられなくなった。もうどうにもならない、あと三月の命だと治癒術師に言われた。それでもレイは諦めず、ありとあらゆる薬を試したんだ。だが、ミモザが回復することは無くレイは、全財産を手に王都に旅に出た。俺達夫婦とサンドロ夫婦やギルドマスターやその嫁、近所の連中や治癒術師も皆で止めたが、追い詰められたあいつは、もう神に縋るしかないと、町を飛び出して行ったんだ。ここから王都までは三週間ほどかかるがあいつは、馬を次々に潰しながらたった二週間で王都に行った」
「……もしかして、パトリア教に助けを求めに?」
真尋の問いにジョシュアは、ああ、と力なく頷いた。
「パトリア教には、神に力を与えられたという治癒術師の神父がいて、神の名の下に不治の病を治すなんてこともしているらしい。本来、光属性の治癒魔法は、怪我には効果があるが病気の類には効かないだろ? だが神より力を与えられたその治癒術師の神父だけは万能の力を持って、怪我も病も治すのだと……俺達はお目にかかったことはないがこんな遠くまで聞こえる位だから、有名だと言って差し支えないだろう。ただその治療は、祈祷というらしいんだが、その祈祷を受けるには莫大な金が必要だった。それに多くの人々が同じように順番を待っているから、順番を早めるには更に金が必要だった。レイは、冒険者として稼ぎに稼いだ全財産を差し出して、妹を治してくれと頼んだ。だが、パトリア教は、貧民街出の一介の冒険者でしかないレイを相手にしなかった。パトリア教が扉を開いているのは、お貴族様や裕福な商人だけだ。パトリア教の神父は、レイから相談料だとその財産を奪い、追い出した」
「そんなっ」
一路が思わず声を漏らした。
「だが、レイが失意の果てにここへ戻るより早く……ミモザは、たった一人で死んでしまった。治癒術師とあいつの代わりに面倒を見ていたマスターの嫁さんが席を外した、ほんのひと時の間に、ミモザはたった一人で永の旅に出ちまったんだ」
ジョシュアが悲痛な面持ちで項垂れた。机の上に投げ出されていた右手がきつく握りしめられている。
「……レイはミモザが亡くなった二日後に帰って来た。俺が魔鳩を飛ばしたから報せを受け取って文字通りすぐに飛んで帰って来たんだろう。一週間だ……多分、碌に眠ることも飯を食うことも無く只管に走って、走って、そうやって帰って来たあいつは、ボロボロで……あいつが、ミモザの亡骸を見た時の顔が、今でも忘れられない……っ」
ジョシュアが息を吐く様な弱々しい声で言った。震えるその声は、悲愴が溢れている。ジョシュアが左手で自身の顔を覆う。
「絶望とは、あのような顔をしているのだと、初めて知ったんだ。俺だって冒険者だったんだ。死はいつだってすぐ近くにあったし、親しかった仲間を喪ってしまったこともある。でも、そうじゃない、あいつは……生きる意味を、希望を、願いを、あいつを生かしていた総てを喪ってしまったんだ」
真尋は、首に掛けたロケットを服の上から握りしめる。一路の琥珀色の瞳がそれを見つけて、長い睫毛が逃げるように伏せられた。
「……葬儀を終えた一か月後、レイは忽然と姿を消した。総出で探したが、あいつの行方はついぞ分からなかった。……ギルドで書いた申請書があるだろう? あれはサブカードと呼ばれてギルドに保管される。複雑な魔術が掛けられていて、登録者が死ぬと真っ黒くなるんだ。冒険者は危険と隣り合わせだからな……俺達は、あいつのサブカードが白いままであることに縋るほか無かった」
ふっと零れた笑みは、彼らしくない自嘲に彩られていてジョンが、父のその様子を不安そうにのぞき込んだ。ジョンを視界に入れたジョシュアは、ぽんぽんと息子の頭を撫でることでその視界から自身の無様な顔を隠す。
「あいつが戻って来たのは、ほんの半年前のことだ。失踪してからの約三年間どこへ行っていたのか、何をしていたのか、と誰が問いかけても、あいつは答えなかった。あの時、もっとあいつを気にかけてやれば、もっとあいつの内側に踏み込んでいてやれば、結果は違ったのかもしれない。誰もがあいつは、ミモザの死を受け止めて、乗り越えたのだとそう思っていたが……レイは、まるで生き急いでいるかのように危険なクエストばかりを受けるようになった。俺は何度か会おうと試みたが、レイは一度も会ってくれなかった。あいつにとって俺はもう……」
ジョシュアは、息子の頭から手を離して、すっかり冷めてしまっただろう紅茶のカップを手に取った。
「……だから、僕らが冒険者になることが許せなかったんですね」
「いいや、あいつの場合、教会に関する全てが赦せないんだ。憎んでいると言ってもいい」
一路は口を開くが、言うべき言葉が見つからなかったのか唇を結んで哀しげに眉を下げた。
真尋は、カップを口へと運び、紅茶を喉に流し込む。鼻に抜ける茶葉の香りにつられるように空を見上げれば、青く澄んだ空が広がっている。
「それでも冒険者としての誇りをあいつは蔑ろにして、Eランクのマヒロに対して、Aランクのあいつが剣を抜いたんだ。そのことに対してはきちんと罰を受けるべきだ」
「ジョシュア、お前はあの時、俺達に何と言ってあの馬鹿を紹介しようとした?」
あの時?とジョシュアが首を傾げる。
「知り合いかと尋ねた一路にお前が答えた時だ。生憎、あの馬鹿に遮られたがな」
ジョシュアは、少し悩んだあと、ああ、と声を上げた。
「俺の元冒険者仲間で、俺の弟みたいなものだって」
真尋は、もう一口、紅茶を口に運ぶ。
「だから、彼は……ジョシュアさんの言葉を遮ったんですね」
一路が、穏やかな微笑みを湛えて告げる。ジョシュアが首を傾げて一路に顔を向けた。
「彼は、貴方がその言葉を口にすると分かっていたんだと思います。あの時の彼はとても攻撃的でした。それは僕や真尋くんに対してのものだったけれどAランクの誇り高い冒険者である彼が自分で自分の感情を制御できないほどに。でもなんだかそれは、僕には手負いの獣のようにも見えたんです。だから、ジョシュアさんの「弟」という優しさに甘えてしまわない様に意地を張っていたんじゃないでしょうか?」
「裏切者という言葉は、信頼している者にしか向けられない言葉なんだ。信じていたからこそ、裏切られたと感じるのだからな。あいつにとってもジョシュアはきっと、変わらず……兄なんだろう」
俯いたジョシュアが、小さく鼻を啜った音が聞こえたが、真尋も一路も聞こえないふりをした。
「……この町の英雄である彼は、少し疲れているのかもしれないです。やりきれない思いや、憎しみを抱えたままでいるのは、とてもとても辛いことだと僕は思うから」
「なあ、ジョシュア。あいつは本当に……教会や神父を最も憎んでいるのか?」
ジョシュアが真尋を振り返る。鼻が少しだけ赤くなっている。その顔には、困惑がありありと浮かんでいて、真尋の言葉の意味を考えあぐねている様だった。
