雪と花の狭間に

雪ノ下 まり子

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2021年12月・20年目のクリスマス

20年目のクリスマス

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 ◇◇◇
 貴賓きひん席として宛がわれた最前列の席で、蘭は自分より20歳近くも年若い少女達の演じる姿に感嘆し、懐かしさに胸を震わせる。
 懐かしい音楽に、懐かしい制服。
 本格的なタータンチェックを起用したキルトスカートに揃いのネクタイを組み合わせる制服は、少女だった蘭のお気に入り。
 BGMは元々はチャイコフスキーが手掛けたバレエ音楽を起用していたが、いつしか芸大進学コースで音楽を専攻する生徒が作曲を手掛けるようになる。
 その始まりとなった生徒が、蘭だった。

 公演後の花束贈呈では在学時の活躍を紹介された後に、現在までの音楽家としての実績を放送部の生徒が誇らしげに述べる。
 かつて演奏家として活動していた蘭は国内を中心に各地を巡り、故郷の高校からの依頼により生徒達の指導を受け持っていた時期があった。
 現在は一線を退くも、スクールバンド向けの楽曲の作曲を中心に音楽活動を継続している。

 ◇◇◇
 青を基調としたイルミネーションは夕闇の駅前を鮮やかに彩った。

 同時に、降雪の気配も静かに忍び寄る。
 雪の精は、音もなく忍び寄る。

 翌日から年末年始にかけて継続的に雪が積もると聞く。
 豪雪地帯と言い難いが、この盆地に鎮座する街も積雪する。
 それでも、例年にはない事態だと地元に住む招待客=元同級生達は揃って震え上がっていた。

「蘭ちゃんは雪国さ住んでっからどか雪にも慣れたべ?」
 同級生達が集まると誰かが必ず"福島より雪が降る地域に住んでいる者"にそう話を振るのだが、実態はまちまちだ。
 その毎に蘭は「積雪は福島に毛を生やしたくらいで、どちらかといえば雨と雷が多い」と答えている。

 20年前は、イルミネーションなどあったであろうか。
 まだ中学生だった蘭は、15の少年だった一哉と『くるみ割り人形』のミュージカルを見に行った。
 あの時は駅から出るなり百貨店に入ったものだったと懐かしく思う。
 一階のアクセサリーと化粧品を扱うフロアにて蝶々をしたカットガラスのバレッタの美しさに一目惚れしたが、価格を見て購入を断念したことを未だに覚えている。

 その後に一哉から雪の結晶をしたヘアアクセサリーをプレゼントされたこと、帰り足の無人駅の構内で彼に渡したマフラーは20年を過ぎた今でも愛用しており、今朝方も襟元に巻いて出勤していたことを思い返し、蘭はマスクの下で照れ笑いを堪えた。
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