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第8話 春の休日
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午前六時。
ベッドの上に置かれている携帯のアラームが部屋に鳴り響きます。
「ふぁー。もう朝ですか」
重たい瞼をこすりつつカーテンを開けると、太陽が上がるか上がらないかの少し白んだ空が広がっていました。
ん~っと、一つ伸びをします。
そして――
「今日は何をしようかな」
私の一日が始まります。
今日は、土曜日。
休日です。
しかし、私はいつもと同じ学校のあるときと同じ時間に起床します。
この明け方の水分をいっぱいに含んだ冷たい空気が好きだから。
「よし。今日は、散歩でもしよ」
少し日が高くなってから私は外に出ることにしました。
今日は、学校付近の探索でもしてみようかな
そう思いながら、通学路をゆっくりと辿っていきます。
登校する時より一時間ほど後なだけですが、景色が少しだけ違って感じます。
山道に入ると、日が良い感じで差し込んでいるからでしょうか。それとも、風で葉がすれる音が聞こえてくるからでしょうか。とても心地よい感覚になります。
山から生える木々が道路を覆う自然のトンネルをくぐっていくと、やっと少し開けた歩道が見えてきました。
確か、ここの分かれ道を下れば律さん達が住んでいる地区だったはず。……今度の休日は皆さんと遊べれたらいいな
私は、学校方面の道をたどっていきます。
しばらく歩くと、お店が少しずつ増えてきました。
そういえば、学校に行くまでに本屋さんがあります。たまに、律さん達と帰りによって帰るんですが、夕奈さんはいつものだるさが吹き飛んだように機敏に本のチェックしていたのはギャップが面白かったです。
本屋さんを抜けてすぐに中学校があります。ここは、夕奈さん、律さん、柚季さんの母校です。
今は、部活中みたいで野球部とサッカー部の人たちがいました。
そういえば、今日は律さんも午前中に部活だって言ってました。
まだ仮入部ですが、もう混じって練習しているって律さんが言ってました。
「そうだ、お昼までだったら。律さんと一緒に帰ろ」
私は、律さんに中学校の写真もついでに添付してメールを送りました。
「今散歩中です。一緒に帰りませんかっと。よし、後は返信がくるまで探索再開です」
とは言っても、もう学校は目と鼻の先です。
最後に、通学途中にある河川敷に行ってみることにしました。
「うわー、河川敷なんて初めて来た」
前いたとこにはなかったんだよねー
舗装されていて散歩にはちょうどいいかもしれません。
犬の散歩をしている人や小さい子供が川で遊んでいます。
私は、少し歩き疲れて石階段に座って、今度は遠くの緑を眺めました。
見渡す限りの山は、梅でしょうかところどころ紅色になっていて綺麗でした。
あの辺の山道を通って来たんだ。こう見ると、大分歩いたんだな。家なんてあの山の向こうなわけだし
「……あれは何なんだろう?」
山の奥。山頂辺りから伸びる白と赤の縞々の塔。
実は、以前から気になっていました。
というのも、あの塔は基本的にどこからでも見えるんじゃないかと思うほど、よく景色の中に入ってきます。
私の中では、どこかこの町のシンボルのように感じています。
鉄塔じゃないだろうし。……なんだろう?
私は、まだまだ知らないことだらけです。いつか、あそこにも行ってみたいな。
「あれ、君は確か」
ふと、声を掛けられました。
振り返ると、スポーツ用のTシャツにハーフパンツ、腰まである黒髪をポニーテールにしている女性が経っていました。
今まで走っていたのか、少し息が乱れて汗を流すその人には見覚えがありました。
「あっ、こんにちは」
律さんが所属するバレー部の部長さんです。
「こんにちは。えーっと君は」
「白咲春です」
「春さんね。あたしは、鳥居詩乃(とりいしの)って言うんだ」
「鳥居先輩ですか」
「詩乃先輩でいいよ。それより、こんなところでどうしたの」
「いえっ、ただ散歩をしていて。あわ良くば、律さんと一緒に帰ろうかと」
「そうなんだ。もうすぐ練習は終わるはずなんだけど。……一緒に学校に行くかい?」
「はい。鳥……詩乃先輩はこんなところで何しているんですか」
練習中じゃぁ
「あたし? あたしは走り込みの帰りなんだ。実は、ちょっと手を怪我しててね」
「大丈夫なんですか?」
「あぁ、大したことないんだけど。一応大事を取って走り込みとかしかやらせてもらえないんだよ。体育館にいるとみんな休め休めうるさいから、外に出れていいんだけどね」
「そうなんですか」
そうして、私は詩乃先輩と並んで学校に向かいました。
「へー、東京からこっちに来たんだ」
「そうなんです」
学校までの道中、詩乃先輩と色々な話しをしました。
「それで、黒井とも仲良くできてんだったらすごいな」
「そんなことないですよ」
「いやいや、黒井の敵対心はなかなかだからね」
「でも、詩乃先輩は嫌ってないんですよね」