「話を聞く限り、あいつが憎しみを抱くものは山ほどあるだろう。腐った教会だけじゃない。自分たちを置いて死んだ父や母も治してくれなかった治癒術師も目を離したマスターの嫁も、本気で引き留めてくれなかったマスターもそして、家族と共に幸せそうなお前やサンドロ。悲劇に同情するだけで何も言わない町民……憎しみは生まれやすく、それでいて、消えにくい厄介な感情だ。その中で、あいつが……あいつ自身が最も憎んだものは、あいつ自身だったのかもしれないし、或は……ミモザだったのかもしれない」
「あいつがミモザを憎むなんて有り得ない。だって、あいつは本当にっ」
真尋は目だけでジョシュアの言葉を制し、カップをテーブルの上に戻した。
「人の心には四つの窓がある。この窓を通して人々はコミュニケーションを図ると言われている」
真尋は、ジョシュアに向かって指を四本立てて見せる。
「俺の故郷のジョセフとハリーという学者が考えだしたことだが……人の心には四つの窓があるんだそうだ」
「窓?」
親子が首を傾げる顔が同じで思わず頬が緩む。ジョンがシャツを捲って自分の胸を確認する姿に一路が、くすくすと可笑しそうに笑った。
「勿論、実際にある訳じゃない。あくまで物の例えだ。窓の向こうにあるのは、感情や思想といった心の中身だと思ってくれ。一つ目の窓は、開かれた窓。自分自身も他者もその窓の中身が何か分かっている。恐らくこの窓を通して、最も他者と交流を深めていくんだ」
「成程……」
「二つ目の窓は、隠された窓。自分は知っているが、他者は中身を知らない窓だ。誰にも人に見せられない感情や心はあるだろう?」
ジョシュアがこくりと頷いた。
「三つ目の窓は、見えない窓。自分は中身を知らないけれど、他者は中身を知っている窓だ」
「……確かに、他人から客観的に見える部分を本人が知らないことはよくあるな。短所なんかは特にそうだもんな」
ジョシュアの言葉に真尋は、ああ、と頷く。
「そして、最後……四つ目の窓の名は、未知の窓」
ぴんと立てた人差し指をジョシュアに突きつける。
「自分自身も他者も誰も中身を知らない窓だ。そこに何があるのか、何が眠っているのか、どんな感情なのか分からない。それはもしかしたら自分が意図的に隠して忘れたモノもあるかも知れない」
ジョシュアが自分の胸に手を当てて視線をそこに向ける。真尋は、指を引っ込めて空を見上げる。青く青く晴れた空は、どこまでも遠い。
「その窓の中身は一生知ることはないかもしれない。もしかしたら、今すぐ知ることになるかもしれない。未知の窓の向こうには、希望もあれば、絶望もあるだろう。だが俺にだって一路にだってジョンにもソニアやサンドロにだって、大胆に言えば王様にだって平等に有る窓だ。恐れることはない」
真尋は、空を見上げたまま告げる。
「あの男の中で最も大きく居場所を取っているのは、きっと隠された窓だ。あいつは多分、素直になれないんだな。素直になって救われる気も無いんだ。救われることすら、あいつにとっては苦しいことなのかもしれない。罰せられることは、あいつにとって安堵であるかもしれない。俺にとってあいつは今日、出会ったばかりの不躾な馬鹿だから、何とも言えないが……それでも、ジョシュアの話やあいつの振る舞いを見て思うのは、あいつはきっと……赦されることを望んでいないんだ。何に対してかまでは、分からないがな」
さぁぁと吹く初夏の風が真尋の髪を揺らす。
青い空にいつの間にか現れた白い雲が、ゆっくりと流れて行く。
空に居るあの馬鹿は、きっと愛を持って、憎しみを赦すだろう。自分をあんな姿にたらしめた民を最後の最後まで愛して、結局、見捨てることが出来ない馬鹿なのだから。
「さて、休憩は終わりだ。武器屋に行こう」
真尋は、伝票を手に立ち上がる。
「マヒロ、ここは俺が」
「さっき、迷惑料を受け取らなかっただろう? ここは俺に払わせておけ」
そう告げて、近くに居た店員に声をかけた。ジョシュアがお礼を言う声に手を上げて返し、案内された入口付近のカウンターで精算を済ませて、外の通りへと出る。
メインストリートほど、大きな店がある訳でもないし、道幅も広くはないがそれでもこの町は賑やかだった。
「こっちだ、マヒロ」
ジョシュアに声を掛けられて彼の背に続く。ジョンはジョシュアの右肩に座って、きょろきょろと通りを眺めている。
「……そういえば、マスターの嫁って言っていたが、あの化け物に嫁が居るのか? それとも先代か?」
「マヒロ、間違ってもアンナの前でそれ言うなよ? 殺されるぞ?」
ジョシュアが胡乱な目をして振り返る。
「アンナは、元A+ランクの冒険者で現アルゲンテウス領ブランレトゥ支部の冒険者ギルドのギルドマスターだ。昔はあんなんじゃなかったんだが、冒険者を引退すると同時にああなった。一緒にいた銀髪の綺麗な人がアンナの嫁兼秘書のハーフエルフのアイリーンだ。愛称はキャサリンだ」
「何の関連性も無いな」
「アンナも本名は、イオアネスという」
「アしかあってないじゃないですか」
「細かいことは気にするな。あんなんだがこの町の実力者の一人だ」
それは分からないでも無い、と真尋は、レイを降伏させたアンナの迫力と真っ直ぐな碧い目を思い出した。
歩いて行く内にだんだんと通りは様子が変わって来る。専門的な店が並ぶようになり、鉄を打つ音やミシンの音、木槌の音、様々な何かを作る音や親方たちの怒鳴り声、弟子たちの威勢の良い声が響く小さな広場はあっという間に通り過ぎ、また工房の並ぶ通りに入る。
「ここは、ブランレトゥの黄の地区。職人街だ。職人は全て職人ギルドに守られている。冒険者が冒険者ギルドに守られ、商人が商業ギルドに守られているようにな。ここには様々な分野の職人がここに店と工房を構えている。ドレスとか若い娘向けの靴や雑貨なんかは通りの店に卸していて、工房だけって場合もあるが……とりあえず、ここに来れば一通りのものが揃うぞ」
ジョシュアは、時折かけられる声に手を上げて返しながら、通りを進んでいく。流石の真尋もきょろきょろと辺りを見回す。何に使うのか分からない金型や得体の知れない石の塊などが店の軒先に並んでいる。薬材屋という看板がかけられた怪しい雰囲気の店先には河童の手みたいな緑色のそれが瓶詰にされて並んでいた。
「着いたぞ、ここだ」
ジョシュアが足を止めて、その店を指差した。
「……武器屋・鉄槌」
「つ、強そうだね」
真尋が読み上げれば、一路が緊張した面持ちで言った。
石造りの店は、軒先に店名に相応しい鉄槌がぶら下がっている。
「おやっさん、いるか?」
そう言いながら、ジョシュアが店の中に入って行く。真尋と一路もそれに続いて、武器屋へと足を踏みいれた。
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謎の青年は色んなものを抱えておりました。
次は、武器屋に参ります!
