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本編
第三話 これからの話をする男 *一路視点
しおりを挟む「真尋様と一路様には、お見苦しいものをお見せしてしまいました」
ティーンクトゥスは、赤く腫れた目元を指先で撫でながら気恥ずかしそうに言った。
一路は先ほどのソファに真尋と並んで座っていた。
あれから泣くだけ泣いたティーンクトゥスは、顔を洗ってきますとどこかに消えた。どこに消えたのかはさっぱり分からないが、一路たちは待つしかないのでソファに座り彼が戻るのを待って居た。そして、今さっきティーンクトゥスが戻って来て、冒頭の言葉へと至ったのだ。
「おかわりも用意して参りましたので、どうぞ」
ティーンクトゥスがどこからともなくティーポットを取り出して、空になっていたカップに紅茶を淹れてくれる。柔らかな琥珀色に爽やかな茶葉の香りが鼻先を撫でた。
こちらもどうぞ、と美味しそうなクッキーの並んだ皿がテーブルの上に置かれた。一路は顔を輝かせて早速、チョコチップのクッキーに手を伸ばした。
「先ほどから考えているんだが、神はどうやって生まれるんだ?」
徐に真尋が問いかける。ティーンクトゥスは自分のティーカップに紅茶を注いでいた手を止めて、小首を傾げた。
「一概に、こうだ、と決まっている訳ではありません。神の産まれ方はどこの世界でも様々ですから。私は、五千年ほど前に私として生まれた訳ですが、私自身の魂はそれより前から世界を揺蕩っていたように思います。アーテル王国の地にあった何かが私を神にしたので、正確に言えば私は五千年前に自我を持ち、神となったのです」
「まあ確かにねえ……日本神話もギリシャ神話も神様の産まれ方ってかなり自由だもん。あ、これ、美味しい!」
一路はクッキーを頬張り、思わず笑みを零す。サクサクのクッキーはバターの香りが豊かでチョコレートの深い甘みがアクセントになっている。ティーンクトゥスが、それは良かった、と笑った。
真尋は、ふむ、と一つ頷いて顎を撫でる。何かを考えている様だ、と一路は彼が答えを出すのを待った。こういう時、意見を求められれば一路は答えるが、それ以外では放っておくことにしている。天才の考えていることなど、凡人には分からないのだ。
そうして一路とティーンクトゥスがクッキーを楽しんでいると、暫くしてようやく真尋が口を開く。
「お前の力は信仰によって、与えられたものだというのは間違いないか?」
「正確には、強く強大になったというのが正しいです。元より、一応神だったのでそれなりの力は有りました……今ある力は元々あったものに近い様に感じます」
ティーンクトゥスが自分の手のひらに視線を落として言った。
「ならどうして、信仰を失っただけでティーンさんはあんなに弱ってたの?」
「そう言われて見ると何故でしょう?」
一路は生まれた疑問に首を傾げた。当の本人であるティーンクトゥスまで首を傾げていた。真尋は、カップに手を伸ばしながら口を開く。
「ティーンクトゥスという神は、信仰によって強大な力を手にし、アーテル王国を長きに渡って守り続けて来た。お前にとって信仰とは、お前の存在を肯定するものであり、捧げられる愛や心こそが力の源になるものだったんだ。その過程で、ティーンクトゥスの元あった力よりも信仰で得た力は強大になっていった。ある意味、お前は新たな力を手にして生まれ変わったんだ」
「生まれ、変わった?」
「ああ。故に信仰が失われて行くと同時にお前自身の力も失われていき衰退していった。元々あった力が使えなかったのは、それまで得ていた力とその力の本質が違うものだったからだ。しかし、皮肉なことにその残党共に存在だけは肯定され、消えることもままならなかった。そして、残党共の邪心による信仰はお前にしてみれば悪の心だ。だが、お前自身の本質は正であるからそれは純粋な力になり得ず、逆に苦しむことになった訳だ。毒を流し込まれていたようなモノだろう。恐らく、その力を受け入れていたらお前は再び神としての本質を変え、邪神か何かに生まれ変わっていたのではないか?」
