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本編
マスターの魔法
しおりを挟む「何だ……次から次に邪魔をっ!」
元侯爵が何か言いかけた時、マスターがハンマーを振り下ろした。ハンマーが床についた瞬間、水が飛び散り魔具を濡らした。
「チッ!小賢しい」
濡れた魔具を投げ捨てた瞬間、マスターが距離を詰めてハンマーを真横に振り抜く。水が元侯爵の身体に当たり更に濡れる。
「発」
マスターが一言呟くと飛び散ったはずの水が集まり元侯爵の身体を包み込む。丸い水の球体の中に閉じ込められた元侯爵が踠いているけど、水が形を変えて逃がさない。
『な、何なだコレは!!』
「"水の監獄"一度、中に入りゃあ簡単には逃がさねぇ」
ゆっくり息を吐いたマスターが球体に向かって歩いて来る。私に視線を向けると苦笑いした。
「悪ぃなぁ、ずぶ濡れになっちまったな」
そう言ったマスターがパチンと指を鳴らした次の瞬間、私の服も廊下も乾いていた。え?マスターって水魔法を使うの?……乾かすのも水魔法?それにコノ球体は水みたいだけど中で息が出来てる?
「あの……コレは?」
私が球体を指すと白い歯を見せてニカッと笑う。笑顔とは裏腹に目は怒りの色が浮かんでいた。
「コイツはなぁ、俺の魔法で作った檻だ。やっと捕まえた仇を逃がしゃしねぇよ」
私達が話をしている横で球体の中の元侯爵が俯き肩を震わせ始めた。悲観して泣くような人じゃなさそうだし、何事?
私とマスターが怪訝な表情で見ていると無限収納から五個の魔具を取り出すと同時に発動させた。複数を同時にって……五個はヤバい!!
「何!?コノの中じゃ魔力は使えねぇはずだ」
魔具に気付いたマスターも少し焦った様な表情で"水の監獄"に水を追加した。追加されて更に大きく硬くなった水の球体の中で元侯爵はそれでも魔具を発動させた。
『……ハハハ……私には効かない様だなぁ。貴様の魔力が足りないか?……はぁぁぁ!』
水の中でバチバチと弾ける様な音と共に魔具から雷が飛び出す。魔具が暴発して飛び出す方向に統一性は無く、球体にデコボコと凹凸が出来始める。元侯爵がニタッと嫌な笑みを浮かべたと同時に球体が破裂した。
「畜生がぁぁぁ!!」
マスターが叫びと共に武器を振り上げたけど、魔具の雷がハンマーに直接当たる。それでもマスターは呻き声を上げただけで止まらない。力一杯、振り下ろしたハンマーが元侯爵の頭に当たって……潰れ……ない!?
「何だ……ギルドマスター、貴様なんぞ雑魚に過ぎんなぁ」
雷を手に纏わせ片手でハンマーを受け止めた元侯爵が、反対の手に持っていたのは別の魔具。魔具から雷が発射された瞬間、私はマスターの前に飛び出した。間に合って!
「イリーナ!!!!」
私の身体に雷が飛んで来たけどペンダントが光って元侯爵に弾き返した。その反動で倒れそうになった私を誰かの大きな手が受け止める。顔を上げるとランバートさんと目があった。良かった……来てくれた……
「イリーナ、もう大丈夫だ。頑張ったな」
「うん……後……お願いね」
ランバートさんの顔を見て安心した私は、力が抜けてしまって立てなくなった。彼は私を少し離れた場所に座らせてくれると元侯爵に向き直った。
「彼女は無関係だろう。師匠に文句があるなら本人に直接言えよ。腰抜けが」
元侯爵に向かってそう言いながら、ゆっくりと歩いて近付く。剣を構えていないのに、そこにいるだけでその場の流れが変わり元侯爵に焦りの表情が見える。
「その本人はどうした!カインは何処だ!」
「あんたが騎士団を巻き込んだからだろう。連中の後始末が済んだら来るさ」
後ろから見ていると普通に話をしているランバートさんだけど、マスターは顔を引きつらせ元侯爵は一歩後ろに下がった。
「ほら、お待ちかねの師匠が来たぞ」
そう言って彼が視線を向けた先には不機嫌な表情のお義父様と、無表情なオーウェンさんがいた。
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