次回も楽しんで頂ければ、幸いです!
一路が躊躇いがちにジョシュアに尋ねる。
「あ、ああ。俺の元冒険者仲間で、俺の」
ジョシュアはレイと呼んだ青年を見つめたまま頷いた。
黄緑色の瞳が真尋からジョシュアへと移り、彼を一瞥する。
「誰かと思えば、臆病風のジョシュじゃないか」
はっと乾ききった嘲笑が男の薄い唇から零れた。その目には明らかな侮蔑の色が宿っている。
「久しぶりだな、レイ。半年ぶりか……お前が町に帰って来た時以来だ。マスターに聞いたが、その……最近は随分と無茶をしているらしいな。お前の実力は分かっているが、そうはいっても」
「黙れ。裏切者」
氷のような冷たい声がジョシュアの言葉を遮って、切り捨てた。
一路がジョシュアから離れてこちらにやって来る。袖を引かれて目だけを向ければ、大丈夫?と小さな声が問いかけて来て、真尋は返事の代わりにその頭をぽんと撫でて返した。
「裏切者? 俺は一度だってお前を裏切ったことなんて……」
「現在進行形でお前の裏切りの証拠はそこにいる」
黄緑の瞳が再び真尋に向けられた。一路が困惑を隠しきれずに真尋とレイを交互に見つめている。
「なぁジョシュ、俺の苦しみの全てを知るお前がどうして……神父なんて言う下賤で卑劣な生き物と一緒にいるんだ?」
「それは先ほどまで、ジョシュアが俺達の職業について知らなかったからだ」
真尋の答えにジョシュアが、弾かれたように顔を上げた。真尋は、彼に目も向けずに腕を組んでカウンターに寄り掛かり、目の前で怒気をまき散らす男を見据える。
「先ほど、ここでステータスを見てジョシュアは初めて俺と連れの職業が神父と神父見習いであると知った。お前とジョシュアがどういう関係かは知らんがな」
「ティナ」
レイは真尋と一路の存在をまるで空気か何かのように無視して、真尋たちの背後にいるティナに声を掛けた。エルフの女性の腕の中で固まっていたティナが、びくりと体を揺らして顔を上げた。サファイアブルーの瞳がレイの黄緑色の瞳を映す。
「あ、あの……っ」
「今すぐにこのゴミクズ共の冒険者登録を無効にしろ。クイリーン、お前でも良い」
ひゅっとティナが息を飲む音が聞こえた。
ティナを抱き締めているエルフの女性、クイリーンが美しい顔に険を浮かべてレイを睨み返す。
「レイ、幾ら貴方がAランクの冒険者であったとしても、いいえ、例えこの国王様であったとしたって、そんな横暴はまかり通りません」
「ぼ、冒険者になるのに職業は問われません。アルゲンテウス領ブランレトゥ支部の当冒険者ギルドは、アーテル王国の国民全てに平等に扉を開く、ば、場所ですっ」
ティナが震えながらも真っ直ぐに答える。レイは、それが望んだ答えではなかったからか黄緑色の瞳を眇めて、舌打ちをした。ティナが「ひゃっ」と悲鳴を上げてクイリーンの腕の中で飛び跳ねる。
「レイ、冒険者ギルドは平等に扉を開き、冒険者たちは実力のみでのし上がっていく世界です。職業が神父であろうが、王子であろうが、乞食であろうがギルドが冒険者になることを拒むことは出来ません」
ジョシュアが一路の肩を叩き、抱えていたジョンを一路に任せる。ジョンは一路に抱き着いて彼の背中に隠れた。ジョシュアは、息子の頭をあやす様に撫でると真尋とレイの間に立って、レイに向き合う。
「クイリーンとティナの言う通りだ。お前はマヒロとイチロのことを何も知らないだろう? 二人の人柄は俺が保証する。だから一度、頭を冷やすんだ」
それでもジョシュアの肩越しにこちらを睨み付けるその黄緑の瞳から激情が消えることは無い。
あの目の奥に揺れるのは、彼の感情を支配しているのは、憎しみだ。それもぞっとするほど深く強く根付いた憎しみが真尋に向けられている。
「神だか何だかに祈りを捧げて金を巻き上げてるような下世話で強欲な詐欺師が冒険者になれるものか。俺達は命を賭けて金を稼いで日々の糧にするんだ。神父なんて言う家畜の餌にもならねぇような下賤な奴が誇り高き冒険者になれる権利があると本気で思っているのか?」
理性でもって抑え込まれている感情は、しかし彼の言葉の端々に浮かび上がっている。
真尋は、彼の言葉を吟味にしながら周囲に視線を巡らせる。困惑している者、面白がっている者、怯えている者、そして、レイと同じような感情を宿して真尋たちを睨み付けている者。ギルド内に溢れている感情はあまり真尋たちにとって気持ちの良いものでは無かった。
「レイ、マヒロを馬鹿にするのはよせ。お前がこのギルドの最高ランクの冒険者という自覚があるなら、それに相応しい振る舞いを心掛けるんだ」
「黙れ。臆病者が俺に指図するな」
ジョシュアの忠告にレイが唸る。一触即発の雰囲気にびりびりと空気が震えている。
真尋は、ふむ、と顎を撫でて一路を振り返る。その目は、絶対にダメと言っている。一路は少し融通の利かない所がある。それにまだ真尋は何をするともしないとも言っていないというのに。
「愛だ恋だと馬鹿げた理由で表舞台を下りた臆病者が俺に指図すんじゃねぇ」
「少なくとも俺は、その愛の為に剣を握っていた。愛の為に生きていることを恥じたことは、これまで一度としてない」
きっぱりと言い切ったジョシュアは、間違いなく良い男だった。彼の妻は、本当に男を見る目がある。
「はっ、愛! そんなもん幻だ。臆病者が縋るにゃあ、都合が良いかもしれないけどな。愛なんて、飯の足しにもなりやしねえ」
「飯の足しにはならずとも、美味い飯には必要な調味料になるんだ、愛というものはな」
真尋は、寄り掛かっていたカウンターから体を離し、一歩ずつゆっくりと前に出る。
「さて、そこの馬鹿。言いたいことは言い切ったか?」
がしりと腕を掴まれて振り返れば、一路が目だけで大人しくしてと訴えて来る。
「あ、あのー、僕らこれで失礼しますんで! もう本当にお騒がせしました!」
真尋の腕を掴んだまま一路がフェードアウトしようとする。一瞬、逆らおうかと思ったが後々、説教と小言のフルコースは勘弁だと素直に従うことにした。一路に背中を押されたジョンが父親に駆け寄り、ジョシュアがジョンを抱き上げる。
「おい、まだギルドカードを返上していないだろう、クソ神父」
折角、此方が折れてやったというのに向こうが食いついて来るのでは致し方ない、と真尋は足を止めた。一路が「駄目だよ」と念を押してくる。
「初対面の人間に、そんな風に呼ばれる理由も、貰ったばかりのギルドカードを返上する理由も無い。それと、」
くるりと振り返り、男の前に歩み出てその黄緑色の瞳を覗き込んだ。
「俺達をあの強欲で神を愛する心すら忘れた愚か極まりないパトリア教の連中と一緒にするな。虫唾が走る」
すっと細めた眼差しに、一瞬だけ黄緑の瞳が気圧された。だが、すぐにそれは憎しみの炎にかき消されて真尋を威圧する。
「あ?」
「あー、見知らぬ冒険者さん。真尋くん、今、不機嫌になり始めてるからあまり逆らわない方がいいですよ」