「まぁ、力は認めてるし、黒井はバカじゃないから――自分にとって最も効率のいい方法が分かってるからな。唯、他の人間がそれを認めるかどうかは別だけど。黒井の元チームメイトとかね」
「夕奈さんはすごくいい子だと思います」
「短い間に黒井が気を許してる証拠だよ」
「そうでしょうか」
「そうじゃなきゃ。そんな素振り見せやしない。一貫して他人には無関心だから」
「もし、そうなら律さんのおかげだと思います」
「紀乃か。アイツとも仲良くしてやってくれよ」
「もちろんです」
「いやー、それにしてもほんとにあの緩そうな子と言い二人はすごいな」
話しの内容は、ほとんどが律さんや夕奈さんの事でした。
そこからも、律さんが言ってた通り詩乃先輩は、二人の理解者であり、とっても頼りになる優しい先輩なのが分かりました。
「もうダウンしてる頃だろうから、校門前で待ってな。紀乃に声を掛けておくから」
「お願いします」
詩乃先輩は軽く手を振って校内に入っていきました。
そっか、私服で校内に入っちゃいけないんだ
私は、おとなしく校門前で待っていると、しばらくしてから律さんが出てきました。
「ごめん。練習中は携帯見れなくて」
「大丈夫ですよ。こちらこそ、急にお誘いして」
「詩乃先輩が、春さんが待ってるって教えてくれてびっくりしたよ」
「途中で会ったんです。すごくいい人ですね。律さんや夕奈さんの事たくさん教えてもらいました」
「えぇー、あの人に何か吹き込まれてないよね」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
帰路は今日あったことを話しながら、私の散歩は終わりました。
4月15日 晴れ
今日の午前中は散歩に出かけました。
いつもとは違ってゆっくりと景色が楽しめて良かったです。
この間あった先輩の名前も分かりました。
鳥居詩乃先輩です。
先輩と話していると、どこか律さんに似ているなと感じました。
他人の心配ばかり聞いたからでしょうか。
機会があれば休みに、律さん達とも遊ぶ機会を作りたいです。
ベッドの上に置かれている携帯のアラームが部屋に鳴り響きます。
「ふぁー。もう朝ですか」
重たい瞼をこすりつつカーテンを開けると、太陽が上がるか上がらないかの少し白んだ空が広がっていました。
ん~っと、一つ伸びをします。
そして――
「今日は何をしようかな」
私の一日が始まります。
今日は、土曜日。
休日です。
しかし、私はいつもと同じ学校のあるときと同じ時間に起床します。
この明け方の水分をいっぱいに含んだ冷たい空気が好きだから。
「よし。今日は、散歩でもしよ」
少し日が高くなってから私は外に出ることにしました。
今日は、学校付近の探索でもしてみようかな
そう思いながら、通学路をゆっくりと辿っていきます。
登校する時より一時間ほど後なだけですが、景色が少しだけ違って感じます。
山道に入ると、日が良い感じで差し込んでいるからでしょうか。それとも、風で葉がすれる音が聞こえてくるからでしょうか。とても心地よい感覚になります。
山から生える木々が道路を覆う自然のトンネルをくぐっていくと、やっと少し開けた歩道が見えてきました。
確か、ここの分かれ道を下れば律さん達が住んでいる地区だったはず。……今度の休日は皆さんと遊べれたらいいな
私は、学校方面の道をたどっていきます。
しばらく歩くと、お店が少しずつ増えてきました。
そういえば、学校に行くまでに本屋さんがあります。たまに、律さん達と帰りによって帰るんですが、夕奈さんはいつものだるさが吹き飛んだように機敏に本のチェックしていたのはギャップが面白かったです。
本屋さんを抜けてすぐに中学校があります。ここは、夕奈さん、律さん、柚季さんの母校です。
今は、部活中みたいで野球部とサッカー部の人たちがいました。
そういえば、今日は律さんも午前中に部活だって言ってました。
まだ仮入部ですが、もう混じって練習しているって律さんが言ってました。
「そうだ、お昼までだったら。律さんと一緒に帰ろ」
私は、律さんに中学校の写真もついでに添付してメールを送りました。
「今散歩中です。一緒に帰りませんかっと。よし、後は返信がくるまで探索再開です」
とは言っても、もう学校は目と鼻の先です。
最後に、通学途中にある河川敷に行ってみることにしました。
「うわー、河川敷なんて初めて来た」
前いたとこにはなかったんだよねー
舗装されていて散歩にはちょうどいいかもしれません。
犬の散歩をしている人や小さい子供が川で遊んでいます。
私は、少し歩き疲れて石階段に座って、今度は遠くの緑を眺めました。
見渡す限りの山は、梅でしょうかところどころ紅色になっていて綺麗でした。
あの辺の山道を通って来たんだ。こう見ると、大分歩いたんだな。家なんてあの山の向こうなわけだし
「……あれは何なんだろう?」
山の奥。山頂辺りから伸びる白と赤の縞々の塔。
実は、以前から気になっていました。
というのも、あの塔は基本的にどこからでも見えるんじゃないかと思うほど、よく景色の中に入ってきます。
私の中では、どこかこの町のシンボルのように感じています。
鉄塔じゃないだろうし。……なんだろう?