ティーンクトゥスは、かもしれません、と蚊の鳴くような声で返した。心なしかその顔は青ざめている。一路は、真尋の言葉に納得しながら齧っていたクッキーの欠片を口に放り込んだ。
「ティーンさん、大丈夫?」
「あ、あんまりにも、その驚いて……邪神になどなれば、アーテル王国だけではなくこの世界そのものにとっての脅威になっていたということですから」
ぶるぶる震える手がカップを口へと運んだものだから、紅茶がぴちゃぴちゃとそこらに跳ねている。それでも懸命に口に運んだ紅茶を一口、喉へと流し込むとティーンクトゥスは、大きく息を吐きだした。ティーンクトゥスの手の震えが徐々に治まっていく。
「私はお二人に何とお礼を申し上げればよいのでしょう」
「それは後々誠意を見せればいい。それより話の続きだ」
胸を押さえて感嘆すら込めて告げるティーンクトゥスを一蹴し、真尋が先を続けようとする。相変わらずマイペースだ。
「お前は今現在、嘗ての遥か遠い頃の力を取り戻した。先ほども言ったがお前の元々の力は信仰によってその在り方を変えた。それは上書きされたようなものなのだろう。だからこそ信仰を失い、その上書きが薄れていたんだ。それでお前がどこでどう俺達に目を付けたかは知らんが、俺達を呼ぶために元々、お前自身が持っていた力が解放されて、俺達は呼ばれ、お前は力を取り戻した」
「は、はぁ」
ティーンクトゥスが曖昧な返事をする。
これは分かっていない様だ、と一路は苦笑を零しながらジャムクッキーを齧る。チェリージャムの酸味が美味しい一品だった。
「じゃあ、つまりティーンさんは、また生まれ変わった訳だ」
一路の言葉にティーンクトゥスを睨み付けていた真尋が、ああ、と頷いてため息を一つ零した。どうやらティーンクトゥスに理解させるのを諦めたようだ。
「で、ですが……私の元あった力ですから生まれ変わってはいないのではないですか?」
ティーンクトゥスが真尋にびくびくしながら言った。
「僕と真尋くんの存在が絡んだ時点で五千年前とは違うんじゃないですかねぇ」
「正解。一路の言う通りだ」
「一路様は真尋様のおっしゃる意味が分かるんですね、流石です!」
ティーンクトゥスが無邪気に拍手を送ってくれたが、その弁は逆に自分はさっぱり分かっていないと言っているようなものだ。今更かも知れないが本当にこの人神様なのかな、と心配になってくる。
「今のお前は、力があると言っても生まれたての赤ん坊のようなものだ。その力は俺達次第で強くも弱くもなるだろう」
「それは何となく分かります……さっき、顔を洗いに行った時に下界を覗こうとしたのですが、力が足りずに窓が開かなかったんです」
しょんぼりとティーンクトゥスが言った。
「でも、さっき僕らに教会の様子を見せてくれましたよね?」
「あれは私の記憶の一部なので、幻のようなものですね。この真っ白いところに映し出しただけで、存在している訳ではありません」
だから触れなかったのか、と一路は納得する。
「そこで俺達は、お前を一人前にするためにアーテル王国に行くことになる訳だ。お前が再び力を取り戻せるように、お前の存在を認識してもらうためにな」
「つまり僕らは、ティーンさんへの信仰を集めに行くわけだね!」
「そうなるな」
「ああ、お二人には本当に何とお礼を申し上げれば良いか……っ!」
ティーンクトゥスが両手を胸の前で握りしめて、感動にその顔を輝かせる。どうでもいいが、その顔の半分を覆う前髪を切るなり、結ぶなりすればい良いのに。あれでは邪魔だろうなぁ、と一路は思った。
「その手段は、どうしようと考えているんだ?」
真尋が問いかければ、感謝の意を延々、どう言葉にすればとぶつぶつ言っていたティーンクトゥスがはっと我に返る。失礼、と一つ咳払いをして居住まいを正した。
「お二人には、アーテル王国に転生して頂こうと思っております。お二人の魂は私のせいで今現在、どこの輪廻の輪にも入れない宙ぶらりんの状態ですし、元々が地球産なので魔力を与えることも加護を与えることも出来ないのです。アーテル王国に私が新たに作った肉体で転生すれば、アーテル王国の輪廻の輪に組み込まれることになり、存在が確かなものになるのです」
「ってことは、赤ちゃんからやり直すんですか?」
一路はその可能性に至って、少し頬を引き攣らせる。