未だに真尋の腕を掴んで離すまいとしている一路が、心優しい助言をするがレイは、愚かにもそれを一笑に付す。
「はっ、こんななよっちい若造を俺が恐れる理由が無い」
「はっ、礼儀も弁えない愚者の分際で……俺やこいつの言葉が理解できないなんてトロールの方が頭が良いんじゃないか?」
トロールとは、アーテル王国の深い森や洞窟、谷に棲む巨人型の魔獣だ。非常に狂暴で力が強いが、総じて頭が悪いらしい。それも悲劇的な程。ボックスに入っていた魔獣図鑑に載っていたのだ。
レイのこめかみが引きつって、歯ぎしりが聞こえた。そのまま奥歯が砕けてしまえばいいのにと真尋は目を眇める。ぐいっと胸倉をつかまれて、息が詰まって眉を寄せる。ジョシュアが「レイ!」と叫ぶように呼んだが、その手が力を緩めることは無い。
「……人の命を弄んで、己の私腹を肥やすことだけに心血を注ぐ詐欺師紛いの神父を従えたお山の大将気取りの神様にお願いしたらどうだ? 助けて下さい、と」
「生憎とあのバ……あのお方に縋るほど、俺はお前を恐れてはいないし、今のお前如きに俺が負ける訳が無い。それと……俺達の大切な神を馬鹿にするなら、それ相応の痛みは覚悟してもらうことになるが?」
「ははっ、馬鹿馬鹿しい強がりと過信は寿命を縮めるぞ。神なんて物は、総じて強欲で冷酷で愚かだ。だってそうだろう? 王都の神父共は、神の名の下に命に値段を付ける。神の御心に従っているからこそだと嘯いて、貴族や裕福な商人の命だけを命と認め、それ以外は全て神にとって、その辺に転がる石ころと同じだと宣うんだ。それが神の思し召しだと、助けを乞う手を切り捨てることが神の意志だと……御大層なことじゃないかっ、まるであいつらそのものが神のようだ! お前らの言う神もどうせ同じだろう? お前らとあいつらで何が違うと言うんだ?」
愛したいのだと泣いた愚かな神様の姿が脳裏に浮かび上がった。無力な自分を恥じて、己の命と引き換えにしても尚、息づく命を、愛しい我が子を護ろうとした馬鹿で愚かな神様の姿が真っ白な記憶の中に浮かび上がる。
尤も身勝手だったのは、彼を忘れた彼の我が子らだったというのに、襤褸切れのような服を纏い、ガリガリに痩せ細って、憐れな姿に落とされたというのにあの愚かな神の口からは一言だって我が子を責める言葉なんて出てこなかった。彼が嘆いたのは、我が子らを愛してやれなくなる自分、彼が本当に恐れたのは我が子らに忘れられることだ。
「俺達の親愛なる神が、愚かであることは認めよう。だが、我が神にとってアーテル王国に息づく命は全て、等しく愛しい我が子だ」
胸倉を掴むレイの手首に自分の手を掛ける。
「お前は王都の下劣な神父共が、真に神を敬い、愛しているとでも言うのか?」
骨が軋む程の力を込めてその手首を握りしめた。レイは痛みに眉を寄せたがそれでも尚、真尋を離そうとはしない。
一体、彼はどうしてここまで神父を憎むのだろうか。彼は神父に、神に、何を奪われたのだろうか。
「俺に神父らしく御高説垂れるのか? 愛を説くか? 希望を説くか? そうして迷える憐れな者たちを救おうとでもいうのか? 傲慢な詐欺師風情がっ」
レイの目に蔑みが浮かんで、その薄い唇が嘲りに歪む。
真尋は、急速に自身の中の怒りが萎んでいくのを感じた。同時に目の前の男が手負いの獣のように憐れに想えた。
「……俺に当たり散らしたところで、お前が奪われたものは、戻らない」
瞬間、突き飛ばされてたたらを踏んだ。踏ん張り切れなかった一路がその場に尻餅をついたが、真尋はそれを気にするより先に腰のロザリオを外して、振り下ろされ大剣を受け止めた。ガキンッと金属のぶつかり合う音がギルドに響いて、一瞬で喧騒が蘇り、悲鳴が響き渡って逃げ惑う人々がギルドの外へと飛び出していく。
「黙れ! 知った風な口を利くな!」
レイが激高したままに叫ぶ。片腕一本では流石に馬鹿力で大剣を押し付けられては不利だな、と冷静に判断し、真尋は、レイの一瞬の隙をついて大剣を蹴り上げ、一路の首根っこを掴んで壁の方へと投げた。
「また投げる!!」
そう文句を垂れながらも一路は、くるりと猫のように一回転してカウンターの上に着地した。それを横目に真尋は、一度、レイと距離を取るために再び振り下ろされた剣を押し返して力を殺し、更に押される力を利用して後ろへと飛んだ。
ゆっくりと立ち上がり銀に輝くロザリオを構える。レイは、大剣を片手で構え直す。彼の足元で不自然に風が起こり始めている。激昂する感情に魔力が引っ張られでもしているのだろうか。灰色の長い髪がぶわりと揺れる。
ギルド内は再び静まり返り、レイの乱れた息遣いが聞こえる。
「…………殺す」
レイの低い呟きが落とされた。
真尋を射抜くように鋭く尖る黒い瞳は、背筋がゾッとするほどの憎悪が宿っている。
「剣を、抜いたな?」
静まり返ったギルド内に、真尋の声が落ちる。
レイの怒りに狂った荒い呼吸が耳障りなほどに響いている。
「剣を、自らの意思で、お前は抜いたな?」
真尋はもう一度、確かめるように問うた。
「それがどうした! 怖気付きやがったか?」
レイが醜い笑みを浮かべて首を傾げる。
「今更命が惜しくなったか? 助けてほしいのか? 俺にこの剣を収めて欲しくば地べたにはいつくばって許しを乞え」
「……神に赦しを乞うのは、お前。そして、その咎を赦すのは神父である俺の役目だ」
真尋は、美しく微笑んで見せた。ロザリオの中の真尋の魔力が、吹き抜けの天井から降る光を反射して輝いている。
「はっ、その棒きれが剣の代わりか?」
レイが鼻で嗤う。
しかし、真尋はレイの言葉には答えない。
「冒険者ギルド規定、第十八条、ランク上位のものがランク下位の者に武器を向けること、これを禁ずる」
「……あ?」
「尚、規定を破った者は如何なる理由が有ろうとも処罰の対象となる。さっきもらったばかりの冊子にそう書いてあったぞ、馬鹿者」
「そこの神父君の言う通りよぉ、レイちゃん」
聞こえて来たのは、おっさんの裏声だった。振り返り、真尋は得体の知れない生物を視界に映すことになった。視界の端で一路が水に落ちた猫みたいにびっくりして固まっている。
関係者以外立ち入り禁止の札が掛けられたドアの向こうから現れたのは二メートル近い身長のガタイの良い男だった。そう間違いなく男だ。そのごつい体つきも、何もかも。だがふんだんにレースのあしらわれたフリフリのピンクのドレスを着ているのだ。くすんだブロンドは真っ赤なリボンでツインテールに結ばれていて、その精悍な顔立ちには丁寧な愛らしい厚化粧が施されているのだが、どうにもこうにも似あっていない。手に持ったピンク色のふさふさした飾りがついた扇を弄びながらそいつは近づいて来る。
「ま、真尋くん! あれ何!?」
我に返った一路が怯えた様子でこちらに駆け寄って来て、真尋の背後に隠れる。
