雪と花の狭間に

雪ノ下 まり子

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2001年12月・風冴ゆる頃、恋は花咲く

風冴ゆる頃、恋は花咲く

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 利発な慧子けいこに少しでも追い付きたくて、知識を得るために様々な本を読みあさった。
 苦痛などない。
 頭に知識を詰め込み、わかることが増えることが兎にも角にも楽しかった。

 幼い頃から「賢くて、きれいなお嬢さん」と評された蘭であるが、所作の美しさやファッションセンスの良さは一朝一夕いっちょういっせきでは身に付けられない。
 姉代わりの慧子がいたからこそ、今の蘭がいるといっても過言かごんではなかった。

 しかし、慧子が中学校に入学する年の春。
 新潟から一哉が橋本家の目と鼻の先に越してからは関係性が変わった。

 それまでの蘭は「慧ちゃん、慧ちゃん」と後をついて回ったはずだったのに、口を開けば「一哉ちゃんは?」である。

 男の友達いらない!

 そう断言していたはずなのに、慧子の目から見ても蘭が一哉に恋をしているのは明らかだった。
 慧子にしてみれば、愛娘まなむすめに恋人ができショックを受ける父親の心情に等しい。

 別に一哉を恨んではいないが「慧ちゃん、慧ちゃん」としたっていた甘えん坊を取られて面白くないという感情は否めなかった。
 だから慧子は一哉をおちょくり、からかう。

「やだなあ。慧ちゃん、俺が蘭ちゃんと仲良いからヤキモチ焼いているんでしょう? やーねぇ」
 慧子からの挑発に一哉は身振り手振りを交えて応戦し出す。
 井戸端会議に興じるおばさんの動きをしての動作だ。
 気安い関係性だからこそ許される振る舞いだ。

「はっ。『グリーンスリーブス』を三つの不細工な顔さ持ってる緑色の怪物と勘違いした小僧に言わっちゃぐねえべした、なあ、蘭?」
 女子高生というよりは女学生と表現したい上品な容姿の慧子だが、その口振りはがさつだ。
 小声で「グリーンスリーブスはもうやめて」と言う蘭は口を押えて肩を震わせる。
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