「それも可能ですが……私はお二人の要望に全力で答える所存ですので、何かあれば何なりと」
「だったら、今の記憶を保持したままが良いです」
「俺も今の記憶を失くしたくは無いな。十八歳の俺のまま、体だけを変えるというのは可能か?」
ティーンクトゥスは、勿論です、と力強く頷いた。
「それでは、年齢や姿形、記憶はそのままに体だけ私が作り直させていただきます。ただ一つだけ、アーテル王国の民は瞳の色に自身の魔力の色が出るので、瞳の色だけは変わるかも知れませんがよろしいですか?」
「ああ。それ位なら別に構わん」
一路もこくこくと頷いた。
「ねえねえ、ティーンさん、アーテル王国について教えて欲しいいです! どんなところでどんな人たちが住んでるのかな、とか」
一路の言葉にティーンクトゥスは、嬉しそうに顔を輝かせてその口に笑みを浮かべた。
「だが意識だけだった時のことは分かるのか?」
「はい、今、こうして力を取り戻したので意識だけだった頃の記憶もきちんと整理できております。ただ神として我が子の声を聞くことはまだ出来ませんし、覗き見るという干渉も出来ませんが、国そのものがどうなっているかは分かります」
真尋の問いにティーンクトゥスは、しっかりと答えると、見ててください、と悪戯に笑っていきなりパンッと手を打った。その瞬間、真っ白な世界がスクリーンになって、様々な映像が浮かび上がった。
「凄い! 何これ!」
一路は思わず声を上げて、精一杯首を伸ばして、辺りを見回す。人々の姿や見たことも無い生物を映し出した映像が所狭しと並んでいるのだ。畑を耕していた農夫が子供に呼ばれて顔を上げる。その隣の映像には店先で肉を買う年嵩の女の姿があって、その上の映像では角の生えた兎が草を食んでいる。
「これが窓か?」
上を見上げたまま真尋が言った。
「そうです。けれど、窓は閉まったままで、声を聞くことも息を吹きかけ大気を動かすこともできませんが……力が戻れば少しずつ窓を開くことも出来るようになると思います」
ティーンクトゥスは、その目を優しく細めて映像を見つめている。溢れ出る愛しさは、彼の口元に温かな笑みすら浮かばせていた。
「アーテル王国は、プルウィウス大陸の西に位置する山々に囲まれた自然豊かで平和な国です。人族、獣人族、有鱗族、エルフ族、ドワーフ族、妖精族、竜人族という七つの種族が暮らしています。王都はニゲルと言いまして、国の中心に有ります」
ティーンクトゥスは、まるで我が子の話をするかのように嬉しそうに楽しそうに言葉を紡ぐ。
「そもそもアーテル王国と日本ではどこまで文化が違うんだ?」
真尋が視線をティーンクトゥスに戻して問いかける。
「そう、ですね……現代日本のように科学技術は発展はしていません。物流は馬か船が基本ですし、ガスや電気の類もありません。あ、水道は魔石のお蔭で町などでは整備されていますよ」
「三千年もの年月が有りながら、何故、文化や技術、科学の発展がそこまで遅れているんだ?」
確かに、と一路も頷く。
日本だってほんの三百年前は侍が居た時代で電気も水道もガスも無かったが、たった数百年で日本と言う国は様変わりし、今なお、技術は革新的に発展し続けている。
「ああ、それは簡単です。電気やガスよりも便利な魔法があるからです」
「魔法?」
「うわぁ、凄い! 異世界だ!」
ピンと来ていないらしい真尋に対して、一路は歓声を上げる。
人生で一度は魔法というものに憧れるだろう。あの額に稲妻型の傷がある魔法使いの少年の話が大好きだった一路は、幼いころから魔法が使えたらなぁと度々思うことがあったし、子どもの頃、兄や雪乃ともしも魔法が使えたらという話をしたこともある。
「はい。アーテル王国の民は皆、種族に関わらず魔力を持ち生まれてきます。そして、産まれると同時に精霊から祝福を受け、地・水・火・風・光・闇の六つの属性の中から最低一つ、得ることが出来るのです」
ティーンクトゥスの周りに手のひらサイズの泥団子みたいな地の玉、水の玉、火の玉とそれぞれの属性と思われるものが現れる。闇の玉は何だか小さなブラックホールみたいだった。
「属性魔法は特殊な魔法ですが、所謂、お皿を浮かべたり、窓を開けたり、地球の物語で見るような魔法は、自分の魔力を源に使うことが出来ます」