「俺も初めて見たな。あんな魔獣までいるとは……おい、ジョシュア、あの化けも」
「マ、マ、マヒロ! あれはギルドマスターのアンナだ! 断じて魔獣でも化け物でもない!」
がしっと慌てて突っ込んできたジョシュアに手で口を塞がれる。だが、真尋が言いたかったことをジョシュアが代弁したおかげでそのピンクのふりふりの化け物がこちらを振り返ってにこっと笑った。
「ジョシュー、あんたの本音は分かったわ。後で面貸しなさいねぇ」
「今日も大変、お美しいです!」
ジョシュアが青い顔で叫ぶと化け物、もとい、アンナは「まあいいわ」と興味を大剣を構えたままのレイへと視線を移す。
「レイ。しまいなさい」
「マスター、俺はっ!」
「しまいなさいって言っているの」
別段、声を張り上げた訳でも、鋭く尖らせた訳でもない。駄々をこねる子供に言い聞かせるように告げられた言葉は、しかし、逆らうことを許さない威厳を纏っている。
レイが蒼い顔で固まる。
「レイ、最近の貴方の我が儘は随分と酷いものだったみたいねぇ。あんまりうちの可愛い受付嬢やスタッフちゃん達を困らせないでちょうだい? 今日明日中にとっ捕まえて話をしようと思っていたのだけど、わざわざこうして来てくれて助かったわ。でも、こんな騒ぎを起こして……冒険者になったばかりのEランクの子に対して、Aランクである貴方が剣を抜くなんて、」
パチン、と扇が閉じられた。
バサバサの睫毛の下の碧い瞳がすっと細められた。こんな化け物みたいななりをしているくせに、その目はどこまでも澄んで真っ直ぐだ。強い、と肌に突き刺さるようなオーラがある。
「――恥を知れ、クソガキが」
低く唸るような声は腹の底に響いた。彼の周りにいた冒険者たちが、ひっ、と情けない声を上げて後ずさる。レイの手から大剣が落ちて、ゴトンと音を立てた。
「……来なさい、レイちゃん」
うふふっと笑った化け物は、くるりと踵を返してギルドの再びドアの向こうに消えていく。銀髪のびしっとした身形のエルフの女性がレイに声をかけた。レイは、大剣を拾い上げるとのろのろと立ち上がり、女性に促されるようにしてギルドの奥へと消えて行った。
真尋は、一路に顔を向ける。胡乱な目をした親友は、少々、お怒りの様だ。別にあの男を倒した訳ではないのだから、大目に見てくれても良い筈だと思うのだが。
「真尋くん、まだ目立ったことはしないって約束したよね?」
「あいつが俺に絡んで来たんだから不可抗力、引いては、正当防衛だ。そもそも俺はお前を投げた以外は手を出していない」
「手は出さなくても足は出したでしょ! Aランクの冒険者を足蹴にするなんて! まったくもう! 素直に謝ればいいでしょ! 適当にへこへこしとけばあんな馬鹿はすぐにどっかいったよ!」
無垢な顔してこいつも大概だな、と真尋は思う。
「……俺のプライドに反する」
真尋は盛大に顔を顰めた。真尋は別段、謝罪というものをしない人間ではない。自分が悪い場合は年上相手だろうが年下相手だろうが素直に頭を下げる。ただあんなトロールみたいな礼儀も礼節も弁えず、初対面の人間に喧嘩を吹っかけて来るようなウスラトンカチの馬鹿に頭を下げるなんて、想像しただけで吐き気がする。
「ジョシュア」
何か言おうとした一路を遮り、真尋は隣に立つ男を見上げる。
「隠していたつもりはなかったが、言わなかった俺達に非がある。案内はここまででいい。迷惑をかけたな、すまなかった」
「こんなことになって、すみませんでした」
真尋が頭を下げれば、一路も同じように深々と頭を下げた。
ジョシュアにはとても世話になったというのに、こんな形で迷惑をかけてしまっては本当に申し訳ないと思う。あの馬鹿に下げる頭は無いが、ジョシュアにはいくら下げても足りないような気がする。
真尋はしばらくその姿勢を保った後、ゆっくりと体を起こし、ポケットから小袋を取り出した。ジョシュアがくれた盗賊共の賞金の自分たちの取り分だ。
「迷惑料だ、受け取ってくれ。ここでお別れだ」
セピア色の瞳は、瞠目したまま真尋を見つめていた。
だが、ジョシュアが口を開くより先にジョンが真尋に抱き着いて来る。
「やだ! だってマヒロお兄ちゃんは、何も悪くないもん! それに市場通りに行くって約束したでしょ!」
そう叫んだジョンが真尋の腹に顔を押しつける。ひっくひっくとしゃくりあげる声が漏れ聞こえて来た。一路が眉を下げて、ジョンの金茶の髪を撫でる。真尋は、小さな背をとんとんとあやす様に叩いてやるが、ジョンは離れようとしない。
「……確かに、驚きはしたが、」
くしゃりと髪を撫でられて顔を上げれば、苦笑を浮かべるジョシュアと目が合った。
「でも、マヒロもイチロも王都の奴らとは違うんだろ? 俺は二人の言葉を信じるよ、それに俺の自慢の息子が悪人なんかに懐くもんか。だから迷惑料なんていらないさ」
そう言って、ジョシュアは優しく笑った。
「ジョシュアさん……でも、」
一路の言葉の先を紡がせず、ジョシュアは彼の頭も撫でて黙らせた。
「レイのことは、俺にも非があるし、俺だって元Aランクだって言ってなかった。だからお相子だ、お相子」
ジョシュアは冗談交じりに告げて肩を竦めた。絶対にこの金は受け取ってもらえないだろうと、真尋はそれをポケットに戻す。
「素晴らしい友を得られた幸福を神に感謝したい気分だ」
真尋は、ふっと笑ってジョンを抱き上げた。ぎゅうと首にしがみつかれて少し苦しかった。
「ジョン、約束を破ろうとしてすまなかった。後で、必ず市場通りとやらに行こう」
「うんっ」
ジョンが、ぐずぐずと鼻を啜り、しゃくりあげながら頷いた。真尋は、優しく優しくジョンの頭を撫でて、小さな体を抱えなおした。
そしてジョシュアを振り返る。
「よし、ジョシュア、和解もしたし行くぞ。武器屋に案内してくれ」
「……マヒロは本当にマイペースだな」
ジョシュアが苦笑交じりに言った。
「はぁ……全くこの人は」
一路が額に手を当ててため息を零す。
ギルド内は、ざわめきを取り戻してはいるが、居心地が良い訳ではない。向けられる視線は先ほどよりも増えたし、怯えも羨望も蔑みも様々なものが入り混じっている。
「そういえば、ティナちゃん、大丈夫?」
一路が顔を上げる。ティナは、蒼い顔でまだ震えていたが、健気にこくりと頷いた。
「その小さな形であの馬鹿でかいトロールにきちんと立ち向かった姿は格好良かったぞ」
真尋がそう声をかけるとティナは、ぱちりと青い目を瞬かせた。
一路がポケットをあさるとここへ来る途中で彼が買ったキャンディを二つ取り出した。
「ほら、手を出して。甘いものは心を落ち着けてくれるよ。頑張ったティナちゃんにはご褒美。お姉さんにもね」
ティナが出した手のひらにピンクと青の紙に包まれたキャンディを二粒乗せて、一路がにこっと笑う。途端に青かったティナの顔が一瞬で赤くなり、クイリーンが生暖かく、そして、面白がるような目でティナを見ていた。
