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第三話 イノセント 4

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 数時間経ってもリエの戦術や指揮でも、コアとなるものが一切発見できていないが、可能な限りは潰れた箇所や平地に誘導する。

 そうする事で被害は最小限に抑えて戦えても、攻めきれないままに時間は過ぎ去って、人員の披露もピークに達している。

 イケないと分かっていてもイライラしては、その怒りを無理やり呑み込んでも、状況はほとんど改善していない。

 専用武器の大型ビームランチャー、『クルセイド・イージス』を収束したままでの長時間運用は、小柄な少女にとって負担大。

 リエは分離装着した中の背部から、長距離スナイパーライフルを取り出して、ヘリからスコープ越しに状況を視ていた。

 しかし、いくら視ようと指示を出そうと、コアの存在や位置または形状も、一切不明のまま判然としない状態が未だに続いている。

 ヘリの中で容子を看ていた悠と狂は、リエの落胆した小さな背中を視て、すかさず目を逸らしても何故か二度見して仕舞った。

 無かったことにしたかったが、リエには幾つ目があるのか背を向けたまま『黒田悠』の名を呼んで、空気をヒヤリとさせた。

 静かな沈黙を紡ぎながらリエは諦めた様な事を、しおしおと続けてはお手上げだと、どうにも出来んとランクAがZに云っている。

 この状況は危機的でありながらレアリティが高い呑みならず、剛力派を撃退したり先までの威勢は、どこかへ落としてきたのか。

 はてなと悠にも狂にも分からないが、ひとつわかることは『ハイランカーにすら打開出来ない事』で、どの道にしても頗るマジィ。

 仕方無く『裁牙狂』は『黒田悠』として、この場の誰にも解決できない状況を、まだ治りきっていないダメージを抱えて復帰する。

「まだ傷が治ってないでしょ? 死にたいの?」

「じゃあ、なんで無理だといったんだ? どの道誰かがなんとかしなきゃ、どうせ死ぬだろ。ま、精々的が視えたら撃ってくれや。」

 徐ろにヘリから飛び出す狂は、悠の専用武器の大剣『ブラッドゲイズ』を分離装着して、イノセントに向かって飛んでゆく。 

 近づくと軸剣を背中に装着すると、狂はイノセントに話しかけ始めては、他の戦闘員や司令部そしてうなだれる剛力も「?!」。

 誰もが正気なのかと静観する中で、『狂』は『悠』として交渉してみるしかないと、動機や目的が何かを不透明化しようとする。

 リエは何か知っていそうでもあったが、直接確認したほうが確実性も僅かに高く、対処のしようも観えて来るかも知れない。

 イノセントと呼ばれた巨大な謎の怪物に、人類は対抗して殲滅しようとするだけで、事実から背いて見ようともしない。

 それもハイランカーでもなければ責任者でもない、最底辺Zランクの『黒田悠』が、事実関係に着目して聞き出そうとした。

「お前、何がやりたいんだ。何にキレる。何が原因か話してみないか?」

 戦闘現場に参加しているものですらなくとも、誰もが前代未聞だとわらうとしても、『ただ排除するだけでは解決にならない』。

 根本的に抜本的な対処が無ければ、『霊的な事件簿』などの様に何処かで同じ事が起きて、再発リスクも高い事は語るまでもない。

『ニンゲンノイカリヤニクシミ……』

 図太いこの世の者でない様な声は、ゆっくりとカタコトなりで少し聞き取りづらくはあっても、それは絞り出すように話し始めた。

『ニンゲンドモハゼツボウサエモ……』

 確かに悠のような足手まといもあっては、大変迷惑に思うかも知れないが、マウントを取ったり八つ当たりするやつもいるだろう。

 特に悠の場合は仕事も憶えられない上に、親などからあらゆるハラスメント行為もあって、うつやノイローゼを極めている。

 更に胡麻をするより他に手も足も出ない状況から、どれだけよくされても行動で返せないだけに、更に闇は深まってしまう。

 それを甘えや怠惰だと怒り恨んでは、ひとによって爆発すれば八つ当たりやイジメに発展して、更なる怒りや絶望に埋もれてゆく。

 そうして形成されるエネルギー生命体にして、誰にも解消できないマイナスエナジー、それが『イノセント』だと分かってきた。

『ソレヲアノオンナ……ワレヲツク……』

 色々と気になるワードが提示されたが、何者かが『イノセント』を生成してリリースか、それを実行若しくは使役しているのか。

『……グランフィールド……』

 間をおいて飛び出したそれはリエを混乱させて、この場の全てにおける意識と目線が、一気にリエへと向けられて空気が凍りつく。

『オマエタチニンゲンハナニモワカロウトハシナイ……』

 その瞬間、力任せな暗然轟爆の叫びが爆発して、爆風に大勢をセーブするのがやっと、悠の少し後ろでリエは後方へ押される。

 それでも幼少期に親を亡くして以来のターゲットが、身内にいるとハッキリしたとすれば、その一歩で急接近したことになる。

 十八歳にして飛び級大卒資格保持者のリエは、絶望にさらされながらも明晰な頭脳で、この『復讐』への大きな躍進と捉えた。

「ヤるしか無い」

 『怒り』・『絶望』・『悲壮感』など、今のリエは様々な要素を整理して、スナイパーライフルに力が入る程に集中する。

 あとは身内の失態やそれによる社会的な闇に、如何に立ち向かい一度敵視された状況から、これまで以上に改善出来るか。

 いくつか課題は残すも今は眼の前の『イノセント』、遣り場の無い負のエネルギーを送って、その核を破壊することが最優先。

 『狂』が『悠』としてヘリから飛ぶ時に云った、あの言葉の意味もリエの意識に浸透して、新感覚ながら学習して吸収する。

「ただ破壊して消すだけじゃ駄目だ……。遣り場がないなら責めて送ってやる」

 悠の意思を汲み取った狂がインプットして、更にリエの前でアウトプットした言葉だが、リエの明晰な頭脳は吟味する。

 ある意味で『生霊』にも似たそれは、恐らく化学の応用で生み出された代物だが、人類が保有する一部の意識的なエネルギー。

 それなら、余計に切り捨てるだけでは救済措置として不適切で、再発は不明でも予防措置を講じながら根本的に終息させる。

 普通は耐えることができるとか、できなければ劣等種だと階級主義を導入するとか、そんな旧世代式では人間社会の闇は消えない。

 そして、その闇そのものがまさにイノセントの正体なのか、またはリエも一部の親族に、親に次いで社会的に殺されるのか。

 剛力が捧げた怒りはただの無駄どころか、イノセントの栄養として機能しただけで、余計に凶悪にして仕舞っただけなのか。

 未だダメージを残した『黒田悠』が戦場に復帰して、剛力は無力を知って悠を視るか、リエもただ無駄に泣いて終われない。

 爆風に吹かれてから狂はネゴシエーションに努めるも、遣り場のない負の生命体だけに、その闇が深く重いだけにそれはもがく。

「ツレぇんだよオマエ……。誰のもんかもわかんねぇのに、怒りも絶望も悪も闇も、全部一遍に背負わされて……。辛過ぎる……。」

 本体でもある悠も誰にも理解されない苦悩に、精神を壊しながらも無理矢理に生きているから、狂には痛い程に理解している。

 二重人格で二つの精神が共存して、同時に意識が冴えると普段の疲れが倍増するが、互いに譲り合って疲労を僅かにでも緩和。

 そんな二人だからか狂が悠を理解して努めたからか、何にしても『イノセント』のイノセンスを、今まのあたりにしている。

「だから、オマエをラクにしてやる!」



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