そう言って、ティーンクトゥスが指を振れば、ティーポットがふわりと浮かび上がって、空になっていた真尋のカップに新しく紅茶を注いだ。それを不思議そうに眺めながら真尋が口を開く。
「成程……便利さ故に進化しなかったということか」
「その代わりに魔力を込めて使う魔道具などの研究が盛んです。冷蔵庫と同じような働きをしている魔道具もあります。とは言ってもまだまだ魔道具は高価な品物ですから、性能がいいものは貴族や大商人といった裕福な方々しか使えませんがね。簡易的なものは、庶民も使っています」
「貴族がいるということは、やはり王政なのか?」
「はい。アーテル王国は、アーテル王家に統治された王国です。そして、公、侯、辺境伯、伯、子、男爵という爵位があり、武勲を立てた騎士に贈られる一代限りの爵位、騎士爵と国に何らかの貢献をした者に与えられる同じく一代限りの爵位、準男爵までがアーテル王国の爵位です。爵位を持つ貴族たちは、王家より与えられた領地を経営することで税収入を得ています。王国の基本的な産業は農業で国民の殆どが土と水と共に生きています。また鉱山から採掘される上質の宝石や魔石も人々の生活の糧となっています」
「魔石とは?」
真尋の問いにティーンクトゥスがこれです、とやっぱりどこからともなく石を取り出す。手のひらサイズの水晶玉のように透明な石の中に赤い炎がゆらゆらと揺れている。
「これは火の魔石です。魔道具に使われることもありますし、騎士や魔導師が剣や杖に使って自身の能力を補助するために使ったりもします」
真尋が手に取り頭上に掲げる。水晶の中で揺らめく炎がとても綺麗だ。
「真尋くん、僕も触ってみたい!」
「ああ、ほら」
ぽいっと渡されたそれを両手で受け取る。冷たいのかと思ったが、じわりと優しい暖かさがある。それにやはり近くで見てもとてもとても綺麗だった。
「アーテル王国には、ギルド、というものがあります」
「ギルドというと組合のことか?」
「はい。大なり小なり町と呼ばれる場所全てに、商業ギルド、職人ギルド、冒険者ギルドの三つがあります。最も大きく様々な役目を果たしているのは商業ギルドで、そちらの世界で言うと市役所の働きもしています」
「冒険者ギルド……そもそも冒険者とは何だ?」
ゲームなどにあまり触れない真尋にとっては耳慣れない言葉なのだろう。
逆に一路は更に増していく異世界感に興奮するし、わくわくする。
「先ほどお話したインサニアについて覚えていますか?」
二人揃って首肯する。
「その時、話に登場した魔獣が冒険者と深く関わってきます。アーテル王国には、動物という言葉は存在しません。動物に最も近い意味合いを持つのは魔物です。魔物と魔獣は、体内に魔核と呼ばれる魔力の結晶を持っているか否かで分類されます。魔物は魔核を持ちませんので、ペットや家畜として人々と共に生きている種類もいるんですよ。一方の魔獣は魔核を持ち、とても強く恐ろしい生き物です。魔獣は大陸全土に分布しています。強い魔獣ならば一匹で村一つを滅ぼすこともあるほど魔獣は恐ろしい生き物ですが、その毛皮や牙、角、肝など様々な部位が人々の生活の上でとても役に立つのです。そうして魔獣から身を守り、またその恩恵を授かる中で生まれたのが冒険者という職業です。冒険者とは、極端に言ってしまえば魔獣を討伐することを生業とした職業ですね」
カップに口をつけたまま真尋が頷いている。一路はアーモンドの粒がふんだんに練り込まれたクッキーを食べながらその先の話に耳を傾ける。
「そういえば、私は、レベルやスキル、ステータスについての話をしたでしょうか?」
「何だそれは?」
「まだです!」
眉を寄せた真尋を尻目に一路は身を乗り出す様にして答えた。ティーンクトゥスが、それは失礼しました、とティーンクトゥスが新たにマドレーヌを乗せた皿を取り出しながら謝罪する。
「アーテル王国のみならずこのプルウィウス大陸に住まう人々にはステータスというものが存在します。この制度を作ったのはプルウィウス大陸を作ったとある神様なのですが、その話は今は割愛させていただきますね。ステータスは、自身のレベルや能力値の一覧表のようなものです。生憎と私は神なのでステータスを持っていませんし、お二人もまだ地球人ですので……あの窓が一つでも開けば見せられるのですが」