「あ、ありがとう、ございます……っ」
消え入りそうな声でお礼を言うティナに一路は「どういたしまして」とにこやかに笑っていた。
「……マヒロ、ちゃんと友達は躾とかなきゃ駄目だぞ」
「無自覚は治し様がない」
真尋はきっぱりと言い切った。
「ところでティナは幾つなんだ? あいつ、年下相手に接しているが」
「ティナはまだ十六歳だった筈だから問題はないと思うが……イチロは鈍いのか?」
「ものすごく」
真尋の答えにジョシュアが、憐れむ様な目を真っ赤な顔であわあわしているティナに向けたのだった。
「おいひー!」
「おいしいねぇ」
カフェのテラス席でジョンと一路が、ケーキを食べて嬉しそうに顔を綻ばせている。ジョシュアは、ブランデーの効いたパウンドケーキ、真尋は紅茶を飲みながら、どっちが子供か分からない彼らを眺めていた。
「マヒロ、本当にいいのか? お前も何か食べればいいじゃないか」
「俺は甘いものは好かないから、大丈夫だ」
真尋が肩をすくめて返せば、ジョシュアは、そうか、と納得してくれる。
ギルドを後にし、武器屋に行こうとしたのだが、ジョシュアが「先に話をしよう」と言って近くにあったカフェに来たのだ。
「まずは、あいつの非礼を詫びる……正直、あいつの気持ちは分かるが、それでも初対面の二人にあんな態度をとるなんてどう考えても非常識だった。本当にすまない」
ジョシュアが唐突に頭を下げた。
「ま、待ってください! ジョシュアさんが謝るべきことじゃないですよ!」
一路が慌てて顔を上げるように促した。真尋が「そうだ」と頷けば、ジョシュアはゆっくりと顔を上げた。そしてしばらく何事かを思案すると漸く口を開いた。
「……ところで、神父っていうのは、本当なのか?」
「ああ。一路は見習いだが間違いなく、俺と一路は神に仕えるものだ」
真尋は、ソーサーの上にカップを戻して、テーブルの上に置く。
「だが、パトリア教ではない、と?」
「そうだ。あの糞みたいな連中と一緒にはしないでくれ」
とりあえず会ったことも無いが、嫌われていることは間違いなさそうなのでそう言っておく。それにティーンクトゥスの現状を見れば、パトリア教が正当な教会だとは言い難かった。
ジョシュアは、困ったような顔で顎を撫でて、パウンドケーキをひとかけ、口に放り込んだ。
「……パトリア教の本部は、王都にある……というか、王都にしか教会と呼ばれる類のものはないんだ。精霊を祀る神殿は各地にあるが、それとはまた異なるだろう? 遠い昔、つっても千年以上も前だけど、その頃は各地に教会って呼ばれるものはあったらしい。この町にも一つ、残ってる。そこには、数十年前まで神父だかなんだかがいたらしいが、興味が無かったんで詳しいことは知らないけどな」
「……そうか。俺達は……ティーンクトゥス教という一派の者だが、聞いたことはあるか?」
ジョシュアは、暫し考え込んだあと、ない、と首を横に振った。
「ティーンクトゥスという、神を祀っている。ただそれだけだ」
「それだけ? 教会だから治療をしたり、悪魔祓いをしたりするんじゃないのか?」
「俺達は、祈るだけだ。祈り、この愛おしく愚かな神の話を紡ぎ、集まってくれた人々と共に祈る。時にその人々の罪に耳を傾け、神の代わりに赦しを与え、そして再び共に祈ってもらうことしか出来ない。神父は万能ではない。ただの人間が浅ましくも神に仕え、神の代わりに赦しを与える。たったそれだけの者だ」
真尋の言葉を肯定するように一路も、うんうん、と頷いた。
ジョシュアは、そうか、と頷くと顔を俯けた。僅かに見える口元は固く引き結ばれていて、どこかもどかしげな様子で息を一つ吐き出した。
「……あの男は、神父に何を奪われたんだ?」
真尋の問いにジョシュアは、唇を噛み締めて俯いた。
「俺とレイは、八つ年が離れていて、俺にとってレイは弟みたいなものなんだ。あいつが生まれた時から知ってるんだからな」
似たようなことをソニアがジョシュアに対して言っていたのを思い出す。
「……レイは、この町の英雄だ。二十歳の時に史上最年少でAランクの冒険者に昇格したんだ」
ジョシュアが淡々と語りだす。
「レイは、この町の貧民街の出でな。貧民街は、この町の南側、青の3地区にある。高い壁所為で日が当たらないから、昼でも薄暗い場所だ。レイの母親はソフィというんだ。ソニアの親友だった。ソニアの二つ下、俺の六つ上の……笑顔の絶えない優しく素敵な人だった。ソフィは貧民街で娼婦をしていて、ソフィがレイを産んだのは、彼女が十四歳の時だった。彼女の職業柄父親は分からなかったが、ソフィはレイにありったけの愛情を注いで育てていた。ソニアも足繁く通って、レイの面倒を見ていたし、俺も時折、子守を任された。やんちゃな奴でな、目を離せば外に行ってしまって、剣術のスキル持ちだったから、俺はしょっちゅうあいつと木の棒きれを交えて遊んだんだ」
ジョシュアが懐かしむ様にセピア色の目を細めた。
「レイは明るくて元気な母親想いの男の子だった。六歳の頃から街角で靴磨きの仕事をして母親を支えていたんだ。そして、レイが八つの時、ソフィが結婚した。夫となったアンディは、腕の良い大工だった。太陽みたいに温かくて懐の広い良い男だったんだ。ソフィは、結婚を機に娼婦を辞めて、親子は貧民街を出て青の2地区の住宅街に移り住んだ。そして、同じ年に、娘が生まれた。ミモザという名前で母親によく似た可愛い娘だった。レイもアンディもメロメロで、暇さえあればミモザを構っていたよ。アンディなんか仕事に行くのも忘れて、よくソフィに怒られていた」
ははっとジョシュアが声を上げて笑った。
真尋にもそれは心当たりがある。真尋には双子の弟達がいる。年が離れているから、本当に可愛くて可愛くて、どれだけ眺めていても飽きない存在だった。
「でも……幸せはあまり長くは続かなかった。結婚した三年後、アンディが現場で起きた事故で死んでしまったんだ。後輩を庇って倒れて来た鉄材の下敷きになってしまったんだ。アンディが幾らか金を遺してくれたから家は売らずに済んだが……ソフィは酒場で働きだし、レイは学校を辞めて再び街角で靴を磨くようになった。悪いことは重なる物で、ミモザは肺に病を患いベッドにいることが増えた。二人は身を粉にしてミモザの為に昼も夜も無く働いた。ソフィは昼は食堂で、夜は酒場で働き、レイは靴磨きの他に夜の酒場の裏方で延々、野菜の皮をむいて皿を洗って片付けていた。俺はその当時、既に冒険者としてサンドロとパーティーを組んでいた。だから、薬草採取のクエストを優先して少しでもミモザの薬が安くなるように手伝うことくらいしか出来なかった。……なぁ、マヒロ、人を助けるというのは本当に難しいんだ。冒険者で実家に住んでた俺は、クエスト報酬を全部、二人に渡してしまうことだって出来たけど、それを二人が喜ばないことも、それをしてしまうことで俺達の関係が壊れてしまうことも分かっていたんだ。彼らを助けるためにさせてもらえることなんて、本当に少なかった」