私は、まだまだ知らないことだらけです。いつか、あそこにも行ってみたいな。
「あれ、君は確か」
ふと、声を掛けられました。
振り返ると、スポーツ用のTシャツにハーフパンツ、腰まである黒髪をポニーテールにしている女性が経っていました。
今まで走っていたのか、少し息が乱れて汗を流すその人には見覚えがありました。
「あっ、こんにちは」
律さんが所属するバレー部の部長さんです。
「こんにちは。えーっと君は」
「白咲春です」
「春さんね。あたしは、鳥居詩乃(とりいしの)って言うんだ」
「鳥居先輩ですか」
「詩乃先輩でいいよ。それより、こんなところでどうしたの」
「いえっ、ただ散歩をしていて。あわ良くば、律さんと一緒に帰ろうかと」
「そうなんだ。もうすぐ練習は終わるはずなんだけど。……一緒に学校に行くかい?」
「はい。鳥……詩乃先輩はこんなところで何しているんですか」
練習中じゃぁ
「あたし? あたしは走り込みの帰りなんだ。実は、ちょっと手を怪我しててね」
「大丈夫なんですか?」
「あぁ、大したことないんだけど。一応大事を取って走り込みとかしかやらせてもらえないんだよ。体育館にいるとみんな休め休めうるさいから、外に出れていいんだけどね」
「そうなんですか」
そうして、私は詩乃先輩と並んで学校に向かいました。
「へー、東京からこっちに来たんだ」
「そうなんです」
学校までの道中、詩乃先輩と色々な話しをしました。
「それで、黒井とも仲良くできてんだったらすごいな」
「そんなことないですよ」
「いやいや、黒井の敵対心はなかなかだからね」
「でも、詩乃先輩は嫌ってないんですよね」
「まぁ、力は認めてるし、黒井はバカじゃないから――自分にとって最も効率のいい方法が分かってるからな。唯、他の人間がそれを認めるかどうかは別だけど。黒井の元チームメイトとかね」
「夕奈さんはすごくいい子だと思います」
「短い間に黒井が気を許してる証拠だよ」
「そうでしょうか」
「そうじゃなきゃ。そんな素振り見せやしない。一貫して他人には無関心だから」
「もし、そうなら律さんのおかげだと思います」
「紀乃か。アイツとも仲良くしてやってくれよ」
「もちろんです」
「いやー、それにしてもほんとにあの緩そうな子と言い二人はすごいな」
話しの内容は、ほとんどが律さんや夕奈さんの事でした。
そこからも、律さんが言ってた通り詩乃先輩は、二人の理解者であり、とっても頼りになる優しい先輩なのが分かりました。
「もうダウンしてる頃だろうから、校門前で待ってな。紀乃に声を掛けておくから」
「お願いします」
詩乃先輩は軽く手を振って校内に入っていきました。
そっか、私服で校内に入っちゃいけないんだ
私は、おとなしく校門前で待っていると、しばらくしてから律さんが出てきました。
「ごめん。練習中は携帯見れなくて」
「大丈夫ですよ。こちらこそ、急にお誘いして」
「詩乃先輩が、春さんが待ってるって教えてくれてびっくりしたよ」
「途中で会ったんです。すごくいい人ですね。律さんや夕奈さんの事たくさん教えてもらいました」
「えぇー、あの人に何か吹き込まれてないよね」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
帰路は今日あったことを話しながら、私の散歩は終わりました。
4月15日 晴れ
今日の午前中は散歩に出かけました。
いつもとは違ってゆっくりと景色が楽しめて良かったです。
この間あった先輩の名前も分かりました。
鳥居詩乃先輩です。
先輩と話していると、どこか律さんに似ているなと感じました。
他人の心配ばかり聞いたからでしょうか。
機会があれば休みに、律さん達とも遊ぶ機会を作りたいです。
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