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本編
貴族の闇 sideカイン
しおりを挟む「それは……大問題どころじないな」
ランディーからの報告を聞いた俺は頭を抱えたくなった。三年前の魔具暴発事件の犯人の可能性がある上に、少年の目撃情報を無視した捜査。明らかに怪しい素振りに誰も気付かなかったのか?
「同一犯なら大規模汚職事件に発展するぞ」
「でしょうね。……今の騎士団団長は今年の就任でしたよね?」
「あ?……あぁ、引継ぎ無しに就任したから事件の捜査状況を知らんかもしれん」
俺付きの使用人に団長を呼ぶよう伝言を頼むと、再びランディーに向き直った。
「前任の団長は汚職で懲戒解雇だったが、まだ、隠れた金の動きがあったか」
「可能性は高いでしょう。ギルマスが例の少年を呼ぶと言ってますから、今日か明日には動きがあると思います」
「そうか……先ずは……」
ランディーと事件の洗い出しに必要な書類や、これからの行動を確認していると扉を叩く音と共に団長が来た事を告げた。えらい速いな。
「入ってくれ」
「カイン様、事件の内容で緊急との事ですが、何か御座いましたでしょうか?」
入るなり本題に入ろうとするガイルに苦笑いしながら手を上げて一度止めると、ランディーからギルマスの事件を伝えさせた。さて、ランディーが説明している間にオーウェン殿とナダルに手紙で連絡して……あぁ、リナが囮になると言い出したから警備態勢も変えなきゃならんな。
「師匠、説明は終わりましたよ」
「あぁ、すまん。こっちもオーウェン殿とナダルに連絡が済んだ所だ」
部屋の角に置かれている茶器でお茶をいれようとすると、ランディーが慌てて止めた。まて!人が茶をいれるだけで毒と言ったか!?お前だって大した差は無いだろうが!!……何?リナに教わったから飲める物が出せるだと?……ほぉ……お手並み拝見といこうじゃないか。
手際よく紅茶を三人分いれたランディーがテーブルの上にカップを並べる。見た目は普通の紅茶だが、味は……
「うまい」
ガイルの一言に思わず頷いてしまった。料理の腕も俺と変わらなかったクセにいつの間に。悔しいからこれ以上、褒めないがな。お茶で喉を潤し一息ついた処で本題に入る。
「ガイル、三年前の事件は何処まで把握しているんだ?」
「それが、今、事件の捜査が止まっているのです」
市民を巻き込んだ大きな事件の捜査が止まる異常事態に嫌な予感がした。
ガイルの話では捜査担当になった者が数人行方不明になり今では誰も受け持とうとはしないと言う。
「皆がしないなら私がやると言えば慌てて誰かが捜査を再開し、暫くすると再び捜査が止まる。はっきり言って異常です」
「そうか……行方不明の者の名前は?」
これです。と言って差し出した名簿には約十名の名前が書かれている。ガイルの話では公正で真面目な者ばかりだと言う。
「何故、今まで報告しなかった?」
「は?いえ、毎月、報告書を出して……返答は問題無いと……」
ガイルの言葉が途中で詰まる。毎月、提出していたはずの報告書の隠蔽と偽造に、捜査関係者の情報漏洩。成る程、騎士団に内通者がいて間違い無いな。しかも、団長が書いた書類に関わるなら人数も限られている。
「……そんな……」
ボソッと呟いたガイルは俯いて動かなくなった。コイツは騎士団の仕事に誇りを持っている。上位役職にいる団員の中でも一二を争う真面目さと公正さ。仲間が不正の片棒を担ぐ等、信じたくは無いだろうな……
「カイン様」
俺の名を呼んで顔を上げたガイルの眼には強い意志が宿っていた。覚悟を決めた強い意志が感じられる。
「不覚にも身内に犯罪者を出してしまい申し訳御座いません。ですが、彼らには私が直接、引導を渡したく思います」
「……分かった。そっちはお前に任せる。次に夜の警備と捜査だが……」
話の続きをしようとした時、壁の一部が歪み魔力の渦が現れる。ガイルが腰に指している剣に手を掛けたが、それを視線で制した。
「エルフ殿だ。手を出すな」
そう言った時には彼は渦から上半身を出し、何事も無かったかの様に部屋に入った。
「魔眼の主よ。犯人が現れると連絡がきたが……」
「今日か明日にはリナの元に来る」
「よし、粉砕してやろう」
突然現れたエルフに茫然自失なガイルを尻目に、俺はオーウェン殿と二人で可愛いリナを傷付けた不届き者にどうやって制裁を掛けるか話し合った。
「遊びの時間は終わりだ」
「……そんな顔じゃあ、どっちが悪者か分かりませよ」
ランディー……一言、余計なんだよ!
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