ジョシュアが、何とも言えない哀しい笑みを浮かべて俯いた。
「……そうしているうちに、今度はソフィが体を壊した。酒場で倒れたんだ。ソフィは、あっと言う間に逝ってしまった。まだ十三歳のレイと五歳のミモザを遺して、アンディの元に逝ってしまったんだ。当時、既にサンドロと結婚して、二児の母でもあったソニアは、山猫亭を切り盛りしていて、レイとミモザを引き取ろうとしたんだが、レイがそれを拒否した。ソニアが嫌いだったとか、そういうことじゃなくて、レイは、幸せな想い出の残る家に残ることを選んだんだ。レイは再びがむしゃらに働いて、十五になるとすぐに冒険者になった。手当たり次第に該当ランクのクエストを受けて、十八になると一気にCランクに駆けあがった。レイが成人してすぐに俺とサンドロ、レイでパーティーを組んだ。高額報酬のクエストばかりを選んだよ。ミモザの薬代は馬鹿にならなくて、いつもあいつを言い包めて報酬はクエスト報酬を山分け、素材は全部あいつにやった。ソニアやプリシラ、マスターの嫁さんなんかがクエストで長期で家を留守にするレイの代わりにミモザの面倒を見てくれた。ミモザも十三くらいになると大分、落ち着いて、一時は家のことを細々とだが出来るようになるまで回復したんだ」
ふっと小さな笑みが零された。
「あの頃のレイは、子どもの頃と同じようによく笑っていたし、ミモザだって楽しそうだった。俺やサンドロのことも兄のように慕ってくれていたし、ソニアをもう一人の母親のように頼りにしていた。俺とサンドロが家族の為に冒険者を引退した後も変わりなく慕ってくれた。だがな……今から四年前、レイが二十六、ミモザが十六になった時だ。ミモザが風邪を引いた。俺達だったら飯食って寝れば治るようなもんだったろう。でも、ミモザにとっては、それが命取りだった。風邪がだんだんと悪化して、ミモザはベッドから起きられなくなった。もうどうにもならない、あと三月の命だと治癒術師に言われた。それでもレイは諦めず、ありとあらゆる薬を試したんだ。だが、ミモザが回復することは無くレイは、全財産を手に王都に旅に出た。俺達夫婦とサンドロ夫婦やギルドマスターやその嫁、近所の連中や治癒術師も皆で止めたが、追い詰められたあいつは、もう神に縋るしかないと、町を飛び出して行ったんだ。ここから王都までは三週間ほどかかるがあいつは、馬を次々に潰しながらたった二週間で王都に行った」
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ジョシュアが悲痛な面持ちで項垂れた。机の上に投げ出されていた右手がきつく握りしめられている。
「……レイはミモザが亡くなった二日後に帰って来た。俺が魔鳩を飛ばしたから報せを受け取って文字通りすぐに飛んで帰って来たんだろう。一週間だ……多分、碌に眠ることも飯を食うことも無く只管に走って、走って、そうやって帰って来たあいつは、ボロボロで……あいつが、ミモザの亡骸を見た時の顔が、今でも忘れられない……っ」
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「絶望とは、あのような顔をしているのだと、初めて知ったんだ。俺だって冒険者だったんだ。死はいつだってすぐ近くにあったし、親しかった仲間を喪ってしまったこともある。でも、そうじゃない、あいつは……生きる意味を、希望を、願いを、あいつを生かしていた総てを喪ってしまったんだ」
真尋は、首に掛けたロケットを服の上から握りしめる。一路の琥珀色の瞳がそれを見つけて、長い睫毛が逃げるように伏せられた。
「……葬儀を終えた一か月後、レイは忽然と姿を消した。総出で探したが、あいつの行方はついぞ分からなかった。……ギルドで書いた申請書があるだろう? あれはサブカードと呼ばれてギルドに保管される。複雑な魔術が掛けられていて、登録者が死ぬと真っ黒くなるんだ。冒険者は危険と隣り合わせだからな……俺達は、あいつのサブカードが白いままであることに縋るほか無かった」
ふっと零れた笑みは、彼らしくない自嘲に彩られていてジョンが、父のその様子を不安そうにのぞき込んだ。ジョンを視界に入れたジョシュアは、ぽんぽんと息子の頭を撫でることでその視界から自身の無様な顔を隠す。
「あいつが戻って来たのは、ほんの半年前のことだ。失踪してからの約三年間どこへ行っていたのか、何をしていたのか、と誰が問いかけても、あいつは答えなかった。あの時、もっとあいつを気にかけてやれば、もっとあいつの内側に踏み込んでいてやれば、結果は違ったのかもしれない。誰もがあいつは、ミモザの死を受け止めて、乗り越えたのだとそう思っていたが……レイは、まるで生き急いでいるかのように危険なクエストばかりを受けるようになった。俺は何度か会おうと試みたが、レイは一度も会ってくれなかった。あいつにとって俺はもう……」
ジョシュアは、息子の頭から手を離して、すっかり冷めてしまっただろう紅茶のカップを手に取った。
「……だから、僕らが冒険者になることが許せなかったんですね」
「いいや、あいつの場合、教会に関する全てが赦せないんだ。憎んでいると言ってもいい」
一路は口を開くが、言うべき言葉が見つからなかったのか唇を結んで哀しげに眉を下げた。
真尋は、カップを口へと運び、紅茶を喉に流し込む。鼻に抜ける茶葉の香りにつられるように空を見上げれば、青く澄んだ空が広がっている。
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「話を聞く限り、あいつが憎しみを抱くものは山ほどあるだろう。腐った教会だけじゃない。自分たちを置いて死んだ父や母も治してくれなかった治癒術師も目を離したマスターの嫁も、本気で引き留めてくれなかったマスターもそして、家族と共に幸せそうなお前やサンドロ。悲劇に同情するだけで何も言わない町民……憎しみは生まれやすく、それでいて、消えにくい厄介な感情だ。その中で、あいつが……あいつ自身が最も憎んだものは、あいつ自身だったのかもしれないし、或は……ミモザだったのかもしれない」
「あいつがミモザを憎むなんて有り得ない。だって、あいつは本当にっ」
真尋は目だけでジョシュアの言葉を制し、カップをテーブルの上に戻した。
「人の心には四つの窓がある。この窓を通して人々はコミュニケーションを図ると言われている」
真尋は、ジョシュアに向かって指を四本立てて見せる。
「俺の故郷のジョセフとハリーという学者が考えだしたことだが……人の心には四つの窓があるんだそうだ」
「窓?」
