もう一人のオレがみんな美少女で家に住みついてますが何か

第六話 押しかけメイドは離さない 1

　これもある日の朝の事に、やけに早い午前八時頃に爽やかに甘い声が途切れながら聞こえてきて、俺はまだ目が開かないでいた。

「起きて下さい、御主人様！」

　強くはなくもしっかりと主人を呼ぶそれは、まさか現代の経済状況では喫茶以外に有り得ない、メイドの様に尽くすは何者か。

　だあぁんと俺は跳ね起きてみたが、案の定にしてメイド気取りが一人いて、微かな違和感にあたりを見るとスッキリしている。

　昨日の夜に奈津美さんの手料理を有り難く摂取したあと、ツマミと一緒にビールをやったが、それさえも片付いていた。

　やろうやろうと思っても、なぜかその気になれなくて今回だけは特別に片付けをサボったが、それと併せてホコリの一切も消えた。

　某リエ様フィギュアなどのちょっとしたコレクションは、見事に補完されていて、いつも以上に芳しく観えたのは善かった。

　しかし、眼の前で甘く爽やかに腹の底から尽くそうとする、この長身女は何者であって、なぜ萌香同様に何時の間にか湧いたか。

　俺はいよいよ耐性が身についたと見えて、どうせもう一人の俺でバックレマンカードも持ってんだろと、俺は敢えて然と済ませる。

　今度も課題が浮上しては俺の部屋に置けない、この哀れなメイド気取りの長身女を、またしても奈津美さんに預けるのか。

　俺と同じか奈津美さんくらいか、真胡都のそれとは少し違うモノホンの『大人女子』が、せっせと朝食の準備をしている。

　オーブンで焼いている物は買っておいた食パンではなく、わざわざ早くから仕込んだ手作りパンで、同時にその付け合せを調理。

　その動きは実にシームレスにして、奈津美さんかそれ以上に手際が善く、最適なタイミングで火を離しては皿に盛り付ける。

　それは静かに軽く配慮も行き届いていて、尽くす相手への意識がしっかりとしているが、この長身女には適しているのか。

　主に家事全般が得意と観えるが、人によっては代行業務としてストレスを覚える場合が、全く無いとも限らない。

　それをお首にも出さない様子で、終盤のコーヒーを用意しては俺を甘えさせるような顔を添えて、律儀に控えて立ったままでいる。

　艶のある蒼いショートヘアも爽やかに、エプロンや紺色のメイド装備もハリが能く、体幹も垂直にやたらと姿勢が佳い。

　その他適度に輝くイヤリングや、手入れの行き届いたスカーレットカラーの眼鏡フレームに、明るめのルージュも眼を惹く。

　シメのコーヒーは豆の質感が厚く、豆含有の水分を活かす湯の分量調整や、微かな甘みと深味が行き届いていて贅沢感があった。

　このハイグレードなメイド気取りは何者か、奈津美さんへの敬意は大事にするが、状況次第で生活観が変わるかも知れない。