そう言ってティーンクトゥスが悔しそうに上を見上げて言った。
一路が見上げた先では、犬耳のおじさんが奥さんに叱り飛ばされているところだった。真尋が、お、と小さく声を漏らしたので、その視線の先を追えば大きな銀色の狼が背中に苔の生えた鹿の様な生き物を捕まえた所だった。
「ステータスについては、申し訳ありませんが後ほど、ということで……とりあえず、スキルについてご説明しますね」
そう言われて顔をティーンクトゥスに向ける。
「スキルとは、才能のことです。このスキルは神によって与えられます。人である以上、自分では選べません。このスキルが有るか無いかで、同じ剣術でも上達する速度や熟練度、威力や精密さが変わってきます。生まれた時に最低一つは何かしらのスキルを持っています。ステータスを開けるようになるのは、五歳からなので、それまでは誰も知ることは出来ません。スキルは、努力を怠らなければ成長過程で獲得することも出来ますよ」
「お前が意識の無かった間も与えられていたのか?」
真尋が言った。ティーンクトゥスは、はい、と頷く。
「自動的にその魂に最も見合うものを付与すように仕掛けてありますので……ですが、お二人は特別ですので、私が自ら選んで付与させていただきますね!」
ティーンクトゥスが握った拳で胸を叩いて言った。隣から「……不安だな」と小さく呟く声が聞こえて、一路は思わず頷いてしまった。
しかし、ティーンクトゥスはこちらのささやかな不安にも気づかずに「それでは!」と言って立ち上がった。
「そろそろお二人の体を作って参りますので、暫くお待ちくださいね! 今の私の力では限度がありますが出来る限りの愛情を込めて作らせていただきますので!」
「くれぐれも腕や手や指、足の本数や性別を間違えたりするなよ、作り直しをさせるからな」
真尋が言い聞かせるように言った。
「そ、そんな間違いはしません! ただ本来の魂の性質というものは、例え神であっても変えることは出来ませんので、多少、お二人にもスキルの数や能力値などに差があることはご了承くださいね?」
ティーンクトゥスがこちらの――というか一路の顔色を窺う様に言った。一路は、ぱちりと目を瞬かせた後、くすくすと笑った。
「大丈夫だよ、僕、真尋くんみたいなチートじゃないから、平凡な能力値でも問題ないよ」
「チート?」
真尋が首を傾げるが一路は、気にしなくていいよ、と笑って流す。真尋と一緒にいると自分がどれだけ平凡で普通の人間なのか身に沁みて実感するのだ。
ティーンクトゥスは、ありがとうございます、とほっと胸を撫で下ろす。
「ですが、一路様の体を作る際も私は目一杯の愛情と力を注ぎますのでご安心くださいね! お食事でも楽しみながらお待ちください!」
そう言ってティーンクトゥスがパンパンと二度、手を鳴らすとテーブルの上においしそうな料理が現れた。
「それでは、行ってまいります!」
言うが早いかティーンクトゥスが再び、真っ白な世界のどこかへと消えて行った。
「……目玉の数について言うのを忘れたが、大丈夫だろうか」
真尋がティーンクトゥスが消えた方を見ながら言った。大丈夫だよ、とは安易に言ってはいけないような気がして一路は全く別の言葉を返す。
「そもそもどうやって作るんだろうねぇ」
「さあな、神のすることなど知らん方が良いこともある。それより飯にするか」
「そうだね。あ、これ美味しそう! いただきまーす!」
真尋の言葉に賛成し、二人はティーンクトゥスが用意してくれた食事を楽しむことにしたのだった。
ただ、食事中、暫くして木槌を打ち付ける音や何かを削ったり、こねたりする音、そして時折「ああっ!」とか「……あれ?」とかいう何とも不安になる声がどこからともなく聞こえて来て、食事の手があまり進まなかったのはティーンクトゥスだけが知らない話である。
――――――――――――――
明日も更新出来たらしたいなぁと思います!
読んで下さってありがとうございました♪
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