親子が首を傾げる顔が同じで思わず頬が緩む。ジョンがシャツを捲って自分の胸を確認する姿に一路が、くすくすと可笑しそうに笑った。
「勿論、実際にある訳じゃない。あくまで物の例えだ。窓の向こうにあるのは、感情や思想といった心の中身だと思ってくれ。一つ目の窓は、開かれた窓。自分自身も他者もその窓の中身が何か分かっている。恐らくこの窓を通して、最も他者と交流を深めていくんだ」
「成程……」
「二つ目の窓は、隠された窓。自分は知っているが、他者は中身を知らない窓だ。誰にも人に見せられない感情や心はあるだろう?」
ジョシュアがこくりと頷いた。
「三つ目の窓は、見えない窓。自分は中身を知らないけれど、他者は中身を知っている窓だ」
「……確かに、他人から客観的に見える部分を本人が知らないことはよくあるな。短所なんかは特にそうだもんな」
ジョシュアの言葉に真尋は、ああ、と頷く。
「そして、最後……四つ目の窓の名は、未知の窓」
ぴんと立てた人差し指をジョシュアに突きつける。
「自分自身も他者も誰も中身を知らない窓だ。そこに何があるのか、何が眠っているのか、どんな感情なのか分からない。それはもしかしたら自分が意図的に隠して忘れたモノもあるかも知れない」
ジョシュアが自分の胸に手を当てて視線をそこに向ける。真尋は、指を引っ込めて空を見上げる。青く青く晴れた空は、どこまでも遠い。
「その窓の中身は一生知ることはないかもしれない。もしかしたら、今すぐ知ることになるかもしれない。未知の窓の向こうには、希望もあれば、絶望もあるだろう。だが俺にだって一路にだってジョンにもソニアやサンドロにだって、大胆に言えば王様にだって平等に有る窓だ。恐れることはない」
真尋は、空を見上げたまま告げる。
「あの男の中で最も大きく居場所を取っているのは、きっと隠された窓だ。あいつは多分、素直になれないんだな。素直になって救われる気も無いんだ。救われることすら、あいつにとっては苦しいことなのかもしれない。罰せられることは、あいつにとって安堵であるかもしれない。俺にとってあいつは今日、出会ったばかりの不躾な馬鹿だから、何とも言えないが……それでも、ジョシュアの話やあいつの振る舞いを見て思うのは、あいつはきっと……赦されることを望んでいないんだ。何に対してかまでは、分からないがな」
さぁぁと吹く初夏の風が真尋の髪を揺らす。
青い空にいつの間にか現れた白い雲が、ゆっくりと流れて行く。
空に居るあの馬鹿は、きっと愛を持って、憎しみを赦すだろう。自分をあんな姿にたらしめた民を最後の最後まで愛して、結局、見捨てることが出来ない馬鹿なのだから。
「さて、休憩は終わりだ。武器屋に行こう」
真尋は、伝票を手に立ち上がる。
「マヒロ、ここは俺が」
「さっき、迷惑料を受け取らなかっただろう? ここは俺に払わせておけ」
そう告げて、近くに居た店員に声をかけた。ジョシュアがお礼を言う声に手を上げて返し、案内された入口付近のカウンターで精算を済ませて、外の通りへと出る。
メインストリートほど、大きな店がある訳でもないし、道幅も広くはないがそれでもこの町は賑やかだった。
「こっちだ、マヒロ」
ジョシュアに声を掛けられて彼の背に続く。ジョンはジョシュアの右肩に座って、きょろきょろと通りを眺めている。
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「マヒロ、間違ってもアンナの前でそれ言うなよ? 殺されるぞ?」
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「何の関連性も無いな」
「アンナも本名は、イオアネスという」
「アしかあってないじゃないですか」
「細かいことは気にするな。あんなんだがこの町の実力者の一人だ」
それは分からないでも無い、と真尋は、レイを降伏させたアンナの迫力と真っ直ぐな碧い目を思い出した。
歩いて行く内にだんだんと通りは様子が変わって来る。専門的な店が並ぶようになり、鉄を打つ音やミシンの音、木槌の音、様々な何かを作る音や親方たちの怒鳴り声、弟子たちの威勢の良い声が響く小さな広場はあっという間に通り過ぎ、また工房の並ぶ通りに入る。
「ここは、ブランレトゥの黄の地区。職人街だ。職人は全て職人ギルドに守られている。冒険者が冒険者ギルドに守られ、商人が商業ギルドに守られているようにな。ここには様々な分野の職人がここに店と工房を構えている。ドレスとか若い娘向けの靴や雑貨なんかは通りの店に卸していて、工房だけって場合もあるが……とりあえず、ここに来れば一通りのものが揃うぞ」
ジョシュアは、時折かけられる声に手を上げて返しながら、通りを進んでいく。流石の真尋もきょろきょろと辺りを見回す。何に使うのか分からない金型や得体の知れない石の塊などが店の軒先に並んでいる。薬材屋という看板がかけられた怪しい雰囲気の店先には河童の手みたいな緑色のそれが瓶詰にされて並んでいた。
「着いたぞ、ここだ」
ジョシュアが足を止めて、その店を指差した。
「……武器屋・鉄槌」
「つ、強そうだね」
真尋が読み上げれば、一路が緊張した面持ちで言った。
石造りの店は、軒先に店名に相応しい鉄槌がぶら下がっている。
「おやっさん、いるか?」
そう言いながら、ジョシュアが店の中に入って行く。真尋と一路もそれに続いて、武器屋へと足を踏みいれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
感想、お気に入り登録、いつも励みになっております!
謎の青年は色んなものを抱えておりました。
次は、武器屋に参ります!
次回も楽しんで頂ければ、幸いです!
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言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
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お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
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注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
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フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
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